欧州委、経済安保上のリスク評価に向け重要技術を選定、中国への言及は避ける

(EU)

ブリュッセル発

2023年10月06日

欧州委員会は10月3日、経済安全保障の観点から、EU域外国への重要技術の漏えいなどに対するリスク評価の加盟国との共同実施に関する勧告を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。6月に発表したEU初となる経済安全保障戦略(2023年6月23日記事参照)に基づく政策の第1弾だ。欧州委は、重要技術が地政学的な競争の中心にあることから、重要技術に関するEU共通の立場が必要として、リスク評価の重要性を強調。経済安全保障戦略の策定を経て、加盟国との共同実施とすることで、EUが実質的な権限を持たない安全保障分野のリスク評価の実施に踏み切ったかたちだ。

欧州委はリスク評価を実施すべき重要技術分野を、次のとおりに選定。技術選定は、抜本的な変革を推進する可能性、民生・軍事融合のリスク、人権侵害に利用されるリスクの3基準に基づいて実施した。

(1)最も厳重な対応を要し、差し迫ったリスクを有する可能性が高い技術:

  • 先端半導体技術
  • 人工知能(AI)技術
  • 量子技術
  • バイオ技術

(2)その他の重要技術:

  • 先端接続性、ナビゲーション、デジタル技術
  • 先端センサー技術
  • 宇宙、推進技術
  • エネルギー技術
  • ロボット工学、自律システム
  • 先端材料、製造、リサイクル技術

(1)に関しては、欧州委は2023年末までにリスク評価を完了させる予定だとしている。リスク低減策については、現時点では具体的には決定しておらず、リスク評価後に加盟国と協議すると述べるにとどめた。経済安全保障戦略で示した民生・軍事目的で使用可能な二重用途物品の輸出規制の強化、EU企業の域外投資規制、対内直接投資審査規則(2020年10月13日記事参照)などが念頭にあるとみられる。また、2024年春にはリスクの初期評価を踏まえて、さらなるイニシアチブを提案する可能性があるとしている。

欧州委のティエリー・ブルトン委員(域内市場・産業・デジタル単一市場担当)は、今後検討されるリスク低減策について、EUの安全保障上の利益を保護するためのものであり、保護主義的なものにはならないと強調。EUは引き続き、開かれた市場であるとする従来の立場を示した。

一般教書演説から一転、中国への言及を避ける

欧州委は、今回のリスク評価を実施するにあたり、地政学的な要素を当然考慮するものの、特定の域外国を対象にしたものではないことを繰り返し説明、中国への明確な言及を避けた。欧州委はこれまで、経済安全保障戦略において中国を直接的に言及こそしなかったものの、同戦略の位置付けに関して中国とのデリスキング(リスク軽減)を具体化するものだとの見解を示していた。また、欧州委委員長も一般教書演説(2023年9月14日記事参照)で中国を名指しで批判するなど、経済安全保障戦略の念頭に中国があることを明らかにしていた。

(吉沼啓介)

(EU)

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