インドネシアと日本のハラール相互承認、徐々に進展か

2023年9月19日

インドネシアでは、2014年のハラール製品保証法(ハラール製品保証に関するインドネシア共和国法2014年33号)の公布以降、ハラール表示義務化に向けた議論が進められている。制度整備の一環として、2019年にはハラール認証発行の権限がこれまでのインドネシア・ウラマー評議会(Majelis Ulama Indonesia:MUI)から宗教省の直下に新設した「ハラール製品保証実施機関」(Badan Penyelenggara Jaminan Produk Halal:BPJPH)に移管された。これに伴い、海外のハラール認証団体・機関が発行するハラール認証がインドネシアで有効と見なされるためには、当該のハラール認証団体がBPJPHから相互承認を受ける必要がある。しかし、これまでBPJPHによる日本国内のハラール認証団体への相互承認は行われていなかった。

そのような状況下、2023年7月にBPJPHによる日本のハラール認証団体への評価訪問が実施された(2023年7月24日付ビジネス短信参照)。インドネシアは他国のハラール認証機関・団体との相互承認を実施する条件として、BPJPHが行う評価訪問を受け入れることを必要としており、今回の評価訪問は日本とインドネシア間でのハラール相互承認を実現するための重要なステップと考えられる。

本稿では、実態の見えにくいインドネシア・ハラールの最新動向を伝えるため、今回の評価訪問に同行した結果を基に、相互承認にかかる最新の状況を報告する。

4つのハラール認証団体がBPJPHに相互承認を申請

農林水産省の調査報告書(2021年3月)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、日本には9つのハラール認証団体が存在している。そのうちの4団体がBPJPHに相互承認申請を行っている。

表:BPJPH承認申請中の日本のハラール認証団体
No  団体・組織名  相互認証の取得状況 
国・地域名(認証機関) 
カテゴリー 
1 特定非営利活動法人 (NPO法人) /日本ハラール協会 (JHA)
  • インドネシア(MUI)※香料を除く
  • マレーシア(JAKIM)
  • シンガポール(MUIS)
  • タイ(CICOT)
  • サウジアラビア(GAC)※食肉処理、肉製品を除く
  • UAE(ESMA)
  • 湾岸諸国(注)、イエメン(GAC)※食肉処理、肉製品を除く
  • 台湾(THIDA)
  • 食品製造(食肉処理、食品添加物、健康食品を含む)
  • 化粧品、パーソナルケア
  • 医薬品、医療機器 ・物流サービス
  • セントラルキッチン(日本国内のみ実施)
  • レストラン(日本国内のみ実施)
2 宗教法人 日本イスラム教徒協会 (JMA)/ 拓殖大学イスラム研究所
  • インドネシア(MUI)
  • マレーシア(JAKIM)
  • シンガポール(MUIS)
  • 食品、化粧品、医薬品など
3 一般社団法人ムスリム・プロフェショナル・ジャパン協会(MPJA)
  • インドネシア(MUI)
  • マレーシア(JAKIM)
  • タイ(CICOT)
  • 湾岸諸国(注)、GAC
  • UAE(ESMA)
  • 食肉処理場、食品(添加物や栄養補助食品を含む)、化粧品・化学原材料
4 宗教法人日本イスラム文化センター/マスジド大塚(JIT)
  • マレーシア(JAKIM)
  • シンガポール(MUIS)
  • タイ(CICOT)
  • UAE(EIAC)
  • 湾岸諸国(注)、イエメン(EIAC)
  • イスラム協力機構(OIC)(SMIICスタンダード)
  • サウジアラビア(SASO、SFDA)
  • 食品(原材料、食肉処理、乳製品、香料、加工食品)
  • 化粧品、パーソナルケア
  • 医薬品、医療機器
  • 物流サービス
  • セントラルキッチン
  • レストラン

注:サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートによって構成。
出所:各種公表資料、各団体のパンフレット、ヒアリングを基に作成

表のうち、JHA、JMA、MPJAはこれまでにMUIとの相互承認を取得済みだ。しかし、前述のとおり、インドネシアでのハラール認証発行権限はMUIからBPJPHに移管されている。現在のMUI認証の取り扱いはどうか。ジェトロが日本国内のハラール認証団体に確認したところ、「新たにBPJPHからの承認を取得するまでの間は、MUIから与えられた相互承認を有効とする」とのレターがMUIから送付されているとのことだった。これは、ジェトロが2021年6月までにMUI食品・薬品・化粧品研究所(LPPOM MUI)に確認したMUI認証の取り扱いに関するヒアリング結果とも合致する(2021年7月6日付地域・分析レポート参照)。MUIとの相互承認も当面の間、インドネシア国内で継続して有効と見なされていることがうかがえる。

ただし、現在ではMUIに対し、新たにハラールの相互認証に関する変更や申請を行うことはできない。既存の相互の内容が日々変更されるインドネシア国内法との整合をいつまで保てるのかなどの先行きも気がかりだ。特に2024年10月17日から導入されるインドネシア国内で流通・販売する飲食料品などに対するハラール表示義務(注)について、BPJPHのハラール認証を取得していないことがどの程度影響するのかも不明だ。従って、現在の正式な認証機関であるBPJPHとの相互承認を取得しておくことは、事業の安定的な実施の観点からも望ましいと推測される。

日本初となるBPJPHによる評価訪問の実施

BPJPHは2023年7月11日から13日にかけて、JMA、JITに対して評価訪問を実施した。BPJPHからはムハンマド・アキル・イルハム長官、海外協力局のモハマド・ゼン氏らが参加し、専門家を帯同した上で各団体に対し、それぞれ約1日半にわたり評価訪問を実施した。

ジェトロがBPJPHから聞いたところ、具体的な評価の内容については言及できないとのことだったが、シャリーア(イスラム法)の観点と、インドネシア国内法に照らした評価や国際標準に準拠した組織管理体制の具備に関する評価などが対面形式で行われた。

JITへの評価訪問の様子(ジェトロ撮影)

評価訪問の結果について、JITのクレイシ・ハールーン事務局長、アハマド・イブラヒム認証部門マネジャーにヒアリングを行ったところ、「評価訪問は無事に終了し、BPJPHからは非常に高い評価をもらった。インドネシアとの相互承認はかねてから期待していたものだ。われわれはマレーシアやその他の各国との相互承認を既に数多く取得しており、高い水準のハラール認証を行うことができると確認している」とのことだった。今後は評価訪問結果のフォローアップが行われる。


評価訪問終了のセレモニー
(中央左:シディキJIT会長、中央右:ムハンマドBPJPH長官、ジェトロ撮影)

評価訪問後も相互承認プロセスは続く

今回の評価訪問後に注目される相互承認プロセスの1つがハラール認定試験の受験の有無だ。宗教省はインドネシア国内でハラール検査機関(LPH)のハラール審査員に対しては、宗教大臣規定2022年13号PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(インドネシア語、771KB)で、ハラール認証行為を行うためにBNSP(国家専門認定機関)が実施する認定試験を受験する必要があると規定している。

この規則は海外のハラール認証機関(LHLN)に所属するハラール審査員に対する受験の義務については言及しておらず、また、この認定試験に代わってLHLNのハラール審査員が受けるべき能力評価に関する規定も確認されていない。今後は今回の評価訪問の結果を本国へ持ち帰り、BPJPHからのフィードバックがあることが見込まれている。LHLNのハラール審査員が認定試験を受験する必要があるのか、今後の状況に留意が必要だ。

待たれるBPJPHによるハラール相互承認の本格活動

今回のBPJPHの訪日は、スケジュールが直前まで決定されなかったことから、2団体のみ訪問評価が行われた。BPJPHによると、今回訪問しなかった残りの2団体についても、訪問評価が実施される予定だ。また、BPJPH海外協力局のモハマド氏によると、日本のほかにオーストラリアのハラール認証団体にも評価訪問を実施見込みだという。

インドネシアは世界有数のイスラム教徒者数を擁する国で、その巨大マーケットには多くの注目が集まっている。しかし、マレーシアなどの他国に比べ、他国との相互認証が進んでいるとは言い難い。

MUIの食品・薬品・化粧品研究所(LPPOM MUI)が公表した2019年時点の相互承認リストPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(838KB)によると、インドネシアは29の国・地域、45のハラール認証機関・団体との相互承認を結んでいた。BPJPHは2022年10月までに40カ国、97のLHLNからの相互承認申請の登録を受け、2022年には6カ国、8つのLHLNに対し、BPJPHの評価訪問が行われたと発表しているが(2023年7月24日付ビジネス短信参照)、MUIによる認証に加え、どれだけの国・機関がBPJPHの相互承認を得たのかについては言及されていない。この一方、マレーシアのマレーシア・イスラム開発庁(JAKIM)が公表しているJAKIM承認リストPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(4.02MB)によると、2023年6月26日時点でマレーシアは47の国・地域、84のハラール認証機関・団体を承認している。

相互承認の拡大は、ハラールに係るインドネシアの国際的なプレゼンス向上にも大きく関係する。この観点からも、BPJPHによる日本の認証団体に対する相互承認プロセスの積極的な継続が望まれる。インドネシアと日本とのハラール相互承認の実現のためには、今後も関係者間で連携し、BPJPHとの連絡を継続して実施していくことが重要となるだろう。


注1:
「ハラール製品保証の実施に関する政令2021年第39号」で、分野ごとにハラール表示義務化に向けた具体的な日程を記載。飲食料品は2024年10月17日、化粧品、医薬部外品などは2026年10月17日、市販薬は2029年10月17日としている。同政令には、非ハラール品は「ハラールではない」という宣言をパッケージに明記しなければならないとの記載もある(2021年7月6日付地域・分析レポート参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
中村 一平(なかむら いっぺい)
2004年、財務省神戸税関入関。2019年に外務省へ出向後、財務省を経て、2022年から現職。