2024年アンドラ・プラデシュ州議会議員選挙の行方(インド)
BJPがカギを握る

2023年11月1日

インド南部のアンドラ・プラデシュ(AP)州では、2024年4月から5月にかけて州議会議員選挙が見込まれている。AP州議会の議員任期は5年で、前回選挙は2019年だった。選挙日程は、連邦議会の下院総選挙に並行すると見られている(注1)。

現在、AP州首相は、YSRコングレス党(YSRCP)のY・S・ジャガン・モハン・レッディ氏だ。YSRCPは、農民や低所得者層からの支持を受けている。一方、対抗馬と目されるのが、テルグ・デーサム党(TDP)のナラ・チャンドラバブ・ナイドゥ氏だ。同氏は2014年から2019年までの5年間、AP州首相として政権を担った。

本レポートでは、次の議会選挙に向けて、過去10年間のAP州政治動向を概観する。なお、本レポートは2023年9月8日時点での情報に基づいて分析した。

2014年の選挙ではTDPが勝利

2014年の州議会議員選挙では、それまで州政権を担っていた国民会議派(INC)に代わりTDPが勝利。同党の党首、ナイドゥ氏が首相に就任した。同氏は、1950年にAP州南部チットール県で生まれ。1995年から2004年までの在任中には、グローバリゼーションやイノベーションを推進した。州都だったハイデラバードに、IT産業など多くの外国投資を誘致。インド屈指のIT都市に育て上げた。

それまで州政権を担っていたINCに2014年選挙でTDPが勝利した際には、州が分割されたことが影響したと言われる。INCは当時、中央政府でも政権を掌握。その中で、当時のAP州をテランガナ州と新AP州に再編した。分割を強行したことが、有権者の反感を買ったのだ。TDPは、(1)州分割の反対票を取り込んだこと、(2)大規模野党がTDPのほかに存在しなかったこと、また(3) INCと対立関係にあるインド人民党(BJP、注2)と連携したことにより、州議会議員選挙に勝利。AP州政府の政権を握った。

政権を握ったナイドゥ州首相(当時)には、州分割の結果として新しい州都を構築する必要が生じた。同氏は、州中部に位置するアマラバティを指定。シンガポールのような新州都を開発する構想を描いた。その一環として、世界銀行やアジアインフラ投資銀行(AIIB)をはじめ多くの外国投資を誘致に動いた。この新州都建設方針は、中央政府で政権を握ったBJPからも支持された。

前回選挙でYSRCPが漁夫の利

しかし2019年の州議会議員選挙では、TDPが敗れ、YSRCPが勝利。その党首レッディ氏が同年6月、州首相に就任した。

レッディ州首相は1972年に州南部カダパ県(現YSR県)で生まれ、父親は2004年から2009年まで旧AP州首相を務めたY・S・ラジャセカラ・レッディ氏。レッディ州首相の政治経歴は、当時、父親が所属していたINCが皮切りだ。2009年には、国会議員に選出された。その後、INCを離党。2011年にYSRCPを結成した。2014年州議会選挙では、70議席を獲得し、最大野党になった。

2019年選挙でYSRCPが勝利した背景には、TDPが2018年にBJPから離反したことがある。離反のきっかけは、州分割の結果として「特別区分州」(2014年4月4日付ビジネス短信参照)として中央政府が特別な財政支援を講じないことだった。その結果、2019年選挙にあたりBJPとTDPは、ほとんどの選挙区で独自候補を立てる結果に陥った。その結果、2党の支持票が分散し、YSRCPが勝利した(2019年5月27日付ビジネス短信参照)。

YSRCPのレッディ州政権は、農業と社会福祉を重視する姿勢をとる。TDPのナイドゥ前政権とは対照的だ。

さらに、前政権が打ち出したアマラバティ新州都計画にも従わない。代案として、州都機能を3都市に分割する計画を打ち出した。ところが、中央政府のBJP政権は、新計画実施に向けた州議会議決を正当な法律手続きとして認めていない。これが訴訟に発展。現在、最高裁判所で争われている。単独の新州都をアマラバティに置くか、3分割できるのかが争点だ(注3)。最高裁判所の審理開始は、2023年12月以降に予定されている。その結審が、2024年選挙後となる可能性がある。

2024年選挙はBJPがカギを握る

2024年に見込まれる州議会議員選挙でカギを握るのは、前々回の2014年選挙と同様にTDPとBJPなどが選挙協力するかどうかだ。その可能性を探るためTDPは、BJPと度々会談している。しかし、現時点で結論は出ていない。

なお、別の有力政党としてジャナ・セナ党(JSP)も、次回選挙の注目点になる(注4)。

前回の2019年州議会議員選挙では、前述のとおりTDP、BJPなど(注5)は選挙協力せず、選挙区ごとに独自候補者を立てた。もっとも、たとえ、TDP、BJP、JSPの3党が選挙協力したとしても、2019年州議会議員選挙結果に基づく3党の合計得票率は45.55%にとどまる。YSRCPの49.95%に及ばない。

表:2019年選挙実績に基づく政党協力結果の想定(-は値なし)
政党名 出馬選挙区 当選 得票数 得票率
YSRCP 175 151 15,688,569 49.95
BJP 173 0 264,437 0.84
TDP 175 23 12,304,668 39.17
JSP 137 1 1,736,811 5.53
3党連合を組んでいた場合 14,305,916 45.55
合計(上記に含まれない政党を含む) 175 31,409,811

出所:インド選挙委員会(ECI)資料からジェトロ作成

このため、各党間の選挙協力がAP州政府を担う政党を大きく左右する構図になっている。今のところ、BJPとJSPの協力関係は明らかだ。しかし、TDPがBJPと組むのかは、依然として不明瞭。一方、YSRCPは中央議会でBJPが提出した法案に賛成する動きをみせている。状況は複雑で流動的というのが現状と言わざるを得ない。


注1:
インド下院総選挙とAP州議会選挙は同時に行われることが多い。
注2:
BJPは、2014年の下院総選挙で勝利。現在(2023年9月)まで、中央政府で政権を握っている。一方、2004年から2014年にかけての10年間は、INCが中央政府において政権を握っていた。
注3:
この訴訟は、アマラバティの地元住民団体が、2020年6月に高等裁判所に訴えたことに端を発する。その判決に、YSRCPが異議を申し立てた。現在、最高裁判所の判決を待つ状態だ。
注4:
元俳優のパワン・カルヤン氏によって2014年に設立された。2014年州議会選挙ではBJPとTDPを支持し、立候補者を擁立しなかった(実質的にJSPを含む3党と選挙協力したと解釈できる)。 直近の動きとして、2023年7月、JSPはナショナル・デモクラティック・アライアンス(NDA)の会合に出席。ここから、BJPと手を組むことが明らかになった。ちなみにNDAは、BJPが主導するインド全土の政党連合。
注5:
TDP、BJP、JSPの3党が、別々に選挙戦を展開した。130議席以上で、3党が独自の候補者を立てていた。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
浜崎 翔太(はまさき しょうた)
2014年、財務省 関東財務局入局。金融(監督、監査)、広報、および財産管理処分に関する業務に幅広く従事した。ジェトロに出向し、2020年11月から現職。