会社法改正、組織・清算規定など(中国)
現地弁護士に聞く(2)

2024年5月1日

会社法改正案が2023年12月29日、可決された。2024年7月1日から施行される。改正内容は、多岐にわたる〔「現地弁護士に聞く(1)会社法改正、経緯と出資期限新設(中国)」参照〕。そのポイントや留意点について、企業コンプライアンス管理に明るい北京金誠同達法律事務所の張国棟シニアパートナーに聞いた(取材日:2024年3月12日)。

なお、この記事で「旧会社法」という場合、2024年6月末までの会社法を意味する。また「新会社法」は、7月1日以降施行されるものだ。(1)に続く当記事では、組織体制上の変更点(経営責任の強化など)や関連法令に関する留意点、清算手続きの簡素化、会社登録の強制抹消、外資法令との関係などについて解説する。


張弁護士(同氏提供)

組織体制や董事・監事・高級管理職の責任に変更あり

質問:
今回、「株主」「監事」「董事」についても改正された。その趣旨と、それぞれの役職が担う機能に関わる変更点は。
答え:
まず、董事・監事・高級管理職の忠実義務と勤勉義務が重点的に強化された。民事賠償責任の負担に加えて、行政処罰も追加されたかたちだ。例えば(1)会社が事実どおりに関係情報を公示しない、(2)株主が虚偽の出資をする、(3)株主が会社の設立後にその出資を引き揚げる、などの場合、直接の責任を負う主管者(董事・監事・高級管理職を含む)に、1万元(約20万円、1元=約20円)以上30万元以下の過料が課される可能性がある。
新会社法第180条には、董事・監事・高級管理職の忠実・勤勉義務に関して原則と基準が明記された。ここでは、「忠実義務の核心は『職権を利用して不正な利益の獲得を企ててはならない』ことで、その本質は個人の利益と会社の利益との間における対立発生の回避」と規定している。その上で、「勤勉義務の核心は、『職務を執行するにあたって、会社の利益を最大にするために管理者が一般的に備えているべき合理的な注意を尽くさなければならない』ことにある」「その本質は、職務を履行する過程での合理的な注意義務の確保である」とされた。
なお、会社を支配する株主や実質的支配者は、会社の董事を担当しているわけではない。それでも、実質的には会社事務の執行と同様の忠実義務と勤勉義務を負っている旨の規定が追加された。
その他にも、董事・監事・高級管理職の責任を拡大する規定が設けられた。そのポイントは、主に次の6つ。
(1)
董事・監事・高級管理職の関連取引に対する情報開示義務の負担、董事・監事・高級管理職およびその近親者による直接または間接的に支配する企業、その他の関連関係者等の関連取引監督管理範囲への追加(新会社法第182条、第184条)。
(2)
董事または高級管理職の職務執行により他者に損害がもたらされた場合における会社による責任の負担、故意または重大な過失が董事または高級管理職に存在していた場合における賠償責任の負担(新会社法第191条)。
(3)
董事と高級管理職の法令を順守した独立的な職務履行義務の強化、規律に違反して支配株主または実質的支配者の指示を受けて会社または株主の利益を侵害する行為に従事した場合における連帯責任の負担、新会社法の規定に違反して会社による利益の株主への分配により損失が会社にもたらされた場合における株主と責任を負う董事・監事・高級管理職による賠償責任の負担(新会社法第192条、第211条)。
(4)
マネージャー(中国語で「経理」)の法定職権の削除、その具体的な職権の会社定款における規定または董事会による授権(新会社法第74条)。
(5)
董事・監事・高級管理職の会社資本充実義務堅持の強化、責務を全うしない董事・監事・高級管理職による連帯責任または賠償責任の負担、規律に違反して登録資本金を減少させた場合におけるこれに責任を負う董事・監事・高級管理職による賠償責任負担の義務化(新会社法第51条、第226条)。
(6)
董事の会社清算義務者化およびその責任未履行の場合における賠償責任の明確化(新会社法第232条)。
質問:
関連会社間の経営を管理する上では、何に留意すべきか。
答え:
新会社法では、経営に関連会社が関与する場合の管理についても規定が置かれた。具体的には、董事・監事・高級管理職に対して(1)忠実義務・勤勉義務を強化し、(2)その責任を拡大した。例えば、次の事項について法律規定が設けられたことには、留意が必要だ。
(1)
董事・監事・高級管理職の忠実義務と勤勉義務に関する原則と基準。関連取引および相互競業に関して監督する範囲に監事を含むこと。あわせて、「董事・監事・高級管理職の近親者」「董事・監事・高級管理職が直接的または間接的に支配する企業、およびその他の関係者」も、監督範囲に含むこと。
(2)
董事および高級管理職が、独立して法令を順守して職務を遂行する義務強化し、支配株主または事実上の支配者の指示に違背して会社または株主の利益を損なう行為に至った場合、連帯して責任を負うこと。

清算手続き簡素化も、強制抹消規定などを新設

質問:
清算(撤退)についても変更があったと聞く。具体的には。
答え:
清算に関しては、会社の存続期間中、債務が発生しておらず、またはすべての債務がすでに償還されている場合には、全株主の確約を経た上で規定に従って簡易手続を通じて会社の登記を抹消することができるようになった。ただし、簡易抹消手続において不実の確約(注)が株主に存在していた場合、登記抹消前の債務に対して連帯責任を負担しなければならない(新会社法第240条)。
また、会社が営業許可証を没収され閉鎖を命じられた場合、または営業許可証を取り消された場合において、3年以内に会社登記の抹消を会社登記機関に申請しなかった場合、会社登記機関は公告を行うことができる。さらに、会社がこれに異議を唱えなかった場合、会社登記機関は会社登記を強制的に抹消することができるようになった(新会社法第241条)。
減資に関しては、同一比率減資への要求が追加された。会社は登録資本金を減少させる際には、株主の出資比率または持株比率のとおりに出資額または株式を相応に減少させなければならないとされた。ただし、有限責任公司の全株主間で別段の約定がある場合、または股份有限公司の定款に別段の規定がある場合には例外となる(新会社法第224条)。

外商投資法などとの整合も重要

質問:
外商投資法などの法令とは、どう関連するのか。
答え:
「外商投資法」と「外商投資法実施条例」に基づいて2020年以前に設立された外商投資企業は、注意が必要だ。こうした企業は会社法に従い、2024年12月31日までに会社組織形態や組織機構などを調整する必要がある(「外商投資法」第42条、「外商投資法実施条例」第44条)。例えば、合弁の場合、最高意思決定機関として、株主会を設置しなければならないといった点である。
新会社法は、2024年7月1日に施行されることになっている。このことに鑑みると、会社組織形態などを調整していない日系企業はとくに要注意だ。新会社法の改正点をよく理解した上で、会社組織形態などの変更案を可能な限り早期に検討して推進することを推奨する。
一方、会社組織形態などをすでに調整している日系企業も、新会社法の関連改正点をよく理解すべき点では同様だ。会社の実情を踏まえて、定款やこれに関わる文書(合弁契約書、株主協議書など)を、速やかに見直すべきだろう。その上で、(必要に応じ)新会社法上の要求に沿うよう充足することを勧める。

注:
ここで言う「不実の確約」とは、会社の存続期間中に発生した債務が全額返済されていないにもかかわらず、全額返済されたと確約することをいう。

現地弁護士に聞く

  1. 会社法改正、経緯と出資期限新設(中国)
  2. 会社法改正、組織・清算規定など(中国)
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所
亀山 達也(かめやま たつや)
2021年、民間企業よりジェトロ入構。調査部中国北アジア課を経て2023年7月から現職。