米オハイオ州、住民投票で人工妊娠中絶を認める州憲法修正案が可決へ

(米国)

ニューヨーク発

2023年11月14日

米国オハイオ州で11月7日に実施された住民投票PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で、人工妊娠中絶の権利を保障する州憲法修正案が賛成過半数(56.6%)で可決されることが確実となった。修正案は主に次のとおり。

○全ての個人が避妊、不妊治療、妊娠の継続、流産のケア、中絶などの生殖に関する決定を自ら行い、実行する権利を有する。

○州は直接的または間接的に、次のいずれに対しても、負担を負わせ、罰則を科し、禁止し、干渉し、または差別してはならない。

  1. 個人が自発的にこの権利を行使すること。
  2. この権利を行使する個人を支援する個人または団体。ただし、州が広く受け入れられている証拠に基づくケアの基準に従って、個人の健康を増進するために最も制限の少ない手段を用いていることを証明する場合はその限りではない。また、妊娠してから一定期間(fetal viability、注)を過ぎた場合は、中絶を禁止できる。しかし、妊娠中の患者の治療に当たる医師の専門的判断で、妊娠中の患者の生命または健康を守るために必要な場合には、いかなる場合も中絶を禁止することはできない。

オハイオ州では、妊娠22週目までの中絶は合法ではあるものの、最高裁による2022年6月の「ロー対ウェイド判決」の破棄(2022年6月27日記事参照)以降、妊娠6週目を過ぎてからの中絶の可否が各州の権限に委ねられていた。こうした状況下、患者が中絶を認めている州に流出するという事態が起きており、オハイオ州では、妊娠6週目を過ぎてからの中絶禁止に関して、法廷で争われていた(「ワシントン・ポスト」紙電子版11月7日)。

7日の投票結果に関し、カマラ・ハリス副大統領(民主党)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは同日、「(オハイオ州の)有権者は生殖に関する権利を守るため、また女性を傷つけ、医師を犯罪者扱いするような中絶禁止を強行する過激派を阻止するために投票した」「オハイオ州の投票結果は、米国民の大多数が信じていること、つまり、女性と医師との間でなされるべき決定に政治家が干渉すべきではないということを強調するものだ」と述べた。

オハイオ州は直近の大統領選挙で、2度ともドナルド・トランプ前大統領が勝利した共和党優勢の州だ。共和党の中でも、特に保守派は中絶に反対の立場として知られている。出口調査によると、住民投票で可決の原動力となったのは民主党支持層と無党派層からの高い得票率だったが、共和党支持層とトランプ氏支持者の5人に1人が賛成したとされている(「ワシントン・ポスト」紙電子版11月7日)。

「ロー対ウェイド判決」の破棄以来、米国各州で生殖の決断の自由に関する住民投票が行われるたび、その自由を守る方に過半数の票が投じられた。民主党優勢の州ではこれまで、カリフォルニア州、ミシガン州、バーモント州が中絶を受ける権利を守るための州憲法修正をした。オハイオ州は、共和党優勢の州としては初めて同様の州憲法を修正することとなる。2022年にはカンザス州、ケンタッキー州、モンタナ州で、中絶へのアクセス制限を意図した住民投票で過半数が反対票を投じた。

中絶の是非は他州の地方選挙でも大きな争点の1つとなり、米国民の注目を集めている(2023年11月9日記事参照)。

(注)米国国立医学図書館(NLM)によると、米国では妊娠24週目前後で「生存可能」とされている。

(吉田奈津絵)

(米国)

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