中国鉄道車両の海外展開動向と高速鉄道の発展経緯
青島製造の通勤電車、インドネシアへ初輸出

2024年3月15日

中国中車傘下の中車青島四方機車車両(山東省青島市所在、以下「中車四方」)は2024年1月31日、インドネシア国鉄(PT.KAI)全額出資のインドネシア通勤鉄道会社(PT.KCI)と通勤用電車(EMU)の供給契約を締結した。

中車四方は中国中車の中心的な企業で、中国における高速鉄道の研究開発のコア企業でもあり、世界トップクラスの軌道交通設備製造企業でもある。締結した契約によると、中車四方は電車車両をPT.KCI に3セット供給する。1セットは12台の客車で構成され、最大乗車人数は3,396人、ゲージは1,067ミリメートル、最高時速は120キロ、予定納期は2025年となっている。同社は、香港、米国、ブラジル、エジプトなど約30カ国・地域に列車を輸出した実績があり、輸出する列車は、現地の運行環境や歴史・文化などに合わせて開発・製造しているという。

中国高速鉄道の代表的プロジェクトとなったジャカルタ-バンドン高速鉄道

中車四方は、インドネシアのジャカルタ-バンドン高速鉄道の建設を請け負った実績がある。首都ジャカルタとバンドン市を結ぶ同高速鉄道は、設計最高時速350キロ、総延長142.3キロとなっている。同鉄道によって、同区間の所要時間はこれまでの3時間から46分に短縮された。8台の客車にはVIP、一等、二等の座席がそれぞれ設置され、全定員は601人で重連運転(機関車を連結して運転すること)ができる。2023年10月の開業以来、2024年1月24日まで100日間の運行で、乗車人数は145万人、1日平均乗車率は最高で99.6%に達し、平均乗車率も8割超となっている。

ジャカルタ-バンドン高速鉄道は、中国の高速鉄道が初めて海外で商業運転され、初めて全システム、全要素、全産業チェーンを海外で建設したプロジェクトであり、すべて中国の技術と標準を採用しているとされている。ベースとなる車両は中国で運行されている高速鉄道「復興号」のCR400AF型で、インドネシアの運行環境と路線条件に合わせて技術面や安全面で調整を行ったとしている。同鉄道は、中国・インドネシアの「一帯一路」プロジェクトの看板プロジェクトとなっている。

中国における高速鉄道の発展の経緯

中国は2004年に、ドイツや日本などから技術導入し、「和諧号」シリーズを生産した。しかし、企業によって異なるプラットフォームを基に研究開発された「和諧号」は、標準が統一されていないため、相互利用ができず(注1)、運用やメンテナンスに要する費用が高いという課題があった。

これを受け、2012年末に、中国国家鉄路集団がプロジェクトの推進役を、中国鉄道科学研究院が技術支援を、中国中車関連企業が設計・製造を担当し、関連企業数千社が参画する最高時速350キロの中国標準による高速鉄道車両の研究開発がスタートした。

2017年6月に、中国標準の新型高速列車は「復興号」と命名され、北京市と上海市をつなぐ京滬高速鉄道で運行し始め、同年9月には時速350キロでの走行を行った。また2019年1月に、世界で初めて時速350キロの自動運転を行った。国家知識産権局は、高速列車「復興号」は中国独自の知的財産権を用いて開発されたとしている。

現在、中国国内で運行中の高速鉄道「復興号」には、主にCR400(最高時速300キロ)、CR300(同250キロ)、CR200(同160キロ)があり、加えて最高時速400キロのCR450を開発している。寒冷地仕様、スマート高速列車(注2)などの新型車両も登場した。中国国家鉄路集団は2024年1月11日、中国国内の鉄道総営業距離が2023年末時点で15万9,000キロに達し、うち高速鉄道の同距離が4万5,000キロであったとした。現在、高速鉄道「復興号」は、31省・自治区・直轄市のすべてで運行されており、2024年1月10日にはスマート高速鉄道「復興号」が青蔵高原(チベット高原鉄道)に投入された。

山東省青島市には軌道交通設備製造業が集積

2023年末に発行された「青島年鑑2023」によると、2022年に中車四方が納品した車両は4,054台、売上高は310億2,000万元(約6,204億円、1元=約20円)となっている。中車四方が所在する青島軌道交通産業モデル区には、青島市の軌道交通装備製造リソースの約90%が集積しており、同区では中国国内の高速鉄道車両の約60%、地下鉄車両の25%が生産され、中国中車系のメイン車両工場3拠点のほか、関連企業260社余りが集積している。

中国中車と青島市がこのモデル区に設立した国家高速鉄道技術革新センターは、中国で唯一、国務院、科学技術部に正式に認可された国家技術革新センターである。同センターは、総投資額が約137億元に及ぶハイエンド試験プラットフォーム、産業化研究院など15プロジェクトを計画している。その中で、軌道交通車両システムインテグレーション国家エンジニアリング試験室、高速リニア試験センター、高速リニア試作センターの3つがすでに稼働している。同モデル区は、中国で唯一の高速鉄道・地下鉄車両生産、軌道交通基幹システムの研究開発および製造、国家基礎応用技術共同創新プラットフォームを一体化させた産業集積区となっている。

青島市では、産業エコシステムのさらなる向上のため、有力企業をターゲットに投資誘致を強化しており、2022年には、約100億元のプロジェクト2件を含む26件の関連プロジェクトに調印した。

高速リニア交通システムも開発

2016年7月に、中国は時速600キロの高速リニア交通システムの研究開発をスタートし、2021年7月20日には同システムが山東省青島市でラインオフした。発表によれば、これは世界初となる設計上の最高時速が600キロに達する高速リニア交通システムとされており、また、国家知識産権局は、中国独自の知的財産権によって開発されたとしている。高速リニアは、現時点で実現可能な最速の地上交通手段であり、高速鉄道と航空輸送の間に位置づけられるものである。

国務院が2021年2月に発表した「国家総合立体交通網規画要綱」では、「大都市間の高速リニア通路と試験線路の建設を研究・推進する」ことが提唱された。また、2023年10月に科学技術部が公布した「第14期全国人民代表大会第1回会議第2199号建議に対する回答」の中では、時速600キロで走行する高速リニア列車の試験運行および商業運行のプランの検討を進めることが示された。

国土が広い中国において、人や貨物の移動時間の短縮は、さらなる経済発展への大きな貢献となりえる。中国の複雑な地質条件、地域により大きく異なる気候への適応などは、他の国・地域のニーズへの柔軟な対応にもつながることが期待される。


注1:
例えば、異なる企業が生産した車両および部品に互換性がないため、故障した際の予備車両として使用できない点などが問題となっている。
注2:
5G(第5世代移動通信システム)プラスのWi-Fiの設置や、車内の気温と内外の圧力差の自動的な調節、車載安全モニタリングシステムおよび故障予測・健康管理システムの応用によって運営・保守を行うような列車を指す。
執筆者紹介
ジェトロ・青島事務所
李 燕(り えん)
2015年、ジェトロ入構。青島事務所総務・経理(2015~2019)、サービス産業部サービス産業課(2015~2017年)、農林水産・食品部農林水産・食品課(2018~2019年)を担当。