南部TN州ホスールと周辺に生産拠点が集積(インド)
EV二輪車メーカーも集積

2023年10月19日

インドのタミル・ナドゥ(TN)州ホスール市は、人口が約24万人(2011年国勢調査)あり、州都チェンナイから西に約300キロ、自動車で約5時間の距離に位置する。カルナータカ州との州境であり、ベンガルールから車で1時間と、通勤も可能だ。その立地の良さから、ホスール市とその近郊には製造業、特に自動車産業や電機電子産業の集積が進んでいる。また、近年では電気自動車(EV)に関する投資案件も多い(2021年10月7日付地域・分析レポート参照)。

今回は、ホスール近郊で操業しているシンプル・エナジーにインタビューを行い、ホスール進出の理由、採用および調達状況について聞いた。同社は2019年に設立され、2023年5月に同社初のEVスクーター「シンプル・ワン」の納車を開始したスタートアップ企業だ(2023年8月7日インタビュー)。

EVスタートアップがホスール近郊に進出した理由

質問:
なぜホスール近郊を選んだのか。
答え:
1つは、良いサプライヤーが集積しているからだ。また、本社とエンジニア350人を擁する研究開発センターがベンガルールにあることから、自動車により約1時間で通えるため、最適な場所であった。
質問:
なぜ民間工業団地への入居を選んだのか。
答え:
理由としては、当社の要望に合わせて工業団地側に建物建設を行ってもらえる点、時間を節約できた点が挙げられる。TN州政府が開発・販売するシプコット(SIPCOT)工業団地と比較したが、民間工業団地の価格はそれほど高価ではなかった。

シンプル・エナジーが入居するファテ物流工業団地(FLiP、ジェトロ撮影)

2023年5月に納車を開始したEVスクーター「シンプル・ワン」を生産(シンプル・エナジー社提供)
質問:
工場で雇う人材はどこから採用しているか。
答え:
基本的にはホスール周辺で人材を確保している。周辺にはアディヤマン工学大学とペルマル工科大学という優れた大学があり、現在、工場では80人の従業員を雇用している。
質問:
EVスクーター生産にあたり、部品調達はどうしているか。
答え:
基本的には現地調達だが、半導体・電池セルは中国や台湾から調達している。

このほか、ホスール近郊で電子機器の組み立て・生産を行う台湾系のデルタ・エレクトロニクス・インディアに確認したところ、人材を確保するために、職員寮を建設しているとのことだ。また、ホスールでPCB(プリント基板)の生産を行うアセント・サーキッツは、タミル人は勤勉な性格で工場勤務に適している、と述べた。なお、アセント・サーキッツはEVも含めた自動車向けのPCBを生産している。

ホスールの魅力とは

前述の3社から得た情報を基に、ホスールとその近郊を選定し進出した理由をまとめた。

  1. ベンガルール近郊に立地
    優秀な人材・企業を集めることが可能であるほか、ホスールはベンガルールから近いため、距離的にも通勤可能だ。
  2. 製造業に適した豊富な人材
    タミル人は他州の人材と比べると勤勉であり製造業に向いているという。また、TN州では工科大学が多いが、ホスールでも上述の工科大学出身の優秀な人材がいるようだ。なお、近年のホスールの発展に伴い、TN州内でホスールに移り住む人が多いとのことだ。
  3. TN州政府からの支援
    TN州政府は産業誘致に積極的であり、さまざまな分野の企業に対しインセンティブを提供している。ホスールには企業誘致を行うガイダンスとシプコットの担当官がそれぞれ配置されている。
  4. 製造業のエコシステム
    ホスールには元々、インド地場の商用車大手アショク・レイランド、二輪車大手のTVSモーター、時計大手のタイタンが進出していた。最近では、ホスール近郊にEV二輪車大手のオラ・エレクトリック・モビリティ、タタ・グループ傘下のタタ・エレクトロニクス、EV二輪車大手のエーサー・エナジー、台湾系電子機器メーカーのデルタ・エレクトロニクスが進出しており、EVを含む自動車産業、電機電子産業が集積している。また、日系企業ではベンガルールに、トヨタやホンダとそのサプライヤーが進出していることが、製造業を行う日系企業にとっては、1つのメリットと言えるだろう。
  5. 産業インフラの整備
    製造業に不可欠な水と電気の供給が可能だ。また、チェンナイとベンガルールを結ぶ国道4号線に面しており、チェンナイ港からの距離は約300キロであり輸出にも適している。シプコットの工業団地や多くの民間工業団地や民間物流団地があり、その価格はベンガルールよりも安いとされている。

この地域に日本企業が進出する場合、民間工業団地とシプコット工業団地があるが、民間工業団地の選択が現実的であろう。シプコット工業団地は、空きがなく、新たな工業団地を開発中である(注)。このため、土地取得に時間がかかる恐れがあるからだ。


入居企業が多く、ほぼ空きのないシプコット工業団地のホスールフェーズⅠ(ジェトロ撮影)

仮に駐在員を日本から派遣する場合、ベンガルールに住居を持ち、車で1時間の距離にあるホスールに通うことで、ホスールの投資環境とベンガルールの生活環境の双方を享受することができると思われる。本稿で触れた内容が、将来的なインドへの進出に向けた検討材料になれば幸いだ。


注:
ホスールフェーズⅠおよびフェーズⅡはほぼ空きがなく、ホスール近郊のスーラギリ工業団地は現在開発中である。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
浜崎 翔太(はまさき しょうた)
2014年、財務省 関東財務局入局。金融(監督、監査)、広報、および財産管理処分に関する業務に幅広く従事した。ジェトロに出向し、2020年11月から現職。