タイ店舗での人材育成と商品開発
人気ラーメン店「TONCHIN」に聞く(2)

2024年1月16日

タイの日本食レストランの数は増加を続け、5,000店舗を突破した(ジェトロ調べ)。引き続き、タイへの進出に関心を寄せる日本の飲食業者は多い。タイの消費者から大きな支持を得ているラーメン店の1つが「TONCHIN」だ。前編では、タイ進出の経緯や、現地市場で成功を収めている秘訣(ひけつ)をフーデックスホールディングスの重光勇治常務取締役、築井豊タイランドFC担当マネージャーに聞いた(「人気ラーメン店「TONCHIN」に聞く(1)コロナ禍後の飲食業のタイ進出事情」参照)。後編では、タイにおける人材育成や商品開発、またフーデックスホールディングスとしての今後の事業展開を紹介する(取材日:2023年11月30日)。


左から、築井マネージャー、重光常務(TONCHINサイアムパラゴン店でジェトロ撮影)

スタッフの採用と育成

質問:
採用について苦労した点は。上海、台湾の店舗との違いは。
答え:
人の教育にかかる部分は、日本も、台湾も、タイも、あまり変わらないと感じている。はじめに当社の理念を伝える。当社では商品を大事にしており、作業ではなく、美味(おい)しい商品を100%お客さんに伝えたいという思いがある。そのため、美味しい商品を作ることに関しては、必要に応じてスタッフに注意もするが、それは日本も海外も変わらない。海外店舗のスタッフも育っており、各地で欠かせない存在になっている。例えば、ニューヨークの店舗では、調理経験がない人材が洗い場からスタートし、現在ではキッチン・リーダーにまで昇格している。そういった経験から、人材育成方法は、単なる作業を教えるのではなく、海外店舗であっても、理念から根気強く伝えることが重要だと考えている。
質問:
ジョブホッピング(転職・離職)は激しいか。
答え:
「屯ちん」ラーメンの理念をよく理解しているスタッフは残る傾向にある。屯ちんでキャリアを作ってくれることをうれしく思っている。他方、期待していたスタッフが辞めてしまうことも日常茶飯事だ。1号店ではFacebookで採用募集を行った。未経験者が多く、3週間かけて人材育成に取り組んだが、当初採用したスタッフの大部分は1年以内に退職してしまった。理由を聞くと、1号店がオープンした途端に人気になったため、非常に忙しい時期が続いたことが原因だった。従業員からは「同じ給与なら忙しくない店の方がよい」といった声もあった。また、仕事についていけない従業員も出てきた。そうした中で、意外だったのがミャンマー人スタッフの存在だ。ミャンマーでの政情が悪くなり、働き口を求めてミャンマー人が入社した。ミャンマー人スタッフは非常に一生懸命働き、決められた仕事を真面目にきっちりとこなす。その従業員には親戚がおり、新たなスタッフを紹介してくれた。そうした経緯もあり、ミャンマー人スタッフが多い職場となっている。
質問:
ミャンマー人スタッフの育成方法は。
答え:
タイ人スタッフと変わらず、まずは可能な限り十分に手本を見せてから、実際に作業してもらう。繰り返し手本を見せながら、正しいやり方を伝える努力が必要だ。タイの店舗でも、4年間でリーダー的存在となるミャンマー人スタッフが育ってきている。そのスタッフがタイ語の指示を通訳して他のミャンマー人スタッフに伝えるといった方式が採られている。当社で働く多くのミャンマー人スタッフは、タイで働きたいという強い思いを持っていて、タイ語などの学習意欲も高い。体制や階層についてはパートナーに任せているが、将来的にはミャンマー人もリーダーに昇格できるとよい。そのような意見はパートナーに伝えている。

サイアムパラゴン店の様子(ジェトロ撮影)

タイ市場に合わせた商品開発

質問:
食材の調達はどうしているのか。
答え:
タイに出店した当初は、ほとんどの食材を日本から輸入していた。日本の食材は現地の食材に比べて高価なため、現地でも美味しい食材が入手できると分かったものについては現地調達に切り替えてきた。他方、品質にはこだわりがあるので、価格が高くても日本産を使っている食材もある。また、日本とタイの気候(温度や湿度)や水(軟水と硬水)の違いを踏まえて、材料の調整もしなければならない。そうした要素を仕入れ先と話しながら決定している。タイは食品の輸入規制が厳しい面もある。欲しい食材が、なかなか現地で手に入らないのは課題の1つだ。
質問:
タイ店舗でのメニュー開発はどのようにしているか。
答え:
ラーメンの味はニューヨークの店舗をモデルにして、日本の店舗の良いところ、台湾の店舗の良いところなどを混合して取り入れた。タイの店舗はグループ内でも後発になるので、なるべく先に展開している店舗の良い部分を取り入れた。ニューヨーク、台湾のメンバーに相談しつつ、現地の人に支持されるメニュー・味の開発を行った。タイでは常に新メニューをリリースしないと飽きられてしまうため、パートナーと相談して新メニューを開発し続けている。そうした工夫に加えて、辛めのラー油やニンニクなど、タイ人から好まれる調味料を用意し、好きなだけ足せるようにしている。
質問:
「屯ちん」ラーメンのタイでの主な顧客層は。
答え:
20代後半~30代前半から人気を得ている。マーケティングはパートナーに任せているが、弊社のSNSも約1万人のフォロワーがついている。タイでは、日本よりもFacebookの利用率が高い。また、10代後半~20代前半の次世代の顧客の発掘が必要で、TikTokでの対応などが必要だと考えている。
質問:
最近、タイの飲食業界では、どのようなトレンドがあるか。
答え:
タイの富裕層の食道楽の間で現在、はやっているのはレンタルキッチンだ。小規模なビルを借りて、各階に各国から有名シェフを招き、2週間など期間限定でイベントを行うのが流行していると聞く。知り合いだけを呼び、仲間内で楽しんでいるそうだ。富裕層向けの商売を考えるにあたり、レンタルキッチンという切り口は面白いかもしれない。色々な角度で攻めることができると思う。

今後のタイでの事業展開について

質問:
現在のFC契約と、今後のタイでの事業展開について。
答え:
築井マネージャーは、ラーメン以外のブランドのFC展開を検討する役割もあり、タイに常駐している。日本のフーデックスホールディングスとしては、居酒屋の「かぶら屋」をはじめ、寿司(すし)、コーヒー店などを展開している。グループの店舗は国内外で約120店舗ある。タイはフランチャイズ市場として有望であるため、マルチ・ブランドを展開したいという思いもある。ラーメンで「屯ちん」ブランドの市場浸透を図りつつ、新規ブランドの展開も検討したい。そのために、市場調査も行う。日本でもラーメンで創業し、その後、居酒屋「かぶら屋」を急速に展開してきた経緯もある。タイにおいても、グループ全体で展開していきたい。
質問:
東南アジアの他国への展開は。
答え:
タイを起点として、シンガポール、ベトナムなどにも展開していきたいと思っている。いいパートナーが見つかれば、取り組みたい。各国でフランチャイズに関する展示会などがあれば出展したいと考えている。逆に、当社と連携したいという提案も歓迎している。台湾では、日本の人気の寿司チェーンをFCで運営したり、ニューヨークでは、ラーメン以外のサイドメニューとして日本酒を販売したりするなど、コラボレーションをよく行っている。

人気ラーメン店「TONCHIN」に聞く

  1. コロナ禍後の飲食業のタイ進出事情
  2. タイ店舗での人材育成と商品開発
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、ジェトロ・カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
松浦 英佑(まつうら えいすけ)
2023年6月から現職。スタートアップ担当。