2023年米国の貿易赤字は7,798億ドル、2009年に次ぐ縮小幅
21年ぶりにメキシコからの輸入が中国を上回る

2024年4月26日

2023年の米国の貿易は、輸入が減少し、輸出が増加したことから、貿易赤字額は前年比1,714億ドル減の7,798億ドルとなり、2009年に次ぐ縮小幅だった。国別輸入額では、中国からの財輸入が2割減と大幅に減少し、2002年以来21年ぶりに首位の座をメキシコに明け渡した。米中貿易摩擦の激化などが背景にあるとの見方もある。

米国商務省が2024年3月21日に発表した、2023年の貿易統計(国際収支ベース、季節調整済み)によると、財・サービスの輸出は前年比1.1%増の3兆518億ドル、輸入は3.5%減の3兆8,316億ドルだった。(表1、図参照)。この結果、貿易赤字額は前年から1,714億ドル減少し7,798億ドルとなった。赤字の減少額は2010年以降の最大となる。ブルームバーグは「パンデミック後に積み上がった在庫を抑制するため、輸入を抑えた企業の努力や、消費者の支出嗜好(しこう)が、パンデミック下の財からサービスと体験へシフトしていることの反映」だとみている(2024年2月7日)。

表1:財・サービス貿易収支の推移(国際収支ベース、季節調整済み)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年
金額 前年比
(貿易収支は
差額)
金額 前年比
(貿易収支は
差額)
輸出 3,018,455 17.6 3,051,821 1.1
階層レベル2の項目 2,089,925 18.4 2,052,683 △ 1.8
階層レベル2の項目サービス 928,530 15.9 999,138 7.6
輸入 3,969,643 16.5 3,831,616 △ 3.5
階層レベル2の項目 3,272,935 14.9 3,112,315 △ 4.9
階層レベル2の項目サービス 696,707 24.6 719,301 3.2
貿易収支 △ 951,188 △ 109,615 △ 779,795 171,393
階層レベル2の項目 △ 1,183,010 △ 99,499 △ 1,059,631 123,379
階層レベル2の項目サービス 231,822 △ 10,116 279,837 48,015

出所:米商務省データを基に作成

図: 財・サービス貿易収支の推移(国際収支ベース、季節調整済み)
貿易赤字は、2006年に7,635億ドルを記録した後、リーマンショックの影響により2009年には3,948億ドルに減少。その後、貿易赤字は再び拡大する傾向にあり、2022年は最高値の9,512億ドルとなった。2023年は輸出(財・サービス)が前年比1.1%増の3兆518億ドル、輸入は3.5%減の3兆8,316億ドルとなった。輸入の減少幅が輸出の増加幅を上回ったことから、貿易赤字額は1,714億ドル減少し7,798億ドルとなった。前年比でみた赤字額の下げ幅は2009年来最大となる

出所:商務省データを基に作成

原油、消費財の輸入が減少

財貿易をみると、輸出が前年比1.8%減の2兆527億ドル、輸入が4.9%減の3兆1,123億ドルとなった(表2参照)。品目別にみると、輸出では、原油を含むエネルギー関連製品(寄与度、マイナス2.83)、化学品(医薬品を除く)(マイナス0.92)、半導体(マイナス0.44)など、輸入では、原油を含むエネルギー関連製品(マイナス1.62)、衣料品(マイナス1.19)、金属・非金属製品(マイナス1.01)などが押し下げ要因となった。原油の輸入量は3.1%増と伸びたものの、平均原油価格が17.3%下落して1バレルあたり77.58ドル(WTIスポット)となったため、輸入額は減少した。衣料品を含む消費財輸入の減少率は2010年以降最大となった。

表2:2023年の主要財別貿易(国際収支ベース、季節調整済み)

(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)(-は該当なし)
輸出
主要品目 金額 前年比 主要品目に対する寄与度が最大の個別品目
品目 寄与度
食料品・飲料 162,391 △ 9.7 穀物類 △ 4.18
工業用原材料 717,746 △ 11.7 エネルギー関連製品 △ 7.29
(うち原油) 116,945 △ 1.8
資本財 601,711 5.0 民間航空機用エンジン及び部品 2.16
自動車・同部品など 178,976 12.1 乗用自動車(カナダ以外) 3.80
消費財 259,894 6.1 医薬品 5.17
その他 131,965 10.1
合計 2,052,683 △ 1.8
輸入
主要品目 金額 前年比 主要品目に対する寄与度が最大の個別品目
品目 寄与度
食料品・飲料 201,564 △ 3.8 魚介類 △ 2.23
工業用原材料 670,836 △ 16.9 エネルギー関連製品 △ 6.56
(うち原油) 169,626 △ 16.1
資本財 863,093 △ 0.7 コンピュータ △ 1.64
自動車・同部品など 459,621 14.9 乗用自動車(カナダ以外) 8.20
消費財 760,657 △ 9.7 衣料品 △ 4.62
その他 156,544 8.5
合計 3,112,315 △ 4.9

出所:商務省データを基にジェトロ作成

対中輸入が2桁減、メキシコにシフトとの見方も

財の輸出先をマイナス寄与度の高い順にみると、アジアNIESが7.3%減の1,775億ドルと全体を押し下げた(表3参照)。半導体製造機器(HSコード8486)、原油(2709)、石油ガスおよびその他のガス状炭化水素(2711)が減少した。次いで、ブラジルが16.9%減の445億ドルとなった。石油および歴青油(原油を除く)(2710)、石油ガスおよびその他のガス状炭化水素、鉱物性および化学肥料(3105)が減少した。中国は4.5%減の1,487億ドルだった。集積回路(1005)、トウモロコシし(1201)、大豆(1201)が減少した。インドは14.8%減の402億ドルとなった。ダイヤモンド(7102)、乗用自動車(8703)、甲殻類(0306)などが減少した。

財の輸入元をマイナス寄与度の高い順にみると、中国が20.3%減の4,279億ドルと最大の押し下げ要因となった。コンピュータ(HSコード8471)、電話機(8517)、玩具(9503)が減少した。次いで、カナダが3.6%減の4,298億ドルだった。原油、石油ガスおよびその他のガス状炭化水素、木材(4407)などが押し下げた。サウジアラビアは31.7%減の159億ドルとなった。原油、石油および歴青油(原油を除く)、アルミニウム板(7606)が減少した。インドは2.1%減の838億ドルだった。原油、ダイヤモンド、金(7108)などが減少した。

表3:2023年の国・地域別財貿易(国際収支ベース、季節調整済み)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域名 輸出 輸入 貿易収支
金額 前年比 金額 前年比 金額 前年との差
中国 148,732 △ 4.5 427,869 △ 20.3 △ 279,137 102,091
EU 379,067 7.2 580,257 4.1 △ 201,190 2,902
北米 678,523 △ 0.5 914,667 0.6 △ 236,145 △ 8,992
階層レベル2の項目メキシコ 323,625 △ 0.4 484,897 4.7 △ 161,272 △ 22,842
階層レベル2の項目カナダ 354,898 △ 0.7 429,770 △ 3.6 △ 74,873 13,850
日本 77,219 △ 5.3 148,722 △ 0.4 △ 71,503 △ 3,757
アジアNIES 177,533 △ 7.3 250,041 2.2 △ 72,508 △ 19,177
インド 40,221 △ 14.8 83,779 △ 2.1 △ 43,557 △ 5,147
サウジアラビア 14,250 21.1 15,920 △ 31.7 △ 1,670 9,883
ブラジル 44,548 △ 16.9 39,119 △ 0.4 5,429 △ 8,855
その他 492,590 △ 4.0 651,941 △ 10.3 △ 159,350 54,431
世界計 2,052,683 △ 1.8 3,112,315 △ 4.9 △ 1,059,631 123,379

出所:商務省データを基にジェトロ作成

対日貿易は、貿易赤字が3年連続で増加し、715億ドルとなった。 輸入では自動車用部品(8708)、半導体製造機器(8486)、トラクター(8701)が減少した。

対中貿易に関しては、赤字額は2011年以降で最も少ない2,791億ドルとなった。また、最大であった対中輸入額は、2002年以来21年ぶりにメキシコを、2008年以来15年ぶりにカナダを下回った。ニューヨーク・タイムズ紙は、北米内での販売を目指す企業が、米中貿易摩擦の激化などの理由から、メキシコを中国に代わる有力な製造拠点の選択肢と見なしているというビジネスパーソンの見方を紹介している(2024年2月7日)。対中輸入で減少した品目をみると、コンピュータはベトナム、台湾から、電話機はインド、タイ、台湾から、玩具はメキシコ、英国などからの輸入が伸びた。

今後の見通しに関し、米国投資情報会社ハイ・フリークエンシー・エコノミクスのルベーラ・ファルーキ首席米国エコノミストは「国内外の需要と成長が今後、鈍化するとの予想を踏まえると、今後の貿易の流れはおそらく緩やかなものになるだろう」と述べた。 また、英国調査会社オックスフォード・エコノミクスのマシュー・マーティン米国エコノミストは、紅海の輸送障害(2024年2月2日付ビジネス短信参照)やパナマ運河の干ばつなどがサプライチェーンに与える影響をリスク要因とみなし、「世界的な輸送の混乱による最大のリスクはおそらく商品価格の上昇だが、商品の受け取りまでのリードタイムが長くなることで在庫過剰につながる可能性がある」と分析している。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 リサーチ・マネージャー
大原 典子(おおはら のりこ)
民間企業勤務を経て2013年からジェトロ・ニューヨーク勤務。自動車産業を柱に米国の産業調査を担当。