2022年の新車販売台数が100万台に回復、輸出も大幅増(インドネシア)
今後も好調続くか注視

2023年10月19日

新型コロナウイルス禍が収束した後のインドネシアの自動車業界は、生産台数、新車販売台数とも、堅調な伸びを示している。この背景には、政府による活動制限の緩和や、需要を喚起するための新車購入時の税減免などがある。本稿では、2022年以降のインドネシアの自動車産業の動向について解説する。

2022年は生産・販売ともに新型コロナ前の水準に回復

インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)の発表によると、2022年の自動車生産台数は前年比31.0%増の147万146台だった。月次推移(図1参照)をみると、2022年3月に13万6,988台と、新型コロナ禍前の水準を上回ったほか、8月から12月まで13万台を超える時期が続いた。

2023年に入ってからは、3月に13万6,086台を記録してからは、断食月や断食明け大祭の影響により落ち込んだ4月を除き、月当たり12万台前後の生産台数で推移している。

図1:月別自動車生産台数
2019年は断食月である6月のみ約7万台だったが、その他は10万台から12万台で推移。2020年3月に11万1,320台となった後、4月からは新型コロナの影響で激減し、同年5月には2.510台まで落ち込んだ。その後徐々にに回復し、2021年1月には10万台まで回復したが、変異株による感染再拡大などにより、同年10月までは生産が伸び悩んだ。2021年12月に12万台近くまで回復した後、2022年に入ると、断食月である5月を除いて、毎月12万から14万台の製造台数となった。2023年以入ってからは、やや減速しつつも1万台程度水準となっている。

出所:インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)から作成

次に、2022年の新車販売台数(卸売り)をみると、前年比18.1%増の104万8,040台だった(表1参照)。乗用車が18.8%増、商用車が16.3%増だった。カテゴリー別では、乗用車の四輪駆動車(4×4)、商用車のバスが倍増したほか、乗用車で販売台数の多い二輪駆動車(4×2)は15.3%増、商用車で販売台数の多いピックアップも7.2%増となった。2021年に続き、販売台数は回復し、新型コロナ禍前の水準の100万台を超えた。

販売が伸びた理由の1つとして、政府が実施した新車購入時の奢侈(しゃし)税の減免(財務大臣規定2021年第20号)も需要を喚起した。政府は新型コロナ禍に対する需要刺激策として2021年に導入した同政策について、2022年9月まで低価格・省エネ車の「ローコスト・グリーンカー」(LCGC)に対象を絞って延長実施した。減免税の対象となったのは、原材料部品の国内調達率が80%以上で、価格が2億ルピア(約192万円、1ルピア=約0.0096円)以下などの条件を満たした車種だ。トヨタ「アギラ」やダイハツ「アイラ」などが対象車種に含まれた。

2023年1~8月の販売台数は67万5,287台で、2023年も100万台を超えるペースで推移している。

表1:カテゴリー別新車販売台数 (単位:台、%)
項目 2020年
販売台数
2021年
販売台数
2022年 2023年1~8月
販売台数
販売台数 前年比
乗用車計 388,886 659,806 783,563 18.8% 516,700
階層レベル2の項目セダン 4,749 5,647 8,077 43.0% 6,627
階層レベル2の項目4×2 275,860 503,520 580,544 15.3% 363,953
階層レベル2の項目4×4 3,627 4,119 8,293 101.3% 7,041
階層レベル2の項目LCGC 104,650 146,520 186,649 27.4% 139,079
商用車計 143,141 227,396 264,477 16.3% 158,587
階層レベル2の項目バス 1,971 1,300 2,596 99.7% 2,369
階層レベル2の項目ピックアップ 90,733 139,720 149,726 7.2% 84,026
階層レベル2の項目トラック 42,680 72,900 92,634 27.1% 53,301
階層レベル2の項目ダブルキャビン 7,757 13,476 19,521 44.9% 18,891
合計 532,027 887,202 1,048,040 18.1% 675,287

出所:図1と同じ

新車販売台数をブランド別にみると、2022年の首位はトヨタの33万1,410台(前年比12.1%増)だった。ダイハツの20万2,665台(前年比22.9%増)、ホンダの13万1,280台(44.1%増)が続いた(表2参照)。日系ブランドが上位7社で市場全体の88.6%を占める結果となった。日系ブランド優位の市場状況に大きな変化はないが、シェアは2022年の94.1%から低下している。日系ブランド以外では、韓国の現代自動車が前年から10.6倍の3万1,965台と販売台数を大幅に伸ばした。

表2:主要ブランド別新車販売台数(卸売り)(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 ブランド 2019年 2020年 2021年 2022年 前年比増減 シェア
(2022年)
1 トヨタ 331,797 161,256 295,768 331,410 12.1% 31.6%
2 ダイハツ 177,284 90,724 164,908 202,665 22.9% 19.3%
3 ホンダ 137,339 73,315 91,122 131,280 44.1% 12.5%
4 三菱自動車 119,011 57,906 107,605 99,051 △7.9% 9.5%
5 スズキ 100,383 66,130 91,793 90,408 △1.5% 8.6%
6 三菱ふそう 42,754 21,359 36,518 37,586 2.9% 3.6%
7 いすゞ 25,270 16,422 26,636 36,646 37.6% 3.5%
8 現代自動車 215 3,005 31,965 963.7% 3.0%
9 日野 31,068 12,621 20,683 30,853 49.2% 2.9%
10 上汽通用五菱汽車
(ウーリン)
22,343 6,581 25,564 29,989 17.3% 2.9%
合計 987,249 506,529 863,602 1,048,040

出所:図1と同じ

完成車の輸出が大幅増、2023年は50万台輸出を目標

2022年の自動車輸出台数は前年比60.7%増の47万3,602台だった。月次でみると(図2参照)、1月と5月は2万台に落ち込んだものの、7月以降は4万台以上に伸び、10月に5万62台と2022年では最多となった。同年の輸出台数は新型コロナ禍前の2019年の水準(33万2,023台)を大幅に超過した。なお、工業省は2019年1月に「自動車産業ロードマップ」(2020年9月に同大臣規定として公布)を発表し、自動車の輸出台数の目標を2025年に31万台と設定していた。しかし、2019年に既に目標値を達成しており、新型コロナを経て2022年に再び目標値を超えた。

輸出台数の伸びの背景には、輸出先国での需要拡大があるとみられる。輸出を牽引するのはフィリピン、ベトナム、タイなどのASEAN諸国だが、メキシコやサウジアラビアなどにも輸出している。中でもトヨタは2022年3月からオーストラリアへの「フォーチュナー」の輸出も開始した。ジョコ・ウィドド大統領はオーストラリア市場への輸出開始について「この成功は、輸出製品、特に自動車の生産に関して非常に優れた資質を持つインドネシアの人材によっても支えられている」と評価した(2023年3月10日インドネシア情報ポータル)。

自動車輸出拡大への貢献が期待されるパティンバン港は、2021年末から本格稼働している。同港を所管する運輸省海上交通総局長のアリフ・トーハ氏によると、2022年の同港からの輸出台数は10万3,774台で、輸出全体の約2割にとどまった(2023年1月27日Bisnis.com)。政府は2022年の同港からの輸出目標を16万台と設定していたが、政府目標には達しなかった。

2023年1~8月の実績は、前年同期(28万5,933台)比18%増の33万7,312台と好調に推移した。アイルランガ・ハルタルト経済担当調整相は2023年の完成車輸出の目標について、50万台と言明している(9月19日detik.com)。政府の自動車産業ロードマップでは、2030年の輸出台数目標を90万台と設定しており、今後の輸出動向が注目される。

図2:完成車(CBU)の輸出台数
2019年の輸出台数は毎月およそ2万~3万5,000台で推移していた。2020年は新型コロナの影響で輸出台数が大幅に下落した。2021年になっても回復は遅れたが、2022年の後半には月別輸出台数が新型コロナ前を越える約4万~5万台となった。2023年8月までも前年を上回る輸出台数となっている。

出所:図1と同じ

低炭素排出車(LCEV)の販売拡大、国内生産も開始

インドネシアの電気自動車(EV)販売市場も拡大を続けている。ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、バッテリー式電気自動車(BEV)を合わせた低炭素排出車(Low Carbon Emission Vehicle:LCEV)の販売台数(卸売り)は、2022年に前年比約4.9倍の1万5,437台だった。自動車全体の販売台数に占める割合は1.5%まで拡大した。ブランド別にみると、上汽通用五菱汽車(ウーリン)の8,390台が首位で、トヨタの4,122台が続いた(表3参照)。

2023年1~8月のEV販売台数は3万8,165台と好調で、既に2022年(通年)の販売台数の2.5倍に達した。このうちトヨタが2万926台で最も多く、スズキ(8,334台)、現代自動車(4,470台)と続いた。

なお、車種別販売台数をみると、トヨタが2022年11月から現地生産・販売を進める「キジャン・イノーバ・ゼニックス Q(All New Kijang Innova Zenix Q Modellista)」(HEV)が7,767台で首位、現代自動車の「アイオニック5(Ioniq5 Signature Extended)」(BEV)が3,877台で続いた。

生産面をみると、2022年はLCEVの現地生産を開始するメーカーが増加した。GAIKINDOのデータによると、2022年3月の現代自動車のLCEV国内生産を皮切りに、ウーリン、東風小康汽車(DFSK)、スズキ、トヨタなどが生産を開始した。今後は三菱自動車やダイハツなどの日系企業による生産開始のほか、中国、韓国の企業の生産拡張、地場企業の参入も進むとみられる。ウーリンとともにBEV市場を牽引する現代自動車は、2024年に多目的モデル(MPV)のEV生産・販売を開始すると発表した(2023年7月24日付ビジネス短信参照)。多様な消費者需要に応えるため、BEVのラインアップ拡張をしたい構えだ。地場企業では、資源や建設業に強みを持つ財閥のバクリーグループが2027年にEVバスの本格生産開始をもくろむ。エスエムカー(Esemka)のブランドで知られる中部ジャワ州のソロ・マヌファクトゥール・クレアシ(Solo Manufaktur Kreasi: SMK)は、2023年2月に開催されたインドネシア国際オートショー(IIMS)で、自社製EVの試作品を展示するなど、商用生産・販売開始の準備を進めている。

表3:インドネシアにおけるEV販売台数 (単位:台、%)(-は値なし)
ブランド タイプ 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
1月~8月
トヨタ BEV 1 27 13 451
PHEV 1
HEV 331 949 1,835 4,109 20,474
スズキ HEV 8,334
現代(韓国) BEV 119 588 2,028 4,470
ウーリン(中国) BEV 8,053 2,427
HEV 337 147
レクサス BEV 26 127 110
PHEV 48
HEV 44 187 788
BMW(ドイツ) BEV 360
PHEV 9
HEV 6 2
日産 BEV 42 63 73
HEV 153 592 467 103
DFSK(中国) BEV 2 11 89
メルセデス・ベンツ(ドイツ) BEV 95
MINI(ドイツ) BEV 32 82
MG(中国) BEV 55
KIA(韓国) BEV 42
三菱 BEV 6
PHEV 20 6 35 10 1
合計販売台数 351 1,234 3,193 15,437 38,165
(自動車売り上げ全体に占める割合) 0.0% 0.2% 0.4% 1.5% 5.7%
(参考)自動車全体の販売台数 1,030,126 532,407 887,202 1,048,040 675,287

出所:図1と同じ

インドネシアの政策もLCEV市場の拡大に貢献している。政府はインドネシアを東南アジアの「EVハブ」にするべく、LCEVの普及、市場拡大を生産と販売の両面から後押している。

工業省は自動車産業ロードマップで、2035年の四輪車全体の生産台数目標400万台に対し、LCEVの生産台数目標を30%(120万台)に設定するなど、野心的な目標を掲げている。特に力を入れるのがBEVの開発だ。2019年8月にBEV開発促進に関する大統領規定2019年第55号を公布し、2025年までに四輪車の生産台数の20%をBEVにする方針を示した。

具体的な政策をみていく。国内生産奨励を目的とする優遇政策として、国内でEV車両やその部品を製造する事業者に対する法人税減免の措置がある。2021年2月に施行した投資事業分野に関する大統領規定2021年第10号では、EVの車両やバッテリー、モーター製造などEV関連産業を法人税減免の対象業種とした。1,000億ルピア以上の投資を行うプロジェクトに対し、投資金額に応じた期間(5年~20年)と割合(50%~100%)で法人税を減免する。販売面では、奢侈税と付加価値税の減免がある。財務省は2021年7月、自動車の購入時に自動車の排気量に応じて課される奢侈税について、所定の国産化率(TKDN)を達成するBEVと燃料電池車(FCV)の課税率を実質0%(奢侈税は15%だが、課税基礎を販売額の0%と設定)とした。さらに、財務大臣規定2023年第6号を発出し、BEV購入時の付加価値税の税率を通常の11%から1%に引き下げることを決定した。対象はTKDNが40%超の車種とし、減税期間は2023年末までとした(2023年4月25日付地域・分析レポート参照)。

自動車産業全体で今後も好調維持できるか注目

インドネシアの自動車市場は、販売台数が再び100万台を超え、新型コロナ禍の影響から脱したように映る。一方で、長期的にみると、新車販売台数は2013年の約123万台を最多に、伸び悩みを続けている状況もある。2023年については、新型コロナ期に消費刺激策として導入されたガソリン車購入時の奢侈税減免などの政策が終了したが、8月までの販売台数では堅調を維持している。今後も好調が続くか注目される。

また、自動車市場でのシェアを徐々に拡大しつつあるLCEVが順調に成長を続けるのかどうかも注目点だ。BEVの現地生産を拡大しようとする動きが目立つ中国と韓国の企業や、本格参入をもくろむ地場企業、HEVの売れ行きが好調な日本企業など各国企業の動きに注視が必要だ。

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
尾崎 航(おざき こう)
2014年、ジェトロ入構。生活文化産業企画課、サービス産業課、商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部 EC・流通ビジネス課を経て、2020年9月から現職。