特集:2021年アフリカビジネスの注目ポイント民主化革命後も経済・社会的苦境、新たな商機に期待(チュニジア)
政治的安定とイノベーションが経済再興のカギ

2021年2月10日

チュニジアは、アラブ諸国の民主化運動「アラブの春」の発端となった「ジャスミン革命」でも知られる。ベンアリ独裁政権が崩壊したのが2011年1月だった。それから10年、政権が9回交代するなど政治的に不安定な状況が続いている。結果、革命の主因だった地域間格差や若者層の高失業率などの問題は、解決に至っていない。

こうした中、2020年の新型コロナウイルス感染拡大が経済に追い打ちをかけた。世界銀行によると、2020年のGDP成長率はマイナス9.2%まで減速すると見られる。失業率も2020年第3四半期末時点で16.2%を記録。特に若者層の失業率は高等教育卒でも30%を超える。将来の見通しが立たないことから、欧州への移住を目指してイタリアの海岸へ違法渡航を企てる者が急増。イタリア内務省によると、2020年にはその数1万2,883人。2019年の約5倍を記録した。

革命後に膨れ上がった公共企業部門による支出は、財政緊迫の主因になった。チュニジア経済が新型コロナ危機から脱却し復興を目指すためには、民間セクターの活性化とそれによる雇用創出が必須だ。新製品やサービスを提供する能力を持つ新たな企業の市場参入と、イノベーション企業の育成が喫緊の課題になっている。

政局不安と新型コロナウイルスに揺れた2020年

無党派カイス・サイード大統領と党派多数の国民代表議会が誕生したのが2019年10月だった。それに続き、第1党となったアンナハダ党(イスラム穏健派)が首相に推薦したハビブ・ジェムリ氏によって、新内閣が2020年1月2日に発表された。しかしこの内閣は、議会の不信任決議により不成立。1月20日にサイード大統領がイリエース・ファハファーハ氏を新たに首相に指名し、2月27日に組閣が完了した。新内閣は、新型コロナウイルスの感染第1波を早期の徹底的な対策で切り抜けて評価された。しかし、政党間の抗争の結果、7月15日にファハファーハ首相が辞任。これを受けて、ヒシャム・ムシーシー前内相が首相に任命され、9月1日に政党色のない実務型内閣が成立した。さらに2019年10月の国民代表議会議員選挙以降は、現ムシーシー首相が3人目の首相になった。このように、2020年は政局不安が続いた。

新型コロナウイルスの感染状況はどうか。2020年3月以降、死者数を50人に抑え、6月には感染者ゼロで第1波を切り抜けていた。しかし、9月中旬以降に到来した第2波によって感染者が急増。2021年1月30日時点で累計感染者20万8,885人、合計死者数が6,754人に達している。2020年10月以降、感染者の多い地方に夜間外出禁止令を発令。政府は革命10周年記念にあたる2021年1月14日からは、敏感な社会情勢も考慮し4日間の全国的ロックダウンを発令したが、その後は、夜8時から翌朝5時までの全国的夜間外出禁止、都市間の移動禁止、集会禁止、レストランの室内使用禁止などで対応している。

2021年は5.9%成長の見込み

世界銀行は、チュニジアの2020年の経済成長率をマイナス9.2%とし、一方、2021年はコロナ禍で落ち込んだ輸出や内需が回復し始めることにより、5.9%とアフリカで3番目に高い成長率を予測している。しかし、これは前年の急激な減少への反動で、2022年以降の成長率は約2%のレベルと見込まれている。

新型コロナ危機はチュニジア経済に打撃を与える一方で、新しいビジネスチャンスを生み出している。チュニジア投資局(TIA)によると、2020年に発表された外国直接投資計画は投資額で前年比28%増、件数で76%増を記録した。コロナ禍でクローズアップされた課題の1つは、欧州企業がアジアにサプライチェーンを依存していることだった。このため、欧州から地理的に近いチュニジアが新たな欧州市場向け生産拠点として期待されるようになった。投資を呼び込む絶好の機会となったわけだ。政府も、投資優遇措置や税関システムの改善など、投資環境の充実に努めている。

また、国の優先産業セクターについても見直しが進められた。新型コロナ感染拡大以降は、農業・食品、医薬、繊維、デジタル、ハイテク・高付加価値技術部門に高い優先順位が振り当てられた。新型コロナ危機以降に成長が期待される産業分野の例は次のとおりだ。

ポスト・コロナで期待される産業分野

食品加工:
特にオリーブオイルは、スペイン、イタリアに次ぐ世界3位の生産量を誇る。2020年の輸出額は、前年の12億ディナール(約456億円、1ディナール=約38円)から20億ディナールに大幅に増加した。中でも注目されるのが有機オリーブオイルで、作付面積は世界一とされる。EUから有機農業認証も取得した。目下、チュニジアオリーブオイルとして、ブランド化に力を入れている。輸出先の多角化を進める中、現在は世界54カ国に輸出され、日本への輸出拡大にも期待がかかる。
また、日本のスタートアップと連携し、オリーブの葉や搾りかすを、養殖魚飼料やコスメティックなどへの有効利用に取り組むチュニジア企業の例も見られる。
繊維業:
欧州の下請け拠点として、かつてはチュニジアの主要産業だった。それが、アジアへの生産拠点移転による打撃を受けて低迷してきた。しかし、サプライチェーンの再構築という観点から、付加価値を高めた繊維部門の生産拠点として、チュニジアへの投資を行ったイタリア企業の例もある。今後に期待できる分野だ。
再生可能エネルギー開発:
マグレブ諸国の中では遅れが見られるとはいえ、太陽光のポテンシャルは高い。チュニジア政府は2020年時点で350メガワットにとどまる再生可能エネルギー容量を、2025年には4.5ギガワットまで増大する計画だ。現在、TuNur Mega(容量2ギガワット)が開発初期段階にあり、2025年までに試運転が予定されている。これらが太陽光発電開発の主流だ。フランス企業とチュニジア電力・ガス公社(STEG)が提携し、アフリカで初の浮遊式太陽光発電所計画も進められている。この計画に基づき、チュニス湖に2021年春から設置される予定だ。
イノベーション:
情報通信技術(ICT)上のチュニジアの強みは、豊富な技術系人材にある。2018年4月には、アフリカ初の「スタートアップ法」が制定された。このほか、スタートアップのエコシステム構築に官民共同で取り組んでいる(2019年7月12日付地域・分析レポート参照)。現在、規定条件を満たすスタートアップに与えられる「スタートアップラベル」を取得した企業は248社に上る。
人工知能(AI)を開発する「インスタディープ」は、新型コロナウイルスのワクチン開発で注目されるドイツのビオンテック(BioNTech)とがん治療、感染症予防、次世代ワクチン・バイオ医薬品開発で戦略的提携を発表した。「エノバ・ロボティックス」は、AI搭載の自社ロボットを開発・製造・販売するアフリカ初のスタートアップだ。このように、国際レベルのイノベーション能力を持つ新興企業が存在し、AI、アグリテック、ヘルステック、ロボティック、フィンテックなどの多様な分野で活躍が期待される。
日系ベンチャーキャピタルも、チュニジアのスタートアップに注目し、投資案件も出てきている。

2022年のTICAD 8、チュニジアで開催予定

2022年に予定される第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)は、チュニジアで開催されることが決定している。2020年12月には茂木敏充外相がチュニジアを訪問。サイード大統領、ムシーシー首相と会見した。日チュニジア関係は活発化している。

チュニジアに進出する日系企業数は、ベンチャー企業から大手企業まで現時点で22社ある。欧州に近い地の利と有能な人材を抱えるチュニジアでビジネスチャンスを模索する日系企業は、ここ数年、増加傾向にある。

執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ)
ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。