治安維持と経済強化を目指す新外交
アルジェリア外交の復帰(1)

2024年3月29日

2024年には、南アフリカ共和国のほか、セネガル、モザンビーク、ガーナなど、アフリカの多くの国で大統領選挙、もしくは大統領選出につながる国政選挙が実施される予定だ。アルジェリアでも12月に予定されている(後日、アルジェリアのアブデルマジド・テブン大統領は突然、大統領選挙を約3か月早めて、9月7日に実施すると発表した)。

アルジェリアは最近、パレスチナ、ロシア、サヘル諸国(注1)や、その他のアフリカ諸国に対して、積極的な外交を展開している。BRICSへの加盟申請(2022年11月18日付ビジネス短信参照)、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の多国間外交でもプレゼンスを高めている。従来にはなかった外国籍企業の新規進出が目立ち(2023年12月21日付ビジネス短信参照)、国内の経済・ビジネス環境も変わりつつある。

こうした中、アルジェリアが展開している新たな外交方針について、その背景と狙い、それが国内の政治・経済情勢にもたらす影響について、フランス国際関係戦略研究所(IRIS)のブラヒム・ウマンスール氏に聞いた(取材日:2024年2月13日)。ウマンスール氏は、2014年にパリ第3大学で博士号を取得後、IRISでアソシエート・リサーチャーを務め、モーリタニアからリビアまでの北アフリカ5カ国の情勢を研究する同研究所内の「マグレブ(注2)研究ユニット」長を兼務している。このほか、防衛や治安、危機管理と地政学分野に関する修士課程を提供する同研究所付属大学「IRIS Sup」の講師も兼ねる。「フィガロ」紙や国営フランス・テレビジョンなど、フランス国内の主要メディアに対して、アルジェリアや中近東などに関する分析を頻繁に提供し、2023年11月には著書「アルジェリア外交の復帰」(L’Algerie, un rebond diplomatique)を出版している。

前編ではアルジェリアの政治情勢と外交方針、後編では経済情勢、ビジネス環境の動向についてレポートする。


ブラヒム・ウマンスール氏(本人提供)
質問:
今のアルジェリアはどのような状態に置かれているか。
答え:
外交、経済などさまざまな面で事実上、移行の最中にある。外から見れば、2019年2月に始まった大規模な反体制運動「ヒラック」(2019年12月18日付ビジネス短信参照)が起こした民主的な改革に見えるかもしれないが、実際はそうではない。2019年の大統領選挙以来、政権が決めた方針に基づき、トップダウン型で移行が実施されている。ビジネス界、政界、諜報(ちょうほう)機関、軍など、旧政権の多くの関係者が隔離あるいは逮捕された関係で、その移行は体制の大きな変化ではなく、既存体制の進化と言える。
また、周辺国の情勢が変化する中で、タカ派のビジョンの下に新外交、新政策がアルジェリアに現れたと言える。
質問:
2024年に大統領選挙が予定されている。この選挙のカギは何か。
答え:
2000年代から2010年代まで、アルジェリアの主な問題は汚職だった。そのため、実施されるべき多くの改革や重要な計画が具体化されなかった。雇用創出のためには、投資・ビジネス環境をしっかり整え、外国からの直接投資をさらに受け入れる必要がある。国外の投資家は投資・ビジネス環境に関する政府の明確な支援を期待している。政策の一貫性も重要だ。世界に対してどのように新たなイメージを発信するかが最大の課題となる。アブデルマジッド・テブン大統領が再選されるかどうかにかかわらず、現政権の経済、外交戦略の方針から大きな変化が生じることはないだろう。
質問:
ウマンスール氏の著書「アルジェリア外交の復帰」は、特にテブン大統領の任期の後半から、アルジェリアが国際外交の舞台で積極的に行動していると述べているが、その外交姿勢にはどのような意味があり、何を目指しているのか。
答え:
アルジェリアは1962年の独立後から積極的な外交政策を展開していたが、1980年代後半の政治経済危機と、1990年代の内戦の影響で、世界の外交舞台から姿を消した。2001年の米国同時多発テロ事件後、当時のブッシュ政権が進めた「テロとの戦い」の関係で、アルジェリア政府は1990年代中の内戦で得たテロ対策の経験を国際社会に発信することで、外交舞台に復帰した。しかし、アブデラジィズ・ブーテフリカ前大統領が2013年に脳卒中を患って以降、同氏が公の場にほとんど姿を現さなくなり、アルジェリアも世界の外交舞台から再び姿を消した。2010年代のリビア内戦に関する国際会議や、マリに関する2015年の和平合意では、積極的な姿勢が見えなかった。
しかし、チュニジア、リビア、ニジェール、マリといった国々は全て、アルジェリアとの国境を共有しているため、これら隣国の情勢悪化が国内に波及する恐れがある。そのリスクを避け、国内の治安を確保するため、テブン政権は隣国情勢の安定化を目指し、リビア、チュニジア、マリなどとの外交に積極的に取り組んでいる。チュニジアに対しては、例えば、援助金を提供し、国境付近では治安維持を目的とした軍事協力も実施している。
質問:
2020年以降、サヘル諸国に複数のクーデターが発生し、情勢が不安定な中、同地域をアルジェリアはどう見ているか。
答え:
マリの平和と安定はアルジェリアにとって重要だ。両国が共有するサハラ砂漠には遊牧民族のトゥアレグ族が暮らしているが、マリ北部での紛争を受け、トゥアレグ族の一部はアルジェリア南部に避難したため、マリの情勢に深く関わっている。アルジェリアの仲介で、2015年にマリ政府とマリ北部武装勢力との間で「アルジェ包括的和平協議にかかる和平・和解合意」が署名されたが、マリ軍事政権は2024年1月、この合意書を停止すると発表したため、アルジェリアはマリの不安定化を強く懸念している。
一方、2020年にモロッコとイスラエルの国交が正常化されたが、アルジェリアはこれを脅威として受け止めた。2021年にはモロッコとの国交断絶を発表し、同国との国境の警備を強化した。近隣国の治安悪化や近隣国との関係悪化を受け、アルジェリアは国境地帯の軍配備を強化したため、予算面での負担は大きい。
質問:
アルジェリアは武器の調達契約、軍の共同訓練など、ロシアとの軍事協力を深めており、EUや米国との関係に何らかの影響を与えると想定していたが、実際はそうではなく、多国間外交を継続している。どう理解すればよいか。
答え:
アルジェリアは以前から、北アフリカの影響範囲を越えて、世界に向けて独自の声を発信するという基本姿勢がある。2024年から国連安全保障理事会の非常任理事国の1カ国に選ばれたことで、その1つの基盤を確保できた。
アルジェリアが果たそうとしている外交的役割で、パレスチナに関しては「アルジェ宣言」は代表的な成果だ。アルジェリアは以前から「パレスチナの大義」を支持していることもあり、ファタハやハマスを中心としたパレスチナ諸派は2022年10月、テブン大統領の仲介の下、アルジェでの会合で、パレスチナ民族の統一を目指す和解文書「アルジェ宣言」に署名した。その宣言に基づき、パレスチナで2023年10月に選挙が行われる予定だったが、結局具体化しなかった。
また、国内経済の強化に向け、単なる外交ではなく、最近は経済外交も積極的に推進している。両方のアジェンダを「同時に」進めている点に新しさを感じる。モロッコは以前からサブサハラ・アフリカ諸国市場を積極的に攻めているが、アルジェリアには今まで、そのような動きがなかった。しかし、今は新たな意識の下、遅れを取り戻そうとしている。BRICSへの加盟申請とAfCFTAへの加盟(2021年5月26日付ビジネス短信参照)はその姿勢を示している。政府系銀行や国営炭化水素公社ソナトラック、国営電力公社ソネルガスなどは現在、リビア、モーリタニア、セネガルなどで事業を拡大している。

アルジェリアによる新外交政策が国内の経済情勢、ビジネス環境にどのような影響を与えるのか、第2部で検証する。


注1:
モーリタニア、セネガル、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリア、カメルーン、チャドの8カ国
注2:
北アフリカ5カ国(チュニジア、アルジェリア、モロッコ、リビア、モーリタニア)

アルジェリア外交の復帰

  1. 治安維持と経済強化を目指す新外交
  2. 脱炭素成長型経済実現で国内政治の安定化
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ
ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。