経済省通商交渉担当次官が辞任、政権に大きな損失との声も

(メキシコ)

メキシコ発

2022年10月17日

メキシコのラケル・ブエンロストロ経済相は10月14日、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)政権発足時から通商交渉担当次官を務めてきたルス・マリア・デ・ラ・モラ次官が辞任し、後任に労働社会保障省(STPS)の労働政策・渉外ユニット長を務めてきたアレハンドロ・エンシナス・ナヘラ氏を任命したことを明らかにした(経済省プレスリリース10月14日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同プレスリリースによると、次官交代の理由は、メキシコのエネルギー政策を巡って米国とカナダが要請した米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の紛争解決の枠組みに基づく協議(2022年8月9日記事参照)におけるメキシコ政府の回答の調整のために不可欠な政府内の対話を強化するためとしている。タティアナ・クルティエール経済相の辞任(2022年10月11日記事参照)理由は明らかになっていないが、USMCAの協議を巡って政府内で意見の不一致があったようだ。デ・ラ・モラ次官の辞任はブエンロストロ経済相の要請に基づくものとされている(10月13日主要各紙)。

デ・ラ・モラ次官はメキシコ大学院大学で国際関係を学び、米国イエール大学で政治学博士号を取得。経済省や外務省で常に通商交渉の最前線にいた通商政策のエキスパートで、USMCAの前身の北米自由貿易協定(NAFTA)の交渉にも参加、主に自動車産業の交渉を担っていた。対日関係では、日本メキシコ経済連携協定(EPA)ビジネス環境整備委員会のメキシコ側議長を務め、進出日系企業のビジネス環境改善に向けた要請に真摯(しんし)に耳を傾け、経済省以外の所管事項についても他省庁との調整役を担い、日系企業のビジネス環境上の課題解決に向けて大きく貢献してきた。メキシコ日本商工会議所をはじめとする諸外国の商工会議所やメキシコの国内経済団体はデ・ラ・モラ氏との良好な関係を築いており、同氏に対する信頼感は現政権の閣僚や次官の中では際立っていた。

USMCAに基づく紛争解決プロセスが継続している中で、企業の声に常に耳を傾け、51カ国と自由貿易協定(FTA)を締結するメキシコの通商政策を長年率いてきたデ・ラ・モラ次官の退任は「経済省だけでなく連邦政府全体にとっての大きな損失だ」(ラリー・ルビン・アメリカン・ソサエティー会長)など、経済界や識者の間でメキシコの通商政策の今後に対する大きな不安を巻き起こしている(10月14日付主要各紙)。

後任は労働省の若手次官補

デ・ラ・モラ次官の後任に任命されたエンシナス氏は、メキシコ国立自治大学で公共行政学を学び、バルセロナ大学で政治学修士号、メトロポリタン自治大学で社会人類学博士号を取得している。AMLO政権発足後はSTPSで労働政策・渉外ユニット長(次官補)を務め、USMCAが定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRLM/RRM)」に基づいて米国から提訴がなされた際には、経済省とともにSTPSの窓口として国内での事実確認や米国政府との対話を行ってきた。現時点で38歳と若く、通商交渉の経験はない。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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