インド標準規格局(BIS)の強制認証、対象品目増加とその背景
日系企業が取るべき対応とは

2024年3月18日

従来、インド標準規格局(BIS)が定めるインド標準規格(IS、注1)認証なしで輸入可能であった品目に関し、IS認証取得を義務付ける動きがインド国内で加速している。IS認証取得を義務付ける通達の多くは、発出から適用開始日までの期間が短い一方、認証取得には半年以上の期間を要するのが実態だ。このため、裾野産業が未成熟なインドにおいて、部材供給を海外に依存する日系企業のサプライチェーンに大きな影響をもたらす看過できない課題となっている。本稿では、インド政府関係機関へのヒアリング、具体的事案での相談・交渉で得た情報に基づき、背景、今後の見通し、対応方法を考察する。

IS強制認証スキームとは

IS認証は、基本的には自主申請・認証付与のスキームであるが、「公益」「健康保全」「環境保全」「不公正貿易」「国家安全保障」の観点から、品目によりインド中央政府がIS準拠を義務付ける場合がある。この強制認証対象品目は、管轄省庁が発行する「品質管理令(Quality Control Order: QCO)」により指定され、IS準拠証明に基づくISマークの使用が義務付けられる。

強制認証対象品目ならびに今後、強制認証対象となる品目についてはBISウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで確認することができる。同サイト内の「Products Under Compulsory Certification (強制認証対象品目)、Scheme-I (スキームI)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」においてIS認証取得が義務付けられている品目、「Upcoming QCOs-Notified and Due for Implementation (今後施行予定品質管理令ならびに施行日)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」において、今後、IS認証取得が義務付けられる品目を確認できる。

2024年2月25日時点では、「スキームI」に604品目、「今後施行予定品質管理令」に186品目が掲載されている。同サイトは頻繁に更新されるので、企業としては同サイトに自社が使用している品目が含まれていないか、遺漏なき確認作業が必要である。

品質管理令(QCO)解説書

BISは、ウェブサイト上に各省庁が発行するQCOについての解説書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(696KB)を掲載している。QCOにより自社使用製品が強制認証対象品目となった場合に留意、順守すべき事項がまとめられており、内容を把握しておくことが重要である。主な留意点を以下に記す。

  • QCOは当該品目を管轄する省庁より発行(4.1項)
  • QCO施行日はQCOに明記(4.2項)
  • QCO施行後はIS認証、ISマーク表示なしでの当該品目の「製造」「輸入」「流通」「販売」「貸与(リース)」「保管」「販売を目的とした展示」は禁止(5.1項)
  • 外国産品についても、当該品目がIS強制認証対象の場合は外国製造業者認証スキーム(Foreign Manufacturers Certification Scheme: FMCS)に従いIS認証取得が必須(6.1項)
  • 違反した場合はBIS法(2016)による罰則を適用(7.1項)
  • 特定品目に関しQCOが適用されるか否か、適用除外、QCO施行期日延長、施行時点での手持ち在庫の取り扱いなどについては、当該品目のQCO発行省庁へ照会する(10.1項)
  • IS規格適用範囲に関する質問はBISへ照会する(10.2項)

QCOの発行から施行までの期間は通常6カ月以内の場合が多く、施行期日前にIS認証取得を完了するには、「BISの強制認証スキームとは」で紹介した「スキームI」、「今後施行予定品質管理令」ならびに次で紹介する各省庁のウェブサイトにおいて、現在使用している品目がQCO対象品目に入るか否かを確認することが重要である。

IS認証の実務

ステップ1:IS強制認証の対象該否を確認

IS強制認証対象の該否確認手段としては、BISウェブサイト(「IS強制認証スキームとは」参照)ならびに各省庁のウェブサイトで確認することができる。代表例として、鉄鋼省、鉱山省、商工省産業国内取引促進局(Department for Promotion of Industry and Internal Trade: DPIIT)、繊維省のサイトを紹介する(図1~5参照)。

図1:インド鉄鋼省のQCO一覧ページ
鉄鋼省のQCO一覧ページには草案へのコメントを求める通達が示されている。

出所:インド鉄鋼省ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

図2:インド鉱山省の通達一覧ページ

出所:インド鉱山省ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

図3:インド商工省産業国内取引促進局(DPIIT)の通達一覧ページ

出所:インドDPIITウェブページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

図4:インド商工省産業国内取引促進局(DPIIT)によるQCO草案への意見募集ページ

出所:インドDPIITウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

図5:インド繊維省のQCO一覧ページ

出所:インド繊維省ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

前述の省庁ウェブサイトには、草案段階のQCOが掲載される場合がある。各省庁のウェブサイト上の検索画面に「draft(草案)」と入力すると、「QCO草案に対する意見募集(Inviting comments from all the stakeholders draft Quality Control Order)」として、利害関係者からのコメントを求めている場合があり、意見を述べる機会も提供されている。コメント提供の期限はQCO草案に記載があり、掲載日から60日間となっている場合が多い。企業単独でのコメント提供のみならず、業界団体を通じて業界としてのコメントを発信することも有用と考えられる。

ステップ2:IS認証申請

ステップ1での確認で、当該品目がIS強制認証対象だった場合は、BISウェブサイトに記載された手順に従い、認証取得申請を行うことになる。ここでは、外国製造業者がIS認証を取得する手続きの注意点を以下に示す。

  • 外国製造業者がIS認証を取得する手順は「外国製造業者認証制度(Foreign Manufacturers Certification Scheme: FMCS)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」として示されている。
  • IS認証取得申請を行う外国製造業者は、指名するインド代理人(Authorized Indian Representative: AIR)を指定書式によりBISに登録する必要がある。AIRはインド居住者であることが要件であり、在インド製造企業に雇用されている場合は、外国人のインド居住者もAIRとして登録できる(FAQ Q7)。
  • 認証費用PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(118KB)(注2)は、BISウェブサイトにおいて確認できるが、渡航費用も含め認証申請企業の負担となる。
  • 認証の所要期間は、瑕疵(かし)のない申請書の受領から平均6カ月との記載(FAQ Q12外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)があるが、昨今のQCO発行件数増加によるBIS検査官不足も指摘されており、遅延も予想される。遅延が予想される場合は、書面でQCO発行官庁に状況説明、対策要請を行う事が重要である。
  • IS認証有効期間は初回で最長2年間、以降の更新は最長5年間(FAQ Q19外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

QCOに記載されている施行期日ではIS認証取得に十分な期間がなく、施行期日延長を求める企業も散見されるが、管轄省庁やBISからは以下の説明があった(2023年10月5日、2023年11月14日、2024年1月17日のヒアリング)。

  • まず、IS認証取得申請を速やかに行ってほしい。申請が受理されない限り、施行期日延長などの申請後の手続きについての打ち合わせを行うことはできない。
  • BISや各省庁のウェブサイトにおいてQCO草案、QCO発行状況を遺漏なくモニタリングを行い、遅滞なき対応を心掛けてほしい。
  • QCO発行省庁からIS強制認証対象除外品である旨の確認書(Non Objection Certificate: NOC)を取得したい場合は、当該製品の発注書単位で輸入者がQCO発行省庁に対し書面依頼をしてほしい。

下段に述べる背景を踏まえると、今後もQCO発行は継続すると考えられる。各企業は短期的には海外調達品のIS認証取得、中・長期的にはインド国産品使用に向けての取り組みが必要と思われる。

ステップ3:該当、非該当が明確ではない場合の対応

前述手順「ステップ1」において、該当、非該当の判断に迷う場合は速やかにQCO発行省庁に書面で確認を求める作業を行うことが肝要である。

商工省産業国内取引促進局(DPIIT)担当官に、DPIITが発行したQCOに関し該当、非該当に疑義がある場合の判断プロセスの流れを確認したところ、以下の説明があった(2024年2月19日ヒアリング)。

  1. 当該品目輸入者より、発注書単位で強制認証対象IS規格と輸入品目の比較表を準備、提出
  2. DPIITにおいて同書類受理、BISへ照会内容転送
  3. BISにおいて精査、該否判定実施
  4. BISよりDPIITへ結果通知
  5. DPIITより輸入者に回答

前述1~5の所要期間はおよそ4週間とのことであった。

また、IS認証のない鉄鋼製品の輸入については、同省の2023年10月26日付通達PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(270KB)により、すべての船積みにつき鉄鋼省から事前確認取得が義務付けられている。事前確認は鉄鋼省のオンラインQCOポータルPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(979KB)から行うことができる。

HSコードとのひも付け

どの品目がIS認証の対象か否かに関し、鉄鋼省は対象HSコードを明記しHSコードとのひも付けを明確化しているが、DPIITなどHSコードとのひも付けを明確していない省庁も多い。DPIIT担当官に本件に関し確認したところ、意図的にHSコードとのひも付けは行っていないとの回答があった。同担当官によれば、同局より発行されているQCO(ネジ類、アルミインゴットなど)対象品目をHSコードにひも付けると非常に多くの品目がIS強制認証の対象となってしまい、製造業者、輸入業者の負荷を増大させる懸念があるため、対象IS規格に該当する品目に限定しているとのことであった。自社製品の該否判定に不明確な点があれば、速やかにDPIITに照会するようにとの助言もあった。

なお、以前はインド税関のポータルサイトICEGATE外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの「コンプライアンス情報ポータル(Compliance Information Portal: CIP)」において、輸入を検討している品目のHSコードを検索すれば、該当品目でIS強制認証が必要となる可能性があるかどうかを確認することができた(2021年5月31日付地域・分析レポート参照)。しかし、同ポータルサイトが2024年1月ごろにリニューアルされて以降、当該情報は掲載対象から外れている。

遅漏なき情報収集や調達切り替えの検討などの対応が必要に

昨今の各省庁によるQCO発行増加は、在インド日系企業のサプライチェーンに大きな影響をもたらす看過できない課題である。インド政府に対しては、QCO発行前のヒアリング実施や、QCO施行に当たり十分な時間の確保を求めているが、本稿を参考に、企業側も社内体制整備、遺漏なき情報収集、迅速な対応を取ることが必須である。

なお、BISならびにQCO発行省庁担当官との面談において、IS強制認証対象品目が増加している背景には、粗悪品輸入撲滅という理由に加え、それをテコに国内製造業の振興をも図りたいとの言及があった。インドでは、内需の伸びに伴い中国などからの輸入が近年拡大しているが、輸入依存度を引き下げるため、国内の製造業企業に対し、輸入原材料の現地調達への切り替えを「本格的に検討してほしい」といった政府の強い意向もあると考えられる。

国内産業振興や現地調達促進の動きは今後、継続すると予想される。在インド日系企業は、短期的には海外品のIS認証取得を行うとともに、並行してインド国産品調達先の開拓の努力が欠かせないと思われる。


注1:
BISはインド標準規格局という組織を指すが、インド標準規格(IS)自体も広くBISという略称で呼ばれている。
注2:
リンク先の費用は2024年2月時点。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所 海外投資アドバイザー
波多野 知行(はたの ともゆき)
AIBA認定貿易アドバイザー。大手金属メーカーに39年間勤務し、海外市場中心に営業、企画、業務提携、M&A、事業経営に携わる。また、タイ、インド、米国に通算20年駐在し、タイ、インドにおいてはM&A、技術提携、業務提携、合弁会社設立・事業立ち上げを経験。米国においては米国事業責任者としてM&A、事業構造改革、事業経営を行った。2020年11月からジェトロ(東京)にてインドを含む南西アジア担当貿易・投資アドバイザーを務め、2022年3月から現職。