特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス途上国の要求受け「損失と損害」基金の設立合意
COP27を振り返る(前編)

2022年12月26日

国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が、11月20日にエジプトのシャルム・エル・シェイクで閉幕した。11月6~20日の15日間(2日間延長)で、各国政府閣僚級の交渉の場となるCOP27本会合のほか、世界約200カ国から4万人以上が参加し、巨大な展示会場における各国・企業・団体による展示、そして、数千ものサイドイベントがオンライン、オフラインで開催された。中東とアフリカにまたがるエジプトで開催されたこともあり、特に両地域のプレゼンスが目立った会議であった。

今回は、気候変動対策の各分野における取り組みの強化を求めるCOP27全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」が採択された。また、気候変動の「緩和」に係る2030年に向けた取り組み強化のための「緩和作業計画」などが議論された。この中で、今回のハイライトともいうべきは「ロス&ダメージ」(気候変動の悪影響に伴う損失と損害)で、アフリカなど開発途上国の強い要求により、ロス&ダメージに係る基金設立が合意された。

全体として、各国はエネルギー危機においても気候変動対策への取り組みを継続していく姿勢を示したが、合意文書は前回COP26の主な内容を踏襲し、多くの議論が2023年のCOP28に持ち越される形となった。本稿では、COP27の主なポイントについて紹介する。また、後編では、エジプトを含むアフリカの動きとCOP28開催のアラブ首長国連邦(UAE)ドバイを含むアラブ諸国の取り組みについて紹介する。


COP27会場写真(ジェトロ撮影)

近年のCOPでの議論内容

2015年のCOP21で採択された「パリ協定」は、産業革命以後の気温上昇を2度未満に抑制し、1.5度に抑制することを努力するとの目標で合意していた。あわせて気候変動対策として、「パリ協定」以前は先進国に対する温室効果ガスの排出目標の議論であったが、途上国を含む全世界での2050年までの温室効果ガス排出量ネットゼロの達成を目標に掲げた。以降、目標達成のため、欧州などの先進国を中心に再生エネルギーやEV(電気自動車)の普及を推進してきた。

さらに、2021年のCOP26では、気温上昇を1.5度に抑えることを追求すると一歩踏み込む内容での「グラスゴー気候合意」が採択された。特に、石炭火力発電の「段階的削減」が主な成果となった。また、先進国が主導し、気候資金支援も呼び水に100以上の国からネットゼロが宣言された。一方、温室効果ガスの排出の少ない開発途上国では、目標達成や気候変動対策に向けた資金や技術提供を要望した。また、新興国など化石燃料を活用して成長を遂げる国からは目標設定が高すぎるとの声もあった。

先進国は、これまで気候変動に対する「緩和(温室効化ガス排出削減・吸収・回収、再エネ・省エネ推進など)」や「適応(干ばつ対策、洪水対策、生態系保全など)」の支援にとどめ、気候変動に関する損失や損害に対する支援や補償などの責任についての議論を避けてきた。このような中、この数年はCOPが先進国での開催が続いていたところ、COP27は気候変動に脆弱(ぜいじゃく)な中東アフリカ地域に位置するエジプトで開催され、途上国や産油国と先進国の対立が鮮明となる会合になった。

参考1:COPの条約締結国の「合意」および交渉における議論の内容

2015年:COP21(フランス開催)、「パリ協定」
気温上昇を2度より低く保ち、1.5度の抑制を努力目標に
途上国を含む全ての国で温室効果ガス排出量のネットゼロ達成を目指す
2021年:COP26(英国開催)、「グラスゴー気候合意」
「1.5度目標」を追求、と目標を一歩踏み込む
石炭火力の「段階的削減」、非効率な化石燃料補助金の「段階的廃止」を合意
各国から2050年めどのネットゼロの宣言が相次ぐ
再エネやEV普及などCO2排出量削減などの気候変動の「緩和」策を推進
干ばつや洪水対策などの気候変動への「適応」資金を2025年までに倍増
2022年:COP27(エジプト開催)、「シャルム・エル・シェイク実施計画」
「1.5度目標」の追求、「石炭火力の段階的削減」を堅持(進展はなし)
「ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に関する損失と損害)」基金を新たに設立
主に途上国向けの気候観測・早期警報システム支援を新たに規定
気候変動に向けた世界全体の「適応」の目標(GGA)、資金・支援策の議論を継続
排出量削減など「緩和」作業計画(MWP)、資金・技術協力の議論を継続
2023年:COP28(ドバイで開催予定)
「1.5度目標」、化石燃料の削減・廃止を議論
ロス&ダメージ基金、緩和作業計画(MWP)、国際的な適応目標(GGA)などを議論

出所:UNFCC、COP27公式ウェブサイトからジェトロ作成

COP27で途上国待望の「ロス&ダメージ」への支援基金の設立へ

COP27はアフリカ大陸で開催されたことから「アフリカCOP」とも呼ばれ、温室効果ガスの排出の多い先進国からの、気候変動に脆弱な開発途上国に対する支援についてが、条約締結国の本会合での焦点となった。特に、排出量が世界全体のわずか0.3%のパキスタンにおける、国土の約3分の1に及ぶ洪水被害など、最近の世界各地の気候変動や異常気象による被害に注目されていた。このため、「ロス&ダメージ」(気候変動の悪影響に伴う損失と損害)が重要な議題となった。

一方で、先進国と開発途上国の溝が埋まらず、当初予定されていた11月6日から11月18日までの会期が延長となった。議論の末、11月20日に条約締結国による「シャルム・エル・シェイク実施計画」を合意し、合意文書には、「ロス&ダメージ」に関する支援基金の設立が明記された(2022年11月22日付ビジネス短信参照)。これは島国や低開発途上国など、温室効果ガスの排出は少ないが、気候変動に対して脆弱な国にとって、30年以上にわたり求めてきた合意であり、議長国のエジプトは極めて重要な合意だとして成果を強調した。


COP27会場でのアフリカ開発銀行ブース(ジェトロ撮影)

主に前年のCOP26の合意文書を踏襲

「シャルム・エル・シェイク実施計画」は、「ロス&ダメージ」基金のほかには、主に2021年のCOP26で採択された「グラスゴー気候合意」の内容(2021年11月16日付ビジネス短信参照)が踏襲された。

「グラスゴー気候合意」と同様に、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5度に抑えるための努力の追求と、世界の温室効果ガス排出量を2019年比で2030年までに43%削減することが必要と盛り込まれた。開発途上国や産油国の意向や、欧州のエネルギー危機により、目標の後退も懸念されていたが、目標を堅持する形で落ち着いた。一方で、気温上昇1.5度の「努力目標」の前進には至らなかった。

さらに、クリーンエネルギーによる発電やエネルギー効率化を促進し、非効率な化石燃料補助金の段階的廃止に向けた取組みを加速するとの文言も「グラスゴー気候合意」から踏襲された。COP26で注目された「石炭火力発電の段階的削減」の合意については、今回の議論において、石炭のみならず「全ての化石燃料」や、削減のみならず「段階的な廃止」へと進展を求める声もあったが、合意には至らなかった。これは、2021年以降の原油価格の高騰などによる石炭利用の増加や、ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月)以降の欧州の天然ガス危機などの影響も考えられる。

これらのように前回合意文書からの踏襲もあり、COP27 での合意に目立った進展はなかったとの批判もある。多くの議論が2023年にUAEのドバイで開催されるCOP28に引き継がれる形となった。

COP28で基金の拠出額や運用などを議論へ

COP28においては、「ロス&ダメージ」基金の拠出額や運用について、詳細の内容が議論される。開発途上国の中でも気候変動への脆弱さについては差異があるため、「開発途上国の中でも特に脆弱な国々」を対象と定めたが、具体的な対象国について今後議論される。また、拠出主体は政府のほか、国際機関により検討されているが、金額等は未定である。

COP28において、引き続き気温上昇を1.5度に抑える目標も議論される。一方で、UAEも産油国であるため、化石燃料の利用の制限や気候変動対策の進展について懸念する声もある。COP26からCOP27までの1年間で、国別目標(NDC)における排出量削減を宣言・更新した国は30カ国以上あるが、これらの削減目標を足しても「1.5度目標」には、まだ不足しているという。

また、温室効果ガスの排出量削減などに関する「緩和作業計画(MWP)」の議論や、先進国から気候変動による干ばつや洪水などへの対策として「適応資金」の倍増についても議論される。

締結国の本会合の外で官民の動きも活発化

COP27では、条約締結国の各国政府の交渉の場である本会合における合意文書は、前述のとおり、進展が少なかったとの声もあるものの、本会合の外では国際機関や各国が活発な動きを見せた。COP27には、約200国から約4万人が参加し、COP26に次ぐ、過去2番目の参加者数となり、各国の気候変動対策への関心の高さがうかがえる。

本会合の会場に隣接する大きな会場において、各国・機関が気候変動に関する具体的な事例や取り組みについて、合計数千回となるサイドイベントを会場内や自国の展示ブースなどで開催した。NGOや企業も、講演などで各種イベントに参加していた。環境省も日本ブースを設置し、環境技術関連の日本企業が出展したほか、日本の水素や脱炭素に向けた取り組みを紹介した(2022年11月15日付2022年11月21日付ビジネス短信参照)。


COP27での日本ブース(ジェトロ撮影)

国連がネットゼロのルールを公表するなど、国際機関や各国が数百とも言われる多くの気候変動関連のイニシアチブやプログラムなど取り組みの進捗を公表したほか、新たな発足も公表された。さらに、首脳会合には、多くの欧州首脳などが集まり、各国が途上国へ向けた支援を表明するとともに、各国・地域が目標達成に向けた制度設定を公表した。

参考2:COP27の本会合や合意文書以外の主な動き

  1. 国連
    • 温室効果ガス排出のネットゼロに向けた定義の明確化
    • 各国にネットゼロの国別目標(NDC)や長期戦略策定・更新を依頼
    • 気候変動や異常気象に関する早期警報システムへの支援
    • 国際的パートナーシップ強化の呼びかけ
  2. 排出量取引(カーボンクレジット)
    • 国際取引ルールの制定、「高品質」カーボンクレジットを求める議論
    • 2国間クレジットの締結の増加(日本、シンガポール、スイス)
    • ボランタリー炭素市場の拡大(ブラジル、コンゴ盆地など)
    • アフリカ炭素市場イニシアチブの発足
  3. 各種イニシアチブ、プログラム
    • 再生可能エネルギー関連(世界各国、団体)
    • グリーン水素(世界銀行、欧州、中東アフリカ各国など)
    • 農業・食料・水(FAO、アフリカ各国など)
    • 植林、森林・サンゴ礁保護、CCS(二酸化炭素回収・貯蔵)など
    • 各種基金・イニシアチブへの資金提供(欧米、日本、湾岸諸国など)
    • その他、数百にも上る各国・機関のイニシアチブの発足・進捗の公表
  4. 官民連携の動き
    • 公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)(欧米などから南ア、インドネシア)
    • エネルギー移行メカニズム(ETM)(アジア開発銀行主導で再エネへ移行)
    • 「気候変動適応のためのビジネスアクション」公表(世界経済フォーラム)
    • アフリカビジネスリーダー連合による「気候変動に関する声明」公表
    • 再エネ、グリーン水素などのプロジェクト公表(各国、民間企業)
  5. 規制など
    • メタン排出規制(米国、欧州各国など)
    • ガソリン車の販売規制など(欧州など)
      (参考)EU地域での「欧州グリーンディール」に関する規制化の動き
  6. 各国・機関ゾーンでのサイドイベント、展示ブース
  7. 一般公開ゾーンでのサイドイベント、展示ブース(NGO、民間など)

出所:UNFCC、COP27公式ウェブサイトからジェトロ作成

国連がネットゼロの報告書を公表

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、2022年11月8日に、ネットゼロ〔温室効果ガス排出量と吸収量がネット(差し引き)でゼロ〕に関する報告書を公表した(国連ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ネットゼロについては、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局が、国別達成目標(NDC)や取り組みへの貢献の公表を各国に求めている。また、2022年9月時点で1万1,309社・団体がネットゼロを宣言するなど、民間の企業や団体の動きもある。


国別達成目標(NDC)ブース(ジェトロ撮影)

このような中、ネットゼロの定義が曖昧な部分もあり、一部の組織・団体などに対しては、グリーンウオッシング(見せかけの環境対策)との批判もあった。報告書において、企業の取り組みに関連して明確化された内容は以下のとおり。

  • 科学に基づくネットゼロに向けた削減目標を5年ごとなど短期・中期・長期的に提出
  • 自社のみならず関係の業界団体を通じても温暖化政策に反対していないこと
  • 化石燃料の段階的削減と再生可能エネルギーの増加を目標に含むこと
  • 自社の削減目標達成にカーボンクレジットの利用は不可(「高品質クレジット」に限り利用可能)

ネットゼロの明確化により、目標に向けた具体的な取り組みの推進が期待されている。また、気候変動への配慮を宣言する投資家・金融機関も、今回のネットゼロの明確化に注目しているという。

排出量取引の拡大に向けた動き

ネットゼロに向け、排出量の多い先進国においては、温室効果ガスの排出量削減と同時に、排出量取引の拡大に向けた動きもある。二国間クレジットの動きは活発化し、日本の二国間クレジット(JCM)は2022年に新たに8カ国で署名され、合計25カ国と署名済みである。シンガポールも、2022年に6カ国と二国間クレジットの署名をするなど積極的な動き見せる。

排出量取引に関するカーボンクレジットなどを規定するパリ協定第6条(排出量取引に関する市場メカニズム)に関して、二国間クレジットや国連の管理するクレジットに関する国際取引の報告などの詳細ルールなどが決定され、運用が進められる。COP27でのパリ協定第6条に関する主な決定や議論は以下のとおり。

  • 国際的取引の報告様式(記録・追跡システム)
  • 専門家による審査ガイドライン
  • 国連が管理する市場メカニズムの運用細則
  • 旧クリーン開発メカニズム(CDM)から「パリ協定」の新枠組みへ移行
  • 「高品質なカーボンクレジット」(人権や先住民族への配慮などを議論)

また、アフリカにおいて、カーボンクレジットによる資金調達を推進するためアフリカ炭素市場(カーボンマーケット)イニシアチブ(ACMI)も発足した(2022年11月10日付ビジネス短信参照)。さらに、日本政府主導で「パリ協定6条実施パートナーシップ」も立ち上げた。賛同国と一緒に、質の高い炭素市場を構築し、世界の温室効果ガスのさらなる削減に貢献していくため、パリ協定6条ルールの理解促進や研修の実施など、各国の能力構築を支援する。

「適応」への民間の取り組み、資金も増加

これまで、気候変動資金や民間投資において、ネットゼロに向けた再生可能エネルギー分野や電気自動車などの交通分野といった排出量削減(気候変動の「緩和」)が多かった。このような中、世界経済フォーラムは、11月8日に「気候変動適応のためのビジネスアクション」という文書を公表し、企業が気候変動リスクを避けて持続的に成長するためにも、気候変動資金のうちわずか7%である気候変動への「適応」に取り組むべきと示された。同文書における「適応」の関連のビジネス機会の例は以下のとおり。

  • 気象/天気データ
  • 気候変動関連ソフトウェア/ハードウェア/データ生成
  • 異常気象などに関する早期警報システム
  • 気候リスク保険
  • 干ばつに強い作物関連
  • 断熱システム
  • 水質保全・節水
  • 植林、マングローブ保護

さらに、前回COP26 において、先進国からの「適応」における気候変動資金を2025年までに、2019 年比で少なくとも倍増すると宣言された。そのため、2022年に入り、欧州各国などは適応基金(Adaptation Fund)への資金拠出を表明している(表参照)。COP27では、欧州の主要国からは首脳が参加し、適応基金に限らず、気候変動に関連する基金やイニシアチブ、ファシリティなどを通じて資金拠出を表明した。

表:2022年の適応基金(Adaptation Fund)への資金拠出額(公約額を含む)
拠出国 金額
米国 1億ドル
ドイツ 5980万ドル
スペイン 1990万ドル
スウェーデン 1640万ドル
日本 1200万ドル
フランス 990万ドル

出所:適応基金ウェブサイトからジェトロ作成

欧州からは途上国への支援などを表明

2021年のCOP26を開催した英国政府は、2022年のCOP27でも各種支援策を公表し、積極的に気候変動対策を進める意思を示している。11月7日に、開発途上国での革新的なクリーンエネルギー技術の開発推進のために研究者や科学者に6,550万ポンド(約109億3,850万円、1ポンド=約167円)の助成金を提供する「クリーンエネルギーイノベーションファシリティー」を公表した。同月11日には、インドやインドネシアを含む開発途上国のエネルギー集約型産業のグリーン化支援に6,500万ポンドを拠出すると公表した。加えて、開発途上国の気候変動適応支援に向けた1億ポンド超の投資も発表した。

フランス政府も「パリ協定」の採択やその後の議論を主導しており、世界的な気候変動対策を推進する意向を示す。11月14日発足の気候変動損失・損害対策イニシアチブ「グローバル・シールド」に2,000万ユーロの資金を供与するほか、京都議定書に基づく適応基金に1,000万ユーロを供与する意向を示した。COP27の合意文書に関して、気候変動による「損失と損害」の対策における「前進」を歓迎しつつ、その他の気候変動危機対策における野心の欠如について遺憾とする声明文を発表した。

ドイツ政府は、国際的な気候変動対策に貢献する資金を2025年までに年間60億ユーロに拡大すると発表した。ロシアによるウクライナ侵攻の影響により、石炭火力発電所の一時的な再稼働を余儀なくされているが、「化石燃料のルネサンス(復活)はあってはならない」として、脱化石燃料への不退転の姿勢を示した。

支援とあわせて制度や規制の設定も

各種支援策が公表される一方で、気候変動に関する新たな規制やルールの導入についても注視する必要がある。

米国のジョー・バイデン大統領はCOP27において、前年の2021年に表明した、2024年度までに気候変動対策支援に年間110億ドルの予算計上を議会に求めていくことを改めて強調した。また、異常気象の早期警戒システム拡充など気候変動対策支援として、アフリカ諸国に1億5,000万ドルを拠出すると表明した。さらに、欧州など100カ国・地域以上が合意したメタン排出削減目標「グローバル・メタン・プレッジ」では、2030年までにメタンガス排出量を2020年比で30%削減を目標に掲げる中、米国内での新たなメタンガス排出の規制案を発表し、2005年比で87%の削減を目指すと公表した。

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は2022年10月27日、COP27開催に先立ち、乗用車・小型商用車の二酸化炭素(CO2)排出基準に関する規則の改正案について暫定合意に達するなど、欧州全体でも脱炭素の取り組みを進めている。欧州では「欧州グリーン・ディール」により、排出量取引制度、炭素国境調整措置(Carbon Border Adjustment Mechanism:CBAM)、炭素価格、排出ルール、その他の政策を推進する。これらにより、欧州でビジネスをする外国企業にも影響を与える見込みであり注目を集めている。


欧州グリーンディール・サイドイベントブース(ジェトロ撮影)

インド、中国は途上国向けの資金などを要請

インド政府は、「ロス&ダメージ」基金の設立について、世界が待ち望んでいた歴史的な合意だと評価した。また、途上国には脱炭素だけでなく、低炭素も含めたエネルギー源の選択権が必要と主張している。

中国政府は、先進国に対して、炭素排出削減の取り組み強化や、開発途上国向け資金の実質的な成果などを求めた。中国としては、再生可能エネルギー発電設備の総量が多くの先進国の合計を上回っていると紹介した。

議長国エジプトは、先進国に対して開発途上国へ向けた要請と同時に、途上国側への気候変動への実行も求めている。

国連や各国がウクライナ危機に言及

COP27では、欧州を中心に各国の首脳が、ロシアのウクライナ侵攻やエネルギー危機について早期の終結を求め、協力を訴えた。グテーレス事務総長は、当然ながら平和への努力や支援を重視しつつ、気候変動も今世紀の中心的な課題であるとして、各国への連帯を呼び掛けた。

ウクライナ政府は、COPの会場に初めて展示ブースを設け、戦争による環境への影響について情報発信した。ウクライナ研究者の「戦争の温室効果ガス算定イニシアチブ」では、初めて戦争による温室効果ガス排出について報告された。同報告書によると、2022年2月24日以降の排出量は、合計で約3,400万トンであり、中でも農地を含む約37万ヘクタール以上の火災による二酸化炭素の排出の割合が大きく約2,376万トンと示され、今後も戦争やインフラ再建のための排出量は膨らむ見込みだという。

ロシアからは、ルスラン・エデルゲリエフ気候変動担当大統領特使がCOP27に参加し、温暖化対策に積極的に取り組んでいると主張した。


ウクライナブース(ジェトロ撮影)

エネルギー危機においても気候変動対策に注目

COP27では、ロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギー危機にある欧州においても化石燃料からの脱却推進の声が聞かれた。引き続き、気候変動の取り組みについて、世界で官民の関心がうかがえる。再生可能エネルギーと関連する産業やインフラ投資、ファイナンスなどグリーン分野についてビジネス機会があるといえる。

官民の連携した動きの例として「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」により、再生可能エネルギーなどへのインフラ投資への公的資金を呼び水に、民間投資を呼び込む枠組みもある。JETPについて、COP26では南アフリカ共和国へ85億ドルの支援が表明されており、2022年11月にはインドネシアへの支援も決定した。

その他のイニシアチブや基金、気候変動関連事業においても民間投資を巻き込む動きがある。その他、再生エネルギー、水素などの新エネルギーや気候変動対策技術などを求める国もある。

COP27を振り返る

  1. (前編)途上国の要求受け「損失と損害」基金の設立合意
  2. (後編)アフリカで官民の動き、アラブ諸国も存在感
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。

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