特集:現地消費者のサステナブル消費の実情コロナで、自らの消費行動をより意識(スペイン)
消費者座談会(前編)

2023年3月28日

世界がカーボンニュートラル実現に向けて動き出した一方で、近年はエネルギー価格をはじめとする物価の高騰が続く。これらの外部環境の変化が、サステナブル対応(注1)に意識の高い消費者の消費行動にどのような影響をもたらしているのか。世界主要国の消費者の生の声を拾うことで、日本企業の今後のサステナブル対応商品やサービスの開発・提供へのヒントを探る。その第1弾として、スペインの首都マドリードの消費者を取り上げる。本稿はその前編。

なお、本稿(後編を含む)に登場する消費者は、マドリードの消費者を代表するものではなく、あくまでサンプル調査の対象である。そのため、記事中で紹介するコメントなどは、消費者一個人の考えや行動である点をご理解の上、お読みいただきたい。

ジェトロが消費者5人を集め、サステナブル消費に関する座談会を実施

消費者金融大手セテレムが2021年9月にスペインの消費者を対象に実施したアンケート調査(注2)によると、サステナブルな商品に対して(一般的な商品よりも)高い価格を支払うかとの問いには、63%の回答者が「支払う」と回答している。また、購入時にその商品やサービスのサステナビリティ対応を考慮しているかとの問いに対しては、「常に考慮している」が全回答者の9%、「ほぼ常に考慮している」が同39%、「時々考慮している」が同42%、「これまでほとんど考慮していない」が同7%、「これまで一度も考慮したことがない」が同3%だった(単一回答)。「時々」「ほぼ常に」「常に」を合わせると、9割の回答者が商品・サービスのサステナビリティ対応を考慮して購入していることになる。

他方、ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月)以降、エネルギーをはじめとする物価が高騰している。EU統計局によると、上記アンケート調査が実施された2021年9月のスペインの消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比4.0%だった。ロシアのウクライナ侵攻直後の2022年3月は同9.8%、同年7月には同10.7%を記録した。座談会(後述)を実施した2023年1月は同5.9%と、前述アンケート調査実施時期より物価が高い状況は依然として続く。スペインの消費者は物価高の状況でも、(販売価格の引き上げにつながりやすい)環境への負荷を軽減する商品・サービスを購入し続けているのだろうか。新型コロナ感染拡大やロシアのウクライナ侵攻以降のエネルギー危機など、近年の外部環境の変化が、これら消費者の購入行動にどのような影響を与えているのか。

ジェトロは、サステナブル消費に関心を持つスペインの消費者5人を集め、座談会(注3)を実施した。同座談会に参加した消費者5人の特徴は表1のとおり。

表1:座談会に参加した消費者5人の特徴
消費者 年代
性別
職業
家族構成や同居人の有無
購入時の優先項目(注)
(※数字は優先順位)
消費者A 20代
女性
  • 会社員(イベント会社)
  • パートナーとその友人(1人)とシェアハウスで同居
1.質、1.機、2.環、2.社、2.材、2.生、3.量、3.販、3.安、3.耐
消費者B 50代
女性
  • 会社経営(アパレル)
  • 子供1人と同居
1.環、1.社、1.安、2.耐、2.材、2.販、2.機、3.価、3.質、3.量、3.外、3.特、3.生
消費者C 30代
女性
  • 主婦
  • 夫と子供3人と同居
1.価、2.質、2.機、2.環、2.社、3.材、3.量、3.安、3.販、3.耐
消費者D 30代
男性
  • フリーランサー(映像関連)
  • パートナーと同居
1.耐、1.環、1.社、2.価、2.評、2.量、3.材、3.質、3.機、3.販
消費者E 30代
男性
  • フリーランサー(教育関連)
  • パートナーと同居
1.質、2.価、3.量、4.材、5.環、6.外、7.機、8.特

注:参加消費者には、事前アンケートを実施し、日常的に購入する製品・サービスについて、購入時に考慮する上位8(もしくはそれ以上の)項目を挙げてもらった(人によっては複数項目を同列に扱っている場合もある)。選択対象項目とその漢字など1文字の表記は次のとおり。「価」は価格、「材」は原材料や素材、「評」は口コミや評判、「量」は数量、「ブ」はブランドやメーカー、「生」は生産地、「質」は品質、「外」は外観やパッケージ、「安」は安全性、「機」は機能性、「特」は特典、「耐」は耐久性、「販」は販売方法や買いやすさ(どこでも売っている、通販対応など)、「環」は環境への配慮(脱炭素、リサイクル可能など)、「社」は社会への配慮(人権、ジェンダー、動物福祉など)。
出所:消費者5人からの回答を基にジェトロ作成


座談会風景(ジェトロ撮影)

座談会では、司会者が省エネ・省資源、消費財、サービスなどのテーマごとに話題を振り、それに対して消費者5人が自由にコメントをする形式で進行した。以下の各消費者のコメントは、消費者からのコメントをテーマ別に整理したものである。

新型コロナ以降、自らの消費行動に注意深くなった消費者も

まず、サステナブルな社会に向け、これら消費者が日々の生活の中で、どのような考え方を持って、どのような消費行動をとっているのかを尋ねてみた。「商品の原産国については(生産国からの輸送距離が)『0km』というのが大事と考えている。どんな商品でもスペイン産を買うように努力している。例えば、それは隣国フランス製品でもダメということ」(消費者A)や、「自国から離れれば離れるほど、その商品の運搬で環境汚染となるのは明白だ」(消費者B)など、できるだけ近場で生産された商品を買うようにしているようだ。

ただ、そういう商品の購入のみでは生活できない現実も受け入れている。「基本的には、自国で自国の素材と人材を使って製造するべきだが、こうした考え方は、これまでの枠組みを大きく壊してしまうので(世の中に)受け入れられないだろう。現在は、こうした再生可能な社会への移行時期である」(消費者B)。

また、「生産地よりも、どのようにしてできたかを考えることがまずは重要である」(消費者B)としており、生産地だけでなく、原材料や生産方法がサステナブルであることも重視しているようだ。そのため、「商品購入の際には商品ラベル情報や取得認証などを確認する。商品によっては買う前に、インターネットで情報を集める」(消費者B)という。

新型コロナ感染拡大が、自分自身や社会に影響を与える自身の消費行動を見つめ直すきっかけになった点を指摘する消費者もいた。「新型コロナは誰にとっても経済的にひどい状況を与えたと思う。しかし、(自分にとっては)それよりも時間配分や過ごし方といった面での影響が多大だった。(新型コロナにより)時間の観念が変わった。新型コロナ前は消費だけでなく、一日中考えずにせかされて生活していた。パーティーによく出かけ、ビールを何杯も飲んでいたが、新型コロナ後はその回数が減った。以前ほど外出をしなくなった。現在は生活の1つ1つの行動に余裕をもっている。以前は時間がなかったので、必要なものをスーパーでまとめ買いしていたが、もうそういうことをしない。収入は以前と変わらないものの、今は自分をよりよくケアしていると感じている。自分の消費行動にもっと注意深く、意識がいくようになった」(消費者A)。

エネルギー価格高騰により、エコ以上に節約の観点で省エネを実践

ロシアのウクライナ侵攻以降、特に欧州では電気やガスなどのエネルギー価格が高騰している。表2の省エネ(1)のコメントのように、省エネに取り組むものの、そのきっかけはエコに対する意識に加え、節約の要素が強まっている。また、省エネ(2)や省エネ(3)など、各消費者とも自分流の節約術で、省エネに努めていることがわかる。

再生可能エネルギーである太陽光発電についても、表2の再エネ(1)や(2)記載のとおり、エコだからというよりは、節約や必要に迫られて導入している様子だ。

日用品の購入時に、環境に配慮した商品を率先して購入しているのだろうか。洗剤については、表2の洗剤(1)に代表されるように価格重視の声が上がる。ただ、経済的な商品であれば、環境負荷の軽減をPRする洗剤を買うようだ。他方で、洗剤(2)など、効能(品質)重視の声もあり、環境配慮以外の要素が重要という消費者もいる。

化粧品では、表2の化粧品(1)や(2)のコメントのように、価格を重視しつつも、その中で、生産方法などにこだわり環境負荷を減らす有機製品を選択している。

衣服については、表2の衣服(1)や(2)のように、「中古を買う」「買ったものは長く着る」など、省資源につながる取り組みを行っている。

表2:テーマごとのサステナブル消費に対する消費者の考え(省エネ、再エネ、洗剤、化粧品、衣服)
テーマ 消費者の考え
省エネ (1)「自宅の電球はすべて低消費タイプの電球である。それは環境保全の意味もあるし、電気料金が高くなっているのを考慮してのこと」(消費者A)
(2)「部屋が寒いときは毛布をかけたりなどして、極力暖房を使うのを控えている。料金単価が安いとされている夜にシャワーを浴びるようにしている。シャワーは1日1回だけで充分。暖房をどうしてもつけるとき(毎日ではない)は、就寝前の2時間程度(夜8~9時頃)にとどめている」(消費者D)
(3)「新型コロナ後により一層気をつけるようになった。客間にある電気はひとつのみ。外出時にはスタンバイになっている電化製品を冷蔵庫以外全部切ってでかけている」(消費者B)
再エネ
(太陽光)
(1)「自宅は築30年で特段エネルギー効率性の高い家とはいえない。しかし、自分たちが置かれた状況の中で、できることはしている。太陽光パネルの設置については現在、業者2社に見積もりを依頼中である。自分の夫は将来的には、電気エネルギーの(グリッドからの)自立を目指している」(消費者C)
(2)「(マドリードとは別に持つ)マヨルカ島の自宅には、居住地区で同じ業者が一度に太陽光パネルの設置を手掛けていたので、その機会に便乗して設置した。また、(同島で両親が住む)実家には電気(グリッド)が届いていなかったので、太陽光パネルの設置は必然だった」(消費者A)
洗剤 (1)「家庭用洗剤については(環境に配慮しているかどうかを)気にしたことがない。ただ、逆に『エコ・フレンドリー』や『リサイクル可能素材』をPRする洗剤でも、経済的であれば買う動機になる。『エコ』というフレーズは(自分にとっては)プラスアルファの価値で、まずは自分の経済状況によって商品を選んでいる」(消費者D)
(2)「鍋などの掃除にレモンや酢を利用することもあるが、例えばパエリアパン(注4)やレンジフードの汚れには特定の洗剤でないと落ちないものがある。汚れに応じて洗剤を変えている。洗剤を選ぶ際には質が最も重要で価格はその次」(消費者C)
化粧品 (1)「化粧品やシャンプーなどについては、新型コロナ前後で(自分)の消費行動が変わった。2019年までは有機製品を選んでいた。現在使用しているクリームなども『エコ』をPRした商品ではあるが、(以前購入していた商品より)もっと経済的なものを選ぶようになった。増量や特典、2つ買って1つの値段、というプロモーションには反応しやすい」(消費者B)
(2)「新型コロナ前からコスメは大好きだが、新型コロナ後は有機製品を使うようになった。これは以前使っていたものより、やや経済的」(消費者A)
衣服 (1)「(近年は)質のいいものを買い、長く着るようになった。衣服もプラスチックも世の中にあふれすぎている。私達にできることは、それぞれの使用期間をいかに長く保って廃棄を少なくするか、ということだ」(消費者B)
(2)「靴だけは別だが、衣服は通常中古品を着用している。マドリードにある、いい中古の服を扱う店をほとんど全部知っている。自分は洋服を見るのがとても好きで、探すのも好きだ。衣服で表現できることがあるという点に魅力を感じている。しかし、持っている服はすべて中古である。いとこや家族からのお下がりを利用するというのは子供の頃からの習慣で、普通だった。アパレル業界は世界で最も汚染を起こす業界として認識されている。大企業は嫌悪感を催す。ファストファッションブランドは買わない」(消費者A)

出所:消費者からの回答を基にジェトロ作成

電気・ガスなどコスト削減の観点から省エネに取り組む人もいれば、洗剤など品質を重視する人もいる。ただ、コストを意識しながらも有機の化粧品を使ったり、衣服は原則中古品を買ったり、環境への負荷を意識している消費者がいることがわかった。環境負荷を軽減した商品やサービスについては、そうでない商品と比べて価格差が大きくなければ、環境負荷軽減を付加価値として認識して購入していることもわかった。


注1:
本稿(を含む2本の記事)で使う「サステナブル」や「サステナビリティ」は、省資源、脱炭素化やリサイクル可能などの環境負荷の軽減、生物多様性への配慮、社会(人権、ジェンダー、動物福祉など)への配慮など、持続可能な社会に向けた経済活動を指す。
注2:
フランス系金融大手BNPパリバの消費者金融大手セテレムが、18歳以上の一般的なスペイン人2,200人に対して、2021年9月にオンライン方式でアンケート調査を実施。
注3:
スペインのマドリードで、2023年1月16日に実施。座談会に参加する消費者5人は、ジェトロと協力会社で、サステナブル消費に関心があると判断して選出した。消費者の考え方や行動に偏りが出ないよう、選出にあたってはできるだけ世代、性別、家族構成などが分散されるように心掛けた。
注4:
スペイン料理のパエリアをつくるときに利用する底の浅い両手鍋。パエリアを作る際、水分を飛ばして焦げ目をつけるため、パエリアパンに焦げがこびりつくことが多い。

消費者座談会

  1. コロナで、自らの消費行動をより意識(スペイン)
  2. 修繕サービスなど日本のアパレルを評価(スペイン)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。