ビジネス環境と進出企業が語る魅力(北マケドニア)

2024年1月23日

ジェトロは2023年11月15日、在北マケドニア日本大使館と共催して、ウェビナー「北マケドニア最新ビジネス環境」を開催。日系企業などから100人以上が参加した。登壇者は、北マケドニア外務次官や駐北マケドニア日本大使、日系を含む外資系進出企業など。

このウェビナーでは、参加者向けに事前アンケートを実施。そこで示された関心は、「政府の具体的な投資インセンティブ策」「労働コスト」「国内政治状況」「国際関係」など。これらに加え、北マケドニアと日本の歴史的関係や、同国ビジネスの魅力などに触れた。

日本との外交関係樹立から30年

ウェビナーの冒頭に登壇したのが、北マケドニア外務次官のフィリップ・トシェフスキ氏。1963年にスコピエ(現在の首都)で大地震が発生した際、日本から提供された支援に触れた。建築家の丹下健三氏が都市再生計画を作成し、再建・復興に貢献したという。こうした歴史から、「両国間には強い絆があり、日本人に好印象を抱く国民が多い」とした。あわせて、日本からの継続的な資金・技術援助に感謝の意を表明。今後直接投資だけでなく、ITやエネルギー、建築、スタートアップなどの分野で企業の協業を推進していく方向性を両国間で合意したと述べた。また、2024年は両国の外交関係樹立30周年を迎えることにも言及し、3月上旬にジェトロがビジネス・ミッションを派遣する際、日本企業にとって実りある訪問になるよう、準備を進めると語った。

次に駐北マケドニアの大塚和也大使が登壇。同国について「NATO加盟によって安全保障上安定している」「2022年7月からEU加盟交渉を開始し、2030年の加盟を目指している」ことに触れた。北マケドニア情勢や経済、税制、IT人材の給与レベルなど、現況を紹介した。目下、急速に拡大している投資案件としては、(1)大手IT企業によるアウトソーシングや、(2)自動車その他の機械工場設立などがある。(2)は、低コストと物流リードタイム短縮の観点から増加していると説明した。最後に、北マケドニアの自然と文化、日本人にもなじみある魚料理、農業国ならではの豊富な食材、日本米に形状や風味が似ている水田栽培のコメについても紹介があった。

北マケドニアの政府機関、TIDZ代表のヨバン・デスポトフスキ氏が続いた。同機関は、国内15カ所に自由貿易地区「技術・産業開発地域(Technological Industrial Development Zone)」を管理・運営している。講演では、主に経済制度やデータなどを紹介(例えば、同国の自由貿易協定(FTA)、マクロ経済指標、欧州市場への地理的アクセス、税制メリット、同地域のインフラを含む有利な条件、進出企業に対する免税措置など)。あわせて、過去10年間のTIDZへの主要投資国や進出企業の業績を示した。さらに、アフターケア・システムを含めたTIDZの支援パッケージを紹介し、日本企業に投資を呼びかけた。さらに、当地の失業率や平均給与、給与体系、持続可能な労働力供給、一般的な語学能力、現地サプライヤーなどにも触れた。

欧米に低コスト安定供給が可能

さらに、外資系進出企業のケーススタディーがあった。

ヤゲオ(YAGEO)/台湾の大手電子部品メーカー
登壇したアンドレアス・マイヤー氏は、ヤゲオでシニアバイスプレジデントを務める。同社は2012年にスコピエに工場を新設。以来、電気自動車(EV)向けにフィルム・キャパシターを製造している。

当社は2009~2010年ごろ、在欧顧客から域内生産を検討してほしいとの要請を受けた。そこで、東欧での新工場設立を検討するに至り、当初は、ポーランド、チェコ、ルーマニア、ブルガリア、スロバキアいずれかへの進出を想定していた。その後、投資に関する広告を見たことがきっかけに、北マケドニアを候補に加えた。提供された情報を参考に、ビジネス環境や教育水準などを評価。当地での雇用創出戦略や具体的な方策についてオープンな議論を進めた。その結果、2010年11月、スコピエ工場新設を決定した。
北マケドニア人材は、国際的な経験を持ち多言語を話すなど、スキルが高い。そうした人材を活用し、今では顧客サービスや物流、人事、財務から先端材料の研究開発まで、当地で担っている。
さらに2023年4月には、欧州ビジネスの拡大を目指し、2億500万ユーロに及ぶ追加投資を発表した。1991年に北マケドニアが独立して以降、最大の投資額になる。今後10年間で2都市に新工場を設け、3,900人超の雇用を創出する計画だ。
この追加投資に至ったのは、北マケドニアが「コスト競争力上、中国に匹敵する製造拠点」だからだ。念頭にある市場は欧州と北米で、当社製品は厳しい価格競争に直面している。そのため、これまでは製造コストが安い中国で生産することが多かった。しかし、欧米へは輸送コストが高く、輸送時間も長い。加えて、米中対立などのチャイナリスクが影を落とす。そうしたことに鑑みると、中国生産は必ずしも得策でなくなっていた。
さらに、教育水準の高い技術者、物流インフラ拡充による効率的なサプライチェーン、グリーンエネルギーへの移行の動き、欧州他国に比べて安い人件費、安定した経済状況も、投資拡充を決めた理由だ。政府やTIDZのような政府機関との距離感が近く、協力的な対応が得られることも魅力だった。
ライタリティ
唯一の日系進出企業。登壇した渡邊英典氏は、ライタリティの代表取締役。主な事業は、システム開発やウェブ広告(日本市場向け)制作。

当社は2017年、北マケドニアのオフリドに欧州拠点を設立した。2023年11月現在、27人が勤務している。その、約半数が北マケドニア人だ。
システム開発事業では、当社オフショア拠点の1つとして、フィリピン、ネパールなど複数国のITエンジニアとさまざまなプロジェクトを進行している。また、ウェブ広告制作では、主に日本市場向けのウェブ広告を製作している。将来的には、時差を生かした24時間フル稼働を行い、日本時間で翌日の始業時間前には、発注した結果を納品できる体制を整えるため、世界中への事業拡大を検討している。
欧州拠点を同国に新設することを検討した際、法人税の安さや安価な人件費に加えて、同社として日本人の管理者の駐在を必須としていたため、安心して駐在員を派遣できる治安の良さと、日本人に合う食事など生活のしやすさが決め手になった。
設立から6年が経過した現在、システム開発とウェブ広告制作事業のみならず、2022年にホステル事業を開始した。また、2023年には海外で活躍できるITエンジニアを育成する教育事業を始め、現地大学・高校と連携して事業拡大を進めている。
進出した当初と比べ、IT人材に限らず、北マケドニアの人件費は上昇している。それでもなお、月額約600~750ユーロの新卒給与(グロス)で、ネイティブレベルの英語力を擁するITエンジニアを確保できる。また、生活面では、治安の良さや低物価の魅力に加えて、当地では、アジア人が少ないものの、英語でのコミュニケーションが可能なことや他者を助ける国民性のおかげで、困難を感じる場面が少ない。

日本企業受け入れの素地が充実する見込み

質疑応答のセッションでは、(1)近隣国との政治状況と、(2)言語の問題について質問が寄せられた。

(1)については、大塚大使とデスポトフスキ氏が、近隣諸国との関係は良好と説明した。市民レベルの交流もあるという。

(2)については、渡邊氏が英語でのコミュニケーションに問題ないと述べた。あわせて大塚大使は、北マケドニアは国費留学生を日本へ毎年派遣していることに触れた。これを踏まえ、当地で日本語話者が今後増える期待を示した。大使はさらに、AOTS(注)が提供する日本での研修事業に参加した北マケドニア人OB・OGを中心に、「日本商工会議所」を設立する動きがあることにも言及。日本企業が同国に進出する際の受け皿が確立し始めていると付け加えた。

最後に、ジェトロ・ウィーン事務所所長の神野達雄から、2024年3月5~8日のビジネス・ミッション派遣に先立ち、第2弾ウェビナーを1月23日に開催することを紹介した。当該ウェビナーでは、北マケドニアのスタートアップによるピッチイベントを実施する予定だ。


注:
一般財団法人海外産業人材育成協会(The Association for Overseas Technical Cooperation and Sustainable Partnerships)。
執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所
神谷 真由(かみや まゆ)
2021年、ジェトロ入構。企画部企画課を経て2023年7月から現職。