国民投票でOECD枠組みによる最低法人税率導入を可決

(スイス)

ジュネーブ発

2023年06月27日

スイスで9カ月ぶりとなる国民投票が6月18日に実施外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますされた。「多国籍企業に対する世界共通の最低法人税率の導入」「気候保護法」(注1)、「新型コロナウイルス対策法の2022年12月改正」に関する3つのレファレンダム(注2)の投票が行われた。それぞれ、78.45%で可決(投票率42.37%)、59.07%で可決(42.54%)、61.94%で可決(42.49%)された〔連邦参事会(内閣)サイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕。

可決された1つ目の「多国籍企業に対する世界共通の最低法人税率の導入」は、年間売上高が7億5,000万スイス・フラン(約1,200億円、CHF、1CHF=約160円)を超える大規模な多国籍企業に対し、15%の世界共通の最低法人税率を課すもの。これは、OECD/G20による「税源浸食と利益移転(BEPS)に関する包摂的枠組み」に基づく内容で、スイスを含む約140カ国・地域が2021年10月に合意していた(2021年10月14日記事参照)。スイスへ適用するに当たっては憲法改正が必要となることから、国民投票の対象となった。否決された場合には、スイスで課される15%未満の税率と世界共通の最低法人税率(15%)の差分は国外で課税されるため、連邦参事会(内閣)や議会、各州は国民に賛成するよう呼びかけていた。差分は連邦が「補完税」として徴収し、75%が現在の税率が15%未満の州に、25%は連邦政府に配分され、この配分が主な争点となっていたが、全ての州で賛成が過半数に達した。連邦税務局の試算では、これによって影響を受けるスイス企業は数百社、外資系企業は数千社で、初年度の追加税収は10億~25億スイス・フランとされる。

可決された2つ目の「気候保護法」は、2050年までに気候中立(温室効果ガス排出ゼロ)を達成することを目的に、エネルギー消費削減の施策を盛り込んだもの。氷河イニシアチブ(国民発議、注3)への間接的対案で、2022年9月に連邦議会で可決された。化石燃料の使用禁止を掲げていたイニシアチブに対し、気候保護法では禁止までは掲げていない。また、追加の課税も定めておらず、連邦政府の一般予算から10年間で最大32億スイス・フランがガス・石油を使用した暖房システムや電気ヒーターから環境負荷の小さい製品への買い替えや、企業の技術開発支援に充てられる。

可決された3つ目の「新型コロナウイルス対策法の2022年12月改正」は、2022年12月に連邦議会で可決され「緊急」の連邦法として、2023年1月から適用された改正法で、2024年6月末まで同法の適用期限を延長するもの(2022年12月23日記事参照)。新型コロナ対策法に関する国民投票が実施されるのは2021年6月(2021年6月17日記事参照)、2021年11月(2021年12月6日記事参照)に続き、今回が3回目。いずれも可決されている。

(注1)気候保護目標・イノベーション・エネルギー安全保障の強化に関する連邦法

(注2)議会が可決した法律の是非について国民が投票するもの。

(注3)有権者10万人以上の署名を要件として、国民が憲法改正の提案を行うもの。

(深谷薫)

(スイス)

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