整備進む中国西部地域からの陸海新ルート
欧州、そして東南アジアへ、広まる物流ルートの選択肢(1)

2019年2月26日

中国の西部地域はこれまで、沿岸の東部地域と比べて海外とのアクセスが制限されていたが、近年は重慶を拠点に、欧州やASEANをつなぐ新たな物流網が急速に整備されている。中国政府が推し進める「一帯一路」構想をベースとした、内陸部と世界をつなぐ新たな輸送ルートの開発について、現地の最新事情を紹介する。

西部地域のさらなる発展に向けて

中国政府は「一帯一路」構想のもと、これまで沿線国・地域との間で道路、鉄道、物流をはじめとするインフラ構築、天然資源の開発などを手掛けてきた。この構想は周辺国・地域間と貿易や投資活動を活性化させることで、相互の経済関係をより強化することを目的の1つにしている。

現在の中国は、2000年代の2桁を超える高度成長の時代から、直近のGDP成長率は6.6%(2018年)と、2015年に7%を下回って以降、経済は緩やかな減速傾向をたどっている。ただし、内陸の西部地域、特に四川省や重慶市は近年、電気電子産業や自動車産業を中心に外資誘致に積極的に取り組んでおり、経済成長率は全国平均を上回る水準を達成している。これまで沿岸の東部地域と比べて海外市場へのアクセスが制限され、開発が遅れていた内陸部だが、高速鉄道や高速道路、航空便といった物流インフラが急速に整備されつつある。

とはいえ、四川省と重慶市、雲南省、貴州省の3省1直轄市の2018年の域内総生産(GRP)の合計は9兆3,728億元(注1)(約149兆9,648億円、1元=約16円)と、中国全体(90兆309億元)の10.4%にとどまり、1人当たりGRPも、重慶市を除いて全国平均を下回っている。西部地域の一層の経済発展を目指すには、欧州や中央アジア、ASEANなどとの市場アクセスをさらに改善することが重要だ。

欧州・ASEANへのアクセスが大幅改善

2011年、中国と欧州を結ぶ貨物鉄道「中欧班列」が重慶とドイツのデュースブルク間で運行を開始した。現在は重慶に加え、成都や鄭州、武漢、蘇州など、「中欧班列」はそのルートを大きく拡大し、開設当初は年間わずか17本だった運行本数は、2018年には6,300本となり、同年末までの累計で1万2,937本に達した。「中欧班列」は「一帯一路」の象徴的な存在として、シルクロードを走る「鋼鉄製のラクダ」と呼ばれ、中国内陸部からはIT機器や自動車、機械(部品含む)などが、欧州からはワインをはじめとするアルコール類、日用品などが鉄道で輸送されている。

2015年11月には、中国とシンガポール両政府が重慶市をハブとする共同プロジェクト「CCI:Chongqing Connectivity Initiative」の実施に合意した。重慶市から広西チワン族自治区の欽州を結び、中国内陸部とASEANをつなぐ陸海の新ルートだ。シンガポール側には、中国内陸部と新たな陸海のコネクティビティーを構築し、国際ハブ港としての地位を強化したい意向がある一方、中国側にも、西部地域の内陸部から南進し、ASEANの6億5千万人市場を取り込みたい思惑がある。これまで「南向通道」と言われていたこの新輸送ルートは現在、中国南西部の8省・自治区に広がり、「新国際陸海貿易通道」と呼ばれるようになった。中国内陸部からIT機器や自動車、機械(部品含む)などがASEANへ、ASEANからは食品、果物、資源を中心とした1次原料が輸送されている。

従来、西部地域から海外市場へアクセスする輸送路としては、重慶から上海まで長江を内航船で河川輸送し、上海港を窓口にするルートが一般的だった。ただ、時期によっては三峡ダムの水量が不足して船のスムーズな運航に支障を来すなど、物流上の問題点が指摘されてきた。「中欧班列」や「新国際陸海貿易通道」は、そうした物流上の課題を解決に導く新たな輸送ルートとなる可能性がある。

「中欧班列」を利用し重慶からドイツのデュースブルクまで、新疆ウイグル自治区のアラシャンコウ(阿拉山口)、カザフスタンのドストゥク、ベラルーシのミンスクなどを通過する南方向ルートの所要日数は、鉄道で17日~19日である。重慶から長江を通じ内航船で上海まで運ぶのに15日~21日かかると言われているため、欧州までの輸送日数は大きく短縮された。また、重慶から欽州港までは鉄道でおよそ2日となっており、そこから船に積み替えてベトナムやシンガポールなどのASEAN諸国に運べば、こちらも長江ルートより輸送日数は大幅に短縮される(注2)。

図:中国西部地域から欧州、ASEANへの輸送ルート全体図
内陸部の重慶を起点に、(1)長江を利用し上海まで河川輸送し、上海港を窓口にASEANや欧州へつなぐルート、(2)欽州まで鉄道で運び、欽州港からASEANや欧州へ運ぶルート、(3)「中欧班列」を利用し、中央アジア経由で欧州へ運ぶルートの3つが想定される。

出所:筆者作成

日本企業にとっての活用メリットは

表は「一帯一路」沿線の63カ国・地域における中国企業による投資(ストックベース)を示したものだ。シンガポールが全体の28.9%を占め、ロシア(9.0%)、インドネシア(6.8%)、カザフスタン(4.9%)と続く。こうした旺盛な投資に加え、「中欧班列」や「新国際陸海貿易通道」により双方向の連結性がさらに強化されていることから、中国と欧州、ASEAN地域との貿易は今後も拡大基調をたどることが予想される。

表:「一帯一路」沿線国・地域に対する中国企業の直接投資(単位:100万ドル、%)
国・地域 ストック 構成比
シンガポール 44,568 28.9
ロシア 13,872 9.0
インドネシア 10,539 6.8
カザフスタン 7,561 4.9
ラオス 6,655 4.3
パキスタン 5,716 3.7
ミャンマー 5,525 3.6
カンボジア 5,449 3.5
アラブ首長国連邦(UAE) 5,373 3.5
タイ 5,358 3.5
その他 43,782 28.4
総合計 154,398 100.0
注:
ストック上位10カ国・地域を抽出。
出所:
商務部・国家統計局・国家外貨管理局「2017年度中国対外直接投資統計公報」に基づきジェトロ作成

では、日本企業によるこれら新ルート活用の可能性はどうだろうか。現地物流企業によると、日本の自動車部品メーカーがテスト輸送で日本から上海まで部品を船で運び、上海港→重慶(長江を活用した内航船)→ドイツ・デュースブルク(中欧班列)まで輸送した実績があるという。「新国際陸海貿易通道」については、日本企業による具体的な利用実績はまだほとんど聞かれない。中国全体でみても、鉄道を利用した貿易は輸出入全体の1.1%(2017年、金額ベース)と、極めて限定的だ。

一方で、欽州港でコンテナターミナルを運営するBPCT(BEIBU GULF-PSA International Container Terminal)(注3)によると、同社が取り扱うコンテナ量は2016年の20万TEUから2018年は94万TEUに拡大。BPCT社も、近年の鉄道を利用したコンテナ取扱量の増加に手応えを感じている様子だ。

日本企業がこれらの陸海新ルートを本格利用するには、輸送の際の物流品質、コスト、運行の定時性など複合的な観点から慎重な検討が必要となろう。しかし、日本企業によるサプライチェーンはますますグローバルな広がりをみせており、近年、日本の工場による生産工程は複数国をまたいで行うことも多い。製造業、非製造業を問わず、より機動的な調達体制を構築する上で、こうした新たな物流ルートの利用も検討に値するかもしれない。


注1:
四川省:4兆678億元、重慶市:2兆363億元、雲南省:1兆7,881億元、貴州省:1兆4,806億元。
注2:
輸送日数は2019年1月14日~18日にかけて実施した現地企業ヒアリングより入手。
注3:
中国の北部湾港集団(Beibu Gulf Port Group)、シンガポールの政府系港湾管理大手PSA、シンガポール最大手船会社のパシフィック・インターナショナル・ラインズ(PIL)により2015年に設立された合弁会社。

変更履歴
文章中複数箇所で見られる表現に用語上の誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2019年03月13日)
(誤)「欧州班列」
(正)「中欧班列」
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 課長代理
水谷 俊博(みずたに としひろ)
2000年、ブラザー工業入社。2006年、ジェトロ入構。ジェトロ・ヤンゴン事務所勤務(2011~2014年)。ジェトロ海外調査部アジア大洋州課(2014~2018年)を経て現職。