外資誘致を本格再開する大連市(中国)

2024年3月8日

中国・大連市の2023年の域内総生産(GRP)成長率は全国平均の5.2%を上回る6.0%を記録した。新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)禍が明け、経済活動は一定程度回復したといえる。しかし、2023年の同市への外資企業による投資は前年比52.5%減の9億7,000万ドルと大きく減少した。同市では今後さらなる景気回復に向けた経済政策を打ち出すとともに、外資企業の誘致も活発化するとみられる。本稿では、新型コロナ禍以降の大連市の外資誘致の動きを整理する。

日本企業との協働による地方発展モデル模索

中国政府は2020年4月、日本企業を誘致することを目的とした「日中地方都市発展協力モデル区」を全国6都市に設置することを承認した(2020年5月27日付ビジネス短信参照)。大連市に設置した「日中(大連)地方都市発展協力モデル区」(以下、大連モデル区)」は大きく分けて4つのエリアからなり、中核エリアを担うのは金普新区に位置する「新日本工業団地」だ。新日本工業団地は2021年下半期に「日中生態モデル新城」(以下、日中エコシティー)に改名され、大連市政府が日本企業誘致に注力しているエリアである。また、日中エコシティーを含む地域一帯は普湾経済区と称され、大連の主要な都市機能の移転先としても位置づけられている。

日中エコシティーの区画面積は28平方キロで、現在建設中の大連金州湾国際空港から25キロ、市内からは40キロの距離にある。日中エコシティー所轄の普湾経済区管理委員会は進出に当たっての土地取得や、建設工事許可などの関連支援をワンストップで提供しており、進出企業はいつでも工場建設を開始できる状態にある。また、企業総合サービスセンター、人材アパート、産学研サービスセンターといった機能を持つ「日中エコシティー公共サービスセンター」を建設中で、うち人材アパートについては上棟が完工し、2024年内に運営を開始する見込みだ。さらに、日中エコシティー内にある「金港日中スマート製造産業園」(注1)では第1期が運営を開始しており、入居する中小企業向けに、生産工場と付帯施設・サービスを提供し、さらに賃貸料の補助を用意している。

電気自動車(EV)用モーターを生産するニデック(本社:京都市南区)は、日中エコシティーに初めて入居した大手日系企業だ。1期工場は2021年6月、2期工場は2023年2月に稼働しており、発表によると、R&Dセンターを併設し、人員規模は1,000人規模に上るという。また、2023年3月にはTOTO〔本社:北九州市小倉北区、現地企業名:東陶(遼寧)〕が新工場の建設を開始し、2025年までに完工見込みとしている。投資額は30億元(約630億円、1元=約21円)で、同社の主力商品の衛生陶器を生産する。

化学工業パークとしての特徴打ち出す松木島化工産業開発区

大連モデル区でもう1つ特徴的なのが、松木島化工産業開発区だ。同区は2005年に建設が始まり、面積は14.92平方キロに及ぶ計画だ。省レベルの化学工業園と同時に、中国初のクリーン生産審査イノベーション試験拠点(注2)の1つでもある。区内には大連市が整備する危険物廃棄産業園があり、「国家危険廃棄物名簿」46種類のうち44種類が処理できるため、企業の操業コストを大幅に削減することができる。2023年11月時点で、区内で操業している事業者は42社、うち一定規模以上(注3)の企業は30社を超え、中国の上場企業は2社。触媒新材料や医薬中間体、半導体新材料などの分野が集積している。また、松木島化工産業区が属する大連普湾経済区は中国科学院大連化学物理研究所と協力しながら、パイロットプラントや倉庫、スマート化管理プラットフォーム、測定センターなどの機能を持つ「大連松木島化学工業新材料中間試験拠点」を建設している。同試験拠点では、高分子材料、エネルギー材料、機能性化学品新材料の3種類9分野で、技術的ボトルネックを解消するサポートを行っている。

進出済みの日系企業としては、リファインホールディングス(本社:岐阜県輪之内町)が投資する瑞環(大連)環境がある。同社は現地サービスの強化と市場開拓のため、2020年11月から松木島に工場を建設した。中国東北部唯一の危険化学品の回収・精製・リサイクルの工場で、全工程が低炭素で稼働している。

「中日(大連)地方発展協力モデル区実施方案」策定

金普新区管理委員会は2022年7月、日本とのハイレベルな経済協力を展開するために、「中日(大連)地方発展協力モデル区実施方案(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を策定した。同方案では、金普新区は「既存産業の優位性を発揮すること、日本と協力意向のある産業とマッチングすること、技術的制約や産業障壁をなくすこと」という3つの原則に基づき、日本との重点協力分野として22分野挙げている(表参照)。

表:「中日地方協力モデル区方案」対日協力重点分野
項目 重点分野
(1)先端設備製造業 1.新エネルギー車とインテリジェント・コネクテッド・ビークル(ICV)、および部品
2.エネルギー設備
3.デジタル制御工作機械とデジタル制御機能部品、産業用モノのインターネット(IoT)、ロボットとスマート工場
4.海洋エンジニアリング機器
(2)新材料産業 5.特殊鋼と新金属材料
6.ファインケミカル新素材
7.高分子材料
8.半導体材料
9.新触媒
10.新医薬中間体
(3)貿易物流 11.鉄鉱石などの大型商品、農林水産物、自動車、先端設備の商品貿易
12.越境電子商取引
13.海運物流
(4)新世代情報技術 14.スマート産業
15.デジタルクリエーティブ
(5)科学技術イノベーション 16.中日共同研究開発と産学官共同イノベーションの強化
17.技術移転と産業化
(6)ライフ・ヘルス 18.医療、健康管理、リハビリテーション機関との協力
19.医薬、医療機器、医療美容企業との協力
(7)社会事業 20.文化観光
21.都市ガバナンス
22.スポーツ

出所:大連市金普新区発表からジェトロ作成

日中エコシティーでは、先端設備製造、新材料、新エネルギー車とその部品といった産業を重点的に発展させるとともに、日本企業にとって中国進出のベストな候補地に発展させるとの目標を掲げている。一方、松木島化工産業開発区では、電子化学品、触媒新材料、電池材料などの産業の企業誘致を狙い、より多くの小規模で優良な新材料と精製加工企業を集積し、企業のイノベーションとR&Dへの取り組みを支援する。

大連市あげて外資誘致強化

大連モデル区への日系企業進出は、新型コロナ禍の影響もあって、進展していないのが実情だ。こうした状況を踏まえ、大連市政府は同モデル区への日系企業誘致をはじめ、全市的に外資誘致を強化する方針を鮮明にしている。具体的な優遇支援策として、同市は2023年6月に「大連市のさらなる外資誘致・利用強化の若干の措置」と「大連市企業誘致仲介機関における外資案件奨励に関する指導意見」(2023年6月21日付ビジネス短信参照)を発表した。新規設立の外資系製造業に対し登録資本金を納入した場合、実行ベースに応じて相応の奨励金を支給する。また、外資企業の地域本部の設立やR&D、投資の円滑化など、さまざまな面での支援策を設けている。さらに、同年10月には、遼寧省初の外商投資支援に関する市レベルの法規「大連市外商投資促進条例」(2023年10月23日付ビジネス短信参照)も公布した。情報提供、地方標準の制定・修正、人材招聘(しょうへい)、安全・環境保全・品質管理といった分野の施策を打ち出している。その他、金普新区では自由貿易改革、投資誘致、人材招聘、建設手続きの簡素化、ビジネス制度改革、文化産業発展の6分野で各10項目の支援策を打ち出した。

このように、大連市政府は外資誘致を本格的に再開させ、とりわけ歴史的に経済関係の深い日本との連携を模索している。1992年に中国初の大規模工業団地として大連経済技術開発区内に「大連工業団地」が設立されてから30年以上が経過した。日本企業から見た大連の位置づけにも変化が起きている。これからの30年に向けた日中間のビジネス協力は今が正念場といえよう。


注1:
金港中日スマート製造産業園は、民営企業の大連金港集団が建設した工業団地。投資総額は5億元(約105億円、1元=約21円)。
注2:
2022年12月13日、生態環境部弁公庁と発展改革委員会弁公庁は「クリーン生産審査イノベーション試験拠点プロジェクトの第1陣の実施に同意する通知」を公布した。生産過程のエネルギー消費などを診断する「クリーン生産審査」の審査プロセスや評価方法を改革し、クリーン生産審査の効果を高めることを目指しており、組織体制や審査方法、標準規範、管理制度の改革を提唱している。クリーン生産審査イノベーション試験拠点として指定した工業団地に対しては、生産過程のクリーン生産審査とクリーン生産技術の改善を通じ、資源・エネルギーの効率的な利用を促進させる。同通知により、クリーン生産審査イノベーション試験拠点として、56のプロジェクトを定めた。
注3:
その年の主な業務による売上高が2,000万元以上の工業企業。
執筆者紹介
ジェトロ・大連事務所
李 穎(り えい)
2007年、ジェトロ・大連事務所入所。総務・企画部、市場開拓部、経済情報部を経て、現在は、進出企業支援センターおよび経済情報部にて、調査や進出企業支援等を担当。