特集:アフリカにおける日本食ビジネスの可能性食材の輸入と現地調達に奮闘、良質な寿司で開く日本食市場(ケニア)
ケニア人にも寿司は好評

2021年5月12日

ケニアの首都ナイロビは、人口440万人を擁する国際都市だ。国際連合人間居住計画(UN-Habitat)や国際連合環境計画(UNEP)などの国際機関の本部や、コカ・コーラやファーウェイなどの大手外資企業が東アフリカの統括拠点を構え、外国人コミュニティの層の厚さは東アフリカ随一といえる。ナイロビで外食といえば、インド料理、イタリアン、中華など、選択肢は多様だ。しかし、日本食の需要はこれからというところだろう。そんなケニアで、良質な寿司(すし)の普及に取り組んでいるのが、KAI GLOBAL代表取締役の福居恭平氏だ(インタビュー日:2021年2月24日)。


新たに開業のレストランにて、福居氏(ジェトロ撮影)
質問:
起業のきっかけやビジネスの概況は。
答え:
2015年にナイロビで、寿司や鮮魚の卸であるKAI GLOBALを起業した。起業当時、ナイロビには非日系の経営による日本食レストランはあったが、良質な寿司や鮮魚の流通量は限られていた。国際都市であるナイロビには潜在顧客となる外国人も多く、高・中所得層の人口もこれから増加すると見込んだ。2016年1月にはナイロビ市内の大手スーパーマーケットと連携し、寿司の店頭販売を開始した。デリバリー事業も順調だ。2017年にはキッコーマンとの合弁事業を立ち上げ、醤油(しょうゆ)をはじめとする日本食材の輸入事業者としてもビジネスをしている。2021年3月には、衛生製品を製造・販売するサラヤ(本社:大阪)と連携し、ディナー限定のレストランを開業した。寿司にはノルウェーから輸入するサーモンと、ケニアのモンバサ港で水揚げされたマグロを使用している。起業から6年経ち、寿司需要の拡大を肌で感じる。

寿司セット[2,700ケニア・シリング(Ksh)、約2,700円](KAI GLOBAL提供)

新たに開業したレストラン。内装にもこだわった
(ジェトロ撮影)
質問:
客層や人気の食材は。
答え:
ケニアには鮮魚を食べる習慣がないにもかかわらず、顧客の約4割がケニア人だ。ターゲットとなる高所得層には外国経験のあるケニア人が多く、(外国の食文化に触れていることから)起業当初に想定していたほど、鮮魚に対する抵抗感はないようだ。特にサーモンが人気だ。
質問:
ケニアにおける日本食・日本食材市場の状況と課題は。
答え:
日本食の認知度は決して高くないが、最近ナイロビでは日本食をベースとした創作料理がトレンドとなっている。ペルー料理などと掛け合わされて、複数の高級レストランで展開されている。SNSを活用したマーケティングを念頭に、「カラフル」「おしゃれ」「ヘルシー」といった印象を与えるメニュー構成だ。
日本食の需要は拡大傾向にあるものの、依然として輸出側の日本企業が求める価格や品質に対し、ケニア市場の購買力は弱いといえる。品質よりも価格への意識が高く、「メイド・イン・ジャパン」だけでは売れないのが実情だ。成否を分けるのが、輸出者(サプライヤー)のコミットメントだ。ケニア市場に関心を持ち、販売代理店と協力して商品のスペックやラベルの改良に協力できるか、資金や人材を投入できるかがカギになる。
日本産食材の輸入に関しても課題がある。日本からケニアを仕向け地とする貨物が少ないため、異なる輸出者による混載コンテナ(LCL)を仕立てられない。また、ケニアに商用貨物を輸出する際は、船積み前検査(PVoC)を通過し、輸出許可証(CoC)を取得しなければならない。商品によっては、輸入者が輸入ライセンスを取得する必要がある。管轄省庁により、提出物や手続きに要する期間が異なるといった課題もある。こうしたコストが積み重なることで、ケニアでの販売価格が高くなり、他の外国製品に比べ競争力が劣ってしまう。
また、質の高い鮮魚の調達にあたっては、輸入だけに頼らず、国内沿岸の港町モンバサを活用する必要がある。しかし、モンバサ近郊には近代的な水産加工場がなく、水揚げや搬送時の衛生管理を十分に行うことが難しい。船舶など必要な設備の投資も限定的で、安定的な供給にも課題がある。
質問:
今後の展開は。
答え:
寿司の製造・卸、そして日本食材の輸入・卸の経験を生かし、日本食の普及に貢献したい。日本酒の提供にも関心がある。また、鮮魚の安定的な調達も実現させる。水産加工や搬送の課題を解決するために、ケニア国内のコールドチェーン整備にも取り組みたい。モンバサ近郊では、マグロ以外にも、イカ、タコ、サワラ、タイ(マダイ、ハマダイ)、クエ、ハタ、アジと豊富な魚種が獲れる。今年3月に開業したレストランでは、これまで取り組んできた刺し身や寿司だけでなく、タイやクエ、ハタをアレンジして、創作料理として提供する予定だ。

ケニアの日本食レストラン、日本食材取扱店

(1)日本食レストラン(順不同)
レストラン名 エリア、住所 概要、ウェブサイト
KAI 住所:
1) Kindaruma Business Center, Kindaruma Rd, Nairobi
2) Upper Ground Floor Marsabit Plaza Ngong Rd
すしの製造販売、日本食材の卸し。商業施設内にレストランを展開。
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CHEKA
(CHEKAFE)
ナイロビ
住所:Kauria Close, Nairobi
ラーメン、ギョーザ、抹茶ラテなどを提供。商業施設内に独立型カフェ風の店舗。
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ChiQ ナイロビ
住所:
1) New muthaiga shopping mall, Thigiri ridge rd, Nairobi
2)  Sarit Centre, Karuna Rd, Nairobi
とんかつ、すしなど。商業施設内に展開。2020年11月、ショッピングモールのフードコートに進出。
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Pocha 254 ナイロビ
住所: Village Rd, Nairobi
ラーメン、焼きそばなど屋台風のメニュー。ショッピングモールのフードコートに展開。
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Misono ナイロビ
住所: Kilimani Adams Arcade, Ngong Rd The Green House Dagoreti North
日本食をメインとしたアジア創作料理。複合施設内に店舗。韓国系経営。
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Tokyo ナイロビ
住所: Kolloh Rd, Nairobi
天ぷらやすしなどを提供。2001年、韓国系シェフが創業。独立型の店舗。
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SHOKUDO ナイロビ
住所: Lenana Road Astrol Petrol Station, Nairobi
定食屋風のメニュー。ガソリンスタンド内に展開。専門食材店も併設。ケニア系経営。
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Furusato ナイロビ
住所: Ring Road Parklands, Westlands 38965 - 00623, Nairobi City
天ぷらなど提供。店舗は独立型。
(Webページなし、TripAdvisor外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで紹介)
SushiSoo ナイロビ
住所: Oloitoktok Road, Nairobi
韓国系経営で、焼き肉、すし、みそ汁などを提供。韓国食材店も併設。
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Haru ナイロビ
住所: Karen Rd, Nairobi
天ぷら、すしなどを提供。店舗は独立型。
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(2)メニューの一部で日本食を提供するレストラン(順不同)
レストラン名 エリア、住所 概要、ウェブサイト
Inti ナイロビ
住所: 20th Floor One Africa Place, Waiyaki Way, Nairobi
ペルー料理と日本料理の創作。カリフォルニアロールなど提供。複合施設内の高級レストラン。
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Inca ナイロビ
住所: James Gichuru Road, Nairobi
ペルー料理と日本料理の創作。カリフォルニアロールなど提供。ホテルの最上階という立地で、2020年2月にオープン。
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Hero ナイロビ
住所: 9th Floor, Trademark Hotel Village Market, Limuru Road, Nairobi
すしやカリフォルニアロールなどを提供。ショッピングモール内に展開。
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Pan Asian Yao ナイロビ
住所:United Nations Ave, Nairobi
アジア料理の一部としてカリフォルニアロールやすしを提供。店舗は独立型。
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Urban Eatery ナイロビ
住所: PwC Tower, Ground Floor Delta Corner Estate, Chiromo Rd, Nairobi
複合施設の中に展開。多国籍料理の一部として巻きずしなどを提供。
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Phoenician ナイロビ
住所: Matundu Lane, Westlands, 69671 - 00400, Nairobi
レバノン料理で、すしも提供する。店舗は独理型。
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Teriyaki Japan ナイロビ
Mama Ngina St, Nairobi
路面店。焼きそば風のヌードルを提供。
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(3)日本食材取扱店(順不同)
店名 エリア、住所 概要、ウェブサイト
Jinya ナイロビ
住所: Lenana Road Astrol Petrol Station, Nairobi
日本食材専門店。日本野菜や手作りの総菜なども入手可能。
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Healthy U 全国展開 英国などからの輸入品、例えば、のりや乾燥わかめ、シイタケ、コメ、酢などを販売。店舗は全国に所在するが、日本食を販売するのは都市部のみ。
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Food Plus 全国展開 日本から輸入したしょうゆなどの調味料、すし、タイや中国、英国から輸入した日本食材を販売。店舗は全国に所在するが、日本食を販売するのは都市部のみ。
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Carrefour ナイロビ、モンバサ すしを販売。中国から輸入したわさびなども販売。
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Quick Mart ナイロビ中心 すしを販売。中国から輸入したわさびなども販売。
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Naivas 全国展開 すしを販売。
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注:2021年3月31日時点。
出所:公開情報を基にジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所 調査・事業担当ディレクター
久保 唯香(くぼ ゆいか)
2014年4月、ジェトロ入構。進出企業支援課、ビジネス展開支援課、ジェトロ福井を経て現職。2017年通関士資格取得。