Z世代が消費の鍵、新興の中国勢にも注目
注目の米EC市場動向(1)

2024年3月13日

米国のeコマース(EC:電子商取引)市場は、新型コロナ禍の2020年から急激に成長し、今後も前年比10%前後の成長が見込まれている。2024年2月現在、同市場における主要プレーヤーは米国のアマゾン(Amazon)とウォルマート(Walmart)だが、2社を追いかけるプレーヤー間では熾烈(しれつ)な競争が起きている。中でも、米国で消費の中心になりつつあるZ世代(注1)に支持されている、中国発ECのティームー(Temu)やシーイン(SHEIN)が注目される。

本連載の第1部となる本稿では、現在の米国におけるEC市場の状況、および新興EC勢力とそれらによる環境の変化について概説する。

米国のEC市場:Z世代とモバイルコマースが成長の源泉

米国の市場調査会社eマーケター(eMarketer)が2023年8月に発表した統計によると、米国小売業界におけるEC売上高は2023年に1兆1,370億ドルに到達し、5,980億ドルだった2019年比で約1.9倍に成長すると見込まれている(図1参照)。小売売上高全体に占めるEC売上高の割合も11.1%(2019年)から15.6%(2023年)まで増加し、2027年には20%を超えると予測されている。

図1:米国のEC売上高とその増加率の推移
2019年の米国のEC売上高は、5980億ドル、2020年8170億ドル、2021年9590億ドル、2022年1兆400億ドル、2023年1兆1370億ドル、2024年1兆2560億ドル、2025年1兆3920億ドル、2026年1兆5450億ドル、2027年1兆7200億ドルとなると推計。2020年はコロナ禍により2019年比で市場が36.7%増加した、2021年は前年比で17.3%の増加、2022年8.5%増、2023年9.3%増、2024年10.5%増、2025年10.8%、2026年11.0%、2027年11.3%増と、市場が拡大していく見通し。また、EC売上高に占めるスマートフォン経由のEC売上高が2019年2207億ドル、2019 2020年3,220 億ドル、2021年3,777億ドル、 2022年4316億ドル、 2023年4911億ドル、 2024年5641億ドル、 2025年6480億ドル、 2026年7447送$、 2027 年8,564 億ドルとなる見通し。小売全体の売上高に占める割合は、2019年11.1%、2020年 14.7%、2021年 14.7%、2022年 14.7%、2023年 15.6%、2024年 16.6%、2025年 17.8%、2026年 19.1%、2027年 20.6%となると推計

注:棒グラフ上部の数字は、EC市場全体の売上高。
出所:eマーケター

eマーケターは、スマートフォンやタブレット端末などからアプリや専用サイトで行われるECを指す「モバイルコマース(MC)」がその成長に寄与している、と分析する。同社が2023年9月に発表した別の調査によると、2019年時点ではMC売上高がEC売上高に占める割合が37%だったのに対し、2023年には43%まで増加し、2027年には約半分を占めるようになると予測されている(図2参照)。

図2:EC売上高に占めるMC売上高の割合の推移
2019年36.9%、2020年39.4%、2021年39.4%、2022年41.5%、2023年43.2%、2024年44.9%、2025年46.5%、2026年48.2%、2027年49.8%になると推計。

出所:eマーケター

eマーケターは、米国のMCを牽引する要素として、Z世代による消費に注目する。2022年時点の米国の世代(5歳階層)別人口を示したものが図3だ。10代前半から20代後半にかけてのZ世代は近年、労働市場に参入しており、その消費額も増加している。また、同世代の多くは初めて持った携帯電話がスマートフォンである「モバイルネイティブ世代」でもある。スマートフォンの活用に慣れ親しんでいる同世代による消費額が増加していることが、米国のMC市場拡大に大きく貢献している、と分析されている。

図3:米国の世代(5歳階層)別人口(2022年時点の予測値)
85歳以上 18,358千人、80-84歳19,770千人、75-79歳 21,220千人、70-74歳21,786千人、65-69歳22,446千人、60-64歳22,008千人、55-59歳23,226千人、50-54歳22,336千人、45-49歳21,712千人、40-44歳19,641千人、35-39歳20,836千人、 30-34歳20,554千人、25-29歳21,574千人、20-24歳18,559千人、15-19歳15,339千人、10-14歳 11,005千人、5-9歳 6,759千人、0-4歳 6,160千人となっている。

出所:米国センサス局

マーケットリーダーのアマゾンはセラーの囲い込みを強化

アマゾンは、英国や欧州、日本、オーストラリアなどにEC事業を展開しているが、世界一のEC市場である中国については、2019年に同事業から撤退している。しかし、アマゾンは、同社が提供する越境ECサービス「アマゾン・グローバル・セリング(AGS)」の紹介を、中国の出品者(セラー)向けに行っている。2023年12月には、深センで開催されたAGSセラーカンファレンスで、同市近くに「イノベーションセンター」を開設することが発表された。AGSによるイノベーションセンター開設は初めての試みで、アジア太平洋地域のセラー向けに商品プロモーションやブランド構築、デジタル化などを促進する。また、同社が2023年9月に発表した、ECサイト出品者向けのサプライチェーン管理サービス「サプライチェーン・バイ・アマゾン」(2023年9月19日付ビジネス短信参照)を中国のセラーに提供することも、併せて発表された。このほかアマゾンは同月、20ドル以下の衣料品に対する出品者向け手数料を2024年1月から引き下げることを発表した。20ドル以下の安価な衣料品は中国系ECのティームーやシーインのボリュームゾーンであることから、それらを意識した対策の一環とみられている(CNBC、2023年12月14日)。

中国発ECのシーインとティームーの躍進と批判

シーインは、中国出身の最高経営責任者(CEO)クリス・シュー氏らが2008年に設立した、ファストファッションを主に取り扱うEC。現在はシンガポールに本社を移しており、女性向けのアパレルを中心に全世界150以上の国・地域向けに販売している。シーインの2022年の全世界売上高は約227億ドル、同年の米国アパレル分野でのEC売上高はおよそ57億ドルと推計されている(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版・2023年11月27日)。また同社は、2023年11月に米国での新規株式公開(IPO)申請を行い、2024年に上場する予定だ、と複数メディアより報じられている(2023年11月30日付ビジネス短信参照)。他方、2024年1月には、ユニクロが同社に対し、模倣商品を販売しているとする訴訟を起こしており、その動向も注目されている。

ティームーは、中国EC大手の拼多多(ピンドゥオドゥオ)を運営するPDDホールディングス傘下のEC事業者だ。2022年9月に米国でのビジネスを開始し、アパレルや雑貨、家電、家具、化粧品などを安価で販売している。2023年のスーパーボウル(注2)でテレビCMを行うなど広告に力を入れており、インターネットで家電や生活用品を検索するとティームーの商品が広告として提示されることが非常に多い。スタティスタ(Statista)によると、米国における2023年のアプリダウンロード数は、ティームーが1位、シーインが2位と続き、とくにティームーが2位以下に大きな差をつけている(図4参照)。

図4:米国における2023年のECアプリのダウンロード数
アプリダウンロード数ランキングは、ティーム―1億2250万、シーイン3651万、アマゾン2381万、ウォルマート2272万、ナイキ1144万、エッツィ―1111万、ターゲット1092万、イーベイ953万の順になっている。

出所:スタティスタ

ティームーは、2023年だけで米国内のマーケティングに約30億ドル、そのうち約12億ドルはフェイスブックやインスタグラムを運営するメタに投下した、とフィナンシャルタイムズ(2024年1月31日記事)は報じている。また、2023年第4四半期には、メタにとってティームーとシーインはそれぞれ2番目と4番目に大きな広告主となった、との報道もある(ビジネスインサイダー、2024年1月10日記事)。

なお、連邦議会下院の中国特別委員会は2023年5月、中国の新疆ウイグル自治区が関与する製品の米国への輸入を原則禁止する、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)への順守の取り組みを問う書簡を、シーインやティームー、ナイキ、アディダスに送付している(中国特別委員会ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同委員会は回答を得たものの、調査は現在も継続中だ。さらに、同年6月には、シーインとティームーを通じて、強制労働により生産された製品が米国に流入し続けている可能性に懸念を示す報告書を発表した(中国特別委員会ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2023年6月26日付ビジネス短信参照)。また、モンタナ州では、ティームーのアプリがティックトック(TikTok)やウィーチャット(WeChat)などと同様に使用が禁止されるなど、州レベルで規制を進めるケースもみられる。さらに、ティームーはシーインに対して、事業展開を不当に妨げているとして米国内でも提訴するなど、両者の間の紛争も注目される。

新興勢力に押される米系ECは事業を再構築

これら新興勢力に対して、米系の既存ECは苦戦を強いられている。ハンドメイド商品の消費者向けECの草分けである米国のエッツィー(Etsy)は、新型コロナ禍において大きく成長したECの1つであった。しかし、同社は2023年12月、従業員の11%にあたる225人の解雇と事業の再構築を発表した。同社のジョシュ・シルバーマンCEOは、2023年第3四半期の決算説明会において、「ティームーとシーインが市場に影響を与えていることは間違いない」「彼らはマーケティングに多額の資金を費やしており、グーグルやメタなどの有料広告のコストに影響を与えている」と述べた。さらにエッツィーが、ティームーの対極にあるとして、「販売している品質の高い商品を手頃な価格で、確実にお届けすることに今後もフォーカスする」と、エッツィーの特徴を改めて強調した。

また、米国EC市場で存在感を発揮しているeBay(イーベイ)も2024年1月、事業の成長を人員と経費の規模が上回っていることを理由に、約1,000人のレイオフを実施するとの発表があった。イーベイはマーケットシェア4位、エッツィーは14位と上位に位置しているものの、新興勢力の台頭に苦戦をしていることがわかる(表参照)。

表:米国のEC市場占有率
順位 企業名 占有率
1 アマゾン 37.6%
2 ウォルマート 6.8%
3 アップル 3.5%
4 イーベイ 3.1%
5 ホームデポ 1.9%
14 エッツィー 0.6%

出所:eマーケター

これら大手ECに対抗する動きのほか、そもそもどのECを活用してもおおよそ同じようなものしか売られていない点に対し、飽きている消費者もいる。筆者も米国でECを頻繁に利用するが、必要な商品に関連したキーワード検索をしても、似たような商品がいくつも出てきて、その違いをわざわざ確認するのが大変だ。また、他店に売っていないものをそろえて売りたいという、米国の個人経営の小売店やセレクトショップのバイヤーからは「アマゾンにないものを売りたい」との声が聞かれる。

こうした意識を持つ、米国の地域に根差したセレクトショップの経営者やバイヤーなどが仕入れに利用しているのが、サンフランシスコ発のECのスタートアップ「フェア(Faire)」だ。フェアは2017年創業で、B to B向けの卸売りに特化したECサイトだ。現在、日本からの出品は受け付けていないが、2021年に欧州でのサービスを開始したことから、今後、アジアへのサービス展開が行われる可能性もある。ニッチな商品を得意とする日本企業にとっては、使い勝手の良いサービスであることは間違いないだろう。

また、米国センサス局の統計によると、サンフランシスコ・ベイエリアにおけるアジア系米国人の割合は28%で、米国全体(6%)と比べて高いことから、特に同地域において、アジアの食品に特化したECが浸透している。2015年創業のサンフランシスコ・ベイエリア発のスタートアップ「ウィー(Weee!)」は、アジアの食品を専門的に扱うECで、常温・冷蔵・冷凍にかかわらず、注文から最短2日後に自宅まで配達してくれる。ウェブサイトのトラフィックを集計するシミラーウェブ(Similarweb)での集計によると、同社は月間300万以上の訪問者数、100万以上のユニークビジター数があるなど、多くの顧客を獲得している。

このように、より消費者のニーズにダイレクトにマッチする商品を扱うECがサービスを提供し、市場を獲得している。第2部では、先に紹介したウィーのCEOであるラリー・リュウ氏へのインタビューから、米国における日本の商品の受け取られ方、日本企業がどのように米国EC市場を開拓すると良いかといった視点を概説したい。


注1:
一般的に、1990年代中盤から2010年代前半にかけて生まれた世代。
注2:
米国のアメリカンフットボールリーグであるNFLの優勝決定戦。その視聴者数の多さから、試合中のCM広告枠価格は高額であることが知られ、フォーブス(2023年2月8日)によると、2023年の試合中における30秒のCM広告枠価格は700万ドルと試算されている。

注目の米EC市場動向

  1. Z世代が消費の鍵、新興の中国勢にも注目
  2. 日本食品の可能性を「Weee!」CEOに聞く
執筆者紹介
ジェトロ・サンフランシスコ事務所 ディレクター
芦崎 暢(あしざき とおる)
民間企業にて海外事業立ち上げなどを担当後、2018年ジェトロ入構。ECビジネス課、デジタルマーケティング部、ジェトロ名古屋を経て、2023年8月から現職。