新エネ、医療、特区、SUなどを重視(インド)
GJ州産業の方向性(後編)

2022年9月5日

連載の前編では、インド・グジャラート(GJ)州における州産業政策の方向性や、注目の産業分野、プロジェクトなどを中心にレポートした。後編では、自動車産業以外で有望とされる、再生可能エネルギー、農業・食品加工関連分野、製薬・医療機器のプロフィール、また同州が推進する投資誘致政策について報告する。

3.自動車関連以外で有望な産業分野

GJ州作成資料より、以下3つの有望産業分野のプロフィールを紹介する。

(1) 再生可能エネルギー

まず、再生可能エネルギー分野でGJ州は、「太陽光エネルギー政策」「太陽光・風力ハイブリッド政策」「小規模水力発電政策」などいくつかの振興政策を敷いている。また、電気税免税、「デマンド・カット」の免除、ソーラー発電パークやオフショア風力発電パークの設置、技術輸出の振興といった各種インセンティブも設けている。

その中でも、州政府が新規参入の投資を期待しているのは、(1)太陽光や風力発電施設のデベロッパー、(2)コア部品の製造やOEM生産、(3)施設メンテナンス、(4)操業開始後のテクニカルサポートなどの分野だ。また、州政府が近年、特に開発を加速している「ドレラ特別投資地域」においては、(1)再生可能エネルギーを活用した海水淡水化、(2)ウルトラ・メガ・ソーラー・パーク開発、(3)EV(電気自動車)モビリティー、といった各事業への投資機会が有望であるとしている。

(2) 農業・食品加工関連分野

インドにおいて農業は、国家GDP成長率の約18%、総輸出の約13%を占め、また労働人口の約54%が農業従事者であることなどから、重要な産業だ。小麦、コメ、茶、ミルクなど世界トップクラスの生産量を誇る作物も多い。一方、GJ州は綿花、落花生、サトウキビの一大産地で、ミルク生産も多く、乳加工製造の大手企業アムル(Amul)がある。さらに、GJ州からの加工食品の輸出も、全インドの約46%(価格ベース)を占めている。州各地には食品加工品クラスターが存在しており、農産品倉庫、冷蔵施設、放射線照射施設、食品輸出用の輸出加工区や航空貨物設備が整っているとされている。

農業分野で、州政府が注目しているのは、(1)冷蔵倉庫、(2)包装技術、(3)港湾での機械化された穀物処理倉庫、(4)フードパークなどの「農業インフラ開発」、(5)フレーク化、粉末化、油分抽出など「付加価値技術によるローカル食材の加工」、(6)自然食品色素、天然ハーブの薬効成分抽出、食品加工触媒など「天然資源ベースの食品加工」の諸分野だ。背景には、「輸出向け食品加工」の振興が視野にあるようだ。

(3) 製薬・医療機器

インドは、世界3位の医薬品市場の規模(数量ベース)を持っている。インド製薬産業は、ジェネリック薬、医薬品原料(API)、ワクチンの製造、研究製造業務受託サービスを得意としている。世界的なジェネリック薬品会社20社のうちの8社はインド企業であり、約200カ国にジェネリック薬品を供給している。また、WHO事前承認済みのAPIの90%をインドが製造している。一方、インド医療機器市場は、2025年までに500億ドル規模に拡大すると予想され、現状では世界で20位、アジアで4位の市場である。医療機器の約80%は、輸入に依存している状況だが、インドには4,000以上のヘルステック・スタートアップ企業が存在するといわれ、今後、輸出産業として発展する可能性も秘めている。

GJ州は、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)や世界保健機関(WHO)による医薬品適正製造規範(GMP)認定を受けた628の医薬品製造ユニットが立地しており、インドの研究製造業務受託施設の約40%が存在している製薬クラスターである。また、インドで登録されている医療機器製造業者の53%がGJ州企業だとされている。GJ州政府はこれまで、(1)医薬品製造ライセンス審査の短縮化、(2)連邦食品・医薬品・化粧品法(Federal Food, Drug and Cosmetic Act::FDCA)申請の諸手続きのワンストップ化、(3)WHO GMPや国際標準化機構(ISO)認定の取得支援、(4)ジェネリック薬推進のための政府調達、(5)教育・研究機関の整備、(6)医薬品・医療機器パークの振興、などの政策で後押しをしてきた。

この分野で、州政府がさらなる新規参入を期待しているのは、(1)医療ツーリズム、(2)医薬品製造機器、(3)研究製造業務受託サービス、(4)Eファーマ、(5)API製造、(6)製薬産業全般におけるAI(人工知能)、(7)世界レベルの研究・教育施設の設立、などの諸カテゴリーだ。


「VG2022」の事前広報ウェビナー(ジェトロ共催)でGJ州政府が配布した資料

4.州政府の投資誘致政策、経済特区、スマートシティ、スタートアップにも注目

GJ州政府の投資誘致策は「新産業政策2020」がベースになっている。その中で利用できるインセンティブも、(1)投資規模に基づく資本投資への補助、(2)利子補填(ほてん)、(3)低価格での州政府用地の長期リース、(4)R&D(研究開発)センター設置補助、(5)産業インフラや工業団地の開発や人材開発事業など、と充実している。これらに加え、各産業分野別に設けられた個別の支援政策が補完して後押しする形だ。

近年、GJ州政府はイノベーション・スタートアップ(SU)の育成にも着目しており、「エレクトロニクス&IT/ITeSスタートアップ政策」を新たに発表し、同州のエコシステム構築やイノベーションを活用した製造業の高度化の動きを加速している(2022年7月20日付地域・分析レポート参照)。また、「特区」に注目すると、グリーン・スマート・シティーとして大規模な都市開発が急ピッチで進む「ドレラ特別投資地域」や、インド初の国際金融特区として整備が進行している「GIFTシティー」では、フィンテックSU企業をターゲットにしたユニークな育成プロジェクトの取り組みも行われている(2022年7月11日付および2022年7月20日付地域・分析レポート参照)。さらに、同州の伝統的産業「繊維・アパレル産業」は歴史が長く、重要な産業と位置付けられている。それに付随して、インド政府が主導する「7つのメガ繊維パーク」プロジェクトの1つが、近くGJ州に設置予定、と報道もされている。加えて、同州の特徴として、石油化学産業の集積が挙げられるだろう。今後は、これらの動向も注視しておきたい。

「バイブラント・グジャラート」は、「ナショナルレベルで投資を誘致するための基幹事業」として定着している州政府の重要イベントだ。現時点では、GJ州政府は次回のイベント開催予定をまだ明らかにしていないが、次回開催の際には、上述したテーマに沿った内容になるものと推測される。GJ州政府が描いている産業政策のイメージとして参考にしていただきたい。

GJ州産業の方向性

  1. グリーン経済を基調に産業振興(インド)
  2. 新エネ、医療、特区、SUなどを重視(インド)
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。