サウジアラビアの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 実質GDP成長率8.7%の高成長。
  • 油価の上昇などにより2022年の財政収支は黒字、2023年予算も黒字を見込む。
  • 原油輸出額の増加が輸出額全体を押し上げ、主要輸出相手国との貿易額も軒並み2桁の伸び。
  • 対内直接投資額は前年比大幅減も、外国企業に供与した投資ライセンス数は増加。
  • 日本企業の進出案件は多分野にわたり、スタートアップの進出も増加。

公開日:2023年9月26日

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マクロ経済 
石油部門が経済をけん引、非石油部門も成長

2022年のサウジアラビアの実質GDP成長率は、原油価格の高騰や民間企業の投資が非石油部門の成長を促し、前年の3.9%を大きく上回る過去11年間で最高の8.7%となった。2022年の成長率を部門別にみると、石油部門が15.3%、非石油部門が4.8%、政府部門が3.5%、民間部門が5.3%といずれもプラス成長だった。産業別では、鉱業・採石が16.0%、運輸・倉庫・通信が9.1%、製造業が7.9%と続いた。

サウジアラビア人の失業率は、2021年までは2桁台で推移していたが、2022年は9.4%(2021年は11.3%)となった。サウジアラビア人女性の社会進出も進んでおり、女性の失業率は18.9%(同22.0%)にまで低下している。

2022年の財政収支は、歳入1兆2,680億サウジ・リヤル(以下、リヤル)、歳出1兆1,640億リヤルで、1,040億リヤルの黒字となった。2023年の政府予算は、世界経済の先行きの不透明さ、原油価格の下落、インフレなどの影響を折り込み、歳入は前年実績から若干減の1兆1,300億リヤル、歳出も同様に1兆1,140億リヤルとし、財政収支は160億リヤルの黒字を見込む、2年連続の黒字予算としている。一方で、サウジアラビアが加盟するOPECプラスでは、石油市場の安定を支えるための予防措置として、加盟国による自主的な追加減産を行うことを発表した。サウジアラビアは、2023年末までに予定していた日量50万バレルの追加減産を2024年末まで延長することを決定している。

貿易 
中国の輸出入額が増加傾向に

2022年の貿易(通関ベース)は、輸出が前年比48.9%増の1兆5,419億4,100万リヤル、輸入が24.2%増の7,120億3,800万リヤルとなり、輸出入ともに好調だった。輸出を品目別にみると、全体の約8割を占める鉱物資源・同製品が前年比61.5%増で、最大の押し上げ要因となった。その他では、化学製品が34.5%増、卑金属・同製品が30.3%増と好調だった。一方で、プラスチック・ゴム・同製品、天然・養殖真珠・宝石・貴金属等はそれぞれ1.8%減、25.5%減と落ち込んだ。

輸入を品目別にみると、鉱物資源・同製品が前年比90.3%増となった他、機械類・電気機器・同部品が20.8%増、車両・航空機・船舶等輸送機器が19.5%増と主要品目でいずれも増加となった。

表1-1 サウジアラビアの主要品目別輸出(FOB)
[通関ベース](単位:100万サウジ・リヤル、%)(△はマイナス値)
輸出(FOB)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物資源・同製品 762,693 1,231,710 79.9 61.5
化学製品 84,111 113,129 7.3 34.5
プラスチック・ゴム・同製品 91,073 89,480 5.8 △ 1.8
卑金属・同製品 22,425 29,220 1.9 30.3
車両・航空機・船舶等輸送機器 23,508 21,884 1.4 △ 6.9
機械類・電気機器・同部品 14,892 18,987 1.2 27.5
食料品・飲料・酢・たばこ類 6,907 8,367 0.5 21.1
天然・養殖真珠・宝石・貴金属等 7,673 5,715 0.4 △ 25.5
生きた動物・動物性生産品 5,372 5,825 0.4 8.4
合計(その他含む) 1,035,672 1,541,941 100.0 48.9

〔出所〕総合統計庁

表1-2 サウジアラビアの主要品目別輸入(CIF)
[通関ベース](単位:100万サウジ・リヤル、%)
輸入(CIF)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
機械類・電気機器・同部品 114,500 138,267 19.4 20.8
車両・航空機・船舶等輸送機器 86,201 102,996 14.5 19.5
化学製品 60,590 71,099 10.0 17.3
卑金属・同製品 53,735 67,029 9.4 24.7
鉱物資源・同製品 29,301 55,760 7.8 90.3
野菜類 34,787 45,712 6.4 31.4
食料品・飲料・酢・たばこ類 29,005 35,016 4.9 20.7
プラスチック・ゴム・同製品 21,805 26,689 3.8 22.4
繊維・同製品 21,060 23,942 3.4 13.7
合計(その他含む) 573,185 712,038 100.0 24.2

〔出所〕総合統計庁

輸出を国別にみると、中国が5年連続で首位となり、2位はインド、3位は日本の順となっている。相手国の統計に基づくと、中国の対サウジアラビア輸入金額の84.5%を占める原油が金額ベースで前年比47.4%増の657億2,908万ドルとなり、インドの原油輸入額は60.8%増の349億7,140万ドルだった。

輸入も輸出と同様に中国が首位となっている。相手国の統計に基づくと、中国の対サウジアラビア輸出の最大品目で13.2%を占める電気機器類は、同分類の34.7%を占める携帯電話が前年比11.3%減となる一方で、携帯電話以外は増加し、全体としては14.5%増だった。輸出額の11.4%を占める原子炉・ボイラーおよび機械類が前年比35.4%増、輸出額の9.5%を占める自動車も63.6%増と好調だった。サウジアラビアでは2018年に女性の自動車運転が解禁され、女性が自動車を購入・選択する場面が増えたことが、中国からの自動車の輸入増加の一因として挙げられる(2023年8月17日付地域・分析レポート)。

2位の米国は、主要品目の自動車部品が11.7%増、原子炉・ボイラーなどが29.9%増と好調だった。一方、航空機関連は24.9%減、医薬品は41.1%減だった。3位のアラブ首長国連邦は、サウジアラビア総合統計庁によると、主要品目の真珠・貴金属が13.4%減だった。4位のインドは、主要品目の石炭は13.1%減となったが、自動車(80.0%増)や有機化学品(23.0%増)などが好調だった。

表2-1 サウジアラビアの主要国・地域別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万サウジ・リヤル、%)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 190,911 249,926 16.2 30.9
インド 99,966 157,187 10.2 57.2
日本 102,598 152,890 9.9 49.0
韓国 87,342 142,159 9.2 62.8
米国 53,517 87,117 5.7 62.8
アラブ首長国連邦(UAE) 56,481 66,783 4.3 18.2
エジプト 38,710 51,711 3.4 33.6
台湾 26,337 39,126 2.5 48.6
シンガポール 26,426 37,337 2.4 41.3
バーレーン 26,341 37,015 2.4 40.5
合計(その他含む) 1,035,672 1,541,941 100.0 48.9

〔出所〕総合統計庁

表2-2 サウジアラビアの主要国・地域別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万サウジ・リヤル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 113,381 149,252 21.0 31.6
米国 60,549 65,002 9.1 7.4
アラブ首長国連邦(UAE) 46,770 45,103 6.3 △ 3.6
インド 30,277 39,509 5.6 30.5
ドイツ 28,093 30,000 4.2 6.8
日本 22,732 25,195 3.5 10.8
エジプト 15,781 24,827 3.5 57.3
韓国 12,899 19,767 2.8 53.2
イタリア 17,244 19,431 2.7 12.7
スイス 8,246 17,719 2.5 114.9
合計(その他含む) 573,185 712,038 100.0 24.2

〔出所〕総合統計庁

対内・対外直接投資 
対内直接投資額は減少、投資ライセンス発給件数は増加

2022年の対内直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比59.1%減の79億ドル、対内直接投資額の残高(ストック)は2,689億ドルだった。

一方、サウジアラビア投資省(MISA)が2022年に外国企業に供与した投資ライセンス数は1万6,452件と、前年の4,477件から約3.7倍と大幅に増加した。業種別では、製造業が最多の9,179件で、情報通信の1,036件がこれに続く。投資ライセンスが急増した最大の要因は、2020年8月に成立した反隠匿法(Anti-Concealment law)に基づく新規ライセンス取得にある。サウジアラビアでは、外国人労働者に対してスポンサー制度を採っている。従来、海外企業(親会社)は現地法人を持たずに、パートナー企業(地場企業)がスポンサーとなり、パートナー企業所属で親会社の業務を担っていた。しかし、制度変更によりパートナー企業所属で親会社の業務活動を行うことができなくなり、新規法人設立が義務付けられたため、その影響による増加分とみられる。

政府は非石油部門の育成や投資誘致を積極的に進める中、2021年2月に雇用促進や資金・技術の国外流出防止を目的として、地域統括会社(RHQ)誘致策(国内にRHQを置かない外国企業に対し、政府入札への参加を認めないとする制度)を発表した。RHQを持たない外国企業は2024年1月以降に政府調達への参加を制限されることが決定している。RHQの設立・維持には多大なコストが生じる他、既にドバイなどにRHQを持つ企業にとって苦渋の選択を強いられ、政府調達の参加を希望する日本企業にとっては非常にデリケートな問題となっている。2022年12月時点でMISAは外国企業77社にRHQラインセスを付与した。

政府は、外国企業の誘致策として2023年4月に経済特区の新設を発表した。首都リヤド、南西部のジャザーン、東部のラス・アル・カイール、西部のアブドゥッラー国王経済都市(KAEC)の4カ所に設置され、同年5月にそれぞれの特区に開業ライセンスが発行された。政府は新経済特区で操業する利点として、競争力のある法人税率、原材料や製造装置などの関税減免、100%単独資本による企業設立、世界中から優秀な人材を雇用する柔軟性などを挙げている。また、経済特区内での企業間取引に関し、付加価値税(VAT)を恒久的に免除する(2023年5月31日付ビジネス短信)。

サウジアラビアはまた、国家戦略「ビジョン2030」の優先分野である観光業を促進すべく、2019年に観光電子ビザ(e-Visa)を導入し、ビザの発給要件の緩和を進めてきた。国家投資戦略(NIS)において直接投資を2030年までにGDP比5.7%まで増加させることを目指す中、MISAと外務省は2023年6月、外国企業をさらに誘致するために、ビジネス出張者用のe-Visa 「Visiting Investor」の取り扱いを開始することを発表している(2023年6月15日付ビジネス短信)。

対日関係 
日本の自動車輸出が堅調

日本の「貿易統計(通関ベース)をドル換算すると、対サウジアラビア輸出額は50億7,700万ドルと前年比13.5%の増加だった。主要輸出品目である自動車は、乗用車が17.2%増、商用車(バス・トラック)が13.3%増と共に増加し、16.9%増となった。また、ポンプ・遠心分離機が27.9%増と好調だった。

輸入は424億4,800万ドルで、前年比54.5%増と大きく伸びた。輸入額の94.1%を占める原油及び粗油の輸入が前年比58.5%増の399億3,800万ドルと、油価上昇の影響を受け大幅に伸びた。2022年の日本の原油の最大の輸入元はサウジアラビアだった。その他、非鉄金属が39.5%増の4億5,400万ドルだった。

表3-1 日本の対サウジアラビア主要品目別輸出(FOB)
[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 2,964 3,439 67.7 16.0
階層レベル2の項目自動車 2,767 3,235 63.7 16.9
階層レベル3の項目乗用車 2,267 2,658 52.3 17.2
階層レベル3の項目バス・トラック 500 567 11.2 13.3
階層レベル2の項目自動車の部品 185 189 3.7 2.1
一般機械 441 602 11.9 36.6
階層レベル2の項目原動機 98 104 2.1 6.4
階層レベル2の項目ポンプ・遠心分離機 147 188 3.7 27.9
階層レベル2の項目荷役機械 42 56 1.1 33.9
階層レベル2の項目加熱用・冷却用機器 11 10 0.2 △ 8.7
原料別製品 599 609 12.0 1.8
階層レベル2の項目鉄鋼 217 190 3.7 △12.5
階層レベル2の項目ゴム製品 165 184 3.6 11.2
階層レベル2の項目織物用糸・繊維製品 130 144 2.8 10.1
電気機器 166 141 2.8 △15.0
合計(その他含む) 4,473 5,077 100.0 13.5

〔出所〕 財務省「貿易統計」(通関ベース)」をドル換算

表3-2 日本の対サウジアラビア主要品目別輸入(CIF)
[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料 26,266 41,056 96.7 56.3
階層レベル2の項目原油及び粗油 25,200 39,938 94.1 58.5
化学製品 538 554 1.3 3.1
階層レベル2の項目有機化合物 411 402 0.9 △2.1
原料別製品 328 455 1.1 38.8
階層レベル2の項目非鉄金属 325 454 1.1 39.5
原料品 304 338 0.8 11.3
階層レベル2の項目非鉄金属鉱 80 39 0.1 △50.9
合計(その他含む) 27,481 42,448 100.0 54.5

〔出所〕 財務省「貿易統計」(通関ベース)」をドル換算

スタートアップの進出が加速

2022年3月にサウジアラビア入国時の新型コロナウイルスのPCR検査陰性証明の提示義務が撤廃されて以降、人の往来が増え、サウジアラビアへの事業展開が活発化している。同国への進出日系企業数は110社(外務省2022年調査)となった。

2022年12月に西村康稔経済産業相がサウジアラビアを訪問した際に「日・サウジ・ビジョン2030ビジネスフォーラム」が開催され、日本企業とサウジアラビア政府、サウジアラビア企業との間で15件の協力覚書(MOU)が締結された(2022年12月28日付ビジネス短信)。

日本企業による新規投資案件としては、2022年2月にシスメックスが医療検査機器を直接販売・サービスを行うための現地法人を設立した。ダイキン工業は同年10月にリヤド近郊にエアコンの組み立て工場を設立し、本格的に稼働させた。伊藤忠商事は同年12月にサウジアラビア政府が推進するギガプロジェクト「NEOM」子会社のENOWAとフランスの環境サービス大手のヴェオリアとの間で、次世代海水淡水化プラント建設に向けた共同開発契約を締結した。丸紅は2023年1月にサウジアラビアの財閥企業アジュラン・ブロス・ホールディング・グループとの合弁会社を設立し、地域冷房事業に参画する(2023年1月27日付ビジネス短信)。住友商事は同年2月に、リヤドのアブドゥッラー国王金融特区(KAFD)と温暖化抑制に向けた遮熱性舗装に関する覚書を締結した(2023年2月6日付ビジネス短信)。日立エナジーは同年5月、大型スマートシティ「NEOM」向けHVDC(高圧直流送電)変換所(高圧直流送電線の相互終端を形成する特殊な変電所)の提供、製造・プロジェクト推進体制の確保に関する契約を締結している。

政府は「ビジョン2030」の下、スタートアップ・エコシステムの育成にも取組んでいる。サウジアラビアでのベンチャーキャピタル(VC)の資金調達は年々増加し、2022年のスタートアップへの投資は71.6%増となる過去最高の9億8,700万ドルに達した。日本のスタートアップとしては、位置情報AI・衛星インテリジェンスのスタートアップ企業LocationMindが、2022年12月にサウジアラビア財閥企業Olayan Saudi Holding Companyと中東・北アフリカ地域におけるビジネス開発を行うための合弁会社を設立した。ドローン(無人航空機)関連サービスのテラドローンは、2023年1月に国営石油会社サウジアラムコのVCから18億5,000万円の資金調達を行い、子会社を設立した。

基礎的経済指標

人口
3,218万人 (2022年)
面積
214万9,700平方キロメートル(2022年)
1人当たりGDP
3万1,850米ドル (2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 4.3 3.9 8.7
消費者物価上昇率 (%) 3.4 3.1 2.5
失業率 (%) 7.7 6.6 5.6
貿易収支 (10億サウジ・リヤル) 134 462 830
経常収支 (100万米ドル) △ 22,814 44,324 150,753
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 453,208 454,984 459,407
対外債務残高(グロス) n.a. n.a. n.a.
為替レート (1米ドルにつき、サウジ・リヤル、期中平均) 3.75 3.75 3.75

注:
1人当たりGDP:2022年は推計値
失業率:サウジアラビア人、外国人含む
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
為替レート:米ドルペッグ制
出所:
人口、実質GDP成長率、失業率、貿易収支:総合統計庁
面積、経常収支:世界銀行
1人当たりGDP、消費者物価上昇率、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF