今知るべき、アジアの脱炭素など気候変動対策ビジネス ミャンマーの気候変動対策の取り組み
国内投資環境の改善が課題に

2023年12月7日

後発開発途上国のミャンマーでも、気候変動対策としてエネルギー分野における脱炭素化は重要だ。ただし、農業や林業などの土地利用分野における脱炭素化の取り組みも注目に値する。脱炭素化が注目される理由には、気候変動による自然災害が経済に与える影響がある。ミャンマーは「国が決定する貢献(NDC、2021年)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.38MB)」で、気候変動に起因する自然災害への対策として、防災・減災インフラ開発の重要性に触れている。NDCでは、2030年までに、温室効果ガス(GHG)を無条件目標(自助努力)で2億4,452万トン二酸化炭素(CO2)換算量(CO2e)、条件付き目標(国際支援あり)で4億1,475万トンCO2e削減すると報告している。

排出量で大きな比重を占める林業・土地利用

世界資源研究所によれば、ミャンマーの分野別GHG排出量(2019年)を見ると、「土地利用・変化および林業(LUCF)」が1億1,000万トンCO2e(国の総排出量の45.3%)と最も多く、次に「農業」が8,700万トンCO2e(35.8%)と続く。そのため、ミャンマーのNDC(2021年)でも、全産業の中で、最も高いGHG排出削減目標を掲げているのは、LUCF分野である。具体的には、同分野で2030年までに削減するGHG排出削減量は1億2,362万~2億6,697万トンCO2eであり、国の全削減量の51~64%を占める。LUCF分野としては、条件付き目標(国際支援あり)で、2030年までにBAU(注1)比で50%のGHG排出量削減を、2040年までにネット排出ゼロを達成する目標を掲げている(基準:2005~2015年の累計排出量)。また2030年までに、国内の農地27万5,000ヘクタール(ha)に植林する計画だ。さらに、年間の森林伐採率を2019年比で25~50%削減することになっている。

対策の具体例としては、農地における収穫後の農業残渣(ざんさ)の再利用促進プログラムがある。ミャンマーでは、農業残渣を燃やす野焼きが伝統的だが、これは大気汚染やCO2排出につながる。そのため、タイから専門家を招聘(しょうへい)し、農業残渣の再利用を促す農家向けの環境対策研修事業「ゼロバーン・ゼロウェイスト・プログラム」が、ミャンマー政府の取り組みとして実施されている(2023年9月時点)。

電力、エネルギー分野における脱炭素

土地利用や農業に続いて、GHG排出量削減で重要なのがエネルギー分野だ。NDCにおける分野別のGHG排出量の削減目標を見ると、上記のLUCFに続いて、エネルギー分野の削減目標が高く設定されている(注2)。そのため、ミャンマー政府は、省エネや再生可能エネルギー(再エネ)活用の促進に関する方針を公表している。具体的には、電源構成における石炭の割合を徐々に減少させ、2050年にゼロを目指す。一方、太陽光や風力発電の割合を増やす方針だ。気候変動対策を講じない場合、2030年時点のミャンマーの電源構成における太陽光・風力発電の割合は9%にとどまる見込みだが、脱炭素化を進めることで、両発電を無条件目標で11%、条件付き目標で17%に増やす方針だ(2023年4月17日付地域・分析レポート参照)。

NDC(2021年)によると、ミャンマー国民の80%以上が、食料を調理する主な手段として薪(まき)や木炭を使用しており、これがGHG排出量の増加につながっているという。そのためミャンマー政府は、「国が決定する貢献案(INDC、注3)」を2015年に提出して以来、森林劣化と薪の使用によるGHG排出を削減するため、改良型の高効率な薪ストーブの使用を推進している。また、薪や木炭を使わない液化石油ガス(LPG)利用の調理ストーブの利用促進を進める計画もあり、これにより2022~2030年の間に1,494万トンのGHGを削減する方針だ。

さらに同NDCは、国民の電力アクセスが限られるミャンマーでは、送電網が届いていない農村部の電化も重要な課題としている。そのため、地方における家庭用電力として、太陽光パネル設置による発電拡大、そして小規模な送電網(ミニグリッド)を新たに地方に整備し、発電した電力を地域住民に提供する案が解決手段1つとして考えられている。

ミャンマーの脱炭素目標達成には、関連政策の執行や制度構築、技術開発が必要になると同時に、国際社会や産業界の協力が必要である。そのため、外国企業との連携や、国際基金を活用した事例が既に見られる。例えば、前述の改良型薪ストーブについては、韓国政府とミャンマー政府が地域住民への普及に向けて協力している。この取り組みを通じて削減されたGHGの一部は、国際的な炭素取引協定に基づいて、韓国のGHG削減分として換算される仕組みだ(注4)。

同様のプロジェクトとしては、日本政府が進める「2国間クレジット制度(JCM)」がある。地球環境センター(GEC)によれば、JCMを活用したプロジェクトとして、ミャンマーでは8件が申請されている(2023年10月時点)。申請案件の内訳を見ると、省エネ案件が4件(1件は再エネ案件と重複)、再エネ案件が3件(1件は省エネ案件と重複)、エネルギー効率化案件が1件、廃棄物が1件である。このうち、プロジェクト登録に至った案件として廃棄物案件がある。具体的には、ヤンゴン市で埋め立て処分されていた都市ごみの一部を焼却処理し、その際に発生する熱を利用し発電を行うものだ。発電された電力は発電所内で使用し、余剰分を外部に供給する。こうした対応を通じて、GHG排出量を削減し、廃棄物を埋め立て処分した場合のメタンガスの排出を回避するものである。廃棄物の処分能力は1日当たり60トンとされている。

ミャンマーは、他のASEAN加盟国と比較し、電源構成で水力発電の割合が高い。水力を含めた場合、既に電源上での再エネ割合が5割以上に達する(2020年時点)。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)やASEANエネルギーセンター(ACE)の試算によると、再エネを利用した発電容量は、国内電力需要を上回っている(注5)。将来の電力需要についても同様だ。IRENAによると、2050年までに増加する電力需要を水力で賄えるポテンシャルがあるという。

前述の通り、ミャンマーの脱炭素社会に向けたビジネス機会は、エネルギーや農林業、環境対策など様々な分野にある。しかし、現在のビジネス環境では、事業化する方策を見いだし難いのも実情だ。ミャンマーのビジネス環境は、新型コロナ禍の2021年2月に発生した国軍による政権掌握によって大きく変化した。その後、欧米による経済制裁、日本政府の新規の経済援助停止方針、外国投資の大幅な縮小などの影響が出ている。また、国軍と民主派や少数民族との対立が激化し、各種開発プロジェクトの現場への移動や作業が難しくなっている。さらに、政府による輸入規制や外為管理の強化もあり、新規だけではなく、既存ビジネスの継続も難しくなっている。ビジネス再開と経済発展、脱炭素プロジェクトの推進のためにも、一刻も早い国内情勢の沈静化が待たれる。


注1:
BAUとは、追加的な対策を講じなかった場合の温室効果ガスの排出量、いわば経常的排出量を意味する。Business as Usualの略。
注2:
NDC(2021年)によれば、2030年に向けてエネルギー分野では、条件付き目標で1億5,298万トンCO2e、無条件目標で1億9,177万トンCO2eを削減する目標(基準年:2015年)。
注3:
Intended nationally determined contributionの略。COP26におけるパリ協定締結(2015年12月)に先だって、各国が作成し国連に提出。NDCの素案となるもの。
注4:
ミャンマーNDC(2021年)「Table 13. Total Emissions Reduced by Fuel Efficient Cook Stoves by 2030(21頁)」参照。
注5:
水力の可能性について、NDC(2021年)では、水力発電の発電容量は現在3,225メガワット(MW)にとどまるが、今後の開発も含めると、追加で1万9,567MWの発電容量を生み出せるとしている。
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課