広報と充電ステーション拡充に注力(タイ)
自動車市場で中国勢に存在感(2)

2022年2月25日

上海汽車と長城汽車の両社は、ともに電気自動車(EV)の販売を中心に据え、タイ市場開拓に取り組んでいる。具体的には、バンコク首都圏での販売ショールームなどの拡充、市内随所に見られる広告用大型電子スクリーンでのPRなど積極的な広報活動を展開。加えて、タイ市場でのEV普及を見据え、両社ともバンコク首都圏を手始めに、EV充電ステーションの開設に乗り出している。

上海汽車とタイのチャロン・ポカパン(CP)グループが設立した合弁会社がSAICモーターCPだ。同社は、EV用急速充電ステーション「MGスーパーチャージ」を、タイ国内に120カ所設置(2021年12月23日時点)。2022年末までに、500カ所に増やす目標だ。

また、長城汽車の現地法人、GWMタイランドも、バンコク都心部BTSサイアム駅近くの一等地に、EV充電ステーションをタイで初めて開設している。

バンコク市内各所にGWMタイランドの広告

中国系自動車メーカーは、バンコク首都圏での販売ショールームなどを急速に拡充。とりわけ、2021年6月にタイ市場に初参入した長城汽車は、ブランド浸透・販売促進のため積極的な広報活動に取り組んでいる。

長城汽車は2021年5月28日、バンコク郊外のショッピングモールであるセントラル・プラザ・バンナーに、タイ初の販売ショールーム「GWM Store」を開設した。翌6月からは、「HAVAL H6」の販売を開始。また同月には、バンコク首都圏に2箇所、ショールームを開設した((1)郊外の大型ショッピングモール、フューチャーパーク・ランシット内、(2)都心部のBTS(高架鉄道)サラデーン駅直結のシーロム・コンプレックス内)。さらに、チャオプラヤ川沿いに2018年秋にオープンした大型複合施設アイコン・サイアム(注1)には、試乗体験センターも設けられた(注2)。ここでは、国際モーター・エキスポ2021(注3)開催期間中、同社ブースの様子が大型ビジョンでライブ中継されていた。

また同社は、2021年のクリスマス・年末年始の商戦を挟んだ期間、バンコク中心部の他ショッピングモールでもEVを展示していた(注4)。タイ消費者向け果敢なPR活動に取り組んでいる。


アイコン・サイアム内に設けられた長城汽車の
試乗体験センター(ジェトロ撮影)

バンコク郊外に所在するMGのショールーム
(ジェトロ撮影)

ショールームでの自動車展示にとどまらない。昨今は、中国系自動車メーカーの広告を目にする機会が目立つ。例えばBTSでは、車両の外部から、車内のドアや壁面、さらにつり革にまで広告で埋められたことがある。この際は、「HAVAL H6」の画像にあわせて、広告サイトにつながるQRコードを取り入れた案内などが掲示された。

一方、自動車輸入販売業の取り扱い例も出てきた。タイのベンツ・ラムカムヘン・グループ(BRG)は、Pocco(ポッコ)タイランドを設立すると発表。Poccoは、もともと中国朋克汽車の小型EVブランドだ。Poccoタイランドが公式販売代理店として、「Pocco」シリーズを輸入・販売するという。1台38万9,000バーツ(約132万円、1バーツ=約3.4円)と、40万バーツを切る低価格を武器に、タイEV市場に参入する構えだ(注5)。

バンコク市内にEV充電ステーション

また、中国系自動車メーカーは、タイでEV用の充電ステーションの整備にもいち早く取り組んでいる。

SAICモーターCPは、EV用の急速充電ステーション「MG スーパーチャージ」を、2021年12月23日時点で120カ所設置済みだ。2022年末までには、500カ所に増やす目標という(注6)。

一方、GWMタイランドも、2021年11月初頭、にバンコク都心部に(注7)、EVの急速充電ステーション「Gチャージ・スーパーチャージ・ステーション」をタイで初めて開設した(注8)。ここでは、急速充電器3台を設置。EV6台が同時充電可能になっている。


BTS車内のHAVAL H6広告の様子(ジェトロ撮影)

バンコク都心部サイアムスクエアに設けられたGWMタイランドの
EV充電ステーション(ジェトロ撮影)

タイ人消費者、EVに総じて好感

長城汽車が積極的なタイでの市場参入に取り組むのはなぜか。その背景の1つは、タイ人消費者がEV購入に前向きな考えを有しているところにある。

同社は、国立開発行政研究院(NIDA)と共同で2020年11~12月、調査を実施した(注9)。タイ消費者の自動車利用、購入、販売に向けたニーズ把握が狙いで、タイ全国の自動車購入者1,000人を対象とした。この調査では、8割弱(77.7%)が「EV(の購入)に前向き(open)」と回答。そのうち約3割(29.0%)が、EVが「よりエネルギー節約型で環境に優しいこと」を理由に挙げた。ちなみに、26.9%は「最新技術とイノベーションを備えていること」、17.0%が「長期的により費用効率が良いこと」、を理由に挙げている。

また、EVモデルの中でタイの消費者が最も関心を寄せるのは、バッテリー電気自動車(BEV)だ。4割弱(38.7%)がそう回答している。これに、ハイブリッド車(HEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)が約3割で続く(それぞれ31.0%、30.3%)。

一方、タイで従来の内燃機関自動車からEVにシフトする上で重要な要素としては、「環境親和性」がトップだった(22.0%)。これに、「より高い費用効果とより革新的な技術」が続く(19.1%)。また、タイ消費者が購入時や購入後に直面する問題や課題として、34.1%が「EV購入時の情報不足」、27.1%が「EV選択肢の少なさ」、25.3%が「価格比較の難しさ」を指摘した。

EVに対するタイ人消費者の意識調査としては、2021年10月にアビームコンサルティング・タイランド社が実施した調査もある(注10)。その調査結果から、BEVに向けたまずまずの好感度が読み取れる。具体的には、「BEV保有が内燃機関自動車保有に比べ、長期的により経済的」との回答が55%を占めた。また、「BEVの品質は信頼に足る」が48%、「BEVならではの運転感覚を楽しめる(楽しみたい)」が41%、「BEVは気候変動の影響緩和に役に立つ」が71%、「BEV促進に政府は十分なインセンティブを提供している」が43%だった。

もっとも、アビームの調査で今後3年以内にBEVを購入する計画のある消費者は、自動車購入者のわずか3%にとどまった。この主な理由として指摘されたのが、包括的なEV関連インフラの欠如だ。実際に自動車を利用する回答者のうち、72%が「公共のEV充電ステーションが不十分」を挙げた。また、「走行中のバッテリー切れの心配」が67%、「充電時間が長過ぎる」が50%、「1時間内でフル充電したい」が66%になっている。

これらの調査結果から、多くのタイ人消費者は即、内燃機関自動車からEVに切り替えようと考えているわけではなさそうだ。その一方で、EV購入に対しては総じて前向きな考えを有していることがうかがえる。


注1:
アイコン・サイアムには、サイアム高島屋も入居する。
注2:
2021年5月28日付GWM News外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
注3:
国際モーター・エキスポ2021については、当連載(1)「展示会で底堅い予約販売(タイ)」を参照。
注4:
チットロム地域に所在するセントラル・ワールド1階の仮設展示場。
注5:
2021年12月2日付 Newsdirectory3外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 参照。
注6:
2021年12月7日付ターンセタキット紙外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(タイ語)参照。
注7:
Gチャージ・スーパーチャージ・ステーションは、BTSサイアム駅近くのサイアムスクエアに設置された。
注8:
2021年11月3日付GWM News外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
注9:
2021年1月7日付GWM News外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
注10:
2021年12月23日付バンコクポスト紙外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所 バンコク研究センター(BRC)所長
川田 敦相(かわだ あつすけ)
1988年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・シンガポール事務所、ジェトロ・バンコク事務所、ジェトロ・ハノイ事務所などに勤務、海外調査部長、上席主任調査研究員を経て、現職。主要著書として「シンガポールの挑戦」(ジェトロ、1997年)、「メコン広域経済圏」(勁草書房、2011年)、「ASEANの新輸出大国ベトナム」(共著)(文眞堂、2018年)など。