特集:現地消費者のサステナブル消費の実情環境配慮と節約のために省エネ推進
ドイツの消費者座談会(前編)

2023年4月25日

世界がカーボンニュートラル実現に向けて動き出した一方で、近年はエネルギー価格をはじめとする物価高騰が続く。これらの外部環境の変化が、サステナブル対応(注1)に意識の高い消費者の行動にどのような影響をもたらしているのか。世界主要国の消費者の生の声を拾うことで、日本企業の今後のサステナブル対応商品やサービスの開発・提供へのヒントを探る。本稿ではドイツの首都ベルリンの消費者を取り上げて、2回に分けて紹介する。

なお、本稿(後編を含む)に登場する消費者は、ベルリンの消費者を代表するものではなく、あくまでサンプル調査の対象である。そのため、記事中で紹介するコメントなどは、消費者一個人の考えや行動である点を理解してもらいたい。

サステナビリティへの取り組みのきっかけ、より良い世の中を後世に残したい思い

ドイツでのサステナブルに対する意識や行動をみてみる。欧州委員会が全加盟国で実施(2022年5月30日~6月28日)した調査(注2)によると、ドイツの回答者の67%が「グリーンへの移行と気候変動への取り組みに貢献するために個人的にもっと行動するべきだ」と回答した。ただし、EU平均の72%よりは低い結果となった。また、欧州委が全加盟国とアイスランド、ノルウェーで実施(2022年10月24日~12月4日)した調査(注3)によると、ドイツの回答者の50%が直近2週間に購入した商品・サービスのうち、少なくとも1つの商品・サービスにおいて環境負荷を考慮したと回答した。ドイツでは2022年10月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比10.4%(ドイツ連邦統計局ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )と、ドイツ再統一以降で最も高い水準になったが、それでも回答者の半数が環境への影響を考慮した消費行動をとっていることになる。なお、こちらもEU平均(56%)よりは低い結果となった。

ジェトロは、サステナブル消費に関心を持つベルリンの消費者6人を集め、座談会(注4)を実施した。同座談会に参加した消費者6人の特徴は表1のとおり。

表1:座談会に参加した消費者6人の特徴
消費者 年代
性別
職業
家族構成や同居人の有無
購入時の優先項目(注)
(※数字は優先順位)
消費者A 女性
50代
  • 会社員(観光)
  • 夫と猫2匹(子供は独立)
1.材、2.質、3.環、4.生、5.価、6.社、7.量、8.安
消費者B 男性
40代
  • 不明
  • 1人暮らし
1.価、2.材、3.質、4.生、5.機、6.耐、7.販、8.外
消費者C 女性
30代
  • 建築家
  • 1人暮らし
1.材、2.価、3.生、4.環、5.機、6.質、7.社、8.外
消費者D 男性
20代
  • 学生
  • 不明
1.機、2.質、3.環、4.価、5.生、6.耐、7.材、8.外
消費者E 女性
30代
  • 会社員
  • 既婚者、子供1人
1.機、2.外、3.質、4.価、5.耐、6.ブ、7.材、8.販
消費者F 男性
40代
  • 会社員(化学)
  • 不明
無回答

注:参加消費者には、事前アンケートを実施し、日常的に購入する製品・サービスについて、購入時に考慮する上位8項目を挙げてもらった。選択対象項目とその漢字など1文字の表記は次のとおり。「価」は価格、「材」は原材料や素材、「評」は口コミや評判、「量」は数量、「ブ」はブランドやメーカー、「生」は生産地、「質」は品質、「外」は外観やパッケージ、「安」は安全性、「機」は機能性、「特」は特典、「耐」は耐久性、「販」は販売方法や買いやすさ(どこでも売っている、通販対応など)、「環」は環境への配慮(脱炭素、リサイクル可能など)、「社」は社会への配慮(人権、ジェンダー、動物福祉など)。
出所:消費者6人からの回答を基にジェトロ作成


ベルリンでの座談会の様子(ジェトロ撮影)

座談会では、司会者が省エネ・省資源、消費財、サービスなどのテーマごとに話題を振り、それに対して消費者6人が自由にコメントをする形式で進行した。以下の各消費者のコメントはそれらをテーマや項目別に整理したものである。

まず、各消費者にサステナビリティへの取り組みのきっかけについて聞いたところ、身近な人の影響を受けたという意見や、子供のためによりよい未来を築きたいという思いを上げる声があった。既に独立した子供を持つ消費者Aは「娘を通じてサステナビリティに関心を持つようになった。我々の世代も今あることを見直して世の中をよくできないか、よりよい世の中を後世に残したいという思いがある」と話した。今回の参加者の中で最も若い消費者Dは「いろいろな形でサステナビリティを日常生活の中で実践している。サステナビリティは自分の中でも重要なテーマ」とし、若い世代の中には日頃からサステナブルな価値観を重視している人もいるようだ。消費者Eは「家族、特に父の影響を強く受けて、サステナビリティに関心を持つようになった。学生時代には持続可能なビジネス経営について学んだ。日常の消費だけでなく、例えば旅行や高額な買い物をするときにもサステナビリティを意識している」と語った。また、サステナブルな社会に向け、日頃から意識している考えとして、「無駄なものを買わないようにしている」(消費者D)、「ものを長く使うことが重要」(消費者A)との声が上がった。日頃から実践しているサステナブル消費については、ほぼすべての参加者がオーガニック(有機)食品を購入していると答えた。食品については、地産地消を意識しているとのコメントも多かった。表2でも、過去1年間で購入したことのある環境配慮製品・サービスの具体例として、有機食品を挙げている参加者が多い。オーガニック食品を扱うスーパーマーケットやドラッグストアなどで日常的に購入しているものと見られる。

表2:過去1年で購入したことのある環境配慮製品・サービス例(―は項目なし)
消費者 購入商品・サービス(価格) 購入
頻度
購入場所 価格 決済方法 購入の決め手、
理由
消費者A 中古の洋服 月2着 フリマアプリ「Vinted」 10~50ユーロ PayPal お気に入りのブランドの古着がキレイな状態で手に入るため
固形シャンプー 月2個 オンラインまたはオフライン 6ユーロ カードまたはPayPal プラスチック包装されていないため
消費者B 「Alnatura」のプライベートブランドの牛乳 週1本 オーガニックスーパー
Alnatura
1.59ユーロ 現金 品質、適正な価格設定
フレッシュチーズ(クワルク)
(有機)
週3個 スーパーマーケット
Aldi Nord
1.05ユーロ 現金
グリーン電力 1~2年の契約 オンライン契約 銀行引き落とし 再生可能エネルギーによる発電だから
消費者C 「SANTE」の固形シャンプー 2カ月に1個 ドラッグストア
dm
5.95ユーロ 現金またはカード 環境配慮、ビーガン、化学物質不使用、包装が少ない
「dm」の有機ブランドのチョコ・クランチ 3~4カ月ごと ドラッグストア
dm
2.65ユーロ 現金またはカード 環境配慮、化学物質不使用
「dm」の有機ブランドのオーツミルク 週に2回 ドラッグストア
dm
0.95ユーロ 現金またはカード 環境配慮、ビーガン、化学物質不使用
消費者D 「Allbirds」のスニーカー 2個 オンラインストア 70ユーロ、
150ユーロ
PayPal 環境配慮、品質、価格、デザイン
「Ragwear」のコート 1個 オンラインストア 120ユーロ 銀行引き落とし 環境配慮、品質、価格、デザイン
消費者E 「Urbanara」のベッドシーツと布団カバー 毎年 オンラインストア 250ユーロ PayPal 品質、有害な生地を使用していない
化粧品 3カ月ごと オーガニックスーパー
BIO COMPANY
3~15ユーロ デビットカード 機能性、品質
金属製のランチボックス 1年に2回 Amazon 30ユーロ デビットカード 品質、プラスチック不使用
消費者F 「Ökodorf Brodowin」の有機野菜・果物の詰め合わせ(定期便) 毎週 オンライン契約 15ユーロ
「CMD」のティーツリーオイル20ml(有機) オーガニックスーパー
BIO COMPANY
6ユーロ
「Ecover」の洗剤 オーガニックスーパー
DENNS
6~8ユーロ

出所:消費者6人からの回答を基にジェトロ作成

省エネの取り組みは環境配慮と節約のため

ディスカッションテーマごとの消費者のサステナブル消費行動を表3に示す。省エネについて、省エネ(1)のように、サステナブル消費を意識して「グリーン電力(再生可能エネルギーによる発電)」を利用している声がある一方、ロシアのウクライナ侵攻による電気やガスの価格高騰を受けて、節約のために暖房の利用を控えている消費者もいることがわかった[省エネ(4)]。消費者Bも「暖房の温度設定を自動で管理している。基本は16度に設定し、夜間はさらに下げて、起床時に20度に上げるようにしている」と補足した。

衣服について、衣服(1)に代表されるようにセカンドハンド(中古品)を購入するとのコメントが複数あった。中古品の取引を専門とする「Vinted」を利用しているという。ドイツのファッションEC(電子商取引)サイト「Zalando」でもセカンドハンドのページが設けられた。また、消費者Dは「製品がどこで作られたものかが重要だ。ドイツ、欧州以外で作られた衣類の場合は、どんな環境で作られたものなのか見えない。特に衣類ではそれが顕著だと思う」と指摘し、消費者Cも衣類のタグを見て原産国を確認しているという。

グリーンウォッシングを警戒する声も

容器、包装材では、スペインで行われた座談会と同じように(2023年3月28日付地域・分析レポート参照)、プラスチック容器に対する厳しい意見が目立った[容器、包装材(1)(2)]。他方で、「過剰包装が少なくなってきていると思う。以前はヨーグルトなどの包装には蓋(ふた)の上に外装蓋があった。また、(素材は)プラスチックから紙にも差し替えられている」(消費者A)、「竹、藻、キノコなどを原材料にした梱包材が開発されている」(消費者A、C)という意見もあり、脱使い捨てプラスチックが進むと同時に、環境に配慮した素材開発が進んでいるようだ。一方で、消費者Dはカーボン・オフセット(注5)に否定的な考えを示した。「(カーボン・オフセットを行い、温室効果ガス排出削減に貢献したことをPRすることで)環境に配慮した方法で生産されたなど持続可能性を訴求するプラスチック製品をよく見かける。これには、グリーンウォッシング(実質を伴わない環境訴求)の危険性がはらんでいると思う。生産時に多くの二酸化炭素(CO2)が何らかのかたちで排出され、それを買い戻す、あるいは見栄えをよくするための手法にみえる。あくまでも計算上の結果であり、実際にCO2の排出量を削減しているわけではない」と話した。なお、欧州委は2023年3月、グリーンウォッシングを防止することを目的とした「環境訴求に関する共通基準を設定する指令案」を発表している(2023年3月30日付ビジネス短信参照)。指令案の対象となるのは、文言あるいは環境ラベルで、製品あるいは企業が環境に良い、環境への影響がない、あるいは他の製品や企業より悪影響が少ないなどの趣旨を明確に含む消費者向けの環境訴求だ。EU域内の企業だけでなく、域外の企業でも域内の消費者に向けて環境訴求をする場合、指令案が規定する共通基準を順守する必要がある。

表3:ディスカッションテーマごとのサステナブル消費行動
テーマ 消費行動
省エネ (1)「スウェーデン電力会社バッテンファルのグリーン電力(再生可能エネルギーによる発電)を利用している。また、新しいガス機器に交換したところ、エネルギー効率がよくなった」(消費者F)
(2)「EUのエネルギーラベルを参考にして、最新の家電に買い替えたところ、電気代が大幅に下がった」(消費者A)
(3)「家の電球をLEDに交換した。電池は充電式にした」(消費者E)
(4)「自分は学生のため最新の暖房機器を買うことができないし、賃貸住宅に住んでいるためグリーン電力に切り替えることもできない。エネルギー価格が高騰したため、1月は暖房をほぼ使わずに過ごした。厚着をして対応した。周りの学生も暖房を利用することに躊躇している」(消費者D)
衣服 (1)「衣服はセカンドハンドで購入している。タグを見て、原産国を確認する」(消費者C)
容器、包装材 (1)「プラスチックに入ったものは買わないようにしている。商品がよくても、梱包材がプラスチックである場合がある」(消費者D)
(2)「果物や野菜は包装材が使われていないものを買う。『Zero Waste』の考えに基づいた量り売り専門店がベルリンには複数ある。包装材を置いていないため、マイバックを持参する」(消費者F、C)
(3)「ガラス瓶は色に応じて分別する。ベルリンにはガラス瓶の分別・回収場所がある。常にできているわけではないが、ガラス瓶を買うようにしている」(消費者F)

出所:消費者6人からの回答を基にジェトロ作成

後編では、残りのディスカッションテーマについて紹介する。


注1:
本稿で使う「サステナブル」や「サステナビリティ」は、省資源、脱炭素化やリサイクル可能などの環境負荷の軽減、生物多様性への配慮、社会(人権、ジェンダー、動物福祉など)への配慮など、持続可能な社会に向けた取り組みを指す。
注2:
欧州委が全加盟国の様々な社会的カテゴリーに所属する2万6,395人(15歳以上)に対して、2022年5月30日~6月28日にインタビュー形式で実施した世論調査「特別ユーロバロメーター527外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」。ドイツの回答者数は1,520人。
注3:
欧州委が全加盟国とアイスランド、ノルウェーの一般市民2万7,000人(18歳以上)に対して、2022年10月24日~12月4日に電話で実施した「消費者実態調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」。ドイツの回答者数は1,000人。
注4:
ドイツのベルリンで、2023年1月20日に実施。座談会に参加する消費者6人は、ジェトロと協力会社で、サステナブル消費に関心があると判断して選出した。消費者の考え方や行動に偏りが出ないよう、選出にあたってはできるだけ世代、性別、家族構成などが分散されるように心がけた。
注5:
企業が他の場所で実現した温室効果ガス(GHG)排出削減や吸収量などをクレジットとして購入することで、自らの経済活動でGHG排出量の全部あるいは一部を埋め合わせること。

ドイツの消費者座談会

  1. 環境配慮と節約のために省エネ推進
  2. 若い世代は日頃からサステナビリティを重視
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
山根 夏実(やまね なつみ)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部、市場開拓・展示事業部などを経て2020年7月から現職