電子政府サービスの利用・認識度が進展(韓国)
デジタル社会構築を見据える一方、課題も

2023年2月3日

世界で急速なデジタル化が進み、社会・経済の重要なインフラになっている。韓国でも、デジタル化に向けこれまでさまざまな取り組みが進められてきた。電子政府(行政情報の電子化)と行政サービスの高度化も、一例だ。そうした取り組みを通じ、デジタル社会の構築を進めていると言えるだろう。

その現状と今後の課題について、概括的に述べてみたい。

韓国のデジタル化に、国際的評価は高い

韓国は一般的に、「デジタル化先進国」として評価されている。これを検証するため、国際機関や民間企業などが実施しているランキングをまとめてみた。

OECDは2020年、各国のデジタル化水準に関しての調査を実施。評価項目ごとに対象国の水準を指数化し、「OUR(Open Useful and Reusable)データ指数」を公表した。その中の「デジタル政府指数」で、調査対象の41カ国(注1)中、韓国が第1位だった(表1参照)。なお当該調査の対象国は、OECD加盟と非加盟国4カ国だ。デジタル政府指数を構成する項目のうち、特に「デジタル優先度」(注2)と「開かれた政府」(注3)では、世界で最も高い評価を受けている。

表1:OECDのデジタル政府指標
総合順位 国名 指数 デジタル
優先度
プラットフォームとしての政府 開かれた
政府
公共部門のデータ
主導性
ユーザー
主導性
政府の
積極性
順位 指数 順位 指数 順位 指数 順位 指数 順位 指数 順位 指数
1位 韓国 0.742 1位 0.82 2位 0.89 1位 0.90 3位 0.68 4位 0.67 12位 0.50
2位 英国 0.736 6位 0.67 1位 0.90 2位 0.85 1位 0.69 3位 0.78 11位 0.51
3位 コロンビア 0.729 3位 0.75 5位 0.79 11位 0.67 5位 0.59 2位 0.80 1位 0.78
4位 デンマーク 0.652 5位 0.68 12位 0.57 6位 0.74 2位 0.69 1位 0.80 15位 0.43
5位 日本 0.645 2位 0.78 9位 0.58 19位 0.64 8位 0.55 5位 0.67 7位 0.57
OECD平均 0.501 0.55 0.54 0.64 0.44 0.47 0.42

出所:OECD、韓国行政安全部

世界の民間主要機関によるデジタル競争力の比較でも、韓国は世界上位に位置付けられている。

例えば、(1)国際経営開発研究所(IMD)が発表する「世界のデジタル競争力ランキング(World Competitiveness Ranking 2021)」では、64カ国中12位。(2)EIU(注4)が取りまとめた「インクルーシブ・インターネット・インデックス(The Inclusive Internet Index 2021)」で120カ国中11位、(3)シスコ(CISCO)の「デジタル準備指数(Digital Readiness Index 2019)」で141カ国中8位、になっている(表2参照、注5)。

表2:民間企業などが実施したデジタル競争力比較
順位 世界のデジタル競争力ランキング(IMD、2021) インクルーシブ・インターネット・インデックス(EIU、2021) デジタル準備指数
(CISCO、2019)
1 米国 スウェーデン シンガポール
2 香港 米国 ルクセンブルグ
3 スウェーデン スペイン 米国
4 デンマーク オーストラリア デンマーク
5 シンガポール 香港 スイス
6 スイス カナダ オランダ
7 オランダ フランス スウェーデン
8 台湾 ニュージーランド 韓国
9 ノルウェー デンマーク アイスランド
10 アラブ首長国連邦 英国 ノルウェー
11 フィンランド 韓国 フィンランド
12 韓国 ポーランド オーストラリア
13 カナダ シンガポール 英国
14 英国 イタリア ドイツ
15 中国 日本 ニュージーランド
16 オーストラリア オランダ 日本
対象 64カ国 120カ国 141カ国

出所:IMD、EIU、CISCO、韓国経済研究院

電子政府サービスは、実際にどう利用されているのか

ここで、行政安全部が毎年公表している「電子政府サービスの利用実態調査」(2021年)の結果を確認してみる。

当該調査の対象は、満16歳から74歳に及ぶ一般市民で、何らかの行政サービスを利用する可能性のある者だ。直近1年間の利用目的をみると、「行政および民願(注6)書類の閲覧(発行)・取得」(78.0%)が最も多い。これに「情報の検索・問い合わせ・照会」(66.7%)、「税金および還付金の明細照会・納付・還付」(61.9%)、「行政および民願書類の申請・提出」(60.3%)が続く。

「行政および民願書類の閲覧(発行)・取得」の割合は、全ての年代で全般的に高い。一方、16歳から19歳で特徴的に利用比率が高いのが「公共サービスおよび施設の予約・各種申請」、30歳~39歳では「税金および賦課金の明細照会・納付・還付」、残りの世代では「情報の検索・問い合わせ・照会」だった(表3参照)。

この調査では、電子政府サービスの認知度についても聞いている。その設問で、調査対象者全体のうち96.5%が「行政機関や公共機関が提供する電子政府サービスを知っている」と回答。年代別には特に60歳から74歳について、認知度が向上したことが注目される(2020年の79.0%から5.4ポイント上昇し84.4%、注7)。

また、直近1年以内に電子政府サービスを利用したことがある人の比率は、対象者全体のうち89.5%だった。2020年の88.9%と比較して0.6ポイント上昇したかたちだ。ここでも、60歳から74歳の利用率が上昇傾向にある(2020年の59.2%から2021年は65.0%と、5.8ポイント上昇した)。

表3:行政サービスの利用目的(単位:%、ポイント)(△はマイナス値、-は値なし)
行政サービスの利用目的 2020年
(B)
2021年
(A)
増減
(A-B)
年代別(歳)
16-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-74
行政および民願書類の閲覧(発行)・取得 78.0 55.5 80.3 83.5 81.4 78.6 73.1
情報の検索・問い合わせ・照会 68.8 66.7 △ 1.6 53.6 71.1 72.3 71.2 68.2 56.1
税金および還付金の明細照会・納付・還付 82.7 61.9 △ 20.8 19.5 56.1 75.4 71.1 63.6 54.5
行政および民願書類の申請・提出 60.3 31.2 57.2 73.1 68.1 57.4 54.5
公共サービスおよび施設の予約・各種申請 60.2 43.4 △ 16.8 54.0 58.6 57.3 44.2 35.1 25.4
苦情申し立て・通報 28.3 15.3 △ 13.0 18.8 13.7 17.0 13.9 15.0 16.1
国民提案(通報) 27.8 10.8 △ 17.0 14.1 8.9 9.9 9.1 10.5 14.3

出所:行政安全部「2021年電子政府サービスの利用実態調査」

電子政府サービスを利用する際の主要媒体は、「スマートフォン」(87.0%)と「デスクトップPC」(53.3%)だ(表4参照)。このうち、「スマートフォン」を利用する割合が伸びている。2021年は2020年と比較し、15.6ポイント%増加した。対照的に、「デスクトップPC」は10.5ポイント減少した。

表4:電子政府サービスを利用する上での媒体(単位:%、ポイント)(△はマイナス値、-は値なし)
行政サービスの
利用媒体
2020年
(B)
2021年
(A)
増減
(A-B)
年代別(歳)
16-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-74
スマートフォン 71.4 87.0 15.6 90.6 84.2 87.2 85.5 89.6 87.3
デスクトップPC 63.8 53.3 △ 10.5 47.4 56.3 55.7 57.7 51.0 46.0
公共自動発行機 31.7 30.4 △ 1.3 35.1 26.9 29.0 31.6 35.5 26.3
ノートPC 24.2 27.9 3.7 37.0 36.8 35.8 28.6 19.8 15.0
タブレットPC 7.3 9.1 1.8 12.6 11.6 7.6 10.0 9.3 5.4
AIスピーカー・案内ロボット 2.9 2.5 2.6 1.3 3.3 3.3 4.2

出所:行政安全部「2021年電子政府サービスの利用実態調査」

利用チャネルとしては、「モバイルアプリ」(88.3%)と「主要ポータルサイト」(72.2%)が多かった。また、2020年と比較して「モバイルアプリ」の回答が19.6ポイント、「主要ポータルサイト」が12.3ポイント、「SNSおよびMessenger」が10.2ポイント、それぞれ増加した。

ワンストップ手続きやモバイル証明を拡充

ここで、韓国の電子政府の取り組みの成果として、「政府24」(行政手続ポータルサイト)を紹介しておく。

このポータルサイトでは、住民登録謄本や土地台帳、新型コロナウイルスのワクチン接種証明、納税証明などの証明書を取得できる。さらに、横断的な手続き(ワンストップ手続き)も可能になっている(図1参照)。ワンストップ手続きでは、転出・転入、妊娠、出産など、個人のライフステージごとに申請できる。例えば「出産」の場合、幼児手当、養育手当、児童手当、その他一部自治体が実施しているサービスを含め、原則1回の申請で手続きが完了する(図2参照)。また、新型コロナに伴う生活支援金、事業者支援金についても、オンライン申請が可能だ。この仕組みは、生活困窮者などが迅速に資金を受け取る上で大きく貢献したという(表5参照)。

2019年12月からは、モバイル電子証明書の発行を開始。2022年4月時点で、その発給件数が400万件を超えた。当該電子証明書は「政府24」のモバイルアプリのほか、自治体やサービス事業者のモバイルアプリからも取得できる(表6参照)。ちなみに、発行件数の多い電子証明書は、(1)住民登録票の謄本・抄本、(2)予防接種の証明書、(3)家族関係証明書、(4)健康保険の資格の得喪証明書、(5)中学校成績証明書だ。新型コロナ禍では、マスク購入に必要な身分証明(注8)やワクチンの接種証明を取得するためにも、モバイル証明が幅広く活用された。なお、スマートフォンから発行された電子証明書は、自治体、在外公館、国公立大学、公社・公団を含む行政・公共機関だけでなく、民間銀行を含む850あまりの機関に提出する際にも利用可能になっている。

図1:「政府24」のトップページ
「政府24」のトップページには、「住民登録台帳」「建物台帳」「土地台帳」「新型コロナ接種証明」「納税証明」「ワンストップサービス」「転入転出」「妊娠」「出産」といった項目が並んでいる。

注:吹き出し部分はジェトロ仮訳。
出所:「政府24」ウェブサイト

図2:「政府24」ワンストップ手続き「出産」のページ
「政府24」ワンストップ手続き「出産」のページには、「ワンストップサービス申請」「自治体ごとのサービス案内」「申請資格」「幼児手当、養育手当、児童手当、2人目以降の子の場合のサービス」といった項目が並んでいる。

注:吹き出し部分はジェトロ仮訳。
出所:「政府24」ウェブサイト

表5:新型コロナ禍の各種支援金と申請手続き
支援内容 対象 申請手続
コロナ生活支援金
(一般)
健康保険料の世帯合算額が基準額を下回る場合 (オンライン申請)
支援金:カード会社ウェブサイト、アプリなど
クーポン:専用ウェブサイトなど
コロナ生活支援金
(低所得者向け)
生活保護受給者など 申請不要(自動入金)
零細企業向け支援金 対象業種(集合禁止業種、営業制限業種など) (1)対象の事業主に対しショートメッセージで通知
(2)通知を受領後、オンラインで申請
零細企業向け損失補償 対象業種(集合禁止業種、営業制限業種など) (1)対象の事業主に対しショートメッセージで通知
(2)通知を受領後、オンラインで申請

出所:韓国政府ポータルサイト

表6 :アプリを通じて取得可能な証明書(抜粋)
No 運営機関・企業(アプリ名) 取得可能な証明書
1 大邱広域市(大邱ID) 予防接種証明書、住民登録謄本、基礎生活受給者証明書
2 京畿道(京畿トックID) 健康・長期療養保険料納付確認書、健康保険資格得失確認書、国民年金加入者証明、納税証明など
3 郵政事業本部(郵便局スマートバンキング) 健康保険資格得失確認書、予防接種証明書、住民登録謄本、ひとり親家族証明書など
4 新韓銀行(SOL) 住民登録謄本、住民登録抄本、健康保険資格得失確認書、運転経歴証明書など
5 NH農協(NHスマートバンキング) 健康保険資格得失確認書、健康・長期療養保険料納付確認書、健康保険資格確認書など
6 NHNペイコ(PAYCO) 健康・長期療養保険料納付確認書、健康保険資格得失確認書、国家功労者確認書など
7 SKテレコム(Initial) 健康・長期療養保険料納付確認書、健康保険資格得失確認書、国民年金加入者証明、納税証明など
8 KT(PASS By KT) 住民登録謄本、住民登録抄本、健康・長期療養保険料納付確認書、健康保険資格得失確認書など
9 ビバ・リパブリカ(TOSS) 健康保険資格得失確認書、納税証明書、兵籍証明書、予防接種証明書、土地台帳謄本など
10 カカオ(カカオトーク) 住民登録謄本、予防接種証明書、健康保険資格得失確認書、小中学校卒業証明書など

出所:行政安全部プレスリリース

現政権下で「デジタル化戦略」を策定

「電子政府サービスはどう利用されているのか」でも述べたように、韓国で行政サービスのデジタル化が進んだ最大の理由は、国を挙げて推進体制の構築を進めたことにある。そうした取り組みは、2001年に制定された「電子政府法」(注9)が大きな契機になった。

同法の理念は、電子政府サービスを活性化・効率化すること、それによって利用者の利便性を向上させること、に置かれる。内容的には、(1)電子文書の法的効果、(2)電子政府サービスの開発、提供するための基準、(3)複数の行政機関などが構築・保有する行政情報を統合・連携(国民福祉・生活安全・企業活動促進など)を規定。さらに、(4)電子政府サービスの利用実態調査などを通じ、重複・類似サービスは統合すること、利用率が低いサービスは廃止すること、なども示しだ。

2021年には「第2次電子政府基本計画」を策定。(1) 2025年までに主要な公共サービスのデジタル転換率(デジタルトランスフォーメーション)を80%まで高めること、(2)行政・公共機関のクラウド転換率を100%とすること、を目標として掲げた。その重点施策として、以下を推進している。

  • 「マイデータ」(注10)と電子証明書の活用拡大
    本人の希望に応じ、「マイデータ」の活用を拡大する(注11)。それによって申請・処理手続きの書類作成と提出を不要化・合理化する。また、非対面サービスを拡充することで、公共サービスの全面的なデジタル化を図る。
  • モバイル身分証明書と簡易認証の拡大(図3参照)
    分散型アイデンティティー(DID)ブロックチェーンを活用し、運転免許証や国家功労者証明書など、各種身分証明書を「モバイル身分証明書プラットフォーム」で提供する(注12)。
    また、デジタルワンパス(注13)とモバイル身分証明書を連携。公共サービスへのログイン、本人確認など、身分証明手続き上の利便性を向上する。
    図3:モバイル身分証明書と簡易認証の拡大(イメージ)
    (1)個人が発行機関に身分証の発行を要請する。(2)発行機関が個人に身分証を発行する。(3)発行機関が、モバイル身分証のブロックチェーンの中に発行履歴を登録する。(4)活用機関が個人に身分証明を要請する。(5)個人は身分証で身分証明する。(6)活用機関は、モバイル身分証のブロックチェーンの中に発行履歴を照会する。

    出所:行政安全部「第二次電子政府基本計画」(2021年~2025年)

  • 行政サービスの革新
    政府ポータルの「政府24」を通じ、本人が受けられるサービスをまとめて確認できる「補助金24」サービスを全面的に拡大する。
    また、職業相談、職業訓練、就職のあっせん、各種の雇用助成金など、雇用サービスを1つの窓口で利用できるようにする。関連情報を分析することで、申請者個人ごとに適合した雇用サービスを提供する。
  • データ行政の強化
    交通・金融・エネルギーなど、公共・民間データの収集・加工・流通を支援。分野別に、ビッグデータプラットフォームの構築・連携を推進する。
    あわせて、政府統合データ分析センターを中心に、プラットフォーム間の連携を通じて協力ネットワークを構築する。これによって、分析技術と分析資源を支援する(図4参照、注14)。
    図4:政府統合データ分析と分野別プラットフォームセンター間の連携
    (イメージ)
    政府統合データ分析センターを中心に、「交通・空間情報」「税金」「統計」「観光」「医療」「電力」「環境」「特許」「各地域の地域情報」のビッグデータ・プラットフォーム・センターが連携している。それにより、「全部処のビッグデータの分析」「機関別分析能力構築支援」「共同活用データの管理」「データ統合管理プラットフォームの構築・運営」が可能になっている。

    出所:行政安全部「第二次電子政府基本計画」(2021年~2025年)

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が率いる新政権は、2022年9月、「大韓民国デジタル化戦略」を発表した(図5参照)。総合的な国家デジタル戦略と言うことができ、電子政府もこの中で位置づけられている。

また尹大統領は、ニューヨーク大学で開かれたフォーラムの場で、「デジタル自由市民のための連帯」と題して基調講演を提供した。その中で、当該戦略にも言及。その最大の狙いは「韓国で新たなデジタル革命を起こすこと」とした。デジタルは単に日常の変化や技術・産業の発展に寄与するにとどまらず、政治・経済・社会・文化など、あらゆる分野で革新の根幹になるという。

具体的には、世界最高のデジタル能力を確保するため、2023年から(1)人工知能(AI)、(2) AI半導体、(3)第5世代・第6世代移動通信、(4)量子技術、(5)拡張・仮想世界(メタバース)、(6)サイバーセキュリティーの6つの革新技術分野に集中的に投資することが盛り込まれている。このほか、デジタルを活用して、

  • 従来産業(製造業、サービス産業、農林水産業など)を高度化する、
  • 安全で快適に暮らすための基盤を構築する、
  • 地域を振興する、
  • 電子政府サービスを高度化し、一層の利便性向上や働き方改革を進める、

ことなどにも触れている。

図5:大韓民国デジタル化戦略の全体像
大韓民国デジタル化戦略では、(1)世界最高のデジタル能力、(2)拡張されるデジタル経済、(3)インクルーシブなデジタル社会、(4)国民に寄り添うデジタルプラットフォーム政府、(5)革新するデジタル文化、といった目標が掲げられている。

出所:科学技術情報通信部「大韓民国デジタル化戦略」

さらなる利便性向上に向けて課題も

ここまで、行政サービスの電子化やその利便性向上に向けた動きを中心に概観してきた。

その一方で、公共機関の個人情報の漏出やハッキングによる事件・事故も発生している。その防止も大切な課題だ。韓国の個人情報保護委員会によると、2021年上半期の公共機関の個人情報漏出件数は14万4,000件。類型別には、「業務上の過失」が8万件、「ハッキング」が6万4,000件だった。この件数は目下、増加傾向にあるという。業務上の過失による情報漏出が多発する原因としては、(1)欧州や米国と比べて罰則による抑止力が弱いこと、(2)個人情報漏出を監視する公共機関の体制が不十分なこと、を指摘する専門家もいる。個人情報を活用する範囲が拡大する以上は、これを取り扱う行政担当者のモラル向上や抑止力強化も課題になるだろう。

また、2022年10月にソウル市・梨泰院(イテウォン)で発生した雑踏事故は、なおも記憶に新しい。この事故当時、民間通信会社が基地局から受け取る信号データ上では、人波が把握できていたという。そうした貴重なデータを警察当局が活用し、被害を最小限にとどめるための制度的な基盤整備も、今後の課題になろう。


注1:
OECDの加盟国は、当該調査時点(2020年)では37カ国だった(現在は、38カ国)。
当該調査の対象は、これに非加盟4カ国を加えた41カ国。
注2:
デジタル優先度(Digital by Design)とは、政府が公共サービスを生み出しイノベーションを進める過程で、設計当初からデジタル技術を活用し、法制度や行政手続き、国民とのコミュニケーションなどを必要に応じて抜本的に改善していく努力を指数化もの。
注3:
「開かれた政府」(Open by Default)とは、政府が持つデータ、情報、システム、プロセスなどを公開することでナレッジベースの行政を実現させ、ひいては公益に寄与させる努力を指数化したもの。
注4:
EIU (Economist Intelligence Unit)は、英国の「エコノミスト」誌の調査部門的存在として知られる。
注5:
IMDは、「世界のデジタル競争力ランキング」で、知識、技術、未来への対応能力などを中心に、多様なデジタル技術を採用・探索する国の能力をランキングした。
また、EIUの「インターネット・インクルーシブ・インデックス」は、インターネットへのアクセシビリティー、受容性、社会経済的な関連性の度合いなどを包括的に測定したランキングだ。
CISCOが「デジタル準備指数」で採用した基準は、基本的な社会環境、企業・政府の投資、経営環境、人的資本、創業環境、技術の採用性、技術インフラなど7項目。これらを基に、デジタル経済に向けた全般的な準備や対応の水準を評価、ランキングしている。
注6:
民願とは、行政機関に対する国民の要請。
注7:
電子政府サービスについて特に60歳から74歳の認知度が向上した要因について、統計庁は「新型コロナ禍に対応した各種生活支援金の申請、ワクチン接種、施設入場に伴うワクチン接種証明などにより、上昇した」と分析している。
注8:
新型コロナ禍の下、一時期はマスクの購入制限措置が講じられた。
注9:
2001年7月1日施行。施行当時の法律の名称は「電子政府具現のための行政業務などの電子化促進に関する法律」、その後2007年に「電子政府法」に名称を改正。
注10:
「マイデータ」は、企業や公的機関などが保有する個人情報。
注11:
2022年から2023年にかけて、医療分野で「マイデータ」の活用が順次、開始されている。並行して、データの標準化・転送プラットフォームの構築と運営が進められることになる。
また、2024年から2025年にかけては、(1)医療分野でのさらなる活用拡大、(2)「マイデータ」総合ポータルの構築、(3)分野別の活用サービス連携、などを推進するとしている。
注12:
モバイル身分証明書は、オフラインで実際の身分証明書を代替する。また、オンライン上では、身分証明書そのものになる。
注13:
1つのIDで本人が選択した認証手段を利用し、ウェブサイト上で複数の電子政府サービスを利用できる認証サービス。電子政府サービスを利用する際、ウェブサイトごとにIDを記憶させる必要がなく、デジタルワンパスIDを用いて、複数の電子政府サービスを利用することができる。
注14:
政府統合データ分析センターを通じて分野別プラットフォームセンター間で連携する事例として、(1)予防中心の健康増進サービスを拡大すること(健康診断結果を基に、モバイル端末を通じて保健所からの生活習慣の改善や健康関連教育相談を提供する、など)、(2)サイバー犯罪をビッグデータ、人工知能(AI)技術で探知、分析すること(無断で撮影した写真、映像の流布、著作権侵害、迷惑メールなど)、(3)経済・社会の懸案の予測や政策的対応を検討すること(ニュース、行政関連相談、国民の意見などのデータを分析する)などを挙げている。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所 副所長
当間 正明(とうま まさあき)
2020年5月、経済産業省からジェトロに出向。同年6月からジェトロ・ソウル事務所勤務。