特集:コロナ禍後の新時代、中国企業はどう動く鉄道・インフラ建設や資源分野で、中国企業に存在感(中国、カザフスタン)
カザフスタン事業の展開事例を概観

2021年3月12日

中国とカザフスタンは1992年1月、外交関係を樹立した。カザフスタンが独立を宣言した直後に当たる。両国は、2005年の「戦略パートナーシップ関係構築と発展に関する共同声明」をはじめ、戦略的なパートナーシップ関係を深める共同声明をいくつも発表してきた。また、カザフスタンは中国政府が提唱する「一帯一路」構想に賛同する立場を示している。両国関係は良好と言える。中国商務部などが発表した「2019年度中国対外直接投資統計公報」によると、2019年末時点の中国の対カザフスタン投資はストックベースで72億5,400万ドルに達した。国・地域別では第20位。また、同公報に掲載されている中国から「一帯一路」沿線国(計63カ国)への投資額の中でカザフスタンは、2019年末時点のストックベースで第7位となっている(本特集「中国企業数は2015年の2.2倍(カザフスタン)」参照)。

カザフスタンに進出する中国主要企業は「建設」分野が多い

カザフスタン国民経済省統計委員会のデータによると、2020年10月1日時点で稼働している中国企業の法人は1,239社だ。業種別には、「卸・小売り、自動車・バイク修理」が最多の461社と、全体の4割近くを占める。以下、「その他サービス」148社、「建設」183社が続く。中国側の発表によると、現地進出する主要な中国企業は表の通り(出所:商務部国際貿易経済合作研究院「対外投資合作国別(地区)指南カザフスタン(2020年版)」、2020年12月)。主要大手企業では、「インフラ建設」(7社)、「金融」「食品」「航空」(各3社)などの分野が多い。

表:カザフスタンに進出する主要中国企業リスト
No 企業名 分野
1 中鉄二局カザフスタン分公司 インフラ建設
2 中国化学工程股份有限公司カザフスタン分公司 インフラ建設
3 中信インフラ建設有限責任公司カザフスタン分公司 インフラ建設
4 中国土木工程集団有限公司カザフスタン分公司 インフラ建設
5 北京城建集団カザフスタン分公司 インフラ建設
6 上海建工集団股份有限公司カザフスタン分公司 インフラ建設
7 中国北方工業公司中央アジア代表処 インフラ建設
8 カザフスタン中国銀行 金融
9 中国工商銀行(アルマトゥイ)股份公司 金融
10 国家開発銀行アスタナ代表処 金融
11 特愛有限責任公司(西安愛菊) 食品
12 金駱駝集団有限公司 食品(乳業)
13 中粮国際カザフスタン有限公司 食品
14 中国南方航空股份有限公司アルマトゥイ事務所 航空
15 中国南方航空股份有限公司ヌルスルタン事務所 航空
16 中国国際航空股份有限公司ヌルスルタン営業所 航空
17 中国石油化工集団公司カザフスタン代表処 石油・ガス
18 中油国際カザフスタン有限責任公司 石油・ガス
19 中国水電カザフスタン分公司 電力
20 中国水利電力対外有限公司カザフスタン代表処 電力
21 浙江大華技術股份有限公司 通信
22 華為技術カザフスタン有限公司 通信
23 中色カザフスタン有限責任公司 鉱産
24 中信環境水務(アクタウ)有限公司 水処理
25 北京大厦·陽光ホテル 不動産・ホテル
26 葛洲ダム西里水泥有限責任公司 セメント
27 中国電子進出口有限公司カザフスタン代表処 電子

出所:「対外投資合作国別(地区)指南カザフスタン(2020年版)」よりNRI作成、ジェトロ編集

「インフラ建設」分野の企業が多いのは、中国企業がカザフスタンで実施するEPC事業(設計・調達・建設など一連の請負プロジェクト、注1)の増加が背景にあると考えられる。中国企業のEPC金額(完成ベース)は「一帯一路」構想が提唱された2013年以降、2,000億~3,000億ドルの高い水準で推移している(図1参照)。そして、商務部などが中国の国際プロジェクトの概況などをまとめた「中国対外承包工程発展報告(2018~2019)」によると、2018年の新規EPC受注額のうち、交通分野(道路、鉄道建設など)が全体の79.6%を占める。

図1:中国のカザフスタンにおけるEPC金額の推移(完成ベース)
中国のカザフスタンにおけるEPC金額の推移(完成ベース)の図。2008年は1,000億ドルを下回り、2009年から2012年は1,500億ドル前後、2013年から2019年は2,000~3,000億台で推移している。

出所:中国国家統計局の発表を基にジェトロ作成

資源に加えてEC分野にも進出

カザフスタンは鉱物のほか、石油、天然ガスなどのエネルギー資源を有する資源大国だ。中国も、カザフスタンから多くの資源を輸入している。Global Trade Atlasのデータ(原典は中国税関の統計)から、2020年の中国からカザフスタンの輸入品目(HSコード4桁)をみる。金額ベースでは、精製銅(全体に占める構成比18.7%)、石油ガス(14.5%)、石油(11.8%)が上位3品目だ。この3品目だけで輸入総額の44.9%を占めた。また、約20年前から中国の国有企業がカザフスタンの油田に出資するなど、資源分野には注目が集まり、近年でも投資事例がみられる。以下で、こうした中国企業のビジネス動向について見ていく。

中国石油・ガス大手の中国石油天然気(CNPC)は1997年、カザフスタンの国営ガス会社(Aktobemunaigaz)の持ち分60.3%(投資額は40億ドル)を取得。中国企業として初めて、同国の石油・ガス領域に進出した。2001年には両国間の原油パイプラインの建設および運営を担当する合弁会社(Kazakhstan-China Pipeline LLP)を設立。2006年からパイプラインが稼働している。このパイプラインで、カザフスタンから中国の新疆ウイグル自治区の阿拉山口(アラシャンコウ)まで油送できる(「新華社」2006年5月25日)。また、CNPCは2013年に、50億ドルでカザフスタン最大のカシャガン油田の権益(8.3%)を取得。さらに2017年10月、CNPCは新たにカザフスタン国営天然ガス輸送会社(KazTransGaz)と天然ガスの売買契約を締結した。専用のパイプラインを通じて、カザフスタンから中国向けに天然ガスを輸入するビジネスを展開している。

同じく石油メジャーの中国石油化工(Sinopec)も、現地で資源事業を進める。Sinopecは2015年8月、ロシア石油大手のLukoil PJSC が保有しカザフスタンで複数の油田権益を有する現地石油発掘企業(Caspian Investments Resources)の持ち分50%(約10億9,000万ドル)を取得した。なお、同社は日本企業とも連携したことがある。Sinopecは2009年、カザフスタンのアティラウ製油所の改造工事(フェーズ2)を落札した。同社は2011年に行われたフェーズ3事業に再応札しようとした。しかし、フェーズ2が完工する前であったため、アティラウ製油所側が中国石油化工への連続発注にちゅうちょ。結果、中国石油化工はフェーズ1を落札した日本企業の丸紅と連携。丸紅が機器調達スコープを請け負い、中国石油化工がECP事業を提供する形でコンソーシアムを結成した(注2)。結果的に、中国石油化工・丸紅・カザフスタン建設会社の3社のコンソーシアムがフェーズ3を落札した。

こうした資源分野以外に加え、近年はデジタル分野においても中国企業の活躍が見られるようになった。

華為技術(ファーウェイ)は1999年、カザフスタンに駐在員事務所を設置した。その後、同国市場には2007年から本格的に進出している。現在は通信インフラの建設、通信機器の供給などが主力事業だ。このほか、クラウドコンピューティングサービスなども展開している。2019年9月には、カザフスタン通信最大手のkazakhtelecomと共同で第5世代移動通信システム(5G)のテストエリアを設置。5Gモバイルサービスのテストを実施した。Kazakhtelecomは、同社を5G通信設備サプライヤーとして選定することを決めている(「新華社」2019年9月19日)。

中国EC(電子商取引)大手のアリババも、カザフスタンで存在感を高めている。2016年5月、カザフスタンの首都アスタナ(当時、現在のヌルスルタン)で行われた「アスタナ経済フォーラム」で、ナザルバエフ大統領(当時)とアリババグループの馬雲CEO(当時)が対談。EC、決済、物流などの領域について協力覚書を締結した。この覚書には、中小企業に対するECトレーニングやカザフスタン電信傘下の決済業務、アリペイの提携促進などが含まれていた。

カザフスタンで輸出入を行う企業は、アリババのプラットフォームを既に活用している。なお、アリババのプラットフォームで取引を行うカザフスタン企業は2020年11月時点で約200社ある。そのうち46社は、アリババゴールドサプライヤー認定(注3)を取得したという。

2020年10月に開催された「一帯一路」構想に関連したフォーラムで、カザフスタン貿易・経済統合省のバクット・スルタノフ大臣は「2020年上半期時点で小売総額に占めるECのシェアは9.4%だが、2025年に15%に引き上げる」と発言。ECの発展を加速させていく考えを明らかにした(「KAZINFORM」2020年10月27日)。カザフスタンが、世界一のEC大国である中国と今後さらに連携を深めていく可能性は高い(注4)。

重要インフラとして注目を集める中欧班列

カザフスタンには、中国と欧州を結ぶ貨物列車(中欧班列)が通過している。中欧班列は中国政府が進める「一帯一路」構想の重点分野に含まれ、新たなインフラとして注目されている。

中欧班列の運行本数は年々増加。特に新型コロナウイルスの影響で航空や海上輸送などが減少した2020年は、輸送コンテナ数(113万5,000TEU)、運行本数(1万2,400本)ともに過去最高を記録した(2021年1月6日付ビジネス短信参照、図2参照)。

図2:中欧班列の運行本数の推移
中欧班列の運行本数の推移の図、2015年が1021本、2016年が1702本、2017年が3673本、2018年が6396本、2019年が8225本、2020年が12400本だった。

出所:中国国家統計局の発表を基にジェトロ作成

中欧班列は現在、カザフスタンを通る「西通路」、モンゴル、ロシアを通る「中通路」、ロシアを通る「東通路」の計16路線が開通している。このうち、「西通路」がメインルートとされ、通過貨物量にして全体の約7割を占める。なお中欧班列で運搬されている貨物は、中国から欧州向けは機械、電気部品、自動車、日用雑貨、建材、衣類など、欧州から中国向けは自動車関連の製品が圧倒的に多い。

中欧班列は、中国の内陸都市と欧州を結ぶ直通列車だ。そのため、通過地点のカザフスタンで荷物の積み増しができない。すなわち、カザフスタン企業の利用はかなわないことになる。しかし、カザフスタン側は通行料、荷役作業料(注5)などを受け取っている。ジェトロが実施したインタビューで、日通総合研究所の山口修プリンシパルコンサルタントは「こうした通行料や積み替え料は、カザフスタンの鉄道インフラやカスピ海の港湾整備などに使用され、カザフスタンにとって中欧班列が通過するメリットになっている」と語る。その上で、「カザフスタンは中国、ロシア、中東の中間点であり、今後もハブ的な分岐基地としての役割が期待できる」と述べた。

日本企業にとって中欧班列は、中国の内陸部から製品・部品を欧州に輸送する際に有用だろう。しかし、それだけではない。例えば、日本で製造したものを、日本の港から中国上海などの沿岸部まで海上輸送、あるいは日本の空港から中国内陸都市に航空輸送し、そこから中欧班列に積み替えて欧州各地に運ぶといった複合輸送での活用も考えられる(2019年4月17日付地域・分析レポート参照)。2020年11月、日新は日本発・中国経由・欧州向けの複合輸送商品「日中欧Sea&Rail一貫輸送サービス」を実施するため、試験輸送を実施すると発表した(「ロジスティクストゥデイ」2020年11月27日)。

新型コロナウイルス期間中、海上・航空輸送の減少で運賃が高騰し、鉄道輸送のニーズが高まっている。日本通運グローバルフォワーディング企画部の日吉真仁次長は、「新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、今まで利用してこなかった方が中欧班列を利用するようになり、中欧班列は第三の輸送手段として地位を確立した」と語る。同社は2021年に中欧班列の運行本数を2020年の約2倍に増やす予定だ(「日本経済新聞」2020年10月19日)。

進出中国企業にとって、労働許可証取得などが課題

このように、中国とカザフスタンは経済関係を深めてきた。また、前述のとおりカザフスタンでは、建設、資源、デジタルなどの分野で、中国企業が既に大きな存在感を示している。中欧班列の運行が増加する中、積み替えのため、カザフスタン側の国境・積み替え地であるホルゴスやドスティクの物流施設の整備も進む。

その一方で、「政熱民冷」(本特集「中国・カザフスタン関係の展開と課題」参照)と言われるように、民間レベルでは嫌中感を抱く人も少なくない。カザフスタン国民は、中国企業のビジネス展開を手放しで歓迎している雰囲気ではないようだ。

また、カザフスタンでビジネスを展開する中国企業にとって、円滑な事業運営のための課題も存在している。例えば、カザフスタン政府は外国人の労働許可証の発行を制限。その発行数は2019年の4万8,700人分から2020年の2万9,100人分へと大幅に減少している(注6)。労働許可証発行にかかる長い審査時間や、高額な申請費用なども問題視される。この規制の背景には、カザフスタン政府には現地労働者の積極的な雇用を促す意図があると推察される。しかし、現地労働者の技能レベルが低い、専門分野の知識が不足しているなどの理由で、条件に見合う労働者を雇用するのは難しいとも言われる。特にEPCなど工期要求がある事業においては、必要な人材を雇用・派遣できないことが、中国企業の大きな負担となっている。

また、一部の中国企業は、現地政府の過度な査察や要求に対し、時間と労力を節約するためにやむを得ず賄賂を支払って解決せざるを得ない事例があると指摘。さらにその結果、罰則を受けるなど大きな損失を引き起こすケースもあるとされる。在カザフスタン中国大使館(以下、中国大使館)は中国企業に対し、現地労働者の不満が多い給与差や待遇差をなくすよう職場環境の改善を求めるとともに、法令順守を促している。また、中国大使館は中国の外交部とともに、カザフスタン政府と「(査証などの)違法仲介」「贈収賄」などビジネス上に存在する問題を共有しつつ、改善を申し入れている(注6)。

新型コロナ禍は、カザフスタン経済にも大きな影響を及ぼしている。中国政府は2020年、カザフスタンに対し初めて人道支援物資を提供。その額は1,000万ドルに達した。これは国・地域別で最多で、カザフスタンが全世界から受けた物資の半分以上を占めるものだ(「KAZINFORM」2021年2月10日)。中国政府による関係強化の意図がうかがえる中、新型コロナウイルスが終息した後、両国の関係がどのように進展していくかが注目される。


注1:
EPCは、「Engineering, Procurement and Construction」の略。
注2:
一般財団法人海外投融資情報財団「海外投融資」機関紙2015年7月号「丸紅、カザフスタン共和国・アティラウ製油所近代化」に基づく。
注3:
アリババウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、認定条件として(1)製品品質が高い、(2)対応が優れている、(3)ライセンス保証がある、(4)特色のあるサービスがある、などである。
注4:
中国の2020年のインターネット上の実物商品小売額は前年比14.8%増の9兆7,590億元(約146兆3,850万円、1元=約15円)。また、消費に占めるECのシェアも24.8%に上る(2021年1月29日付ビジネス短信参照)。
注5:
中国とカザフスタンは鉄道の軌間が異なるため、貨物の積み替えを行う必要がある。
注6:
商務部国際貿易経済合作研究院など「対外投資合作国別(地区)指南カザフスタン(2020年版)」から抜粋。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
方 越(ほう えつ)
2006年4月、ジェトロ入構。展示事業部海外見本市課、金沢貿易情報センターを経て2013年6月から現職。