特集:欧州が歩む循環型経済への道広がりつつあるリサイクル促進の取り組み(チェコ)

2020年6月12日

廃棄物の埋め立て量の削減とリサイクル率の向上に向けて対策が急がれるチェコ。政府・関係省庁は循環型経済への移行を見据えた新たな政策や計画を打ち出すなど、第一歩を踏み出したところだ。一方、リサイクルに向けた民間企業の取り組みや普及団体の活動が、政府の施策に先行している。本稿では、循環型経済を目指すチェコの動きを報告する。

最大の課題は埋め立て処理の削減

チェコ統計局の発表によると、2018年のチェコの廃棄物排出量は、産業廃棄物が2,419万トン、都市ごみが416万トンだ。処理方法については、産業廃棄物は約84%をリサイクルが占めるのに対して、都市ごみは50%近くを埋め立てに頼っている(表1参照)。

表1:廃棄物排出量と廃棄物処理の割合
項目 産業廃棄物 都市ごみ
排出量
[万トン]
リサイクル 焼却 埋め立て 排出量
[万トン]
リサイクル 焼却 埋め立て
統計局 2,419 83.7% 3.0% 13.3% 416 34.5% 16.5% 49.0%
環境省 3,200 91.5% 1.9% 2.8% 578 38.6% 11.8% 46.0%

注:「産業廃棄物」の処理方法の割合については、廃棄物全体から都市ごみを差し引いて計算。
出所:チェコ統計局、環境省データからジェトロ作成

欧州委員会は2018年6月の欧州議会・理事会指令2018/850で、循環型経済への移行を達成するための目標値として、都市ごみのリサイクル率を2035年までに65%まで引き上げることとした。同時に、埋め立て処理する都市ごみの量を2035年までにごみ全体の10%以下に制限することも、目標に掲げている。2018年時点で都市ごみの49%を埋め立て処理しているチェコにとって、その量を削減しリサイクルを促進することが最大の課題だ。

チェコ環境省は2015年に、EU指令に基づき廃棄物管理計画「Waste Management Plan 2015-2024」を発表していた。2019年12月に、これを改訂する新廃棄物管理計画「Waste Management Plan 2025-2034」が国会で承認された。この計画に基づいた新たな廃棄物法が、2020年7月までに制定される予定だ。新計画では、2030年以降の埋め立て条件の厳格化と埋め立て料金の引き上げを提案している。2030年から1キロ当たり6.5メガジュール以上の熱量を発生する廃棄物などの埋め立てが禁止されることになる。

また、埋め立て処理場は、自治体に1トン当たりの基礎料金を支払う義務がある。この料金が2020年の500コルナ(約2,200円、1コルナ=約4.4円)から2030年に1,850コルナまで段階的に増額されることが予定されている(表2参照)。廃棄物処理施設が受け取るゲート料金(注)は通常、基礎料金の2倍から3倍に設定されるため、これまで埋め立て処理を依頼していた事業者にとってコストが上昇することになる。この結果としてリサイクルや焼却を優先する可能性が高くなると期待される。

表2:埋め立て処理の基礎料金(単位:コルナ)
2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028 2029 2030
基礎料金 500 800 900 1,000 1,250 1,500 1,600 1,700 1,800 1,850 1,850

出所:環境省「Waste Management Plan 2025-2034」

欧州委員会はリサイクル率を引き上げ、埋め立てを削減する方針を示している。これに対して、チェコ環境省は埋め立て削減に向けた計画を発表しているものの、リサイクル促進への具体的な計画は発表していない。特徴的なのは、リサイクルよりも焼却によるエネルギー回収を推進する動きが見られる点だ。チェコには現時点で4つの都市ごみ焼却施設が存在し、合計で年間76万トンの焼却容量を持つ。各種報道などによると、現在、既存施設の拡大と新設施設の建設合わせて4件のプロジェクトが計画され、実現すれば年間の焼却容量が64万トン増加する予定だ。このうちベオリア・エナジー社はプルジェロフ市に廃棄物固形燃料とバイオマス燃料のエネルギー回収施設を建設し、2022年の運営開始を予定している。

なお、チェコの廃棄物データは表1に示すとおり、環境省とチェコ統計局のデータの2種類が存在する。政策の根拠になっているのは環境省の統計だが、既に述べた焼却施設計画の推進に向け、環境省は都市ごみ排出量を多く示すことで計画を進めやすくしようとしているとの見方もある。欧州委員会がEU加盟国の統計として取りまとめているユーロスタットでは、チェコ統計局のデータを使用している。

循環型経済の普及に向けた動き

リサイクル促進に向けた具体的な計画は、環境省ではなく産業貿易省が提案している。同省はリサイクル率と2次資源の使用割合を高めることを目的に、「Politics of Secondary Raw Materials Czech Republic 2019-2022」という政策を提案し、2019年7月に政府の承認を得た。この政策では5つの目標と19の課題を挙げた(図参照)。第1目標の「再生材料の自給率の向上」から第5目標の「循環型経済監視・評価のため定期的な調査の実施」までを達成することで、循環型経済への移行に貢献できるとする。都市ごみだけでなく、産業廃棄物や再生資源も対象にし、これまでの調査結果を根拠に、素材ごとに具体的な改善も提案している。また、リサイクルを促すために革新的な取り組みを行う企業に、EU補助金を支給している。

第4目標には「啓発活動の促進」が掲げられている。その実現には、政府と協力関係にあるNGO・NPO団体「INCIEN」が大きく貢献している。INCIENは、循環型経済の専門家を多く輩出しているオランダのワーゲニンゲン大学の卒業生を中心とした団体で、チェコで循環型経済への移行を推進する活動を行っている。2019年にはブルノ市で開催された製造業関連の国際見本市の国際エンジニアリングフェア(MSV)で、産業貿易省とチェコインベスト(チェコ投資庁)、在チェコ・オランダ大使館などの協力を得て、循環型経済の普及を目的とした会議を開催した。ブルノ市とプラハ市の循環型経済戦略の策定と政策の制定にも貢献している。また、循環型経済への移行を成長市場と捉えて自主的に取り組んでいる民間企業とパートナーシップを組み、事業計画を支援する。教育活動にも熱心で、大学での専門講座実施、環境に関心を持つ学生に対する民間企業でのインターンシップ活動の支援、研究活動への協力などを提供している。

図:政策における5つの目標

出所:Politics of Secondary Raw Material Czech Republic 2019-2022

リサイクルを成長市場と捉えた企業の動きも

チェコでリサイクルに取り組む事例の中で最も実績を上げている企業の1つとして、コマ・モジュラー(KOMA Modular)が挙げられる。「オフサイト建設」システムを使用したモジュール式の建物を提供する建設業者だ。オフサイト建設とは、最終的に設置する場所と異なる場所(生産工場)で建築物を製造し、現場で組み立てる建築方式のことを言う。モジュール式の建物は容易に解体することができ、別の建物に使用するなどリサイクルが可能だ。作業時間の節約とコスト削減にもなるため、建築業界でも注目されている。同社の技術はドイツやスロバキア、ウクライナ、イタリア、スイスなどで教育施設やスポーツ施設、移民のための仮設住宅などで使用例がある。2015年のミラノ国際博覧会のチェコ・パビリオンにも同社のモジュール式建設が使われ、2,000平方メートル以下のパビリオン建築部門で銅メダルを獲得した。このパビリオンは現在、チェコ国内のビゾビツェ市に移転され、再活用されている。モジュール式建物は流行やニーズに柔軟に対応できるのもメリットの1つだ。プラハ市で話題のレストラン屋台「マニフェスト・マーケット」でも、同社のモジュール式建物が使用されている。


2015年ミラノ国際博覧会のチェコ・パビリオンの
建物はビゾビツェ市に移転され、現在も使用されている
(KOMA Modular提供)

マニフェスト・マーケットの様子
(KOMA Modular提供 撮影者:Michael Tomes)

前述のINCIENとパートナーシップを組んでいるERC-TECHも、建設分野でリサイクルの取り組みを進める企業だ。同社は、これまで建設廃棄物と見なされていたコンクリートやれんが、セラミック、屋根瓦、ガラス、敷き石などを粉砕して混合し、同社開発のナノフィラーを使用して添加剤を加えることで、従来のコンクリートと同様の品質を保つことのできるリサイクルコンクリート「ercコンクリート」を開発・生産する。同社は2019年に建設大手のスカンスカ(スウェーデン)とパートナーを結び、オロモウツ市で「ercコンクリート」を使用した1万4,000平方メートル規模の建設プロジェクトを進めている。169カ国で国際特許を取得しており、ライセンス契約方式でパートナーを募集している。チェコの建設規則では、民間主導プロジェクトの場合は、コンクリート自体が規則の定める品質を満たしていれば、使用するリサイクル素材の割合などの制限は設けていない。公共プロジェクトの場合は、建築資材に使用するリサイクル素材の割合に30%までの制限があるが、「ercコンクリート」は従来のコンクリートと変わらない品質を保証することから、対象外の扱いという。同社はまた、産業貿易省と環境省立ち上げの作業部会に専門家として参加し、建設廃棄物のリサイクルに関する規制の見直しに取り組む。今後2年間以内に、EUや米国、中東、中国、日本で現地の建設業者の協力を得てプロジェクトの実施を目指す。

民間の3つ目の取り組み事例として、プラスチックのリサイクル業者(売り手)とメーカー(買い手)をつなぐプラットフォームを運営するCYRKLを紹介したい。同社は、機械学習を活用して売り手と買い手をマッチングするデータベースを運営する。2019年に設立された比較的新しい企業だ。前述のスカンスカやリドル(ドイツ)、イケア(スウェーデン)、シュコダ・オート(チェコ)といった各産業のリーディングカンパニーを含む250社以上が登録している。同プラットフォームにプラスチック素材が登録されると、人工知能(AI)が最適な企業(買い手)を探し出し、それらの企業に登録情報が通知される仕組みだ。

欧州委員会が2018年1月に発表した「循環型経済における欧州プラスチック戦略」では、2030年までに全てのプラスチック包装のリサイクル徹底を目指しており、EUではプラスチック分野の循環型経済への移行を積極的に推し進めている。チェコ国内には、本稿で取り上げたCYRKL以外にも、プラスティア、プラスチックユニオン、トランスフォームなどプラスチック廃棄物のリサイクルに取り組む企業が多い。さらに、最近の動きとして3月に、チェコインベストがINCIENと協力して、循環型経済に取り組む企業を紹介するプラットフォーム「ホットスポット」を立ち上げている。


注:
ゲート料金:廃棄物処理施設で受け取った廃棄物の量に応じて課される料金
執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所 プロジェクト・コーディネーター
マルティン・シュトゥルマ
2015年からジェトロ・プラハ事務所に勤務。農林水産食品輸出事業、サービスとインフラ進出支援事業、招聘プログラム、調査業務、システム管理などを担当。
執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所
山根 夏実(やまね なつみ)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部を経て2019年12月から現職。