「最後のフロンティア」2億2,000万人の巨大市場に挑む(ナイジェリア)
多様な事業を展開する中小企業に聞く

2024年2月13日

TAIYO株式会社(以下、TAIYO)は、2010年創業の東京の中小企業である。爆発的な人口増加が予測され、「最後のフロンティア」として注目されるアフリカにおいて、最大の人口を擁するナイジェリアに着目してきた。創業以来、ナマズの養殖、日本のアニメ輸出、ナイジェリア人アスリートの養成、日本語教育など多種多様な事業を展開している。日本からのアフリカ市場への進出は大企業が多いが、TAIYOは、中小企業ならではの小回りの良さを武器にアフリカ市場の開拓を急ぐ。

ビジネスだけではなく、スポーツ、農業、文化活動分野でナイジェリアをはじめとするアフリカを支援するための財団も設立するなどアフリカと真正面から向き合う姿が印象的だ。

TAIYOは、2023年のラゴス見本市に「電解水生成器」のPRを目的に出展した。ラゴス見本市への出展回数が6回を数えるTAIYO代表取締役社長の伊藤政則氏に、同社の戦略や経験、考え方について聞いた(取材日:2023年11月12日)。


TAIYO代表取締役社長 伊藤政則氏(中央)と相良優子氏(右、ジェトロ撮影)

ナイジェリアは昭和の日本、日本のアイデアを生かす

質問:
今回の見本市で展示している商品の特徴や強みは。
答え:
2010年に初めて訪れて以来、70回以上にわたってナイジェリアへ渡航した。これまでの経験から衛生面と飲用水の確保がこの国の課題の1つだと認識している。ナイジェリアでは蛇口から水を飲むことができないので、飲用水はペットボトル入りのものを購入しなくてはならない。2023年7月に「電解水生成器」について知り、ナイジェリアの一般家庭の蛇口から水が飲めるようになる画期的な製品だと思った。「電解水生成器」は、汚れている水を飲用水と強酸性水に分解生成する。強酸性水は油と混ざるので汚れが落ちやすく、殺菌・抗菌効果もあり、テーブルの清掃や食器を洗うのに適している。衛生面の向上と飲用水の確保、どちらにも有効なソリューションとしてニーズがあると判断し、販売を決めた。
ナイジェリアでの「電解水生成器」の販売は順調だ。顧客の反応は良く、飲食店や一般家庭にも受け入れられている。近年、ナイジェリアでは欧米の農薬などを使った野菜の生産が増えたが、「電解水生成器」が生成する強酸水は野菜に付着した農薬などを落とすことができる。輸出用の梱包(こんぽう)材も含めてすべてを日本産のものを使用し、販売価格は473万ナイラ(約76万円、1ナイラ=約0.16円)に設定している。これはおおよそ中古車と同じ価格だ。
価格帯としては富裕層向けの商品だが、富裕層は健康への関心が高いため販売実績につながっている。一般的な小売販売は行っておらず、イベントやインターネットで商品を紹介し、関心を持って連絡してきた人をTAIYOが、電解水生成器を製造する日系メーカーのナイジェリアオフィス(ラゴス)に誘導する。そこで気に入ってもらえたら、直接販売している。車と同じく、高価格の商品なのでこの販売方法が適している。

ラゴス見本市で展示した「電解水生成器」(ジェトロ撮影)
質問:
ナイジェリアでビジネスを始めたきっかけは。
答え:
人との出会いがきっかけになった。2009年に、当時流行していた異業種交流会に参加し、ナイジェリア人を友人に持つ日本人社長に出会った。その社長に当時考えていたビジネスアイデアを説明したところ、「面白い企画を持っているからナイジェリアへ行ってみたら」と、彼のナイジェリア人の友人を紹介してもらった。実際に会ってみると、そのナイジェリア人の語るナイジェリアは非常にポジティブだったが、ウェブで調べるとネガティブな情報しか出てこなかった。そのギャップに引かれた。本当はどんな国なのか、どんな市場なのか興味が湧いた。ぜひ自分の目で見てみたいと思い、2010年3月に初めてナイジェリアを訪れた。その時に強く感じたのは「昭和の日本」だった。
土の道路、停電、水のくみ置き、ごみが浮かぶ側溝と詰まった下水溝など、私の世代であれば、ナイジェリアの風景を懐かしく感じところもあるだろう。昭和の日本がナイジェリアには残っている。数十年前は、東南アジアや中国も同じような状況だった。日本企業は、昭和の日本を開発するプロセスで培った技術や経験を、次に東南アジアで生かして事業を行った。つまり、昭和の日本、そして少し前の東南アジアの知見やノウハウを生かして事業を行える次のフィールドがアフリカであり、ナイジェリアだと考えた。
質問:
ナイジェリアの魅力は。
答え:
かつてはナイジェリア以外でもウガンダ、ルワンダ、ケニアで日本のアニメを輸出したりコンゴ民主共和国(DRC)で中古車を輸出したりしていたが、すべて撤退した。
ナイジェリアとは、他の国と比較して会話のキャッチボールがしやすい。また、契約を締結する場合は、句読点の位置も質問してくるなど細かいため長く時間がかかる。契約内容が変わる可能性があることを避けて、相互理解を深めようとしているからだ。そして、結んだ契約はきちんと守る人が多い。契約を守らず「サインしたのは自分ではない」と主張する人が多いと感じる国もある。ナイジェリア人にも同じ様なことをする人はいるが、多くの場合は指摘すると認める。他の国では絶対に認めなかったり謝らなかったりする人が多い印象だ。また、「やるよ、やるよ」と言って、やらない人が多い国もある。ナイジェリアでも期限を過ぎてもできていないことも多いが、努力はしているが実力がなかったりノウハウがなかったり、外的要因によりできないのであって、そのことをごまかさない。再度一緒に取り組もうとする。できないことを想定して簡単なものから依頼し、その人の技量を確認するといった基本的なことをすればいいだけだ。プライドが高い人が多い国ではごまかすことが多い。私にはナイジェリアが一番合った。

機動性を生かして「最後のフロンティア」に挑む

質問:
ナイジェリアを事業の主軸にする意図と戦略は。
答え:
東南アジアや中国は日本企業が多く出ている。日本企業がまだ入り込んでおらず、2億2,000万人の市場規模があるナイジェリアは魅力的だ。もちろん、中国、インド、レバノンなどの競合企業も多く、彼らはナイジェリアで長く根を張っているので手強い。特にインドやレバノン系企業は、2代3代でナイジェリア市場に入り込んでいるところもある。しかし、そういう外国企業とは競合するのでなく、取引相手とすればいいと考えている。
日本製品は品質への評価が高い。だが、ナイジェリア人には高価で買えない。日本の大企業は、アフリカ市場に合わせて余剰な機能を省く低価格製品を投入していない。市場のニーズをより的確にとらえ、柔軟に対応することができるTAIYOだからこそ「電解水生成器」の販売など、ナイジェリアで幅広く成功している。
また、次世代の人は必ず、ナイジェリア人とビジネスをすることになると想定している。その時に、ナイジェリアで長く事業展開し続けている“人”として、ビジネスの土地勘や人脈を引き継ぎたいと考えている。企業ではなく、一個人ということが重要だ。駐在員は数年で変わる。せっかく培った人脈は、人が変わればウマが合わなくなることはよくある。長くナイジェリアで事業をして作る人脈は、次の世代にも生かされる。人脈は、土地勘をつけることにも役立つ。今は、日本とナイジェリアを結びつける時であると考えており、役目だとも思っている。土地勘と人脈は、戦略や戦術を立てたり戦術の変更や組み直しをしたりするときに大いに役に立つ。
質問:
アフリカでビジネスを行う日本の中小企業へのアドバイスは。
答え:
忍耐が必要だ。諦めずにやること。ナイジェリアはアジアではない。日本人の異文化チューニング力や実現力を発揮してほしい。アフリカでは、まさに昭和の日本と同じで、何度も顔を合わせてコミュニケーションを取ることが大事である。
中小企業は、大企業よりも身動きが取りやすい。大企業がリサーチ会社を使い市場調査を済ませ、事業を始めるには時間がかかる。億円単位で投資するので十分な市場調査は必要だと思うが、市場は3、4年で変わっていく。一方、迅速な社長決裁ができる中小・零細企業の方が、市場の変化に合わせて柔軟に戦略を立て戦術を動かすことができる。大企業特有の長い意思決定プロセスや株主への説明もない。1,000万円、2,000万円の投資をまずやってみる。機敏に動ける中小企業の強みだと思う。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
吉川 菜穂(よしかわ なほ)
2023年、ジェトロ入構。中東アフリカ課でアフリカ関係の調査を担当。