大同メタル、チェコで洋上風力発電機用軸受けの生産へ

2023年6月30日

大同メタル工業(本社:愛知県名古屋市中区、以下、大同メタル)は5月10日、チェコ現地法人の大同メタルチェコ(ブルノ市)の敷地内に、欧州市場向けに洋上風力発電機用の主軸受けを生産する新工場の建設に着工したと発表した。投資額は60億円で、2025年の生産開始を見込む。

大同メタルチェコの主な顧客は現在、自動車メーカーだ。しかし、今後は風力発電分野の事業も拡大する意向という。チェコでの事業展開と今後の見通しについて、同社の高木敏彦社長に聞いた(取材日:2023年5月30日)。

エンジン用軸受けで欧州の自動車産業を支える

大同メタルチェコは、ブシュ(円筒形すべり軸受け)の生産拠点として2005年に設立された。同製品は主に自動車のショックアブソーバーやステアリング用のほか、自動車以外の各種産業用にも使用されている。2010年にはエンジン用すべり軸受けの生産を開始したほか、2014年には欧州テクニカルセンターを設立し、製品の性能評価や研究開発業務を行っており、大学との共同研究や卒業生をテクニカルセンターの社員に採用するなど、地元の大学との協力関係を構築している。現在の従業員数は、日本人出向者4人を含めて270人だ。

大同メタルチェコのエンジン用軸受けの主な顧客は欧州の完成車メーカー(OEM)だ。大同メタルの自動車エンジン用軸受けは、世界シェアトップ(2022年暦年の同社推定36.7%)を誇る。


ブシュ(大同メタルチェコ提供)

エンジン用軸受け(大同メタルチェコ提供)

大同メタルの欧州生産拠点は、チェコのほか、英国、モンテネグロにもある。英国では船舶、発電機用などの軸受けを生産している。モンテネグロでは、チェコと同様に自動車エンジン用軸受けを生産する。欧州でのテクニカルセンターは、チェコ、英国、ドイツに構えている。

風力発電機事業に参入で、ビジネス多様化へ

大同メタルチェコは、欧州で開発中の洋上風力発電機向けに主軸受けを供給する契約を締結したことに伴い、敷地内に新工場を建設する。大同メタルでは、大きく変化する市場環境の中で、新規事業の創出を大きなチャンスと捉えている。さらには、グリーンエネルギーへの貢献としても、風力発電用軸受けの積極的な市場開拓に取り組む方針だ。同社が得意とするすべり軸受けは、大型化が進む洋上風力発電分野で強みを発揮する。すべり軸受けは分解して運搬することが可能なため、風力発電機の保守や部品交換の際に洋上までの運搬や交換作業を円滑に行うことができる。従来型の転がり軸受けは分割することができないため、大型化した部品を大型船舶で運搬し、風車(ブレード)をクレーンで取り外して洋上で作業することが必要になるなど、交換のためのコストがかかることや、交換時間が長いため発電を中断する期間も長くなる点が課題だった。なお、同社によると、洋上風力発電機の軸受けにすべり軸受けが採用された事例は、今回が世界で初めてだ。

2023年4月に建設を開始した新工場の建屋面積は約1万平方メートルで、2025年に生産を開始する予定だ。当初の従業員数は20~30人で、年間300基の生産を目指す。また、洋上風力発電機の主軸受けの評価試験やギアボックス軸受け材料の基礎研究にも取り組む予定だ。


大同メタルチェコの社屋正面(大同メタルチェコ提供)

隣接する新工場建設地(ジェトロ撮影)

ものづくりの国・チェコの実績生かす

2005年に生産拠点を設立した際、チェコの利点は「人件費が相対的に安価な点、顧客がいるドイツや東欧へのアクセスが便利な点だった」(高木社長)。今回の風力発電機用軸受けの生産拠点の選択に当たっては、「欧州は洋上風力発電の世界最大の市場で、今後さらに成長が見込める市場環境や、欧州自動車メーカーの高い要求に応え続けてきたチェコ工場の『ものづくりの実績』などを評価して決定した」としている。

人材確保とエネルギー価格対策が課題

チェコの事業環境に関して、高木社長は、労働市場がタイトな点を懸念の1つとして挙げた。チェコは失業率がEUで最も低く、同社の生産ラインでは約50人のウクライナ人が働いている。ロシアのウクライナ侵攻が長引くと、人材の確保・定着に影響を与えるおそれがある。また、エネルギー価格も侵攻前の3倍の水準に高騰するなど、影響は大きい。

なお、洋上風力発電機向け軸受けの生産に関しては、政府に投資インセンティブの適用を申請している。チェコでは4月20日から、エネルギー効率の改善や省エネに寄与する製品の製造に対する投資優遇措置を開始している(2023年4月6日付ビジネス短信参照)。同社の申請結果については現時点では不明だ。

また、一般的にEUの環境規制は他地域より厳しい。このような規制への対応は、短期的にはコスト要因になる。もっとも、技術力を生かして対応することにより、中長期的にはメリットが大きいと高木社長は考えている。大同メタルでも、エンジン用軸受けに、当初は鉛を使用していた。その後、EUの鉛規制を受けて製品開発を進め、他社に先駆けて無鉛の製品を開発し、生産で先行することができた。それをきっかけに、現在では世界中で同製品が使われている。今後さらなる環境規制が行われると予想しており、EUの厳格な環境規制の下で開発・製造をすることで、同社が「二酸化炭素(CO2)削減など環境面で世界の先駆けとなることを期待する」と高木社長は述べた。

執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所
志牟田 剛(しむた ごう)
1999年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課、ジェトロ鳥取、ジェトロ・ワルシャワ事務所、ジェトロ浜松などを経て、2021年6月から現職。著書(分担執筆)『欧州新興市場国への日系企業の進出』、『脱炭素・脱ロシア時代のEV戦略』(いずれも文眞堂)など。
執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所
中川 圭子(なかがわ けいこ)
1995年よりジェトロ・プラハ事務所で調査、総務を担当。