酒類購入、本社側の支援(インド)
アーメダバード地域の生活実態(4)

2022年9月7日

インド北西部のグジャラート(GJ)州出身のマハトマ・ガンディーはかつて「酒屋は社会に対する耐え難いのろい」として、インド各州に禁酒概念を広めるのに大きな影響を与えた。それを受け、GJ州は現在でも菜食州であると同時に、ドライステート(禁酒州)として、禁酒の原則を守り続けている。だが、外国人駐在員が全く飲酒できないわけではない。規定された量を購入し、自宅で消費することは可能だ。本レポートでは、酒類の調達方法や、医療事情、進出各社の生活サポート体制などについて紹介する。

10.酒類の調達(リカー・パーミッション)

GJ州では禁酒が原則であり、外国人や他州のインド人に限って(例外としてGJ州民でも医療目的使用の処方箋があれば)、アルコールの購入を許可制で認めている。このため、外国人駐在員は「リカー・パーミッション」と呼ばれる許可証を入手(購入)しなければいけない。外国人駐在員に発給される許可証は当該年度内の有効で、月当たりの購入量がユニット数で決められている。有効期限は当該年度末(3月末)で切れるため、申請時期が遅くなればなるほど有効期間が短くなる。さらに、外国人登録証(FRRO)の有効期間との兼ね合いもあり、年度内でもFRROの有効期限が最優先されるので注意が必要だ。

外国人については、毎月4ユニットが付与され、1ユニットで購入できる酒類の組み合わせや本数が決まっている(例えば、1ユニットで購入できるのは、500ミリリットルの缶ビールは13本、750ミリリットルのワインボトルの場合は3本)。ただし、(1)本体価格に対し、(2)アルコール度数に応じた特別Feeが課せられ、(1)(2)の合計にさらに「65%のVAT」が課税される。このように税率が高いため、日本人の感覚には非常に高額に感じる


1ユニットで購入できる酒類と分量(ジェトロ撮影)

近年、GJ州でも行政機関へのさまざまな申請手続きは徐々にオンライン化されているが、現時点では同許可証の取得手続きはオンライン化されておらず、非常に煩雑だ。日本人駐在員の手続きは以下のとおり。(1)州政府・内務省の「禁止物・税務局」窓口に出向いて申請書類(申請フォーム、パスポートや外国人登録証などの写し)を提出し、(2)窓口で幾つも押印をもらう、(3)離れた場所にある指定の銀行に移動し、所定料金2,500ルピー(約4,250円、1ルピー=約1.7円)を支払う、(4)最初の申請窓口に戻って収入印紙を貼ってもらう、(5)別の窓口に書類を提出して申請受理、(6)1週間後に窓口で許可証の受け取り。また、同手続きのフローが頻繁に変更されるため、そのたびに確認が必要だ。

加えて、この許可証を入手しただけではアルコール購入はできない点に留意する必要がある。一般的に酒類の販売所はリカーショップと呼ばれ、市内のホテルの地下や目立たない場所に立地している。各販売所には税務当局のインスペクターの席があり、発給された許可証を持参し、これを有効化してもらう手続きが必須だ。しかし、インスペクターは市内各所の販売所を巡回しているため、飛び込みで販売所に行っても在席していないことが多く、注意が必要だ。筆者の体験では、市内4カ所の販売所を回ったが、どこにもインスペクターがおらず、最終的には日をあらためて販売所からインスペクター在席の確認電話をもらい、許可証の有効化を行った。有効化の際には販売所のオンライン端末で携帯電話番号と指紋の登録が必要だ。さらに、許可証はその年度末までのユニット管理台帳となる。


リカーショップの一例(ジェトロ撮影)

11.その他、福利厚生、安全対策

最後に、現場の駐在員をバックアップする日本の本社側のサポート体制について触れておく。

ジェトロがマンダル、サナンドの2つの工業団地の日系企業に取材したところ、いずれの企業でも当地のハードシップは相対的に高い傾向にあった。インド内に複数拠点がある企業の場合も、GJ州特有の食住環境に配慮し、他のインド内拠点より一段高く設定していることもある。通常、各社とも健康管理などのための一時帰国休暇制度や公務での帰国などで、年に数回は駐在員を日本に帰国させている。また、日本食材が手に入りにくい事情を考慮し、「まごころ通信」やEMSを利用した食料品や生活物資の送付制度を設けて生活をサポートしている企業も多い。

さらに、当地の医療事情に触れると、市内にはプレステージ社がジャパンデスクを置き、日本人支援サービスを展開しているザイダスホスピタル(ZYDUS HOSTITAL)をはじめ、アポロ(APOLLO)、シャルビー(SHALBY)といった設備の整った病院が存在している。「マンダル―ベチャラジ地域」にも最近、ザイダスホスピタルの別院がオープンしたこともあり、駐在員にとって医療面での安心度が増している。一方で、当地は日系航空会社による日本への直行便路線ないため、万が一の病気や治安悪化などでの緊急退避が必要な際を想定して、あらかじめ日本や周辺国への退避シミュレーションをしておく必要がある。

最後になるが、インド政府が発表している「都市の生活しやすさランキング2020」の大都市カテゴリーで、アーメダバード(3位)、スーラット(5位)、バドーダラ(8位)など、GJ州の主要都市が高位にランクインしており、GJ州の主要都市の生活環境の良さはインド人の認識では既に定評があることを忘れてはならない。アーメダバードの場合、特に治安の良さや住環境の良さ、エネルギー効率などが好ポイントを得ているが、外国人駐在員の目線から見ても、生活実感として治安面での不安を感じることがないのは大変重要な点だ。また、他の大都市で深刻になりがちな交通渋滞や大気汚染などの問題が比較的少ない点も大いに評価できる。

以上、当地への進出に向けたFS(注2)調査チームが当地に出張する際、ジェトロから説明するポイントについて、食住環境を中心に概観した。全てを網羅できたわけではないが、参考にしてほしい。インドのどの地域に進出するにしても、現地に送り込む駐在員にはインド共通の配慮が必要だが、当地の場合は格段の配慮が必要と感じる場面が多い。だが、実情と重要ポイントをあらかじめ知り、相応の対策や支援制度を設けておけば、当地への拠点進出のハードルは決して高くはないといえるだろう。

新型コロナ感染症が落ち着きを見せつつある中、今年6月末には「アーメダバード日本人会」の総会が久しぶりに開催された。同総会では正式に事務局体制が入れ替わり、活動の再活性化を精力的に進めているところだ。最近になって、まだまだ少数ではあるが家族帯同の駐在員も着任し始めている。同日本人会ホームページでは活動の一環として、新たに着任される、または既に当地で活躍している駐在員の参考となる各種生活関連情報も更新され始めている。駐在員家族の視点から寄せられた生の情報なども掲載されているので、ぜひ参考にされたい。


注1:
新型コロナウイルス感染症の影響による物流混乱により、海外発送ができなくなっている品目もあり、その都度、確認が必要だ。
注2:
FS=Feasibility Study:プロジェクトの実現可能性を調査すること。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
飯田 覚(いいだ さとる)
2015年、ジェトロ入構。農林水産食品部、ジェトロ三重を経て、2021年10月から現職。