「電動リキシャ」市場で先頭を走るテラモーターズ(インド)
インドで活躍する日本のベンチャー

2022年4月7日

インド都市部において、自動三輪車(オートリキシャ)の乗合タクシーは、庶民にとって重要な交通手段だ。近年、自動車など交通車両の電動化推進政策が注目を集めようになっている。オートリキシャも例外ではない。

この流れを先読みし、いち早く電動オートリキシャ(以下、電動リキシャ)の販路拡大に取り組んできた企業がある。それが、実は日本発のベンチャー企業ということをご存知だろうか。時代の最先端を走るテラモーターズの上田晃裕社長に話を聞いた(2022年3月1日)。

オートリキシャに電動化の波

オートリキシャと言っても、日本ではあまりなじみないかもしれない。その名称はもともと日本語の「人力車」に由来する。機械化された人力車という意味の「オートリキシャ」は、インドの都市部で一般庶民の日常生活に浸透している重要な交通手段だ。政府の報告書によると、インド人が利用する通勤・通学手段の約2割がオートリキシャと推計される。乗合タクシーのオートリキシャは、地方からの都市出稼ぎ労働者が始める代表的な商売の1つだ。車両と運転免許証さえあれば、経験や特別な技能がなくても始めることができる。そのため、参入障壁が低い商売なのだ。

このオートリキシャに、電動(EV)化の波が押し寄せている。

インドでは、大気汚染をはじめとして環境問題が深刻だ。対策の一環として、政府は2015年から、EV購入者に対する補助金給付などEV生産早期普及策(FAME)を導入。需要喚起も念頭に置いた第2期(FAME II)の適用期間は、当初予定の2022年3月から2年間延長し、2024年3月までとすることを決めた。また、2021年には生産連動型優遇策(PLI)を発表し、生産力の強化にも乗り出した。EVなど次世代自動車の生産工場を新設・拡張する計画が一定要件を満たす場合、補助金を付与する仕組みだ(2022年1月19日付ビジネス短信参照)。

この流れの中で、EVの新規登録台数は年々増加傾向にある。2021年の新規EV登録台数31万台のうち、約半数を占めるのが電動リキシャなのだ。

電動リキシャ市場で先行するテラモーターズ

そのインドで、電動リキシャ販売シェアトップを走るのは、日本発のベンチャー企業テラモーターズだ。今から8年前の2014年、インドの電動リキシャ市場の成長を予測した同社は参入を決定。翌2015年9月に電動リキシャ販売を北部ハリヤナ州で開始し、市場規模が大きい西ベンガル州など東部を中心に販売実績を着実に伸ばしてきた。現在、同社が販売する電動リキシャの年間台数は、1万台を超えている。


テラモーターズ 上田社長(テラモーターズ提供)

個人が購入することも多い乗用車や自動二輪車とは異なり、オートリキシャは嗜好(しこう)品ではない。生活費を稼ぐための重要な商売道具だ。購入者は低所得層が中心のため、価格競争力が必須になる。テラモーターズは現在インドで販売する製品の約半分を現地生産しているが、この比率をさらに7~8割程度にまで高め、コストダウンを図る計画を立てている。

それでは、オートリキシャの購入に当たっては、価格だけが決定要因なのだろうか。上田社長によると、確かに価格は重要だ。しかし、購入者にとっては毎日朝から晩まで乗り続ける車両になる。自分が乗りたいと思えるかどうかも、決定要因として無視できないという。通常のオートリキシャよりも環境に配慮しているという心地良さや、見た目のデザインの格好良さなども、テラモーターズの電動リキシャが選ばれる上で大切な要素なのである。

ファイナンス事業でさらに販売層を拡大へ

テラモーターズはさらなる販売層拡大を期し、2021年8月に新しい戦略に乗り出した。現金を十分に持ち合わせない低所得層の購入者を対象に、ファイナンス事業を始めたのだ。他事業者との比較で販売力上の差別化を試みたわけだ。2022年2月末までに、国内主要5都市で電動リキシャの購入者が無担保でローンを組めるようにした。この新規事業に当たっては、地場の大手金融企業と連携。平均的なモデルでは、電動リキシャ代金約18万ルピー(約28万8,000円、1ルピー=約1.6円)のうち、10万ルピー前後をローンに当てる。購入後、毎月7,500~8,500ルピーずつ返済していく仕組みだ。


無担保ローンで購入された電動リキシャ(テラモーターズ提供)

電動リキシャの購入者は、基本的に低所得層だ。この点を踏まえると、気になるのはデフォルト(債務不履行)のリスクになる。上田社長によると、ファイナンス事業のサービス開始から半年で、ローンを組んだ購入者は既に300人を超えた。しかし、今のところローンの焦げ付きも、返済遅延も発生していない。秘訣(ひけつ)はデフォルトのリスクを前提とした信用の担保という。テラモーターズや業務提携先はローンを組む前に、購入者自身の住居や家族情報について現場確認を含めて正確に把握する。また、ローン返済に当たっては、回収員が自宅を直接訪問して現金で回収する点も重要だ。購入された電動リキシャにGPSを付け、万が一デフォルトに陥った場合に差し押さえられるようにした。これにより、最低限の補償を担保できることになる。もっとも、まだその必要性は生じていない。

オートリキシャ購入者の多くは、個人のつてなどを使って何らかのかたちで借金をして購入資金を確保していることが多いとみられる。テラモーターズは、このファイナンス事業が喚起する潜在的な需要を取り込んでいきたい考えだ。今後1年間でローンを活用した購入者を現在の3~4倍に増やすことを目指している。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
広木 拓(ひろき たく)
2006年、ジェトロ入構。海外調査部、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ブリュッセル事務所、企画部、ジェトロ名古屋を経て、2021年8月から現職。