鉄鋼大手テルニウム、新製鋼所の建設地をメキシコ・ヌエボレオン州に決定

(メキシコ、米国、カナダ、イタリア、アルゼンチン)

メキシコ発

2023年06月29日

イタリア・アルゼンチンの鉄鋼大手テルニウムは6月20日、電気アーク炉(EAF)の製鋼所の建設地をメキシコ・ヌエボレオン州ペスケリア市に決定したと発表した。同社は2月に北米域内に22億ドルを投じ、EAFの製鉄所を建設する計画を発表していた(2023年2月20日記事参照)。今回の発表では、入念な建設候補地の検討を行って決定したと強調している(同社プレスリリース6月20日PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます))。製鋼所の建設開始は2023年12月、操業開始は2026年上半期を予定している。

最新世代の新製鋼所は、同じ敷地内で2021年半ばから操業を開始した熱間圧延鋼板工場(熱延ミル)と拡張中の川下工程(冷延ミル、溶融亜鉛メッキ工場)に、原料となるスラブを供給する。最新の環境対策を施し、二酸化炭素(CO2)回収を行うほか、併設する直接還元鉄(DRI)生産ユニットに将来的には天然ガスの代替として水素を活用する計画だ。生産プロセスに必要な水は全て再生水を活用する。当地報道によると、電気炉とDRIユニットに22億ドルを投じるほか、新冷延ミルに3億ドル、溶融亜鉛メッキ工程の拡張に4億ドル、酸洗工程の拡張に2億ドル、その他の最終加工工程に1億ドルを投じ、追加投資合計は32億ドルに達する。同投資額を加えると、テルニウムの過去10年間のペスケリア市への投資は68億ドルに達する(「レフォルマ」紙6月21日付)。

テルニウムのマクシモ・ベドヤ最高経営責任者(CEO)は「ニアショアリングがもたらした製造能力の成長機会にメキシコのサプライチェーンは急速に対応している」と語った。また、「熟練労働力と恵まれたビジネス環境がわれわれの野心的な目標達成を可能にすることを信じる」とメキシコを選んだ理由について言及した(同社プレスリリース6月20日付)。

USMCAの鉄・アルミ要件に対応した投資

米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の完成車の原産地規則(2019年5月8日付地域・分析レポート参照)の一要件の鉄・アルミ要件は2027年7月以降、鋼材の原産性の判断を厳格化する(注、2019年12月11日記事参照)。自動車産業向けのスラブやビレットの北米域内の供給能力は現時点で不足しているため、域内における高炉やEAFなどの増設が必要だ。

メキシコの通関統計によると、2022年に468.6万トンのスラブ・ビレットが輸入されているが、そのうちの81.0%(379.6万トン)がブラジルからの輸入。業界関係者によると、テルニウムも現時点では主にブラジル製スラブを用いて鋼板を製造しているが、2027年7月以降は域内のスラブやビレットを炭素鋼の製造でも使用する必要がある。今回のメキシコでのEAF増設は、USMCAの原産鋼板を安定供給する観点では重要な意味を持つ。

(注)現時点では、USMCAの品目別原産地規則(PSR、Annex 4-B)に基づき、鋼材が北米原産となるためには、炭素鋼については最初の圧延工程(熱間圧延工程)から、特殊鋼についてはスラブやビレットなど中間材料の鋳造工程から、域内で行われる必要がある。2027年7月以降は、鉄・アルミ要件の観点では、炭素鋼と特殊鋼の違いにかかわらず、域内で最初の鋳造工程から行われる必要があるため、スラブやビレットが域外産だと、USMCA原産にならない。ただし、厳格化されるのは、あくまで完成車の北米産を判断する要件の1つの「鉄・アルミ要件」の観点で、PSR自体は変更されない。つまり、自動車部品メーカーが鋼材を調達する際などは、完成車の鉄・アルミ要件とは関係がないため、その原産性を判断する基準としては、2027年7月以降も炭素鋼が最初の圧延工程から、特殊鋼が最初の鋳造工程から、域内で行われることが北米原産の要件となる。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国、カナダ、イタリア、アルゼンチン)

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