特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解くコロナ禍でECビジネスが急成長、日本企業に商機も(バングラデシュ)

2021年6月14日

バングラデシュは新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染拡大前の2018/2019年度(2018年7月~2019年6月)、8.15%の経済成長を遂げていた。この成長率は過去最高だった。しかし、2020年3月以降、世界的な新型コロナ感染の影響を例外なく受ける。同年3月から5月まで約2カ月間にわたりロックダウンを実施。経済成長の停滞を余儀なくされた。一方、2019/2020年度(2019年7月~2020年6月)は、5.24%の経済成長率を達成。他国に比して高い経済成長を維持することができた。コロナ禍で、主要産業だった輸出志向型産業(衣料品など)は停滞した。しかし、旺盛な消費を中心とする内需が底堅い。1億7,000万の人口を背景に、国内総生産(GDP)の74.7%(2019/2020年度)は消費が占める。これが、経済成長を支える土台となった。新型コロナによる経済活動の制約下においても、人々が日々の生活の歩みを止めることはなかった。ステイホームや非接触を前提とした電子商取引(EC)やフードデリバリー、モバイルペイメントという、新たな技術を活用したサービスの利用が急速に進んだ。政府はこれらを「社会インフラとしてのデジタルサービス」として位置づけ、積極的に活用を推進してきた。

コロナ禍でEC利用が急拡大

バングラデシュでは、感染拡大以前からECの利用が進んでいた。コロナ禍により、その活用が格段に押し上げられた。

EC業者が加入するバングラデシュeコマース協会(e-CAB)によると、2021年5月時点の会員数は1,500社。対して、2020年当初は、1,000社だった。新型コロナ感染拡大中に大幅増加したことになる。バングラデシュ銀行(中央銀行)が発表した統計PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(32.83KB)によると、2019年のECによる取引件数および取引金額(いずれもカード決済のみ)は、1,634万7,503件、235億5,800万タカ(約306億円、1タカ=約1.3円)だった。2020年はそれぞれ1,962万4,441件(前年比20%増)、514億2,200万タカ(約668億円、前年比2.18倍)と取引件数、取引金額ともに増加している。EC利用者はキャッシュオンデリバリー(代金引換払い)での支払いが9割以上を占めるため、カード決済の利用は限られる。だとしても、カード決済の成長率から、同産業の成長を垣間見ることができる。e-CABのジャハンギル・アラム・ショボン・ジェネラルマネージャーは「ECは2015年から2019年までは毎年25%の成長を見せていた。コロナ禍の2020年は50%の成長を遂げた。分野別にみると、特に食料雑貨品が300%、医薬品は200%という急成長を遂げた」と話す。

図:カード決済による電子商取引(EC)取引額(単位:100万タカ)
取引金額は1月は2019年が19億3,500万タカ、2020年は26億9,300万タカ、2021年は66億400万タカ。2月は2019年が14億5,100万タカ、2020年は24億7,100万タカ、2021年は66億3,400万タカ。3月は2019年が17億タカ、2020年は22億4,000万タカ。4月は2019年が16億8,800万タカ、2020年は25億4,400万タカ。5月は2019年が18億7,400万タカ、2020年は44億9,500万タカ。6月は2019年が16億9,900万タカ、2020年は49億1,400万タカ。7月は2019年が21億600万タカ、2020年は64億400万タカ。8月は2019年が17億7,000万タカ、2020年は48億8,900万タカ。9月は2019年が19億5,300万タカ、2020年は40億6,000万タカ。10月は2019年が21億1,000万タカ、2020年は54億3,100万タカ。11月は2019年が26億5,100万タカ、2020年は53億600万タカ。12月は2019年が26億2,100万タカ、2020年は59億7,500万タカ。

出所:バングラデシュ銀行

「オーダーから1時間以内のデリバリー」をモットーに新たな目標掲げる

食料雑貨品を取り扱うEC業界最大手のチャルダル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(Chaldal)は、コロナ禍で急成長を遂げたプラットフォームの1つだ。同社は2013年に創業し、現在ダッカを中心に約7万人の顧客を抱える。ワシム・アリム最高経営責任者(CEO)は、「新型コロナの影響により顧客の利用頻度が倍増し、2020年には前年比130%の成長を遂げた。顧客のリピート率は85%と非常に高い」と話す。同社は、「オーダーから1時間以内のデリバリー」をモットーにサービス展開する。人口密集地のダッカ市内に、中央倉庫のほか、デリバリー拠点となる配送倉庫を16カ所有。これによって、迅速な配送が可能になっている。

同社は、国際金融公社(IFC)や国内ベンチャーキャピタル(VC)のIDLCなどからも資金を調達。配送管理システムや在庫管理システムを自社開発した上で、事業展開する。2020年12月単月の売上高は330万ドルだった。前年同月の100万ドルから、約3倍の成長を遂げたことになる。同社は、食料雑貨品の年間市場規模は50億ドル、小売り全体の市場規模を150億ドルと推計する。今後は、ダッカ市内の倉庫への追加投資、ダッカ以外の都市(クルナ、チョットグラム、コックスバザール)へのサービス展開を予定。2021年には月間売上高を1,000万ドルまで成長させることを目指す。さらには、他国への展開も視野に入れ、今後5年で月間売上高1億ドルという大きな目標を掲げる。

また同社は、世界食糧計画(WFP)から、6万世帯のロヒンギャ避難民への食料供給事業を受注した。このように、社会事業にも従事している。


チャルダルの商品倉庫(ジェトロ撮影)

ニーズの変化をいかに取り込めるか、専用プラットフォームの挑戦

商品や分野に特化したECプラットフォームも、好調な動きを見せる。2013年に操業したシャズゴジ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(Shajgoj)は専ら化粧品やトイレタリー用品などを取り扱い、着実にマーケットを取り込んでいる。同社によると、美容用品やパーソナルケアの市場規模は25億ドル。年間12.5%の成長を見せているという。同社サイトには、約10万人の顧客が、毎月計60万回アクセスする。顧客のリピート率は67%とのこと。

新型コロナにより、同社の売れ筋商品は大きく変わった。パンデミック前までは、化粧品や美容品がメインだった。しかし、新型コロナの感染拡大後には、行動様式の変化により、消毒液やマスクなどのヘルスケア商品が主力となった。

コロナ禍で、課題も表面化した。ロックダウン下では、デリバリーやロジスティクスの面は機能が不十分だったために、収益が逼迫。そのため、運転資金が不足し、従業員の減員や賃金減額などを余儀なくされた。

ロックダウン終了後は、市場が徐々に回復傾向にある。しかし、同社のナズムール・シェイク最高経営責任者(CEO)は、「いまだにオンラインマーケットの市場は小売り全体の1%未満にとどまる。将来は大きなシフトが起こると期待している。まずは、取扱商品の充実と多角化に取り組む。現在の年間売上高が450万ドルのところ、2023/2024年度には1億ドルまでの拡大を目指す。そのためには、物流機能の向上やインフラの改善が必要だ」と唱える。同社は、輸入品も多く取り扱っているため、高い輸入税が課題だ。一方で、海外からの模倣品などを排除するため、税関やバングラデシュ基準検査機関(BSTI)とも連携を進めている。


シャズゴジのナズムール・シェイク最高経営責任者(ジェトロ撮影)

フードデリバリーはサービス拡大で市民権

ECと同様に、新型コロナにより、急速な成長を遂げているサービスがフードデリバリーだ。コロナ禍以前から、フードパンダ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(foodpanda)のような外資系企業から、ハングリーナキー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(HungryNaki)、パタオフード外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(Pathao Food)、ショホジフード外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(shohoz food)などのローカルスタートアップまで、多くのプレーヤーが参入していた。しかし、コロナ禍により新たな展開を見せている。

バングラデシュにおける業界パイオニアと言えば、ハングリーナキーだ。同社のADアフメド最高経営責任者(CEO)は、「2020年3~5月のロックダウン期間中は40~50%のレストランが営業を停止し、オーダーは70~80%減少した。そのため、各フードデリバリー事業者は、スーパーマーケットと連携。食料品、生活用品、医薬品などのデリバリー分野にも拡大する動きを見せ、生き残りをかけていった」と話す。2020年11月に市場がロックダウン前同様の状態にまで回復すると、ハングリーナキーの利用者数は11月から3カ月のうちに200%増という急成長を遂げた。また、現地報道によると、業界最大手のフードパンダの配送員の数(2020年)は前年比300%増だ。フードデリバリーサービスの成長スピードが見て取れる。

2021年4月から、新型コロナ感染第2波に伴うロックダウンが実施されている。このような中でも、業界の急速な成長や政府による情報通信技術(ICT)産業支援もあり、フードデリバリーサービスについては、「操業可能」と政府通達に明記。ECと同様に「市民権」を得たかたちだ。

現在、フードデリバリーサービスは、ダッカ、チョットグラム、シレット、コックスバザールなどの主要都市での利用に限られる。しかし今後は、レストランが展開されている地方の中核都市などに拡大する余地が大きい。

冷蔵倉庫、在庫管理技術、現地プラットフォーム出店などで、日本企業に商機

国連貿易開発会議(UNCTAD)は、オンラインショッピングに対する各国・地域の経済の適応度を計るため「B2C E-COMMERCE INDEX 2020」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(750.58KB)を公表している。バングラデシュは、調査対象の152カ国・地域中115位だ。2018年(88位)、2019年(103位)から順位を落としている。UNCTADによると、バングラデシュへの評価に関して、郵便ネットワークの信頼性の低さやインターネットユーザー数(13%)の低さを挙げる。実際にEC事業者が事業展開するに当たり、インフラや物流の改善が課題という指摘も多い。前述のチャルダルのワシムCEOは、「日本企業への期待として、冷蔵倉庫への投資を挙げたい。特にダッカから遠い場所で収穫された農産品を保冷倉庫に保存できれば、インドへの輸出も可能となるだろう」と話す。さらには、ソフトウェア・ハードウェア双方の技術支援も日本企業に期待するとのこと。なお同社は将来的に、ロボット技術を活用し、在庫管理などの自動化を目指している。

さらに商品の多角化も、成長の機会を後押しするだろう。シャズゴジのナズムールCEOは、「日本企業の製品も同じプラットフォームで取り扱える。商品が消費者にマッチすれば消費者が日本企業の品質を知る機会になり、より一層、需要を創出することができるだろう」と日本企業の出店に期待する。

UNCTADの推計によると、バングラデシュでの2017年時点でのオンラインショッピングの利用者数は、インターネットユーザーの6%、人口の1.3%だ。今後の拡大余地は大きい。それは、コロナ禍におけるECプラットフォーマーの成長ぶりでも理解することができる。今後のさらなる発展のためには、拡大フェーズでの粗悪品や模倣品の排除、消費者保護なども課題になりうる。そのため、政府による協力・支援も必要となってくるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所 所長
安藤 裕二(あんどう ゆうじ)
2008年、ジェトロ入構。アジア経済研究所研究企画部、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、生活文化・サービス産業部、ジェトロ浜松などを経て、2019年3月から現職。著書に「知られざる工業国バングラデシュ」。

この特集の記事