「ステマ」も規制へ、ウェブプロモーションにおける留意点(中国)

2024年2月19日

中国は「世界の工場」から「世界の市場」となり、日本企業も中国を販売先としてビジネスを展開している。昨今はインターネットを通じた現地消費者などへのプロモーションがますます不可欠になっており、日系企業だけでなく日本の公的機関や自治体などでも中国のSNSや KOL(Key Opinion Leader)などを活用したプロモーションを積極的に行っている。

中国におけるインターネット広告収入は拡大傾向

中国マーケティング研究機関「中関村互動営銷実験室」によると、2023年の中国におけるインターネットの広告収入は前年比12.7%増の5,732億元(約11兆4,640億円、1元=約20円)だった。2022年は新型コロナウイルス禍等の影響により前年比マイナスとなったが、2023年には再びプラスとなり、トレンドとしては依然として拡大傾向にある(図参照)。

図:中国におけるインターネット広告収入と同成長率 (2017~2023年)
広告収入は2017年(2,975億元)、2018年(3,694億元、前年比24.2%増)、2019年(4,367億元、前年比18.2%増)、2020年(4,972億元、前年比13.9%増)、2021年(5,435億元、前年比9.3%増)、2022年(5,088億元、前年比6.4%減)、2023年(5,732億元、前年比12.7)

出所:中関村互動営銷実験室発表資料からジェトロ作成

プラットフォーム別のインターネット広告収入の全体に占める割合は、電子商取引(EC)が前年比2.01ポイント低下の36.1%と最も多く、次いで動画が1.97ポイント上昇の25%(うちショート動画は18.46%)、検索が0.35ポイント低下の9.3%、ソーシャルメディアが1.34ポイント低下の8.9%、ニュースは0.75ポイント上昇の8.6%だった。

ブランドへのロイヤルティーを育む「種草」

他社との差別化を図り、ブランド力を向上させ、消費者の自社ブランドへのロイヤルティーを高め、価格競争に陥らないためにも、インターネット上での広告、宣伝活動などのプロモーションはますます重要となっている。リアルのイベントとオンラインを連動した販売促進活動を通じて、消費者に手にとって感じてもらう商品体験、ブランドや商品の持つストーリーへの消費者からの理解や共感の獲得などが求められている。

こうした中で、中国では「種草」と呼ばれるマーケティング用語が使用されるようになってきた。「種草」とは、もともとは草の栽培を意味する中国語であるが、「草」は強い生命力があることから、「どんどん高まる購買意欲」を形容するものとして、商品の長所を宣伝し、他人の購買意欲をかき立てる行為を意味するネット用語になっている(注1)。ウェブプロモーションにおいては、広告の形式はますます多様化しており、あえて消費者に宣伝であることを悟られないようにする宣伝行為、いわゆるステルスマーケティングと思われるケースも存在する。現状、中国ではステルスマーケティングの定義や概念について日本ほど明確ではなく、一般的にはSNSなどにおける「種草」行為はステルスマーケティングに相当すると言われている。

ステルスマーケティング、いわゆるステマについて、日本では2023年10月から消費者庁が「不当景品類および不当表示防止法」の禁止行為に指定するなど、規制が整備されてきている。中国でも近年、広告関連の法律の整備が進められている。前述の「種草」も違法になり得るケースがあるため、注意が必要だ。中国の広告法では「広告は、識別性を有し、消費者が広告であると明確に識別できるものでなければならない」と定められている 。そして2023年5月から施行された「インターネット広告管理弁法」では、「種草」行為が一定程度、規制されている。具体的には、同法第9条第3項では「知識の紹介、体験の共有、消費の評価などの形式を通じて商品またはサービスを販売し、購入サイトへのリンクなどの購入方法を付加する場合には、広告発行者は、目立つ位置に『広告』と明示しなければならない」と規定している。そのため、例えば、SNS上での「種草」投稿に、購入サイトへのリンクといった購入方法などを付加する場合、広告と認定され、広告関連法令の規制を受けるほか、「広告」と明示する必要がある。

整備が進む広告関連法規制

このほか、中国におけるインターネット広告関連で注意すべきことの1つとして「絶対的用語」がある。「絶対的用語」とは、広告にかかる商品やサービスの質の高さをアピールする際に用いられる「国家レベル」「最高級」「ベスト」と同様または類似する意味の用語である。しかし、その商品・サービスが「国家レベル」「最高級」「ベスト」といった品質を備えているかどうかについては、客観的な判断基準が欠けていることが多い。そのため、このような用語は誤解を招く恐れがあり、不当に他の競争相手をおとしめることになるとして、広告法では「絶対的用語」の使用を原則、禁じている。

「絶対的用語」の使用は、広告法に基づく行政上の処罰件数が最も多い。2023年3月20日には国家市場監督管理総局から「広告絶対的用語の法執行指南」が公布された。同指南では、「絶対的用語」禁止規定の適用除外となるケースを明確にし、市場監督管理部門が広告の内容だけでなく実際の状況などに応じて、「絶対的用語」に対して適切に行政裁量を行うべきとした。

中国国内で流通している商品のみに限らず、日本からの越境ECであっても、商品の機能や効果に関する説明などは商業広告と認定される場合があり、その商業広告が主に中国国内の消費者に向けられたものである場合、中国国内の関連法令の規制を受ける可能性がある。過去には、あからさまな虚偽宣伝など明らかに不適切と思われる広告表現について、関連法令への違反と認定され海外の広告主などに対して処罰が下された事例があるため、注意が必要だ。

国家市場監督管理総局は2023年8月28日から9月27日まで「インターネット広告の識別可能性に関する法執行指南」のパブリックコメントを募集した。中国では今後も引き続き広告関連の法令などの整備が進められていくものとみられる。

画像、文字フォントの著作権トラブルに注意

ウェブプロモーションを含め、中国では写真やイラストなどの図形作品の不適切な利用による著作権侵害の事例が多い。ウェブプロモーションでは、写真やイラストなどの図形を使用することで、趣向を凝らしたりデザイン性を高めたりすることが一般的であるが、著作権者の許諾を得ていないため、著作権侵害につながるケースが多々ある。著作権侵害を避けるために、いわゆるフリー素材サイトで画像や音楽などの無料の素材をダウンロードしている人は少なくない。ところが、中国のフリー素材サイトの中には、著作権者の許諾を得ていない素材を配布しているケースもあり、このような事情を知らないままフリー素材サイトからダウンロードした画像などを利用し、その後、真の権利者から権利侵害を主張されたという事例も存在する。

また中国では、実務上、独創的で美的感覚のあるフォントは、美術作品として著作権の保護を受ける。こうしたフォントは、有償使用のものが多く、著作権者の許諾なく無断で利用することはできない。それにもかかわらず、さまざまな広告や商品のパッケージでフォントを無断使用してしまい、フォント権利者から警告を受ける事例も発生している。

企業は、広告を公表する前に広告文案の内容を審査して、広告法、著作権法などの関連法規および公序良俗などに違反するような内容がないか確認することをお勧めする。また、広告代理店などに委託する場合は、契約において、広告が適法であり公序良俗に反していないことなどを保証してもらい、保証義務に違反した時の対処法と違約責任を明確にすることが望ましい。

中国での商標登録を忘れずに

日本企業は、中国市場への参入前に自社自身による中国での商標登録を忘れないよう注意が必要だ。商標登録を行わずに中国市場に参入すると、商標権侵害の加害者となるリスクを抱えることになる。また、自社ではなく現地代理店を商標登録出願人とした場合には、代理店の変更が困難になる恐れがある。

ジェトロではレポート「中国ウェブプロモーションにおけるリスクマネジメント」をウェブサイトで公開している。本レポートでは、広告法(絶対的用語、虚偽広告、問題地図、識別性など)における規制、知的財産権に関する留意点、ウェブプロモーションの市場概況、ウェブプロモーションの主要な方法、主要SNS、マルチチャンネルネットワーク(MCN、注2)、広告代理店、KOLの選定および起用やプロモーション動画作成時の注意点などについて紹介している。また、2021年に改正された「広告法」、2021年5月に施行された「インターネットライブマーケティング管理弁法(試行)」、2023年5月に施行された「インターネット広告管理弁法」、2023年2月に施行された「広告絶対的用語の法執行指南」の日本語仮訳も掲載しているので、ぜひ参考にしていただきたい。


注1:
人民中国「新語ネット語」。
注2:
中国のさまざまなプラットフォームで活躍する KOL などのクリエイターをサポートする企業や組織。
執筆者紹介
ジェトロ・青島事務所
赤澤 陽平(あかざわ ようへい)
2008年、ジェトロ入構。生活文化産業企画課、ジェトロ盛岡、ジェトロ・北京事務所、知的財産課などを経て2022年10月から現職。