イラン海運産業の動向と課題
民間企業の声と政府の取り組み

2024年3月28日

昨今の世界情勢の影響により、イランを経由した中央アジアなどからの物流に関心が集まっている(2023年12月21日付地域・分析レポート参照)。こうした機会を捉えるべく、イランの政府機関や民間企業が意見交換を行うフォーラムが開催された。参加者からは、南北回廊を最大限活用するための具体的な開発計画を求める声などが聞かれた。

イランの首都テヘランで2024年2月12~13日、イラン海洋経済フォーラム(IMEF)が開催された。イラン海運・海運関連サービス協会が主催し、道路都市開発省の関係者や同協会のメンバー、海運分野で活動している民間企業などが参加した。フォーラムでは、イランの南部チャーバハール港やバンダル・アッバースからトルクメニスタンを越えて中央アジアへ、また、アゼルバイジャンなどを抜けてロシアへ、トルコを越えて西欧へ抜ける南北回廊についての改善点や開発計画などが議論された。

主催者によると、ロシア、インド、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、オマーン、韓国、トルクメニスタン、バングラデシュ、サウジアラビア、トルコなどの企業幹部を含め、2日間で延べ1,261人が出席した(2月29日付イラン海運・海運関連サービス協会通信(ペルシア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

新たな鉄道建設目標を発表

主催者の同協会のマースード・ポルメー事務局長は開会式で、現在の物流に関する開発状況を説明し、特に「南北回廊の利点を知ってもらうことにより、この回廊の開発と活用を進めていくことが重要だ」と述べた。また「潜在能力を具現化するために、民間企業も投資、管理、建設などの分野に積極的に参入することが大事」と強調した。

同様に開会のあいさつをしたイラン道路都市開発省鉄道局のセイエド・ミーヤド・サレヒ局長は「海運部門と鉄道部門が組み合わされることで、より効率的な物流が実現される」と述べ、「ロシア、カザフスタン、トルクメニスタンとの協力協定〔2023年11月11日付イスラーム共和国通信(IRNA)(ペルシア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕により、トルクメニスタンとの国境の町サラフスからバンダル・アッバースまでのリードタイムは、現在は約10日間だが、3~5日以内に短縮されるだろう」と述べた。

同局長は、各種の取り組みによる効率化の結果、貨物の積み替え作業(両国で線路幅が違うため、貨車を変える必要がある)には1日もかからないと指摘し、「現在、貨車牽引用の機関車が300両、昼夜を問わず全国で運行されており、一部の顧客に対しては車両追跡サービスも提供している。また、今後は他の顧客に対してもこのサービスを広く提供できるように取り組んでいる」とした。さらに、貨物の鉄道輸送の発展について「ペルシャ湾のバンダル・アッバースで荷揚げされた貨物は、鉄道でトルクメニスタンとの国境があるホラーサーン・ラザビー州のサラフスとゴレスターン州のインチェ・ブルンに輸送されている。カスピ海の港のアミール・アバード港にも輸送され、両港は鉄道によってつながっている」とした。「このほかにも、近い将来にカスピ海沿岸に新たな鉄道の建設を目指している」とも述べた。

大型コンテナ船の接岸も可能

同フォーラムで、イラン道路都市開発省のアリアクバル・サファイー港湾海事局長はイランの物流事情について、「毎年、年間14万隻の船舶が寄港している」と指摘し、イラン暦1402年の最初の10カ月間(2023年3月21日~2024年1月20日)で、前年の同時期と比較してイランの海上貿易は8%、コンテナ輸送は9%成長したとした。また「現在、イランの港は1万8,000TEU(注)積みのコンテナ船が接岸できるような準備ができている」と述べた。

ロシアとインドからの関心・投資が重要

イラン貿易振興庁(TPO)のアリ・エマーミー物流部長は「イランの全ての国境で行われている通関などに時間がかかっており、これは改善すべき点だ」とした。同氏は「イランからの輸出貨物の通関手続きなどに平均101時間、費用415ドル、輸入貨物では平均141時間、660ドル必要で、このリードタイムの長さにより、イランは世界の物流ランキングで140カ国中123位と低い順位になっている」と指摘し、同ランキングの順位を上げるには、通関手続きなどの効率化が重要と強調した。

同氏はまた、南北回廊の主要利用者となり得るロシアとインドの関心を集め、両国からの投資を誘致するための開発計画が必要とした。さらに「イランからロシアへの貨物輸送の94%は南北回廊を通っているが、ロシアからイランへの輸入貨物の62%は黒海を通っている」と述べ、この点を改善するべきと指摘した。

フォーラムでは最終日に、「民間部門による南北回廊開発について、南北回廊事務局を設立すること」「国際的な物流・輸送でイランのランキング向上を目標とすること」「政府による意思決定に民間部門が参加するための環境の構築」など14項目からなる宣言がまとめられた(2月29日付イラン海運・海運関連サービス協会通信(ペルシア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。


注:
「Twenty-foot Equivalent Units」の略称。長さ20フィートのコンテナ1本を1TEUとしてカウントしたコンテナ取扱量を表す。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所
マティン・バリネジャド
2018年からジェトロ・テヘラン事務所勤務。ビジネス短信や各種調査、展示会などを担当。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所長
鈴木 隆之(すずき たかゆき)
1997年、ジェトロ入構。展示事業部、産業技術部、アジア経済研究所、ジェトロ高知、ジェトロ愛媛などを経て2020年から現職。海外はラゴス(ナイジェリア)、ロンドンに駐在。