ガソリン高騰や高金利で新車販売低迷、EVは積極投資続く(ケニア)

2024年5月20日

ケニア国家統計局(KNBS)によると、2023年の自動車新規登録台数(中古車を含む)は前年比5.7%増の9万3,950台だった。2020年以降では最多だが、新型コロナウイルス感染拡大前の水準までには回復していない。一方、ガソリン価格高騰や政府の後押しもあり、電気自動車(EV)の新規登録台数は前年の5.7倍となる2,694台(バイクや三輪を含み、自転車は除く)に拡大した。

新規登録台数は5.7%増、中古車販売が拡大

5年おきの大統領選挙のサイクル(2023年9月22日付地域・分析レポート参照)から言えば、2022年の大統領選挙翌年の2023年の自動車市場は大幅な回復が見込まれていた。しかし、2023年の財政法によるガソリンに対する付加価値税の引き上げ(2023年9月11日付ビジネス短信参照)や、通貨シリングの下落を受けたガソリン価格の高騰や金利上昇が影響し、新規登録台数は5.7%増の9万3,950台にとどまった。

図1:新規登録台数の推移
2023年の自動車新規登録台数は前年比5.7%増の9万3,950台だった。そのうち、中古車は前年比9.4%増の8万2,580台となった。

出所:ケニア国家統計局「Leading Economic Indicator 」からジェトロ作成

中古車は前年比9.4%増の8万2,580台だった。中古車は新規登録台数の87.9%を占め、前年より3ポイント近く増加した(図1参照)。新規登録台数は増えたが、景気低迷もあって新車販売は縮小し、中古車販売が増加した。

自動車を車種別で見ると、セダン(5,493台、前年比13.5%減)やステーションワゴン(5万3,910台、同2%減)は不調だった。一方、小型バンやピックアップトラック(同8.2%増)、ミニバス、バス、大型バス(同41.5%増)、貨物自動車、トラック、トレーラー(同35.9%増)は大幅に増加した(図2参照)。マタツと呼ばれる乗り合いバスや貨物運送用車両の需要は好調だが、個人需要は低迷し、セダンは2013年(1万6,343台)と比べると約3分の1まで減少している。

バイク・二輪車の新規登録台数は前年比52.6%減の6万2,338台と、近年で最も少なかった。バイクは主に低所得者層が利用するボダボダと呼ばれるバイクタクシー用の需要が大半を占め、景気低迷の影響を大きく受けたと考えられる。

図2:新規登録台数の車種別内訳
セダン(5,493台、13.5%減)やステーションワゴン(5万3,910台、2%元)は不調。一方、小型バン、ピックアップトラック(8.2%増)やミニバス、バス、大型バス(41.5%増)、貨物自動車、トラック、トレーラー(35.9%増)は大幅に増加した。

出所:ケニア国家統計局「Leading Economic Indicator」からジェトロ作成

新車販売は前年比14.8%減

ケニア自動車工業会(KMI)によると、2023年の新車販売台数は前年比14.8%減の1万1,370台だった(図3参照)。前述のとおり、ガソリン価格の高騰や高金利の影響を大きく受けて販売が低迷したと考えられる。

こうした背景もあり、新車販売台数のうち、ケニア国内で組み立てられた車両(CKD、SKD、注)は3年ぶりに1万台を下回り9,005台となった。2023年も多くのメーカーがケニアでの組み立て生産を発表し、新車販売の79.2%が国内で組み立てられた車両だが、販売低迷の影響を受け、現地化の流れは足踏み状態にある。

図3:完成車と組み立て車の販売台数の推移
2023年の新車販売台数は、前年比14.8%減となる1万1,370第だった。そのうち、ケニア国内で組み立てられた車両(CKD及びSKD)は3年ぶりに1万台を下回り9,005第となった。

出所:ケニア自動車工業会(KMI)統計からジェトロ作成

EV関連企業は引き続き強気の拡大

国家交通安全局(NTSA)によると、2023年の電気自動車(EV)の新規登録台数は前年の約5.7倍の2,694台だった。内訳は二輪2,557台、三輪39台、乗用車45台、バス・ミニバス18台、その他35台となっている。特に電動二輪が前年の約7倍、電動バス・ミニバスが6倍など大きな伸びを見せた。

ケニアは非産油国で、ガソリンは輸入に頼っている。しかし、ガソリン価格は通貨シリング安を受けて2023年を通して値上がりが続き、それがEV普及を加速させた。ケニア道路・運輸省はeモビリティー政策の草案を発表するなど(2024年4月9日付ビジネス短信参照)、EV推進に当たっての政策・法制度の整備や、EVの現地生産、充電設備などのインフラ整備などの導入計画を積極的に進めている。前述のとおり、ケニアの新車販売市場は不調期にあるが、特にバイクタクシーや市バスなどでは、首都ナイロビを中心に、徐々にガソリン・ディーゼル車からEVへの置き換わりが進みつつある。ケニアEモビリティー協会(EMAK)によると、電動二輪に関係する企業は16社あり、二輪車の全登録台数のうち、電動二輪の比率は3.35%にまで拡大したという。

こうした状況を背景に、EV関連会社の投資は引き続き活発に行われている。2024年3月にはEVメーカーのローム(Roam)が米国政府やその他の投資家からケニアでの電動バス、バイクの生産拡大のため、2,400万ドルを調達したことを発表した。また、電動バス会社のバシゴー(BasiGo)も、電動バスの生産拡大のために、豊田通商傘下のCFAOグループから300万ドルを調達したと発表した。その他の現地ディーラーも、次々とEVの生産計画を打ち出している。


注:
CKDはCompletely Knocked-Downの略で、自動車を構成する全ての部品を海外へ送り、現地で組み立てや溶接、塗装、艤装(ぎそう)、仕上げなどを行い、完成車にすること。SKDはSemi Knocked-Downの略で、部品を海外現地へ送り、現地で組み立てを行うことはCKDと同じだが、SKDはボルトやねじなどの締結だけで完成車になるレベルでの部品を輸出して組み立てを行う。 FBUはFully Built Unit 完成車。
執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所長
佐藤 丈治(さとう じょうじ)
2001年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所、企画部企画課、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ロンドン事務所、展示事業部、調査部中東アフリカ課を経て、2023年5月から現職。