第三国市場における日本とEU間のビジネス協力・連携について

2022年3月28日

日本とEUは2019年9月、「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」(仮訳PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(109.05KB)英文PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(72.06KB))を締結した。これにより、日本とEUは、経済的、人的交流を含むあらゆる次元における連結性(コネクティビティ)に対して、二者間だけでなく第三国間で共に取り組む方針を示した。本稿では、西バルカン、東欧、中央アジア、インド太平洋、アフリカなどの第三国市場における日本とEU間のビジネス協力・連携について、日欧の企業間による先行事例を地域ごとに分類し、紹介する。

日本企業と欧州企業の第三国市場における連携事例を地域別にみると、アフリカや中東が多かった。ここでは、事例を地域別に産業や連携分類に着目して、分析する。なお、事例の対象期間は、直近を中心に2018年まで遡(さかのぼ)ることにした(2022年3月17日執筆時点までの企業プレスリリース情報などに基づく)。

(1)アフリカ

資源・エネルギー関連の事例が多かった。日本の大手商社が欧州企業とコンソーシアムを結成し、プロジェクトを受注するのが代表的な連携パターンだ。これまで液化天然ガス(LNG)事業で複数の連携がみられたが、最近では、再生可能エネルギー事業で連携が生まれている。豊田通商、ユーラスエナジーホールディングス(豊田通商のグループ会社)、フランスのエネルギー大手エンジーおよびエジプトのエンジニアリング会社のオラスコム・コンストラクションによるコンソーシアムは2021年10月、エジプトで発電容量500メガワット(MW)のウインドファームを建設すると発表した。これら4社は、すでにエジプトで発電容量262.5MWの風力発電所を建設・運営しており、それに続く受注となった。三井物産も2020年9月に、フランスの再生可能エネルギー大手EDFリニューアブルズと組んで、モロッコに発電容量87.2MWの陸上風力発電所を建設すると発表。同事業は、国際協力銀行(JBIC)、三菱UFJ銀行、三井住友銀行および地場銀行の協調融資によるプロジェクトファイナンス(注1)案件で、民間金融機関の融資の一部には日本貿易保険(NEXI)による海外事業資金貸付保険が付保されている。

また、新たな動きとして、欧州のスタートアップとの連携事例がみられた。豊田通商とCFAO(豊田通商のグループ会社)は2021年7月、西アフリカで展開するフランスのフィンテック企業インタッチに500万ユーロを出資したと発表した。また、荏原製作所は同年5月、ドイツのスタートアップのボリアルライトとスポンサーシップ契約を締結し、ケニア国内における飲料水供給ビジネスを支援するとともに、アフリカ市場での標準ポンプ販路拡大を目指すと発表した。総合商社も、アフリカの無電化地域で電力供給支援を手掛ける英国のスタートアップに相次いで出資を発表している(伊藤忠商事:2020年2月にウインチ・エナジー、三菱商事:2019年8月にBBOXX、丸紅:2019年6月にアズーリ・テクノロジーズ)。水や電力といったインフラ支援は、日本企業の持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みとしても位置付けられている。SDGsが浸透している欧州企業との連携は、このような動きを加速させることにもつながりそうだ。

(2)中東

アフリカと同様、資源・エネルギー関連の事例が多かった。千代田化工建設は2021年2月、フランスのエンジニアリング会社のテクニップ・エナジーズとともに、カタールのLNG輸出基地のEPC(設計・調達・建設)を受注したと発表した。また、伊藤忠商事と日立造船は2020年12月、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイ首長国で廃棄物焼却発電所を建設すると発表。ベルギーの建設大手ベシックスや地場企業などを含む6社が事業会社を立ち上げ、発電所の建設・運営・移転(BOT:Build, Operate, Transfer)方式のコンセッション契約を締結した。2021年3月には、事業会社と国際協力銀行(JBIC)、みずほ銀行、三井住友銀行などとの間で融資契約を結び、融資の一部には日本貿易保険(NEXI)による保険が付されている。なお、伊藤忠商事は同年11月に、フランスの水・廃棄物処理事業大手スエズ、サウジアラビアの投資ファンドであるファイブ・キャピタル・ファンドと共同で、サウジアラビアの工業系廃棄物処理を手掛けるエンバイロンメント・デベロップメント・カンパニー(EDCO)の株式65%を取得したと発表しており、廃棄物処理分野の事業拡大を進めている。

アフリカと同様に、再生可能エネルギー事業での連携もみられた。丸紅は2020年1月、フランスの石油大手トタルエナジーズ、カタール石油公社、カタール発電造水会社とコンソーシアムを組んで、カタールにおいて発電容量約800MWの太陽光発電プラントの建設・保守・運営事業を受注したと発表した。さらに丸紅は2021年1月、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国の投資会社ムバダラ・ディベロプメント・カンパニー傘下のマスダール、アブダビ・エネルギー省、UAEのエティハド航空、ドイツの航空大手ルフトハンザグループ、アブダビのハリーファ科学技術大学、ドイツのエネルギー設備大手シーメンス・エナジーとともに、再生可能エネルギーから生成するグリーン水素や合成燃料の開発で協力するための覚書(MOU)を締結した。ジェトロが2021年9月に中東に進出する日系企業を対象に実施したアンケートによると、今後有望視する分野について、「資源・エネルギー分野」と回答した企業の割合が53.0%で最も多く、その内訳は「再エネ(太陽光、風力)」(74.8%)、「水素」(65.8%)、「燃料アンモニア」(56.8%)と続いた。在中東日系企業も、脱炭素事業に関心を示していることが明らかになった(「2021年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)」)。

(3)東南アジア、インド、中央アジア

事例収集期間内(2018年~2022年1月)で確認できた事例としては、電力インフラプロジェクトの商業運転開始の事例が挙げられる。丸紅は2022年1月、東北電力、フランスのエンジーおよびインドネシアの地熱発電事業開発会社スプリーム・エナジーで共同出資するスプリーム・エナジー・ランタウ・デダップ(SERD)を通じて、ランタウ・デダップ地熱発電所の商業運転を開始したと発表した。また、住友商事も2019年12月に、エンジー、スプリーム・エナジーとの3社による合弁会社スプリーム・エナジー・ムアララボ(SEML)がムアララボ地熱発電所の商業運転を開始したと発表。2021年12月には、INPEXが子会社INPEX地熱開発を通じ、スプリーム・エナジーの子会社で同事業の権益の30%を保有するスプリーム・エナジー・スマトラの株式を33.333%取得するかたちで同事業に加わることを発表している。インドでは、住友電気工業が2021年3月、ドイツのシーメンス・エナジーと共同受注・建設した超高圧直流(HVDC)送電システムの商用運転開始を発表した。同国南部の電力供給不足の解消および送電系統の安定を目的に進められた事業で、開所式にはナレンドラ・モディ首相も参加した。さらにインドでは、国際協力機構(JICA)の円借款を活用するプロジェクトとして、東芝インフラシステムズが2020年11月にフランスのスエズと共同でカルナタカ州の浄水場建設工事を受注した事例が挙げられる。同年12月には、ミャンマーでも円借款事業の一環として、三菱商事がミャンマー国鉄から同国の鉄道向けに新型車両計246両を受注したと発表し、スペインの鉄道車両メーカー大手CAFが車両を供給することが決まった。日本の資金援助だけでなく、EUの資金援助を受けた連携事例もみられた。欧州復興開発銀行(EBRD)は2021年5月、EBRDの融資とEUおよび日本による支援金により、キルギス共和国のヌーカット市の水道インフラ近代化を支援すると発表した。このように大規模なインフラプロジェクトの場合、日本やEUの資金供与を受けて連携することも可能だ。

(4)西バルカン、東欧

これまでの地域と同様、資源・エネルギー関連やインフラ事業において連携が生まれている。伊藤忠商事は、フランスのスエズ、欧州の投資ファンドであるマルガリータファンドとともに、セルビアでも廃棄物処理発電事業を手掛けている。2017年10月に、ベオグラード市政府との間で官民パートナーシップ(注2)契約を調印、2019年10月には国際金融公社、EBRD、オーストリア開発銀行との間で融資契約を締結した。ルーマニアでも複数の事例が進行している。IHIインフラシステムは2018年1月、同社とイタリアの建設大手アスタルディとの合弁会社が吊り橋の建設工事を受注したと発表した。ルーマニア東部の主要都市であるブレイラ市と対岸をつなぐ吊(つ)り橋の設計・建設工事を手掛ける。本事業にはEU基金が活用されている。また、日本の最後のODA案件でもある「ブカレスト国際空港アクセス鉄道建設計画(6号線)」にも、計画の一部にEU基金の拠出が決まり、南側半分の入札が2019年3月、北側半分の入札が2021年11月に開始された(2019年4月1日付ビジネス短信2021年12月3日付ビジネス短信参照)。


注1:
プロジェクトに対する融資の返済原資を、そのプロジェクトの生み出すキャッシュフローに限定する融資スキーム。
注2:
パブリックプライベートパートナーシップ(PPP)と呼ばれ、官と民がパートナーシップを組んで共同で事業を行うこと。官民連携とも呼ばれる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
山根 夏実(やまね なつみ)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部、市場開拓・展示事業部などを経て2020年7月から現職