インドで四輪EVは順調に普及するか

2023年2月13日

インドで最初に大量生産された四輪電気自動車(EV)「Reva」(当時RECC社)発売から、20年以上の歳月が流れた。最近はメディアでもEV関連記事や特集を見かけることが増え、2022年の二輪EV販売台数は過去最高となる60万台が見込まれている。EVと特定できる緑プレートの車両も、街中で見かけるようになってきた。一方、四輪EV販売台数は、ガソリン車、圧縮天然ガス(CNG)車、ディーゼル車に比べればまだまだ少ない。今後、果たして四輪EVの普及は加速するのだろうか。現在市場で販売されている四輪EV関連情報を基に、考察した。


二輪EV(ジェトロ撮影)

四輪EVの車両(ジェトロ撮影)

2030年の乗用車新車販売の3割をEVに

近年の大気汚染対策やカーボンニュートラル達成(2022年11月8日付ビジネス短信参照)のために、インド中央政府はCO2(二酸化炭素)ゼロエミッションであるEVの拡大支援を進めており、2030年の新車販売数のうち、四輪車(乗用車)30%、商用車70%、二輪車80%をEVとするロードマップを掲げている(2022年3月25日付地域・分析レポート参照)。さらに、インド28州のうち半数の州がEV政策を発表しており、産業支援・企業誘致に積極的である。

インド人にとって、乗用車は生活の足となっている重要な移動手段だ。毎日、故障なく動いてくれることが最も重要であり、それ故、乗用車にはまず耐久信頼性が求められる。また、購入価格に加え、ランニングコスト(経済性)も大きな関心事である。そして、車両性能〔操縦安定性、NVH(騒音・振動・乗心地)など〕は二の次であり、マフラー、ホイールの交換や、タイヤインチアップなどのチューニングやドレスアップとはまだ無縁のようだ。

四輪自動車の税金と車両価格

街中を見ると、小型車の走行が多いことに気付く。これは、車の寸法やエンジン排気量により車体価格にかかる税金(間接税GSTおよび補償税CESS)が異なるためで、メーカーも手の届きやすい低価格小型車の品ぞろえを充実させていることに起因する(表参照)。なお、EVは登録時に必要となる道路税も免除となっており、優遇されている。

表:乗用車の車体価格にかかる税金(-は値なし)
車種 条件 税金 (%)
GST CESS 合計
小型車 (ガソリン、CNG、LPG)全長4m未満、排気量1200cc未満 28 1 29
小型車 (ディーゼル)全長4m未満、排気量1500cc未満 28 3 31
中型車 全長4m以上、排気量1500cc未満 28 17 45
大型車 全長4m以上、排気量1500cc以上 28 20 48
SUV 全長4m以上、排気量1500cc以上、地上最低高170mm以上 28 22 50
HV (除く小型車) 28 15 43
EV 5 0 5

出所:インド財務省ホームページからジェトロ作成

現在販売されている四輪EVの価格帯(ショールーム価格、含むGST+CESS)は、小型車で130万ルピー(約221万円、1ルピー=約1.7円)前後、中型車で250万ルピー前後である。四輪EVの税金は優遇されているものの、現行のガソリン車・CNG車と比べると、購入金額が2倍以上となるので高価な買い物といえる。

数カ月前に、四輪EVでも価格100万ルピーを切る限定モデルが発売されたが、これは車体コストの約半分を占めるといわれているバッテリー容量を減らした価格重視仕様であった。

四輪EVの航続距離と充電インフラ

現在、チェンナイで市販されている四輪EVの航続距離(カタログ値)は、およそ250~450キロメートル。ガソリン車・CNG車の満タンでの航続距離は700~1,000キロメートルと推定されるが、四輪EVは実に半分以下である。スペックをひもといてみると、この航続距離はバッテリー容量に比例しているようだ(図1参照)。

もっとも、カタログ上の航続距離は、インド自動車研究協会(ARAI)の標準試験法で行われ、実走行条件と異なる点には注意が必要である。また同数値は、渋滞の程度や、エアコンの電力消費量などの使用条件にも左右されるため、実際の航続距離は短くなる可能性がある。

図1:チェンナイにおける四輪EVの価格、バッテリー容量、航続距離
販売価格が80万ルピーから90万ルピーのEVは、バッテリー容量が20キロワットアワー前後で航続距離が250キロメートル程度。販売価格が120万ルピーから150万ルピーのEVは、バッテリー容量が30キロワットアワー前後で航続距離が300キロメートル程度。販売価格が240万ルピーから260万ルピーのEVは、バッテリー容量が40キロワットアワーから48キロワットアワーで、航続距離が450キロメートル程度。販売価格が高いEVほど、バッテリー容量が大きく航続距離が長いことが分かる。参考情報として、台数が多く販売されているガソリン・CNG小型車のバッテリー容量は0で、販売価格帯が50万ルピーから80万ルピーであることを表している。

出所:展示車両情報を基にジェトロ作成

1日の走行が市内移動中心、通勤などの単純往復で、毎日自宅で充電できる環境があればよいが、長距離移動時には道中での充電が不可欠である。車種によっては充電量80%までは急速充電が可能だが、バッテリー性能保護のために80%から100%までの充電時間は遅くなる点にも留意する必要がある。なお、充電場所や充電コネクター情報を提供する無料のアプリが存在する(図2参照)。これによれば、設置場所はまだまだ市内が中心で、郊外や幹線道路への設置は進んでいないことが一目瞭然である。

図2:アプリによる設置場所案内と充電可能なコネクターの種類
充電ステーションがどこに設置されているかが地図上に表示されるアプリの画面。地図上に、現在地周辺にある充電ステーションの場所が表示されている。行きたい充電ステーションの場所をタップすると、充電ステーションの名称、住所、現在地からの距離、営業時間が表示される。さらに、その充電ステーションに設置されている充電コネクターの形状も表示される。 サンプルでタップされているタタモータース・ラクシュミモータースは、現在地から10キロメートルの距離にあり、営業時間は24時間。充電コネクターは、3種類が利用できることが分かる。

注:現在採用されている充電コネクターの形状はCCS-2(Combined Charging System Type-2:欧州規格)が多い。この他に、北米や韓国で主流のCCS-1や、日本の電力会社、自動車会社がグローバル規格として提案したCHAdeMOなどがある。
出所:TATA POWER ez CHARGEアプリ

四輪EVの特徴

2022年12月現在、チェンナイのガソリン価格(日本のレギュラー相当)は1リットル当たり約110ルピーと、日本と比べても決して安くはない。ガソリン車の燃費が1リットル当たり20キロメートルと仮定すると、250キロメートル走行時のコストは1,375ルピーとなる。これに対して、四輪EV[バッテリー19.2キロワットアワー(kWh)、カタログ航続距離250キロメートル]の場合、バッテリー容量をすべて使い切ると仮定すると、同距離を走行するのにかかるコストは127ルピー、と10分の1以下で、明らかにランニングコストが低いことがわかる。

なお、現在販売されている四輪EVと同車格のガソリン車・CNG車のスペックを比較すると、車重は20~30%増加している。これは、主にバッテリー増によるもので、およそ大人3人分に相当する。あるメーカーのモデルは、現行ガソリン車の車体を流用しており、タイヤサイズも同じであるため、負荷率を考えると安全面での心配が残る点は否めない。

EVは内燃機関を持たず、エンジン音や排気音もなく、振動も少ないため、加速もスムーズなので、渋滞の多いインド市場でストレスなく走行できると考える。また、回生ブレーキ機能も備えているため、今まで無駄に捨てられていた運動エネルギーが有効に活用されているので、効率の良い車と受け止められるだろう。

四輪EVの競合車

インドは、米国・中国に続く世界第3位の石油消費国であり、石油の輸入削減や環境問題への対応などの観点から、バイオ燃料の生成を急いでいる。このバイオ燃料を使うフレックス燃料車は、米国やブラジルで既に普及している。インドは世界第2位のバイオエタノール生産国ブラジルとバイオエネルギー分野で2国間協力を結んでいることから、フレックス燃料車がインド市場に登場するのは時間の問題だろう。

この他の動きとしては、排気ガスは水蒸気のみという燃料電池車(水素自動車)の市場実験も始まっている。将来的に、グリーン水素自動車が実現できれば、CO2削減に大きな効果をもたらすだろう。グリーン水素生成への投資発表は連日、紙面をにぎわせている。

四輪EVはインド市場に受け入れられるか

インドでの四輪EVの普及については、充電インフラ拠点や再生エネルギー源が少ないことをはじめ、いくつかの解決すべき課題が残されている。ランニングコストの安さに引かれて乗り換えを急ぐのではなく、さまざま角度から慎重に考え、様子をうかがっているインド人も少なからず存在する。世界的な排ガス規制、企業平均燃費(CAFE)規制(注)などの流れもあり、将来的にはインド市場もEVを受け入れることになると考えられるが、そのスピードは「徐々に」となる可能性が高い。今後、新技術を投入した環境にやさしい車の登場が計画されており、引き続き本動向から目が離せない。


注:
CAFEは、Corporate Average Fuel Efficiency の略称。車種別の燃費基準ではなく、自動車メーカー別で販売している全ての車種の平均燃費(CO2排出量)を算出し、年間販売台数などを加味した一定の基準を超えた自動車メーカーに罰金を科す規制。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所 海外投資アドバイザー
淺羽 英樹(あさば ひでき)
大手自動車部品メーカーに34年間勤務。商品設計・評価、品質保証、マーケティング、代理店支援・販路拡大など、モノづくりからお客様対応までの全般業務を経験。サウジアラビア、ドイツ、タイ、ブラジルで、通算17年の勤務経験あり。2022年3月から現職。