特集:コロナ禍の中南米進出日系企業は今コロンビア進出日系企業の業況感、コロナ禍以前の水準に回復
デモや次期政権への不安感は高まる

2022年2月9日

ジェトロの「2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」で、コロンビアについては20社から回答を得た。同調査結果の中から、顕著な結果が表れた業況感、政治情勢と投資環境面のリスクについて、分析・解説する。

営業利益見込みは大幅改善

2021年のコロンビア進出日系企業の営業利益見込みは、「黒字」と回答した企業の割合が72.2%で、前回調査時から41.4ポイント増の大幅増を記録した(図1参照)。この増加幅は、コロンビアを含む中南米の調査対象7カ国の平均値(18.6ポイント)を大きく上回っている。また、前年と比べた2021年の営業利益見込みも「改善」との回答が50.0%の一方、「悪化」はわずか5.6%だったため、DI値(2021年の営業利益見込みが前年に比べて「改善」と答えた比率から「悪化」と答えた比率を引いた数値)は44.4を記録した。2020年調査時のDI値はマイナス53.9と中南米の対象国の中でも最悪だったところ、こちらも大幅に改善した(図2参照)。改善の理由としては、「現地市場での売り上げ増加」を挙げた企業が66.7%を占め最も多く、次いで「輸出拡大による売り上げ増加」(33.3%)だった。

図1-1:2021年の営業利益見込み
(2021年調査)
有効回答は18社。黒字は72.2%、均衡は5.6%、赤字は22.2%。

出所:2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

図1-2:2020年の営業利益見込み
(2020年調査)
有効回答は26社。黒字は30.8%、均衡は46.2%、赤字は23.1%。

出所:2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

図2-1:前年と比べた2021年の
営業利益見込み(2021年調査)
有効回答は18社。改善は50.0%、横ばいは44.4%、悪化は5.6%。

出所:2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

図2-2:前年と比べた2020年の
営業利益見込み(2020年調査)
有効回答は26社。改善は3.8%、横ばいは38.5%、悪化は57.7%。

出所:2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

コロンビアでは、2020年3月に非常事態宣言が発令されて以降、2020年8月末までは非常に厳格な外出制限措置が取られていた。これにより消費が落ち込み、2020年のGDP成長率はマイナス6.8%と統計史上最大のマイナス幅を記録した。その後、外出制限措置は徐々に緩和され、自治体ごとに医療提供体制の逼迫度合いやワクチン接種状況に応じて措置内容が定められるようになり、全国一律での厳しい措置は取られていない。前年の大幅な落ち込みから一転、反動増もあり、中央銀行は2021年のGDP成長率を9.8%と予測している。このような経済の復調が、日系企業の業況感にも好影響を与えた。

なお、本調査では2019年と比べた2021年の営業利益見込みについても質問したところ、「改善」もしくは「横ばい」を選択した割合は合計83.3%に上り、中南米7カ国の中で最も大きかった(図3参照)。企業活動の水準が、好況だった「新型コロナ禍以前」に戻りつつあると言える。また2022年の営業利益見通しについても、前年に比べ「改善する」と「横ばい」を足した割合は94.4%に上り、「新型コロナ禍」以前の営業利益が2022年も継続すると予測している企業が大多数であることがわかる(図4参照)。

図3:新型コロナ感染拡大前の2019年と比べた2021年の営業利益見込み
有効回答は18社。改善は44.4%、横ばいは38.9%、悪化は16.7%。

出所:2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

図4:2021年と比べた2022年の営業利益見込み
有効回答は18社。改善は44.4%、横ばいは50.0%、悪化は5.6%。

出所:2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

調達先へも人権に関する方針の準拠を求める企業が多数

今回の調査では、サプライチェーンにおける労働・安全衛生など人権に関する方針も聞いた。コロンビアでは、回答企業の60.0%が人権の問題を経営課題として認識しており、これは中南米7カ国の平均値とほぼ同じだった。しかし、自社で人権に関する方針を有しており、「調達先企業にその準拠を求めている」と回答した企業は55.0%に上り、中南米7カ国平均(33.3%)を大きく上回った(図5参照)。また「調達先企業に準拠を求めている」企業のうち9割超が、現地の調達先にも準拠を求めていると回答しており、これも中南米7カ国平均(76.2%)より高い数値だ。コロンビア進出日系企業は特に大企業が多く、また大企業の事業会社も限られているため、日本の本社が設定した調達における人権に関する方針を順守する企業が多いのではないかと考えられる。

図5:人権に関する今後の方針について
中南米全体では有効回答数456社で、「方針があり、調達先企業に準拠を求めている」が33.3%、「方針があるが、調達先企業に準拠は求めていない」が28.9%、「方針がないが、今後、作成する予定がある」が17.3%、「方針がなく、今後も作成する予定はない」が20.4%。メキシコは有効回答数231社で、「方針があり、調達先企業に準拠を求めている」が26.4%、「方針があるが、調達先企業に準拠は求めていない」が29.4%、「方針がないが、今後、作成する予定がある」が20.3%、「方針がなく、今後も作成する予定はない」が23.8%。コロンビアは有効回答数20社で、「方針があり、調達先企業に準拠を求めている」が55.0%、「方針があるが、調達先企業に準拠は求めていない」が20.0%、「方針がないが、今後、作成する予定がある」が15.0%、「方針がなく、今後も作成する予定はない」が10.0%。ペルーは有効回答数33社で、「方針があり、調達先企業に準拠を求めている」が45.5%、「方針があるが、調達先企業に準拠は求めていない」が33.3%、「方針がないが、今後、作成する予定がある」が5.1%、「方針がなく、今後も作成する予定はない」が15.2%。チリは有効回答数34社で、「方針があり、調達先企業に準拠を求めている」が35.3%、「方針があるが、調達先企業に準拠は求めていない」が38.2%、「方針がないが、今後、作成する予定がある」が11.8%、「方針がなく、今後も作成する予定はない」が14.7%。ブラジルは有効回答数101社で、「方針があり、調達先企業に準拠を求めている」が38.6%、「方針があるが、調達先企業に準拠は求めていない」が25.7%、「方針がないが、今後、作成する予定がある」が13.9%、「方針がなく、今後も作成する予定はない」が21.8%。アルゼンチンは有効回答数37社で、「方針があり、調達先企業に準拠を求めている」が37.8%、「方針があるが、調達先企業に準拠は求めていない」が27.0%、「方針がないが、今後、作成する予定がある」が24.3%、「方針がなく、今後も作成する予定はない」が10.8%。

出所:2021年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)

反政府デモや大統領選の行方に懸念

一方で、投資環境面のリスクとして、「不安定な政治・社会情勢」を懸念する企業が増加した。前回調査時に、同項目を選択した企業は46.2%だったが、今回60.0%に上った。

コロンビアでは2021年4月末に、税制改革に反対するデモが全国規模で勃発した(2021年5月7日付ビジネス短信参照)。このデモは6月中旬ごろまで継続し、多数の死傷者を出しただけでなく、主要道路の封鎖などもされたため物流にも打撃を与えた。今回のデモで最も抗議が激しかった地域の1つが、太平洋に面したバジェ・デル・カウカ県だ。同県には太平洋岸の港であるブエナベントゥーラ港があるが、そこから県都のカリ市をつなぐ道路をデモ隊が封鎖。ブエナベントゥーラ港を利用することの多い日系企業の物流にも影響が出た。6月には大規模なデモは収束したが、ここまでの規模のデモになったのは、税制改革への反対だけでなく、所得格差や政府の新型コロナ対策などへの種々の不満が積み重なったためとみられており、大規模な抗議活動が再燃することも否めない状況である。

また、2022年5月に実施される大統領選挙の行方も、日系企業にとって気になるところだ。現在、世論調査で最も高い支持率を得ているのは左派連合から立候補するグスタボ・ペトロ氏で、同氏はすでに輸入食料品に課す関税の引き上げや富裕層への増税などの経済政策を提案している。「不安定な政治・社会情勢」を懸念する企業が増加した背景として、次期政権がコロンビアで長く続いた中道派の政権とは異なる政治思想を持つ可能性があり、それにより政府の経済政策も大きく変わる可能性を危惧していることがあると考えられる。新政権が掲げる経済政策が、どのようなものになるのか注目が集まる。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
佐藤 輝美(さとう てるみ)
2012年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ・サンティアゴ事務所海外実習などを経て現職。