心血管疾患の患者増、カテーテル分野にテルモが挑む(南ア)
テルモが現地法人を設立

2024年1月10日

南アフリカ共和国(以下、南ア)での主な死因は、HIV/AIDS(エイズ)や心血管疾患(狭心症、心筋梗塞など)、脳卒中、下気道感染症(肺炎など)、糖尿病、結核などがある。エイズや下気道感染症は、教育や予防レベルの向上、衛生環境の改善などで減少しつつあるが、近年増加傾向にあるのが非感染疾患(NCDs)と呼ばれる心血管疾患、がん、糖尿病などだ。

2023年10月に南ア統計局が発表した報告書によると、NCDsの死亡者数は、1997年の10万3,428人から2018年に16万4,205人へ、20年間で58.8%増加した。死亡時の年齢中央値は男性65歳、女性69歳だ。10万人当たりの死亡者のうち、最も多かったNCDsは1位が心血管疾患で、がん、糖尿病が続く。心血管疾患は2008年に全体の12.9%だったが、2018年には17.6%に増加した。

南アの民間セクターの医療レベルは総じて高い。日本人駐在員が国内の民間病院で手術を受けたり、日本人女性が南アで出産したりすることも少なくない。医療技術の向上で治せる人の数も増えているはずだが、人口増、医療アクセスへの格差、ライフスタイルの変化などにより、NCDsの患者は増加傾向にある。

テルモ南アフリカ、カテーテルの販売、手技のトレーニングに注力

テルモは2023年11月30日、南ア・ヨハネスブルクに新会社「テルモ南アフリカ」を設立し、開所式を行った。同社は2007年に当地に駐在員事務所を開所し(2007年10月17日付ビジネス短信参照)、2018年にはテルモヨーロッパが代理店を通じて販売を行う南ア支店を設置した。今回の現地法人化により、新体制でさらなる販売強化に取り組む。ジェトロは、テルモの経営役員で、EMEA(注1)地域統轄である細貝卓也氏にインタビューを行った(2023年11月30日)。


テルモ代表取締役会長の高木俊明氏(右)、テルモ経営役員の細貝卓也氏(左)(ジェトロ撮影)
質問:
現地法人化に合わせて、どのような取り組みを行ったか。
答え:
人員体制を大幅に強化し、営業担当を増やした。直接販売ができるため、カスタマーサービスに力を入れていく。医療機器は使い方によって効果や結果が変わってくるので、トレーニングにも注力する予定だ。日本人駐在員の配置は現時点で予定しておらず、現地のスタッフがメインで活動していく。
質問:
ターゲット市場はどこか。
答え:
アフリカ南部諸国がターゲットだが、まずは南アに注力する。次の市場として、アンゴラやナミビアなどを視野に入れている。
質問:
主力事業は何か。
答え:
カテーテル製品だ。心血管疾患の治療に使われる。まずはこの分野でシェアの拡大を狙っている。南アでのテルモのカテーテル売り上げは現在約500万ユーロで、3年程度で3倍くらいには伸ばしたい。
質問:
南アのカテーテル市場の状況は。
答え:
この分野は、世界的に見ても米国企業が強い。南ア市場でも米国医療機器大手メドトロニックやアボットが頭一つ抜きん出ており、それ以外でさまざまな企業が競り合っている。現在、テルモ製品に南アでのシェアは10%程度だ。3年後、順調に販路を拡大できれば、テルモは上位2社に続くトップ3に入り、マーケットシェアは倍の約20%になる。
質問:
課題は。それに対して取り組むべきことは。
答え:
EMEAでの課題の1つとして、どのような機能を集約し、効果的な営業活動を行っていくかが挙げられる。アフリカは小さい国の集まりで、それぞれ事情が違う。他の地域では経験したことのない課題に直面することもある。勢いで進出するのではなく、足元を固めた上でビジネスに取り組むことが重要だ。例えば、南アでは黒人経済力強化政策(BEE政策、注2)がある。事業を展開する上での地域特有の条件などは、必ず最初に確認し理解すべきだ。
質問:
テルモは以前から循環器内科治療のレベル向上に取り組んでいるが、現状は。
答え:
:医療従事者へのトレーニングサービスには引き続き注力していく。テルモのカテーテル製品の強みは、手首からの挿入がしやすく、治療が必要な箇所へのアクセスがいいことだ。太もも付け根から挿入する治療が伝統的なやり方だが、手首からの挿入した方が患者への負担は少ない。入院日数も減らせるため、病院はより多くの患者に治療を施すことができ、医療経済性の面でもメリットが大きい。一方、手首の動脈は細いため、医師の技術レベルの向上が不可欠だ。
質問:
今後の意気込みは。
答え:
テルモの現中長期経営計画のビジョンは「デバイスからソリューションへ」。単なる医療機器を売るだけではなく、どういう価値を病院や医療従事者、患者に提供するかが重要だ。私たちの活動が南アの人々の生活の向上につながってほしい。

「テルモ南アフリカ」開所式の様子(ジェトロ撮影)

注1:
欧州、中東、アフリカ地域のこと。
注2:
アパルヘイト下で差別を受けていた黒人などを積極的に企業が登用するように定めたアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)のこと。政府案件の入札時、BEEレベルに応じてインセンティブが付与される場合がある。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ浜松などを経て、2021年8月から現職。