特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス総発電量の9割が再エネ由来(ケニア)

2022年10月31日

ケニアは再生可能エネルギー(再エネ)大国だ。ケニア統計局が2022年4月に発表した報告書によると、2021年のケニアの総発電量のうち、実に89.6%が再エネ由来だった(図参照)。主な再エネの構成比は、地熱が40.6%、水力29.6%、風力16.0%。再エネ以外での発電(火力)は10.2%となっている。日本の再エネの割合は18.1%(2021年)であることから、既に約9割を再エネで賄っているケニアは「再エネ先進国」と言える。

図:ケニア電力発電量の割合(2021年)
水力が29.6%、火力が10.2%、地熱が40.6%、コジェネが0%、風力が16%、太陽光が1.3%。

注:コジェネ(cogeneration)とは、火力発電などで生じた廃熱を利用して発電すること。熱電併給とも言う。
出所:ケニア統計局からジェトロ作成

発電量も増加傾向にある。有効発電容量は2020年の2,705.3メガワット(MW)から、2021年は2,857.6MWに増加(表参照)。特に風力発電が100MW、太陽光発電が120MW、それぞれ増加している。一方、再エネ以外は火力しかなく、その発電量も71.8MW減少。再エネの割合が、さらに高まったかたちだ。

表:ケニアの有効発電容量(2019~2021年)(単位:MW)
水力 火力 地熱 風力 コジェネ 太陽光 合計
2019 805.0 716.0 816.0 325.5 23.5 50.4 2736.4
2020 805.0 715.5 805.1 325.5 2.0 52.2 2705.3
2021 809.1 643.7 805.1 425.5 2.0 172.2 2857.6

注:コジェネ(cogeneration)とは、火力発電などで生じた廃熱を利用して発電すること。熱電併給とも言う。
出所:ケニア統計局

地熱発電が国内電源として重要な役割

ケニアで再エネの割合が高いことは、前述のとおり。最大の電源は地熱発電だ。

国内には、原油や天然ガスなどの化石燃料資源がほとんどない。しかも、国土の8割が乾燥帯で、水力・風力の安定確保が難しい自然条件だ。そうしたケニアにとって安定的なエネルギー供給源を確保することが、エネルギー安全保障上、最大の課題になる。そこで注目されたのが地熱発電だった。

地熱発電は、地表を掘削して水蒸気と水(熱を含む)を地上に噴出させ、その勢いでタービンを回転させて発電する仕組みだ。ケニアには大地溝帯が走っており、地熱発電に適している。世界的に地熱発電が稼働し始めたのは、1960年代にさかのぼる。ケニアでも、独立前の1950年代から地熱発電の調査が開始されていた。1970年代には、オルカリア地域で本格的に調査が進んだ。その結果を受け、1981年6月に、アフリカ初の地熱発電所「オルカリアⅠ」が稼働した。その後も開発は続き、現在ではⅠ(6機)、Ⅱ(3機)、Ⅲ(6機)、Ⅳ(2機)、Ⅴ(2機)が稼働済みだ(注1)。

日本は、オルカリア地熱発電所と深いつながりがある。同発電所の開発には、日本のODAも活用された。また、設置されている19機のうち13機で、日本製タービンを使用。特にⅠ-6号機は、国際協力機構(JICA)を含む投資機関の協調融資によって建設された。その事業実施は丸紅で、タービンは富士電機製が採用された。また、オルカリアV地熱発電所も、日本政府の円借款で建設された。事業実施は三菱商事、タービンは三菱日立パワーシステムズ製が採用されている。Ⅰ-6号機は83.3MWの発電容量が見込まれている。見込みどおり稼働すると、ケニアは世界第6位の地熱発電量を持つ国になる。

一方で風力発電は、政府や援助機関の支援でなく、民間主導で推進されてきたのが特徴だ。例えば、グーグルは2016年、ケニア北部のトゥルカナ湖風力発電所に投資した。

当地で再エネは、今後も増強されていく。2026年から2030年までの間に完成が予定される地熱・風力発電所の有効発電容量を合計すると、367.5MWになる。

電化普及率100%が目標、課題も多い

一方で、今後に向けた電力供給には課題もある。

まず、電気は都市部でこそほぼ普及しているものの、農村には未電化地域が残っていることだ。政府は長期開発計画「Vision2030」で、2030年までに電化普及率を100%にすることを目標に掲げた。それに対し、現時点での電化普及率は76.49%だ。そうなると、これから電化を進める地域に給電するための電力が必要になる。それ以前に、今後見込まれる電力需要の増加分も手当てしなければならない(注2)。さらに、無電化地域に電力を供給するためには、配電の設備投資も必要になる。ちなみに、2022年中には、送電線を2,577キロ設置する予定になっている。

2つ目の課題は送配電ロスだ。ケニアの送配電ロスは2,831 GWhに及ぶ。2021年の総発電量は12,414.7GWhなので、22.8%を送配電で失っていることになる(注3)。

他国とも連携し、さらなる高みへ

国連環境計画(UNEP)は、本部をケニアの首都ナイロビに置く。UNEPは、環境問題やエネルギー政策を牽引する国連組織だ。それだけに当国のエネルギー政策は、当該組織が主導する「グリーンエコノミー戦略と実行計画(GESIP)」に沿っている。

政府は、他国からの援助を歓迎している。しかし、予算に見合うだけの援助を確保し、支出できていないのが現状だ。そうした中、今までの援助(無償、有償)に加え、2国間クレジット(JCM)や民間主導によるプロジェクトの推進など、政府は新たな連携を模索している。日本との間でも、2021年2月、製塩効率向上を期した太陽光発電プロジェクトでJCMの発行が決まった。日本がケニアとJCMを構築するのは、これが初だ。

このようにケニアは「再エネ先進国」として、国内政策を進めながら、他国政府・国際機関と連携しさらなる高みを目指している。


注1:
オルカリアⅠ-6号機とⅤは、2022年7月26日に完工。その式典には、ウフル・ケニヤッタ大統領(当時)も出席した。なお、稼働はこれからの予定になっている。
注2:
ちなみに、2021年の国内電力需要は前年比8.7%増〔9,565.4ギガワット時(GWh)〕だった。特に電灯需要は、33.7%増に及んだ(99.6GWh)。農村地域での需要も、6%増だった(648.8GWh)。
注3:
例えば、東京電力の送配電ロス率は4%(2020年)。
執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所
中川 翼(なかがわ つばさ)
2016年、ジェトロ入構。農林水産・食品部、ジェトロ青森を経て2022年7月から現職。

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