日本の匠が作る商品をECでマレーシアへ

2024年3月22日

日本の生活雑貨や伝統工芸品をマレーシアでEC(電子商取引)販売している会社がある。Takumi Internationalである。日本の職人が作る製品はマレーシアでも高い信頼を得ている、と語るのは、同社マネージング・ディレクター(MD)、アミルル・ハキム(Amirul Hakim)氏だ。「匠」が作った商品を日本からマレーシア、さらにマレーシアからムスリム(イスラム教徒)市場を中心とした世界へ広げたいという情熱を持つハキム氏に、マレーシアにおける日本製品の魅力や現地消費者の特徴などについてインタビューした(取材日:2023年11月1日)。

会社概要
社名: Takumi International Sdn Bhd(ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
設立年:2018年
主要取り扱い商品:日本製の生活雑貨・服飾小物、着物・浴衣、伝統工芸品(包丁)など
販路:自社サイト、Shopeeなどのマレーシア ECサイト
顧客層:マレー系が約6割、中華系が約4割。主に若年層の女性がターゲット。

アミルル・ハキムMD (同社提供)

日本の魅力をマレーシア、そして他のムスリム市場へ広めたい

質問:
日本とのビジネスを始めたきっかけは。
答え:
3年間の東京留学中に、北海道から沖縄まで47都道府県を訪れたことがきっかけ。各地域の独自の文化を体験し、日本の魅力を世界へ広めたいという使命感を持った。特に、日本の職人が高度な技術とこだわりを持って製造した製品は、その品質と独自性から国際市場で高い評価を受け、世界中で愛されている。自身(マレーシア人)の現地マレーシア人としてのつながりを生かし、日本製品の魅力をECでマレーシアへ、さらにはマレーシア以外のムスリム市場にも販路を開拓していきたいと思っている。
質問:
マレーシア人にとって日本の製品の魅力はどこにあると考えるか。
答え:
高品質ゆえに信頼が厚い。壊れにくく、長期にわたって使用できることが大きな魅力である。また、デザイン性や機能性の高さも日本の製品の特長だ。デザインに繊細さが感じられるだけでなく、使い勝手が非常に良く、日常生活をより快適にする商品が多い。環境に優しい素材を利用し、製造工程も含めて、持続可能性を重視している点も魅力の1つ。 また、日本の製品には日本の文化や伝統が反映されている。桜や紅葉など、四季折々の様子がデザインされている商品は、四季がないマレーシアの人々にとってとても魅力的だ。

日本とマレーシアの文化の融合に商機

質問:
取り扱い商品の種類や価格は。
答え:
着物の生地を利用した服飾小物や包丁など日本の伝統的な製品が中心だ(それぞれ同社の着物ページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます包丁ページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照)。価格帯は、20リンギ(約620円、1リンギ=約31円)の小物から1,000リンギの包丁まで幅広い。日本を幾度も訪れて構築してきた伝統工芸品のメーカーとの深い信頼関係が当社の仕入れの強みだ。
着物は季節や着用する機会に合わせて異なるデザインや色使いを選び楽しむことができるだけでなく、高品質な素材と職人技術で作られていることから、その美しさと耐久性も魅力。着物の生地を小物などに再利用して、新しいファッションアイテムとして楽しむことも提案している。

着物の生地を再利用した巾着(同社提供)
また、包丁は切れ味が良い、さびにくいなどの品質と耐久性が調理の効率を上げるとして高く評価され、プロの料理人から一般の家庭まで多くの料理愛好者に利用されている。

日本の包丁はマレーシア国外でも高評価(同社提供)
質問:
成長性を感じる商品は?
答え:
着物の生地を使った商品に潜在的な可能性を感じる。着物の模様にそれぞれ意味があるように、イスラム教徒が日常で身に着けるヒジャブや、マレーシアの伝統的な衣装である「Baju Kurung(バジュ・クルン)」には多様な柄やデザインがある。この共通点を生かせば新たな商品開発につながると感じ、着物とマレーシア文化を融合した商品として「着物ヒジャブ(Kimono x Hijab)」を企画、愛媛県の企業と協力し商品化・販売を開始した。既に一部のバイヤーが興味を示しており、可能性を感じている。
異なる文化のファッション要素を融合させた商品開発は、新たな市場を開拓できる。消費者が身近に多様なファッションスタイルを楽しむ機会が増え、着物がより広く受け入れられると考えている。また、小物など着物を再利用した商品は環境への配慮という面でも魅力的だ。着物ヒジャブの価格帯は通常のヒジャブよりも高額だが、高級志向のマレーシアのムスリムのニーズをくみ取り、価値を感じてもらえるブランド作りができれば商機がある、と信じている。また、日本のアニメーションはマレーシアでも人気があり、登場するキャラクターが着物を着ている作品の流行を生かせば、着物をより身近なファッションアイテムとして位置付けることもできるだろう。

ムスリム市場を狙うならハラール認証も要検討

質問:
マレーシアの市場や消費者の特徴は。
答え:
多様性が大きな特徴。異なる民族、宗教、文化が共存する多文化国家で、様々な背景を持つ人々が共存している。これは消費者の好みやニーズが多様であることを意味する。
特に、人口の過半を占めるムスリムをターゲットとする場合、一部の食品や製品(化粧品、シャンプーなど)ではハラール対応が重要となる。ハラールとは、イスラム法において「合法、許された」を意味する。マレーシアにはハラール認証機関があり、その認証を取得することが、ムスリム市場で競争力を持つための重要な要素の1つである。ただし、認証取得にはコストもかかるため、認証にこだわらず、植物性の素材などからできたムスリムフレンドリーな商品を提供することもムスリム市場を狙う方法の1つ。ハラール市場は急速に成長し、認証を受けた食品や製品の販売が増えている(注)。
また、価格面も購買決定の重要な要素だ。価格に敏感で、コストパフォーマンスを考えて予算に合ったものを選択する消費者もいる。ターゲット層の所得水準に見合った価格での販売や割引などで購買意欲を促進することが重要だ。こうした特徴を考慮してマーケティング戦略や宣伝活動の計画を組むことが成功への鍵となる。
質問:
ムスリム市場向け販売において、貴社の取り組みは。
答え:
当社では、ムスリム市場向けにビジネスを展開する企業やブランドに対して、専門的なアドバイスを提供している。まず、マレーシア市場におけるムスリム消費者のニーズやトレンド、市場動向を分析し、適切なマーケティング戦略を提供することが可能だ。また、日本の商品をマレーシアで販売するための、ECサイト構築や商流構築のサポートも行っている。

祝祭日に合わせたプロモーションが効果的

質問:
効果的な広告・宣伝ツールは。
答え:
ECを主な販売ツールとする場合、効果的なPRと販路拡大戦略が必須。Instagram、TikTokなどのSNSやインフルエンサーを活用して魅力的なコンテンツを発信し、SNSを利用しているターゲット層にアプローチしている。さらに今後、その他のオンライン広告を駆使してSNSを利用していない層にもリーチを広げ、効果的な広告キャンペーンを展開していきたい。
自社サイトでのコンテンツマーケティングも有効だ。ウェブサイト上に商品の特徴を詳細に紹介するコラム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを掲載することで、消費者にその商品の価値をより深く理解してもらえる。商品の使用方法やメンテナンス方法なども説明し、顧客に商品を長く大切に使いこなしてもらえるようサポートしている。着物を例に挙げると、着こなしのアドバイスや異なる場面での着物の選び方について詳細に説明している。
また、商品の信頼性を高めるために、顧客レビューや評価を積極的に収集し、ウェブサイトに掲載することも重要だ。お客様によりよい購入体験を持っていただくため、カスタマーサービスやアフターサービスに力を入れていきたい。オンライン販売を成功させるためにはこれらの要素を組み合わせ、お客様から高い評価をもらうことが重要と考えている。
質問:
マレーシアでの販売促進に効果的な時期はあるか。
答え:
特定の祝祭日に合わせてセールやキャンペーンを実施することで、お客様の関心を引きつけることができる。例えば、イスラム教の断食明けを祝うハリ・ラヤ(イード)や、クリスマス、旧正月などがある。また、マレーシアにおいては中華系の影響も強く、8月8日や11月11日など、月と日の数字が重なる日に特別セールが行われる。縁起が良い日とされており、多くの消費者がセールによるお得感も相まって財布のひもが緩む傾向があるためだ。

新商品の共同開発で国際ムスリム市場を目指す

質問:
今後の展望は。
答え:
日本の伝統的な製品を、マレーシアや、マレーシア国外のムスリム市場にも販路を広げていくことを目指している。市場で成功を収めることを目指している。特に、着物をヒジャブとして商品化するアイデアは、新しい市場を開拓し、文化交流とファッショントレンドの創出に寄与できると考えている。日本のパートナーからは、着物ヒジャブのように伝統的な商品と異文化を融合したような商品のアイデアを期待されていると思う。日本の匠の技と、当社のノウハウを融合して、日本企業と一緒にムスリム市場向けの商品を企画開発し、新たな販路開拓に取り組んでいきたい。

注:
マレーシア・イスラム開発局(JAKIM)によると、2022年3月時点のJAKIMによるハラール認証の取得企業数は8,383社・19万2,085商品。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
加峯 あゆみ(かぶ あゆみ)
2018年、ジェトロ入構。海外調査部、ジェトロ大分を経て2023年10月から現職。