リアルの出展・来場者数ともに前年比大幅増(ドイツ)
ハノーバーメッセ開催(1)

2023年6月8日

産業技術の専門展示会ハノーバーメッセが2023年4月17~21日、ドイツ・ニーダーザクセン州ハノーバーで開催された。主催者のドイツメッセによると、今回は62カ国・地域から4,000社以上が出展し、来場者数は約13万人だった。前回2022年(2022年7月8日付地域・分析レポート参照)と比較すると、出展者数は60.0%増(前回は約2,500社)、来場者数は73.3%増(同約7万5,000人)となり、リアルの出展・来場が本格的に復活しつつある流れとなっている(2023年5月10日付ビジネス短信参照)。一方、オンライン参加によるデジタルでの来場者数は前回と同様約1万5,000人と、横ばいだった。

2023年のメインテーマは「産業変革―変化をもたらす」(Industrial Transformation-Making the Difference)とされ、気候中立な生産のためのハイエンド工業製品、水素関連技術、製造業DX、人工知能(AI)、エネルギーマネジメントなどに関連した展示に注目が集まった。

4月16日のオープニングセレモニーで開会を宣言したドイツのオラフ・ショルツ首相は、気候中立とデジタル化に向けての産業変革を成功させるには、自由で公正な貿易、強靭(きょうじん)なサプライチェーン、十分な原材料の確保が必要であると述べ、特に原材料の調達にあたり過度な依存のリスクを低減し、サプライチェーンを多元化すべきとの考えを示した。


ハノーバーメッセ会場(ジェトロ撮影)

パートナー国のインドネシアをはじめ、アジア諸国が存在感を示す

今回のハノーバーメッセでは、インドネシアがパートナー国(注)となり、ホール2に同国の広大なパビリオンを設営、総計150社以上が出展した。日本のトヨタ自動車などに部品を納入しているという精密部品メーカー、ヨグヤ・プレシシ・テクニカタマ・インダストリのペトルス・テジャ・ハプソロ社長は、将来は航空機産業への本格参入を目指している、と意気込みを語った。

今回、日系企業は計44社(日本法人と海外現地法人)が様々な分野に分かれて出展し、今回のメッセのテーマである「産業変革」への期待に応え得るキラリと光る製品や技術をアピールした。日系企業の出展は、(1)地球温暖化対策(カーボンニュートラル、再生可能エネルギー・水素)、(2)少子高齢化対策(無人化、省人化、高齢者対応機器)など地球規模の課題解決に資するソリューション提供、(3)日本製装置・部品・技術の海外展開、(4)自治体の取りまとめによる出展、に大別される〔日系企業は水素や無人・省人化分野で攻勢(ドイツ)参照〕。

他のアジア諸国・地域では、中国、韓国、台湾、インドからの出展も目立った。とりわけ中国は、2022年は新型コロナ禍の影響で中国本国からの参加が大幅に縮小された状況から一転し、2023年は全体でも圧倒的多数と見られる企業が出展し、復活を印象付けた。

来場者についても、ドイツメッセは、ドイツ、オランダに次いで、中国、韓国、ポーランド、米国からの来場が多かったと発表。出展、来場ともに中国、インドネシア、韓国などアジア諸国が存在感を示した。

ドイツの中小企業やスタートアップは日本との協業に関心

ミクロプシ・インダストリーズ(Micropsi Industries)は、元々はベルリン発スタートアップで、AI利用のロボット制御システムをメーカーに提供している。同社のカメラとソフトウェアを装着したロボットアームは、対象アイテムが本来の定位置からずれていてもカメラで見つけて取りに行くことができると、メッセ会場で来場者にアピールしていた。同社は、日本の大手工作機械メーカーのファナックやデンマークのユニバーサル・ロボットのパートナーとなっているが、今後、日本でのビジネス拡大に力を入れる方針とのこと。


ミクロプシ・インダストリーズが紹介したロボットアーム(ジェトロ撮影)

アンバーテック(AMBARtec)は、ザクセン州発スタートアップだが、ニーダーザクセン州にも拠点があるため、今回は同州のブースで出展していた。酸化鉄と水素の還元反応を利用した水素貯蔵方法を開発し、水素の貯蔵・輸送が可能なコンテナの量産を目指している。同社のマティアス・ルトロフ最高経営責任者(CEO)は、従来の水素貯蔵・輸送方法と比べ、効率性と安全性において有利である上、25%以上のコストダウンが可能と説明し、量産に向けて水素の貯蔵と輸送のインフラに投資するパートナー企業とのマッチングに期待する考えを示した。

日独のビジネス界は連携に期待、ジェトロは日本製装置・部品・技術の海外展開を支援

ショルツ首相は就任後、2023年3月に開催された初の日独政府間協議を含め既に3回訪日するなど、ドイツの現政権は日本を重視する姿勢を見せている。日独間では官民のハイレベルの交流が続いており、ビジネス界からも両国間の連携強化に期待の声が上がっている(2023年3月22日付ビジネス短信参照)。

こうした流れも背景に、今回、ジェトロは日本の中小サプライヤーの部品や素材を紹介するオンラインカタログ/ビジネスマッチングシステムである「Japan Street」の普及・広報ブースを運営した。会期中、世界各国のバイヤーがブースを訪れ、地元ドイツ、インドネシア、インドなどの事業者が新規登録を行った。日本の部品や素材について、ドイツはじめ欧州、さらにはアジアの関係者が関心を示していると実感することができた。4月17日には加藤喜久子・在ハンブルク日本国総領事館総領事が、同18日には柳秀直・在ドイツ日本国大使館特命全権大使がジェトロ・ブースを視察した。


加藤喜久子・ハンブルク総領事がジェトロ・ブースを視察(在ハンブルク日本国総領事館提供)

また、4月19日には、ジェトロは「Japan Street」のPRのため日本セッションを開催し、日本の中小企業の優れた製品や技術に注目してほしい、とドイツはじめ各国からの参加者に呼びかけた。同セッションでは、今回のメッセに出展した中小企業3社(高石工業、英幸テクノ、ナカムラマジック)が登壇し、各社のユニークな製品・技術をアピールした。同セッションは、2021年12月にジェトロとドイツ貿易・投資振興機関(GTAI)が共同で立ち上げた「日独イノベーション・イニシアチブ160」のフォローアップ事業としても位置付けられ、今後の日独産業協力を促進する機会ともした。

ハノーバーメッセ2024へ向けて

次回のハノーバーメッセは、2024年4月22~26日に開催予定である。今回は、アジア諸国が各所で整然と取りまとめられたブースを設営し、プレゼンスを示していたのに対し、日系企業は分散した形での出展が多かった。2024年は、出展企業の希望を踏まえつつ、可能な範囲で日系企業がまとまった形で出展することも検討の余地があるのではないかと考える。

ハノーバーメッセ日本代表の竹生学史氏によれば、次回のハノーバーメッセ2024へ向けて、出展検討の連絡や資料の請求が、新型コロナ禍前の2019年と比べても早い段階で来ているそうだ。同氏は「2024年もDXやオートメーション、高品質な部品などに加えて、水素をはじめとするエネルギー分野に特に力を注いでいく。ジェトロや関連する団体とも連携し、日本からの出展のプレゼンスをさらに高めていきたい。また、ハノーバーメッセには、毎年、定点観測的にご来場いただき、ドイツや欧州だけでなく世界の製造業がどう進んでいくかを体感していただきたい」と話す。

ハノーバーメッセは、ドイツで最も著名な見本市であり、会期中、個別の商談はもとより各界のキーパーソンと意見交換が可能となる、またとない交流の場である。次回のハノーバーメッセ2024についても、日本のプレゼンスをしっかりと示しつつ、日系企業のビジネスを前進させる絶好の機会として最大限活用したい。


注:
毎年1カ国に焦点を当てて、その国の技術、製品などをハノーバーメッセの中で集中的にプロモーションする制度。

ハノーバーメッセ開催

  1. リアルの出展・来場者数ともに前年比大幅増(ドイツ)
  2. 日系企業は水素や無人・省人化分野で攻勢(ドイツ)
執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所長
和爾 俊樹(わに としき)
1993年、通商産業省(現経済産業省)入省。復興庁参事官、貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易審査課長などを経て、2021年8月から現職。