中銀が2023/2024年度上半期の金融政策を発表(バングラデシュ)
構造改革を図る

2023年8月4日

バングラデシュ中央銀行は6月18日、 2023/2024年度上半期(2023年7~12月)の金融政策(Monetary Policy Statement July-December 2023外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。本政策は、政府にとって目下の課題であるインフレの抑制、経常収支の改善、為替(タカ安)の管理、適切な外貨準備高の維持や金融セクターの強化・安定化のため、緊縮財政を推し進める方針のもと、大きく以下の4本柱を通じて実行される。

  1. 金利ターゲティング政策(金利コリドーシステム)導入および政策金利の6.5%への引き上げ
  2. 貸出金利の上限撤廃、および参考貸出金利を用いる「SMART政策」
  3. 市場原理に基づく変動相場制による、単一の為替制度導入
  4. IMF基準に沿った外貨準備高算出。

こうした金融セクターの構造改革は、IMFや世界銀行などの国際機関から必要性が指摘されてきた課題の1つであり、本稿ではそれらの政策の目的など要点に加え、今般の発表で言及された今後のインフレ、経済成長の目標に係る現状についても紹介する。

政策(1):金利コリドーシステム導入と政策金利の引き上げ

中銀は、これまで講じていたマネタリーターゲティング政策(注1)から、世界各国の中央銀行で多く用いられている金利ターゲティング政策(interest rate targeting framework)に移行する。具体的には、政策金利(レポレート)を現行の6.0%から6.5%へ引き上げ、併せて上限8.5%(Standing lending Facility; SLF)、下限4.5%(Standing deposit facility;SDF)からなる金利コリドーシステムを7月1日から導入した。同システムにより、商業銀行やノンバンク(Non-Bank Financial Institutions;NBFIs)が中銀から政策金利(6.5%)とSLF(8.5%)の間の金利で資金の借り入れを行い、反対に商業銀行やノンバンクが余剰資金を中銀に貸し出す際には、SDF(4.5%)の利率が適用される。また中銀は、インターバンクコール市場(注2)の金利を、上述した金利コリドーの範囲内(4.5%~8.5%)の変動に収めつつ、政策金利に近接させることで同市場の安定性も確保する。本システムの導入は、IMFの融資にひも付く主要目標の1つでもある(2023年5月18日付ビジネス短信参照)。また政策金利の上昇は、金融市場における借り入れコストの増加、インフレ抑制が目的とされている。

政策(2):貸出金利の上限撤廃、および参考貸出金利を用いる「SMART政策」の導入

政府はコロナ禍において、法人・個人による支出や投資活動にかかる借り入れコストの低減などを目的に、貸出金利にキャップ(9%上限)を設けていたところ、今般、あらゆる銀行ローンに対して市場主導(マーケットドリブン)の参考貸出金利を用いる「SMART(Six-months Moving Average Rate of Treasury bills)」制度の導入も発表れた。同制度の目的は、銀行セクターの競争力を強化しつつ、法人・個人の銀行ローンの利用環境を整えることである。参考貸出金利は、政府の短期債券の182日間の移動平均金利から毎月定められ、中銀ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます上で都度公表されるもの(現在7.1%)となっている。実際に各商業銀行が顧客にローンを貸し出す際には、SMARTの利率に銀行のマージン(+3%が上限)を加えた金利が適用される。ただし、ノンバンクに対しては、同マージンの上限は+5%までと設定された。

政策(3):市場原理に基づく変動相場制による、単一の為替制度の導入

中銀は、市場原理に基づく単一の為替制度を2023年7~9月をめどに導入する。同制度においては、銀行やモバイル金融サービス(MFS)を通じた郷里送金に適用される公定レートと、非公式な同送金時に用いられるインフォーマルレートなどの間の差が徐々に埋められ、レートが単一化することによる公式チャンネルの郷里送金の促進、国際収支や外貨準備高の改善が期待される。また、従来の複数レートが生じる制度(2023年4月12日付ビジネス短信参照)による混乱を回避し、為替制度の透明性や一貫性、外為市場の競争性を高めることも目的とされている。

なお、2022年7月から2023年5月末までの間、バングラデシュ・タカはドルに対して13%以上切り下がっており、6月時点で1ドル=108タカ前後となっている。インド・ルピーなど他の周辺国通貨との比較においても大幅な切り下げとなったが、すでに市場の実勢レートに近いものとなっており、高い競争力のある為替水準と分析されている。中銀は2022/2023年度(2022年7月~2023年6月)、一定程度のタカ安は許容しつつ、輸出額・量の拡大、ならびにインボイス価格の過大・過少申告をはじめとする貿易を通じたマネーロンダリングを防止するための輸入[信用状(L/C)決済]モニタリングを行った。他方、同年度には約130億ドルを売り、同額のタカを買う介入を行いつつ、各商業銀行内におけるオフショアバンキングから国内バンキングユニットへの外貨融通の促進(2023年4月14日付ビジネス短信参照)や、輸出志向型産業向けファンド(EDF)利用時の貸出金利の上昇(4~4.5%)などを通じ、外貨の供給力を高めることで、為替(タカ安)圧力の緩和を図ってきたとされた。

政策(4):IMF基準に沿った外貨準備高の算出

政府は、IMF国際収支マニュアル第6版(BPM6、2023年5月18日付ビジネス短信参照)をベースとするグロス値の外貨準備高(Gross international reserves; GIR)の算出と公表を7月1日から行いつつ、並行して従来の方法による外貨準備高の記録・報告も継続する。IMFが目標値を定めるネット値の外貨準備高については、中銀による本政策の記者発表において、非公開とされることが報じられている(「ビジネス・スタンダード」紙6月18日)。また、政府はこれまで外貨準備高を食品、燃料、肥料など同国にとって欠かせない品目の輸入の安定化や、対外的なローン返済の適時の実行に活用してきたとした。6月12日現在、299億ドルまで減少したものの、直近の輸入額のおよそ5カ月相当額であること、そしてこれはスタンダードな国際水準とされる同3カ月相当額を超えていることから、比較的堅調な状況を維持している、とも言及された。

銀行業法改正などを通じた銀行セクターの構造改革

さらに中銀は、構造的な課題である不良債権(Non-performing loan;NPL)対策として、NPLをはじめ経営状況が懸念されている国有商業銀行への監査強化のため、各行と基本合意書(MOU)を締結し、金額規模の大きい債務者への対策を強化してきたことにも言及。今後は現行の銀行業法の改正を進めることで、NPLの削減を図るとした。具体的には、悪意のある債務不履行者に対する適切な処罰や、当該者家族などによる貸出銀行による意思決定(役員会)への影響の低減が行われる。加えて同法は、中銀による定期的な監視を通じた証券市場の発展や、商業銀行による同市場への参画、自己資本比率規制の導入、投資家保護に係る政策実行、他の規制当局との連携強化についても規定する。今般の発表では、同法の2023年改正案[Bank Company(Amendment) Act 2023]は既に内閣の承認を得ており、国会での承認待ちの段階にあること、加えて新たに銀行倒産法(Bankruptcy Act)、ローン裁判法(Money Loan Court Act)などの制定に向けたドラフトも進められていることが、明らかになった。これらを同国の構造的な課題である、銀行セクターの統制、コーポレートガバナンスの強化につなげる狙いがある。また中銀は、商業銀行への短期借入金の供与も継続しており、地場イスラム銀行向けに特化した資金供給なども実施。こうした施策を通じ、国内銀行の資金流動性の向上を図っている。

経常収支の改善がみられるものの、課題が残る国際収支

バングラデシュでは、政府によるL/C発行に際しての保証金の引き上げ(2022年7月19日付ビジネス短信参照)や、300万ドルを超えるL/C発行時の中銀による事前承認などを通じた輸入抑制、輸出の拡大(2023年7月10日付ビジネス短信参照)や郷里送金総額の伸長により、2022/2023年度(2023年4月時点)で経常収支赤字は縮小した。しかしながら、政府の抱える短期ローンの返済などによる金融収支の赤字によって、国際収支全体の改善には至っておらず(同月時点で88億ドルの赤字)、前年同期(マイナス53億ドル)よりも赤字幅が拡大していることにも言及された。政府は2023/2024年度に、郷里送金総額は対前年比で10%増、輸出・輸入額はそれぞれ10%、8%の増加と、これらによる国際収支の黒字化を見込んでいる(表参照)。

表:国際収支の推移(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
項目 2020/21年度 2021/22年度 2022/23年度 2023/24年度
経常収支 △ 4,575 △ 18,639 △ 4,037 △ 2,706
階層レベル2の項目貿易・サービス収支 △ 26,798 △ 37,205 △ 21,365 △ 21,893
階層レベル3の項目貿易収支 △ 23,778 △ 33,250 △ 17,429 △ 17,769
階層レベル3の項目サービス収支 △ 3,020 △ 3,955 △ 3,936 △ 4,124
階層レベル2の項目第1次所得収支 △ 3,172 △ 3,152 △ 4,825 △ 5,181
階層レベル2の項目第2次所得収支 25,395 21,718 22,152 24,368
階層レベル4の項目うち、郷里送金 24,778 21,032 21,453 23,598
資本収支 458 181 380 400
金融収支 14,067 13,775 △ 3,580 3,500
誤差脱漏 △ 676 △ 697 △ 1,499 306
合計収支 9,274 △ 5,380 △ 8,736 1,500
参考データ
項目 2020/21年度 2021/22年度 2022/23年度 2023/24年度
輸出成長率 14.9 33.4 7.0 10.0
輸入成長率 19.7 35.9 △ 15.0 8.0
郷里送金成長率 36.1 △ 15.1 2.0 10.0
外貨準備高(GIR) 46,391 41,827 30,000 31,500

注1:2022/23年度は推定値、2023/24年度は見通し。
注2:バングラデシュの会計年度は7月~翌6月。
出所:中央銀行

なお、郷里送金に関わるインセンティブ付与の継続(注3)、モバイル金融サービス(2022年12月7日付ビジネス短信参照)やインターネットバンキングの促進、従来は5,000ドルを超える送金時に必要であった証拠書類の提出制度の撤廃や、2 万ドル相当額を上限としたForm Cによる申告制度の廃止による手続きの簡素化が行われており、これらの措置は今後も継続される見通しだ。

インフレ・経済成長などにおいて、野心的な目標が掲げられる

統計局によると、2022/2023年度のGDP成長率(暫定値)は6.03%で、政府目標の6.5%には達しなかった。また消費者物価指数(CPI)上昇率の平均値(2022年7月~2023年5月)は8.84%と、政府目標値(7.5%)を超えている。中銀は、輸入品の原価上昇とタカ安がその主要因であるところ、燃料・エネルギー価格の高騰は特に大きく影響し、こうしたことが国内の一般消費財全体の価格上昇に影響を及ぼした、と分析。さらに、2022年初頭から上昇した国連食糧農業機関(FAO)の食料価格指数は同年7月以降、低下傾向にあるものの、2023年5月までの間には価格変動(fluctuation)もみられると、指摘した。また、世界銀行によると、エネルギー価格指数も同様に減少傾向がみられるものの、農産物などの非エネルギー価格指数には大きな変動がみられないという。

政府は、2023/2024年度のGDP成長率およびCPI上昇率の目標値を、それぞれ7.5%、6.0%に定める中、今般の政策発表では、7.5%のGDP成長はバングラデシュにとって容易でないと指摘しつつ、底堅い内需や堅調な衣料品輸出の伸長などが、引き続き高い経済成長を下支えする、と分析している。他方、同国が前年度に経験したインフレ圧力は続く見通しもあり、実際に土地や建設関連資材の価格上昇が直近にみられ、インフレリスクが高まっている、とも指摘した。また、ロシアによるウクライナ侵攻の影響により、バングラデシュの貿易相手国の多くが目標値を超えるインフレ状況にある中、同国もその例外でなく、6.0%のインフレ目標達成は容易ではないと見込む。なお、今般の政策発表では、政府が主導する「キャッシュレス化」に係る中銀の取り組み(「世界は今―JETRO Global Eye」シリーズ 変わるバングラデシュ ‐露店もキャッシュレスで‐参照)や、デジタル決済比率の75%への引き上げ(2027年内)目標も言及されている。

タカ安の進行や商業銀行を通じた外貨決済など、金融関係は同国の日系企業が抱える主要課題でもある中、前述した外貨準備高や新たな為替制度には、国内外から関心が高まっているとみられ、今後の動向が注目される。


注1:
マネーストック(金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量)を中間目標として位置付け、金利の形成は市場に委ねられる政策。
注2:
金融機関同士が短期資金の貸し借りを行う市場。「コール」は銀行間で呼べばすぐに応えること(call)を意味する。
注3:
海外出稼ぎ労働者による正規ルートでの郷里送金を促進するため、政府が送金額の2.5%相当の現金を送金の受取人に付与するもの(2022年1月5日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所
山田 和則(やまだ かずのり)
2011年、ジェトロ入構。総務部広報課(2011~14年)、ジェトロ岐阜(2014~16年)、サービス産業部サービス産業課(2016~19年)、お客様サポート部海外展開支援課を経て、2019年9月から現職。