アフリカの政治・治安動向の振り返りと展望
2022年の注目点(10)

2022年5月9日

アフリカでは2021年、10カ国以上で大統領選挙が実施された。その結果、多くの国で現職が勝利を収めている。しかし、一部では選挙後に暴力を伴う混乱が生じたほか、選挙が延期された国もあった。また、西アフリカでクーデターが相次ぐなど、政治的脆弱(ぜいじゃく)性が露呈する年にもなった。2022年に入ってからも混乱は続いている。さらに、ウクライナ情勢悪化については、アフリカ諸国の多くが中立を維持した。国際関係において、アフリカに対するロシアと中国の影響力が垣間見えたかたちだ。

こうした事象は、ビジネスにも影響をもたらす。そうしてみると、企業にとってアフリカの政治・社会動向は注視すべきトピックと言える。本稿では、2021年以降の主な選挙や紛争について概観する。その上で、今後の政治動向を展望する。

2021年の大統領選、多くの国で現職が政権維持

2021年は、ウガンダ(1月)、コンゴ共和国(3月)、ジブチ(4月)、チャド(4月)、サントメ・プリンシペ(7月)、ザンビア(8月)、カーボベルデ(10月)、ガンビア(12月)などで大統領選挙が行われた。その結果、多くの国で現職が政権を維持した(注1)。

西アフリカでは、相次ぐクーデターによって政情が不安定化している(後述)。その一部でも、大統領選挙が行われた。マハマドゥ・イスフ前大統領が任期満了を迎えたニジェールでは2月、決選投票でモハメッド・バズム氏が当選した。同国は1992年の民主化以降、軍事クーデターが続いてきた。選挙によって文民同士で大統領が交代したのは、史上初めてだ。しかし、デモ隊と治安部隊が衝突する騒ぎになったほか、バズム新大統領の就任式2日前にはクーデター未遂が発生した。 

ベナンでは4月、パトリス・タロン大統領が2期目の当選を果たした。同国は西アフリカで最初に民主化に着手。アフリカでの民主化成功例として称されることも多かった。しかし、タロン大統領の下で強権的な政治運営が目立つようになり、2019年には議会選挙で野党を事実上排除。今回も、一部候補者の立候補資格が剥奪され、デモ隊と治安部隊が衝突するなどの混乱が生じた。

各国で政情不安定化、治安動向を注視

2021年は、西アフリカでクーデターが相次いだ。既述のとおり、ニジェールで3月にクーデター未遂。マリで5月、ギニアで9月にクーデターが発生した。2022年に入ってからも、1月にブルキナファソでクーデター、2月にはギニアビサウでクーデター未遂が発生している。

西アフリカ以外では、軍民合同の暫定政府が統治するスーダンで2021年10月26日、軍がクーデターを起こすと、アブダッラー・ハムドゥーク首相を含む文民官僚を拘束・解任した。その後、ハムドゥーク首相は解放され、一度は民政移管再開で軍との合意が成立したが、2022年1月2日に突如辞任。民政移管は再び頓挫することになった。国民からは、完全な文民政権の誕生を求める声が上がっているものの、軍はこれを拒絶し、折り合いがつくめどは立っていない。

北アフリカのチュニジアでは2021年7月25日、カイス・サイード大統領がヒシェム・ムシーシ首相の解任と議会停止を発表した。これに対し、2022年3月30日、強行開催された議会で大統領令の無効化が議決されると、サイード大統領は議会を解散。同大統領は、憲法および選挙法改正の是非を問うため、7月25日に国民投票を実施する予定だ。ここで新法が認められれば、同法に基づいて12月17日に議会選挙を実施することになっている。もっとも、法改正に係る国民協議(1月1日~3月20日に実施)では多くの回答を得ることができていなかったという指摘もある。そうしたことから、先行きはなおも不透明な状況だ。

このほか、エチオピアでは、北部ティグライ州の「ティグライ民族解放戦線(TPLF)」と国軍との間で衝突が続いてきた。その結果、一時はTPLFが首都アディスアベバに迫り、2021年11月に国家非常事態宣言が発布された。だが、12月に国軍が巻き返すと、TPLFはティグライ州に撤退。政府は2022年2月に国家非常事態宣言を解除した。しかし、衝突は続いていると伝えられており、引き続き治安状況を注視する必要がある。

ウクライナ情勢の悪化、アフリカにおけるロシア・中国の影響力が顕在化

ウクライナ情勢の悪化について、アフリカ連合(AU)はロシアに対して停戦を求める声明を発した(2022年3月3日付ビジネス短信参照)。しかし、2022年3月3日の国連総会のロシア非難決議では、エリトリアが反対投票。このほかも、16カ国が棄権。棄権した国の中には、セネガル(AU議長国)や、南アフリカ共和国(南ア)、アルジェリアが含まれる。エチオピアやチュニジアは投票しなかった。中立的な姿勢を示すアフリカ諸国は約半数に及ぶ。中央アフリカでは、ロシアを支持するデモも発生した。

背景には、経済的な結びつきがある。アフリカ諸国は小麦輸入の大半をロシアに依存する。そうしたロシアとの関係悪化を懸念していると考えられる。また、軍事的にもロシアはアフリカ諸国にとっての重要なパートナーだ。スーダンやマリなどアフリカのいくつかの国は、国内の反体制派との戦闘にあたってロシアから軍事支援を受けてきた。2021年には、ナイジェリアとエチオピアがそれぞれ、ロシアと軍事協力に係る協定を締結。ウクライナ情勢悪化後の2022年4月にも、カメルーンがロシアと軍事協力に係る協定を締結した。ロシアから軍事支援を受けるにあたっては、人権順守といった政治的条件を担保する必要がない。また、ソ連時代から結びつきのあるロシアは、アフリカにとって最大の武器販売国だ。相次ぐクーデターをロシアがバックアップしているとの見方もある。

また、中国がウクライナ問題で「中立」の立場を表明していることも、アフリカ諸国の外交的立場に影響しているとも考えられている。アフリカでは、政治・経済面で中国が大きな影響力を持つ(2022年3月1日付地域・分析レポート参照)ためだ。

このように、アフリカではロシアと中国の影響力が顕在化している。その一方で事態が長引くと、食料や原油価格の上昇が国民生活に影響してくる。今後、アフリカ各国がどのような外交的立場を打ち出し、それが国内政治にどう影響するか、動向を注視する必要がある。

2022年5月以降の主な選挙日程と展望

2022年に入ると、4月9日にガンビアで議会選挙が実施され、アダマ・バロウ大統領率いる与党「国民人民党(NPP)」が第1党を辛うじて維持した。今後は、セネガルとコンゴ共和国で7月までに議会選が行われる予定になっている。また、チャドでも2022年9月までに大統領と議会議院が選挙される予定(注2)。12月にはチュニジアで、新選挙法に基づく議会選が実施される予定だ。そのほか2022年内に、コモロで議会選、ジブチで大統領選・議会選・自治体選、赤道ギニアとレソトで議会選と地方選、モーリシャスで地方議会選、シエラレオネで地方選が実施されることになっている。

ソマリアでは5月15日に大統領選挙が行われる。同国では、モハメド・アブドゥライ・モハメド・ファルマージョ大統領が2021年2月に任期満了を迎えているが、手続き面で合意に至らず、選挙の実施が先送りされていた。そうした中で2022年4月16日、新たに選出されたソマリア議会が初めて召集された。同国では、州議会と氏族代表が国会議員を選出し、その議員が大統領を選出するという方式をとっているが、今回、国会議員が選出されたことで、大統領選に向け動きはじめたかたちだ。なお、同国では国際通貨基金(IMF)による支援プログラムが5月17日までに見直される予定だが、そこまでに大統領が選出されない場合、自動的に財政支援は終了することになっている。その前に選挙を実施することを目指しているとみられる。

ケニアでは8月9日に総選挙が行われる。この選挙に向け、5月30日から選挙運動が開始される。ケニヤッタ大統領は、かつての政敵ライラ・オディンガ氏への支持を表明した。両氏は2020年、選挙後暴力をなくすとの名目で「架け橋イニシアティブ(BBI)」(注3)を発表している。改憲や首相ポスト設置などがその眼目だ。これに対し、現大統領が退任後も首相として影響力を持ち続けようとしている、との批判もある。一方、大統領とウィリアム・ルト副大統領間の溝が深まってきた。今回の選挙は、オディンガ氏と現副大統領の一騎打ちが予想されている。同国では、政治家が支持基盤を民族で固める傾向が強く、選挙後の治安悪化が懸念される。

アンゴラでも、8月に大統領選挙が実施される予定だ。アンゴラは1975年の独立以来、「アンゴラ解放人民運動 (MPLA)」が政権を握り続けてきた。今回も、現職のジョアン・ロウレンソ大統領の再選が見込まれている。ただし、ウクライナ情勢の悪化に伴い食料価格が急騰しているほか、政治的腐敗に対する国民の不満が高まっており、首都ルアンダではこれまで、反政府デモと治安部隊との間で衝突が度々起こってきた。大統領選挙が近づくにつれ、さらに治安が悪化する可能性がある。

日本企業がアフリカ大陸で最も多く集積する南アでも、12月に与党「アフリカ民族会議(ANC)」の党首選挙が予定されている。事実上の国家元首を決める争いで、現時点ではシリル・ラマポーザ大統領の脅威になりそうな対抗馬は現れていない。しかし、高失業率やなかなか進まない国営企業改革、洪水、食料などの価格高騰など、国民の不満が高まっていることも事実だ。こうしてみると、現職が盤石とはいえない状態だ。

表:2022年5月以降のアフリカの主な選挙日程
日程 国名 選挙
5月15日 ソマリア 大統領選挙
6月18日 ナイジェリア エキティ州知事選挙
7月16日 ナイジェリア オスン州知事選挙
7月までに セネガル 国民議会選挙
7月までに コンゴ共和国 国民議会選挙
7月25日 チュニジア 改憲に係る国民投票
8月9日 ケニア 総選挙
8月 アンゴラ 大統領選挙、国民議会選挙、地方選挙
6月から9月の間 チャド 大統領選挙
9月までに チャド 国民議会選挙
11月13日までに ソマリランド 大統領選挙
12月17日 チュニジア 人民議会選挙
12月 南ア 党首選挙
2022年中(日程未定) コモロ 諸島議会選挙
2022年中(日程未定) ジブチ 大統領選挙、地方議会選挙、自治体選挙
2022年中(日程未定) 赤道ギニア 下院・上院選挙、地方選挙
2022年中(日程未定) レソト 国民議会選挙、地方選挙
2022年中(日程未定) モーリシャス ロドリゲス地方議会選挙
2022年中(日程未定) シエラレオネ 地方選挙

出所:ジェトロ作成

なお、2023年に実施される選挙に向けてもすでに動きが出ている。シエラレオネでは、2023年6月24日に大統領選を実施することが発表された。このほか、スーダン、南スーダンとコンゴ民主共和国で総選挙、モーリタニアでは議会選が実施される予定だ。

ムハンマド・ブハリ大統領が任期満了を迎えるナイジェリアでは、2023年2月25日の選挙開催(大統領選および国民議会選)が決定済みだ。同国では、債務問題が深刻化。失業率やインフレ率も高く、国民の生活が圧迫されている。テロ事件も断続的に発生。安定しない西アフリカ地域の情勢も、今回の選挙に影響するという見方もある。そうした中、今回の選挙は重要な分岐点として注目されており、選挙が近づくにつれ、民族自治を巡る問題が激しさを増す可能性がある。やはり、治安悪化が懸念される。

リビアでは、2023年5月までに選挙が行われる予定だ。同国では、正統性を主張する政府が東西にそれぞれ1つずつ併存していた。その後2021年3月10日に、西側出身のアブドゥルハミド・アル・ダバイバ氏を首相として、暫定的に「国民統一政府(GNU)」が発足。その上で同年12月24日の選挙後に、新政府へ権限を移譲する予定だった。しかし、候補者の参加資格に関して合意に至らず延期された。そうした中、2022年の3月1日、西側出身のファトヒー・バーシャーガー氏が東側政府と手を組み、新政府「国民安定政府(GNS)」が誕生。再び2政府が乱立する状態に至った。1つの注目点は、西側出身のバージャーガー氏が東側と手を組んだことが今後の政治動向にどう作用するかにある。一方で、2023年5月までに実施される選挙に向け、武力衝突の可能性も。今後の治安悪化が懸念されるところだ。


注1:
大統領選挙の結果、記事中に挙げたほか、サントメ・プリンシペ、ザンビアやカーボベルデで、野党側候補が勝利した。 なお、ソマリアで2月、リビアでも12月に、大統領選挙が予定されていた。しかし、手続き面で合意に至らず延期された。
注2:
チャドでは、イドリス・デビ前大統領が2021年に当選した直後に亡くなっていた。
注3:
高等裁判所はBBIについて、「大統領に憲法改正を発案する権利はなく、国民による発議の場合にのみ認められる」と判断。これを違憲とした。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
梶原 大夢(かじわら ひろむ)
2021年、ジェトロ入構。同年から現職。