ポスト・シリコンバレーを探る-米国・エコシステム現地取材 研究開発基盤を強みに産学官が共創、リサーチ・トライアングル

2024年3月28日

リサーチ・トライアングル・リージョン(以下、リサーチ・トライアングル)は、1959年に米国ノースカロライナ州の州都ローリーの近郊にリサーチ・トライアングル・パークが設立されたのを契機に、全米屈指のバイオクラスターとして、ライフサイエンス関連企業を中心に集積が進む地域だ。名称の「トライアングル」は、全米でトップクラスの研究機関に分類されるデューク大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ノースカロライナ州立大学の3校を結んだ三角形に由来する。同地域では、ライフサイエンスを中心とした重点産業で、企業の研究開発拠点や大学の研究室などから生まれた新技術からスタートアップが生まれている。本稿では、リサーチ・トライアングルのスタートアップ・エコシステムの特徴と強みについて、同エコシステムを支える主要プレーヤーへのインタビューなどを基に報告する(注1)。

「三角形」から生まれるエコシステム

リサーチ・トライアングルが位置するノースカロライナ州は1950年代以前、たばこ、繊維、林業などが主要産業で、最も貧しい州の1つだった。貧困から抜け出して経済発展を図るため、州政府が州都ローリー、その周辺のダーラム、チャペルヒルを中心に、1959年に戦略的に開発したのがリサーチ・トライアングル・パークだ。いまや全米最大級のハイテクパークに発展したリサーチ・トライアングル・パークを中心に、全米トップクラスの研究機関のデューク大学(ダーラム)、ノースカロライナ大学チャペルヒル校(チャペルヒル)、ノースカロライナ州立大学(ローリー)の3校を結んだ三角形の地域全体をリサーチ・トライアングルと呼称している(図1参照)。

図1:リサーチ・トライアングルの位置
リサーチ・トライアングル・リージョンは、ノースカロライナ州の州都ローリーにあるノースカロライナ州立大学、近郊のダーラムにあるデューク大学、チャペルヒルにあるノースカロライナ大学チャペルヒル校の3つの研究大学を結んだ三角形の地域。ノースカロライナ州立大学からデューク大学は約37キロメートル、デューク大学からノースカロライナ大学チャペルヒル校は約13キロメートル、ノースカロライナ大学チャペルヒル校からノースカロライナ州立大学までは約40キロメートル。三角形の地域の中ほどに、ライフサイエンス分野を中心としたハイテクパーク「リサーチ・トライアングル・パーク」がある。

出所:リサーチ・トライアングル・リージョナル・パートナーシップ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますからジェトロ作成

リサーチ・トライアングルでは、ソフトウエアなどのテクノロジー(注2)、ライフサイエンス、アグテック(農業技術)、クリーンテック(環境技術)、先進製造業(Advanced Manufacturing)を重点産業としており、特に研究開発拠点が数多く設置されている。同州生まれの大手企業には、ソフトウエア企業のサス・インスティテュート(SAS Institute)や、半導体製造のウルフスピード(Wolfspeed)などがある。クリーンテックでは、日系のトヨタや大日本印刷、ベトナムのビンファスト、米国のフォージ・ナノなど少なくとも4社が州内での電気自動車(EV)向けバッテリー生産への投資を発表(注3)しており、EV・バッテリーテックの投資誘致にも力を入れる。

同地域は全米で5本の指に入るライフサイエンス・クラスター(注4)でもあり、特にバイオテクノロジー(以下、バイオテック)関連の企業集積が特徴的だ。州内のバイオテック関連企業を支援する非営利機関のノースカロライナ・バイオテック・センター(以下、NCバイオテックセンター)によると、州内のバイオテック関連は約830社。主な内訳は、研究開発(R&D)が478社、医薬品開発業務受託機関(Contract Research Organization:CRO)が167社、製造業が145社になっている。また、バイオテック関連の裾野産業では約2,500社が集積しているという。日系企業では、フジフイルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズ(以下、富士フイルム)やアステラス製薬が医薬品を製造している。

6社のユニコーン企業輩出

こうした企業集積と研究大学が立地するリサーチ・トライアングルでは、重点産業分野を中心としたスタートアップ・エコシステムが形成されている。2024年2月末時点でノースカロライナ州に本社を置くユニコーン企業は6社(注5)。中でも、2018年10月にユニコーン企業となったゲームマーケットプレースのエピック・ゲームズは企業評価額225億ドルに上り、世界でも有数のデカコーン企業(注6)だ。

ノースカロライナ州内のスタートアップ支援を行う非営利団体・起業家開発評議会(CED)が2024年2月に発表した「ノースカロライナ・ベンチャー・レポート(2023年版)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(25.16MB)」によると、2023年の州内のスタートアップ投資総額は前年比61.2%減の16億3,669万ドル、投資件数は20.4%減の214件になった(図2参照)。主要産業別では、テクノロジー関連の9億2,644万ドル(126件)、ライフサイエンス5億5,485万ドル(54件)が大きい。この両産業を合わせると、金額でも件数でも、総投資の約9割を占める。

図2:ノースカロライナ州のスタートアップ投資総額・投資件数の推移
ノースカロライナ州のスタートアップ向け投資総額と件数の推移。投資総額は、2018年27億4,900万ドル、2019年14億9,400万ドル、2020年34億3,200万d労、2021年46億2,300万ドル、2022年42億2,200万ドル、2023年16億3,700万ドル。投資件数は、2018年207件、2019年184件、2020年223件、2021年250件、2022年269件、2023年214件。

出所:CED

2023年はインフレ高騰や経済の先行き不透明性などを背景に、世界的にスタートアップ投資額の減速が目立った年で、米国のスタートアップ投資額も約4割減の1,324億ドルだった(2024年1月11日付ビジネス短信参照)。

CEDは2023年の州内向けのスタートアップ投資の大幅な減少について、米国全体の市況を反映したと分析するとともに、大型の投資案件数の減少を要因に挙げる。規模別に投資件数をみると、1億5,000万ドル以上の案件が約4割減となっている(図3参照)。NCバイオテックセンターのシニア・バイス・プレジデントのウィリアム・ブロック氏は「ノースカロライナ州の課題はリスクマネー供給の少なさ」と指摘し、州外VCからの投資増加が今後のカギと語る。

図3:ノースカロライナ州の投資規模別スタートアップ投資件数
2021年は、100万ドル未満が89件、100万ドル以上500万ドル未満が74件、500万ドル以上1億5千万ドル未満が45件、1億5千万ドル以上3億ドル未満が19件、3億ドル以上5億ドル未満が8件、5億ドル以上が16件。2022年は、100万ドル未満が95件、100万ドル以上500万ドル未満が79件、500万ドル以上1億5千万ドル未満が52件、1億5千万ドル以上3億ドル未満が25件、3億ドル以上5億ドル未満が8件、5億ドル以上が10件。2023年は、100万ドル未満が71件、100万ドル以上500万ドル未満が68件、500万ドル以上1億5千万ドル未満が49件、1億5千万ドル以上3億ドル未満が15件、3億ドル以上5億ドル未満が5件、5億ドル以上が6件。

出所:図3に同じ

ビジネス環境・教育・支援機関の三つどもえで支えるエコシステム

リサーチ・トライアングルの投資誘致を行う州政府機関のリサーチ・トライアングル・リージョナル・パートナーシップのライアン・コームス理事は、ノースカロライナ州とリサーチ・トライアングルのスタートアップ・エコシステムの特徴と魅力として、前述したテック系企業の集積に加え、(1)良好なビジネス環境、(2)人材と教育環境、(3)アーリーステージを中心としたスタートアップ支援体制を挙げた。この3点について、以下のとおり詳細をまとめる。

1.良好なビジネス環境

米国のビジネス専門メディアCNBCが2023年7月に発表した「米国でビジネスに最適な州」ランキングの2023年版によると、ノースカロライナ州は2022年版に続いて2年連続1位になった(2023年7月14日付ビジネス短信参照)。同ランキングでは、労働力、インフラ、教育など競争力に関する10項目86指標について米国50州を採点し、総合順位を掲載している。ノースカロライナ州は労働力、経済、技術・イノベーション、資金へのアクセス、教育、ビジネスのしやすさの6項目で、上位10位以内になった(表1参照)。

表1:米国でビジネスに最適な州ランキング(2023年、上位10州)
順位 州名 評価対象となった10項目
労働力 インフラ 経済 生活・健康・インクルージョン ビジネスコスト 技術・イノベーション ビジネスのしやすさ 教育 資金へのアクセス 生活コスト
1 ノースカロライナ 1 16 3 34 18 6 10 7 6 27
2 バージニア 7 10 13 16 34 15 6 1 4 25
3 テネシー 9 3 5 43 7 27 19 5 15 22
4 ジョージア 8 1 4 39 27 19 35 21 23 14
5 ミネソタ 17 3 24 4 39 4 30 13 20 17
6 テキサス 2 24 2 50 16 8 25 35 1 22
7 ワシントン 5 23 17 7 37 3 22 32 17 44
8 フロリダ 15 14 1 41 26 20 26 36 16 36
9 ユタ 6 29 6 38 22 23 7 44 23 39
10 ミシガン 24 26 29 24 6 12 15 36 10 7

注:CNBCがビジネスや政策の専門家、各州との協議によって開発した基準・指標を基に設定した10分野86指標について、50州を採点、ランキング化したもの。
出所:CNBC

州都ローリーがあるウェイク郡経済開発公社の担当者によると、同州は州の法人税と個人所得税の引き下げも検討している。同州の法人税は2.5%、個人所得税は4.50%(2024年3月現在)で、特に州法人税では同税を導入する44州のうちで最も低い税率となっている(注7)。生活コストについては、米国の非営利機関・地域経済研究評議会(C2ER)が行った「生活コスト指数調査(2023年版)」で全米26位。順位は全体の真ん中くらいだが、生活コスト指数は全米平均100を下回る95.3で、マサチューセッツ州(146.5)、カリフォルニア州(138.5)、ニューヨーク州(138.5)などと比べても低い(注8)。

2023年の総人口は1,085万人で、米国国勢調査局によると、前年比の人口増加数では全米3位(約14万人増)、人口増加率では5位(1.3%増)と、米国内でも人口流入が活発な州の1つだ(注9)。ノースカロライナ州経済開発公社の担当者は「州外からの転入者の平均年齢は27歳で、州民の平均年齢(35歳)よりも若い。今後10年間で20%の人口増加を予想している」と話し、今後も若い世代の人口流入が期待されている。

また、主要産業のライフサイエンス分野では、研究室やラボスペースが整備されているかもポイントだ。米国の事業用不動産サービス会社大手CBREが2024年1月に発表した「米国ライフサイエンスレポート(2023年第4四半期版)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、研究室・研究開発スペースの平均賃料(Asking Rents)について、全米で主要なライフサイエンス市場13拠点のうち、ローリー・ダーラムは1平方フィート当たり41.3ドルと、ニュージャージーに次いで2番目に安価となっている(図4参照)。

図4:米国の主要なライフサイエンス市場の研究室・研究開発スペースの平均賃料
〔2023年第4四半期(10~12月)時点〕
米国の主要なライフサイエンス市場の研究室・研究開発スペースの平均賃料(1平方フィート当たり)は、ニューヨークが98.5ドル、ボストン・ケンブリッジが95.8ドル、サンディエゴが75.8ドル、シアトルが74.8ドル、サンフランシスコ・ベイエリアが72.8ドル、デンバー・ボルダーが60ドル、ロサンゼルスが54.4ドル、フィラデルフィアが50.3ドル、ヒューストンが48.9ドル、シカゴが46.3ドル、ワシントンDC・バルティモアが43.5ドル、ローリー・ダーラムが41.3ドル、ニュージャージーが36ドル。 空室率は、ニューヨークが10.7%、ボストン・ケンブリッジが10.8%、サンディエゴが12.8%、シアトルが10.8%、サンフランシスコ・ベイエリアが18.1%、デンバー・ボルダーが9.1%、ロサンゼルスが15.3%、フィラデルフィアが13.9、ヒューストンが29.0%、シカゴが42.4%、ワシントンDC・バルティモアが4.4%、ローリー・ダーラムが10.1%、ニュージャージーが13.1%。

注:平均賃料は、固定資産税、保険、保守の費用を全てテナントが負担するトリプルネット・リース(NNN)の場合。
出所:CBRE

2.人材と教育環境

リサーチ・トライアングルを取り巻くエコシステムで、重要な役割を担っているのが、名前の由来ともなっている3つの研究大学(デューク大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ノースカロライナ州立大学)だ。米国では、民間の教育関連シンクタンクのカーネギー教育振興財団が「カーネギー高等教育機関分類外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(注10)に基づいて大学を分類している。2024年2月末時点で対象機関は3,939機関あり、うち博士課程大学は約1割に当たる466機関ある。博士課程大学の中でも最も高度な研究活動に携わる「R1: Doctoral Universities – Very high research activity」に分類されているのは146機関で、リサーチ・トライアングルに所在する3つの研究大学は、いずれもこのR1レベルに分類されている(表2参照)。ノースカロライナ州のR1レベルを含む全ての博士課程大学数は16機関で、全米で9位だ。

表2:カーネギー高等教育機関分類の分類別機関数(教育機関総数上位10州)
州名 R1 R1以外の
博士課程大学
修士課程大学 学士課程大学 コミュニティー・カレッジ その他 合計
カリフォルニア 11 29 52 50 113 170 425
ニューヨーク 11 19 53 45 38 129 295
テキサス 11 23 29 35 57 71 226
ペンシルべニア 6 19 44 36 39 49 193
フロリダ 6 13 17 52 6 67 161
オハイオ 5 12 22 41 38 43 161
イリノイ 4 13 23 18 53 41 152
ノースカロライナ 3 13 12 29 59 18 134
バージニア 5 11 12 24 25 31 108
ジョージア 4 9 17 29 29 19 107

注:各分類については、本文注6を参照。
出所:カーネギー教育振興財団(2024年2月29日閲覧時点)

リサーチ・トライアングル内には、大学が12機関所在する(コミュニティー・カレッジ(Associate's Colleges、注11)を含む)。輩出する卒業生は、年間4万6,000人に上る。各大学では、リサーチ・トライアングルの重点分野の人材育成に注力しており、地域内に所在する関連企業と連携した研修コースや研究プロジェクトが実施されている。前出のウェイク郡経済開発公社の担当者によると、ノースカロライナ州は「コミュニティー・カレッジの数が多く、エンジニアの育成環境が整備されている」と話す。

前述のカーネギー高等教育機関分類によると、ノースカロライナ州にはコミュニティー・カレッジが59機関ある。州別には、カリフォルニア州(113機関)に次いで多い。リサーチ・トライアングル内にキャンパスを持つウェイク・テック・コミュニティー・カレッジのスコット・ラルズ学長は「技術力を重視した人材を生み出し、リサーチ・トライアングル立地企業に対して継続的に技術人材を供給できる人材プールを作ること」がコミュニティー・カレッジの役割と話す。人材育成では、日系の富士フイルムや米国の医薬品メーカーのイーライリリーなど、リサーチ・トライアングルに拠点を置く企業13社とパートナーシップを締結し、企業が求める即戦力となる人材育成を目指している。ラルズ学長によると、「大学ではスタートアップを起業する創業者の育成、コミュニティー・カレッジではそうしたスタートアップをはじめとする企業で活躍する技術者を養成するという役割で、エコシステムに貢献している」という。


ウェイク・テック・コミュニティー・カレッジのリサーチ・トライアングル・キャンパス(ジェトロ撮影)

2022年6月にユニコーン企業となったノースカロライナ州に本社を置くサイバーセキュリティースタートアップのジュピターワン(Jupiter One)の最高技術責任者(CTO)のジョシュ・クリスティ氏はノースカロライナ生まれノースカロライナ育ち。ノースカロライナ州立大学を卒業後、同州内でキャリアを積んできた。クリスティCTOは「ノースカロライナ州には規模は小さいが、スタートアップが多く、研究職や技術職の求人機会も豊富」と話す。こうした環境から「州内の大学を卒業後はいったん州外で就職するが、求人機会や生活コストの安さから、Uターンしてくる人材も多い」のが特徴で、同州のエコシステムのメリットと評す。

3.アーリーステージを中心としたスタートアップ支援体制

リサーチ・トライアングルには、主要産業のライフサイエンス分野を中心に、非営利および民間の支援機関がアーリーステージのスタートアップを支えている。特に非営利の支援機関は1980~1990年代に設立された機関が多く、30年超にわたる支援実績を持っている。主な支援機関を以下に紹介する。

  1. North Carolina Biotech Center外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(NCバイオテックセンター)

    1984年に設立された非営利機関。ノースカロライナ州政府が出資し、バイオテック関連企業のイノベーション、商業化支援、ネットワーキング機会の提供など、主にソフト面からサポートする。NCバイオテックセンターでは、大学内での研究プロジェクトから商業化までの段階に応じた資金提供プログラムが充実している。NCバイオテックセンターが2023年第4四半期(10~12月)に提供した補助金やローンは19件で、総額は150万ドル以上になっている(注12)。

    図5:NCバイオテックセンターが提供する主なスタートアップ向け
    補助金・ローンプログラム
    大学技術開発向けの補助金としては、イノベーション・インパクト・ファンド(IIG)、フラッシュグラント、トランスレーショナル・リサーチ・グラント(TRG)がある。イノベーション・インパクト・ファンド(IIG)は州内でイノベーションを促進する学術機関または非営利機関の中核施設用の共同利用研究機器の購入を支援、最大15万ドルを補助。フラッシュグラントは、すぐれた商業可能性を秘めた短期間の研究プロジェクトを補助、条件によって、最大2万ドル~2万7,500ドルを補助。トランスレーショナル・リサーチ・グラント(TRG)は、大学が保有するライフサイエンス分野の発明の商業的応用、早期の創業開発を開始するためのプロジェクトを補助、条件によって、最大10万~11万ドルを補助。企業・事業拡張向けのローンとしては、スモールビジネス・リサーチ・ローン(SRL)、戦略成長ローン(SGL)がある。スモールビジネス・リサーチ・ローン(SRL)は、事業立ち上げと商業化可能な技術や製品の開発を進めるための研究を目的とした、アーリーステージのライフサイエンススタートアップ向け無担保ローン、最大15万~35万ドルの融資。戦略成長ローン(SGL)は、投資家からさらなる資金調達を目指すライフサイエンス企業向け無担保ローン。融資額と同様またはそれ以上のエンジェル投資家またはVCからの投資が必要。最大25万~35万ドル(ただし、優れたライフサイエンス企業からの多額の投資を受けられる場合は、最大50万~65万ドル)の融資。

    出所:NCバイオテックセンターウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますからジェトロ作成

  2. First Flight Venture Center外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(FFVC)

    FFVCは1991年にノースカロライナ州商務省からスピンアウトした科学・テクノロジー分野に特化した非営利のインキュベーター。リサーチ・トライアングル・パーク内に2万5,000平方フィート超のインキュベーション施設を有し、アーリーステージのスタートアップ向けに、合計56のオフィスや研究室スペースを市場価格より安い価格で提供している。研究室スペースは、薬品や装置などを使用した実験が可能なウェットラボだ。スペースの貸し出しだけでなく、さまざまなプログラムも提供している。主なものでは、起業家が持つ新しいアイデアが商業化に十分かどうかを判断する6週間のデザイン思考プログラム「Propeller外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」、アーリーステージの起業家向けの12週間のメンター主導型アクセラレーションプログラム「Wheels UP Accelerator外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」、リサーチ・トライアングルの関係者の前で毎月1回、スタートアップがピッチを練習できる「Test Flight Pitch Practice外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」などがある。FFVCのクリスタ・コーベイ最高経営責任者(CEO)は「バイオテック関連の技術は製品化まで平均7~10年を要するため、短期的で速いペースの投資を行うVCからの資金調達が難しい」と、バイオテック系スタートアップの課題を指摘する。そのため、「オフィスや研究室スペース、資金調達機会、メンタリング、ネットワーキングなどを包括的で息の長い支援が重要」と話す。

  3. 起業家開発評議会(CED)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

    1984年に設立された非営利のスタートアップ支援機関。これまでに700社以上のスタートアップを支援してきた。CED外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが提供する「GRO Incubator外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」という12週間のインキュベーションプログラムでは、過去の支援企業の創業者などがコーチとなり、メンタリングを提供する。また、資金調達を望むスタートアップと投資家や支援者を結ぶネットワーキングイベント「Venture Connect外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の主催も行っている。Venture Connectは例年、200超のVCや投資家を含めて1,200人が参加する。

  4. NC IDEA Foundation外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(NCアイデア)

    NCアイデアは2006年設立の民間ファンド。アーリーステージのスタートアップ向けに加え、スタートアップ支援を行う個人や組織向けの補助金プログラムを提供している。主なプログラムは、アイデアの検証を目指す立ち上げ直後のスタートアップ向けに、1万ドルの補助金とメンタリングなどの指導をセットで提供する「NC IDEA MICRO外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」や、概念実証(PoC、注13)が完了し事業拡大を目指すスタートアップ向けに、5万ドルを補助する「NC IDEA SEED外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」がある。これまでにNCアイデアが補助金を提供した企業総数は580社超で、金額は約2,100万ドルに達する。

ここで挙げた機関のほかにも、米国のライフサイエンス分野向け不動産最大手のアレキサンドリアが運営するインキュベーターのAlexandria Launchlabs外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、米国に11拠点、欧州に3拠点の共有ラボスペースを提供するbiolabs外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなどの民間企業も、リサーチ・トライアングル内に拠点を持ち、ライフサイエンスやアグテック分野のアーリーステージのスタートアップを支援している。

Alexsandoria Launchlabsのリサーチ・トライアングル拠点のトップを務めるブレイク・スティーブンス氏によると、同拠点内には2024年1月時点で州内スタートアップだけでなく、フランスやベルギー、インドなどの国外スタートアップも含め、約10社のスタートアップが入居しているという。Alexsandoria launchlabsに2022年から入居する種子の品種改良研究を行うスタートアップのAvalo外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、創業当初からNCアイデアの補助金やデューク大学のメンタリングプログラムなど、リサーチ・トライアングルのさまざまな支援を活用している。同社のマリアノ・アルバレス共同創業者は「3つの研究大学から輩出されるバイオテック人材、温室があるラボスペース、農業が盛んな州で、顧客にアクセスしやすい点などでアグテックにとって適した環境がそろっている」点がリサーチ・トライアングルの利点と話す。

Biolabs North Carolinaのウイリアム・ボース氏によると、Biolabs North Carolinaはデューク大学があるダーラムに所在しており、18~24カ月の期間で大学発スタートアップを中心に入居しているという。大学によるエンジェル投資家ネットワークなどが積極的に投資しているほか、「州内外の大型VCも近年、リサーチ・トライアングルに注目している」という。


Alexsandoria Launchlabs for AgTech敷地内の
温室ラボなど(ジェトロ撮影)

biolabs North Carolinaの共有ラボスペース。
装置や資材なども提供(ジェトロ撮影)

リサーチ・トライアングル・リージョナル・パートナーシップのコームス理事は「リサーチ・トライアングルの利点はエコシステムを構成する全てのステークホルダーが広く深くつながっている点だ」と話す。研究開発をベースとした戦略的で凝縮されたスタートアップ・エコシステムが形成されているリサーチ・トライアングルは、関連分野でのビジネス機会を模索するスタートアップにとって適した土地の1つだろう。


注1:
本稿での、ノースカロライナ州の政府関係機関や学術機関、インキュベーターやスタートアップ企業のコメントは、いずれもジェトロによる現地インタビュー(2024年1月25~26日)で、筆者が聴取した内容に基づく。
注2:
ここで言う「テクノロジー」には、ソフトウエア、ハードウエア、通信などが含まれる。中でも重点を置いている技術として、サイバーセキュリティー、フィンテックなどを挙げている(「リサーチ・トライアングル・リージョナル・パートナーシップ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で確認)。
注3:
トヨタ自動車プレスリリース(2023年10月31日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます大日本印刷プレスリリース(2023年11月29日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますVinfastプレスリリース(2023年7月28日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)、Forge Nanoプレスリリース(2023年11月14日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注4:
総合不動産サービス会社のJLLが2023年9月に発表した「2023年ライフサイエンス産業と不動産見通しPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(9.97MB)」のライフサイエンスクラスタートップ10で、リサーチ・トライアングル・リージョン(ローリー・ダーラム)は全米第5位になった。1位はボストン、2位はサンフランシスコ・ベイエリア、3位はサンディエゴ、4位はワシントン首都圏およびボルチモア。
注5:
CBインサイツ「ユニコーン企業リスト」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2024年2月29日閲覧)。
注6:
企業評価額が100億ドルを超えるスタートアップ。
注7:
Tax Foundation(州法人税外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます州個人所得税外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で確認。
なお、ネバダやオハイオ、テキサス、ワシントンなどの州は法人税を課さない代わりに、法人の収益に対する税制度を有する。
注8:
ミズーリ州経済研究情報センター外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが公表しているC2ERの調査結果を引用。
注9:
米国国勢調査局プレスリリース(2023年12月19日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注10:
出所:カーネギー教育振興財団。学位授与大学または米国国務省から承認を受けた第三者評価機関が認可した全ての大学を対象に分類。なお、基本分類では大きく分けて、博士課程大学(Doctoral Universities)、修士課程大学(Master’s College & Universities)、学士課程大学(Baccalaureate Colleges)、コミュニティー・カレッジ/2年制大学(Associate’s Colleges)、専門大学(Special Focus Two-Year/Four-year)、種族大学(Tribal Colleges)の6分類がある。学士課程大学では一部コミュニティー・カレッジ/2年制大学と併設しているものが、コミュニティー・カレッジ/2年制大学には4年制を取っている機関が含まれている。
注11:
コミュニティー・カレッジは、準学士号が取得できる2年制の教育機関を指す(出所:Education USA外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。
注12:
NCバイオテックセンタープレスリリース(2024年2月29日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注13:
アイデア、技術、ビジネスモデル、製品について、実現可能性を確認するためのテストや実験のこと。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。