欧州各国の脱炭素・循環型ビジネス最新動向 循環型経済実現に向けてリサイクルを推進(チェコ)
スタートアップも積極参与

2024年1月9日

チェコ政府は、2021年12月に「チェコ循環型経済の戦略的枠組み2040」を承認し、2040年までに原料リサイクル率を2017年比で3倍とすることを目標に掲げた。目標の実現に向けた施策として、再生プラスチックの使用義務を導入したほか、ペットボトルや缶のデポジット制度の導入に向けて法令整備を進めている。国内では、リサイクル促進に向けたスタートアップ企業などの取り組みが進んでいる。

2040年までの循環型経済の課題を明示

チェコ政府は2021年12月、環境省が作成した「チェコ循環型経済の戦略的枠組み2040(チェコ語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.16MB)」を承認した。これは、循環型経済を推進することにより、チェコが気候変動を含む環境リスクに長期的に耐えうる持続可能な社会システムを確立すること、また自然災害やパンデミックなど将来起こりうる問題に対応できるようになることを目指して、2040年までの見通しと目標を定めたものだ。同文書では、優先して取り組むべき分野として次の10分野を挙げている。

(1)製品と設計、(2)産業、原材料、建設業、エネルギー、 (3)バイオ経済と食品、(4)消費と消費者、(5)廃棄物管理、(6)水、(7)研究開発(R&D)とイノベーション、(8)教育と知識、(9)経済的手法、(10)循環都市とインフラ

このうち、(2)産業、原材料、建設業、エネルギーの分野においては、循環型経済の実現に向けた投資を促進することにより、チェコの産業の国際競争力を高め、非再生資源への依存度およびリサイクルコストの引き下げるを最終目標に掲げた。具体的課題として2040年までに原料リサイクル率を2017年の3倍に引き上げることを挙げている。EU統計局(ユーロスタット)によると、2017年のチェコの原料リサイクル率は9.1%で、EU27カ国平均の11.5%を2.4ポイント下回った。2020年には11.6%に達してEU平均との差は0.1ポイントに縮小したが、2021年には11.4%で微減となり、EU平均との差は0.3ポイントだった(図参照)。

図:チェコの原料リサイクル率の推移とEU平均との比較
2012年のチェコの原料リサイクル率は6.3%、EU平均の原料リサイクル率は11.1%、2013年のチェコの原料リサイクル率は6.7%、EU平均の原料リサイクル率は11.3%、2014年のチェコの原料リサイクル率は6.8%、EU平均の原料リサイクル率は11.2%、2015年のチェコの原料リサイクル率は6.9%、EU平均の原料リサイクル率は11.3%、2016年のチェコの原料リサイクル率は7.5%、EU平均の原料リサイクル率は11.5%、2017年のチェコの原料リサイクル率は9.1%、EU平均の原料リサイクル率は11.5%、2018年のチェコの原料リサイクル率は10.5%、EU平均の原料リサイクル率は11.7%、2019年のチェコの原料リサイクル率は11.3%、EU平均の原料リサイクル率は12.0%、2020年のチェコの原料リサイクル率は11.6%、EU平均の原料リサイクル率は11.7%、2021年のチェコの原料リサイクル率は11.4%、EU平均の原料リサイクル率は11.7%。

注:2020年と2021年のEUは英国を含まない27カ国。
出所:EU統計局(ユーロスタット)

政府は、「チェコ循環型経済の戦略的枠組み2040」の実現に向けて、2022~2027年、2028~2033年、2034~2039年の3段階に分けて行動計画を策定する予定だ。2022~2027年の行動計画(チェコ語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.68MB)は2022年11月に環境省が草案を作成し、2023年6月に政府が承認した。この中で、(2)産業、原材料、建設業、エネルギーの目標達成のための施策の1つとして、二次原材料や廃棄物の再利用を可能とする技術、あるいは製品のリサイクル率を向上させるための技術の導入支援が挙げられている。補助金の財源には、EUの「競争力を高めるテクノロジーとアプリケーション開発のためのオペレーション・プログラム」を活用する。

また、(5)廃棄物管理の分野では、2040年までに廃棄物の全種類についてリサイクルを進めることで、国民1人当たりの廃棄物産出量を減らし、廃棄物の埋め立てに関するEU目標(都市廃棄物については2035年までに10%以下)の達成を目指している。2022~2027年の行動計画では、2025年までの達成目標として以下を挙げている。

  • ペットボトル原料に占める再生プラスチックの割合を2025年以降25%に引き上げる。
  • 包装のリサイクル率を70%に引き上げる(2020年の実績は67.9%)(注1)。
  • 都市廃棄物の再利用とリサイクルの割合を、都市廃棄物産出量の最低55%に引き上げる(2021年の実績は50%)(注2)。

循環型経済促進に向けた法整備も進展

上述の行動計画の達成目標のうち、再生プラスチックの割合に関しては、ペットボトルは2025年以降に25%以上、それ以外のプラスチック・ボトルは2030年以降に30%以上とすることを義務付ける法律が2022年10月に発効した。同法はカトラリーなど一部の使い捨てプラスチック製品の流通を禁止したほか、プラスチック・ボトルに関して、2024年7月以降、容量が3リットル以下でふたもプラスチック製の場合は、ボトル本体と離れないよう付着することを求めている(2022年9月2日付ビジネス短信参照)。

包装廃棄物のリサイクルに関しては、環境省はペットボトルおよび缶のデポジット制度の導入に向けて、包装法改正案を準備中だ。これは消費者の商品購入価格に容器のデポジットを上乗せする制度で、消費者が小売店や回収機で容器を返却すれば、デポジットが返金される。対象は0.1~3リットルの飲料用のペットボトルおよび缶で、回収量は年間約25億個、回収率は施行後5年以内に90%に達すると同省は見込んでいる。デポジット額に関しては4~5コルナ[約26~32円、1コルナ=約6.4円(2023年12月18日チェコ国立銀行為替レート)]とすることを提案している。環境省は、2025年半ばからの制度開始を目指し、法律草案を2023年末までに終える予定だ。

ユーロスタットによると、2020年のチェコ国民1人当たりの廃棄物産出量は3,598キログラムで、欧州平均4,815 キロを下回ったが 、プラスチック廃棄物では52キロとEU平均の43キロを上回り、EU加盟国の中で6番目に高かった。一方、同年のチェコのプラスチック包装のリサイクル率は41.8%で、EU平均の37.6%を上回った。金属性容器では73.2%とEU平均の75.7%をやや下回った。

国内企業も再生・再利用に積極参与

チェコ国内では、リサイクル促進に向けた企業のプロジェクトが進行している。チェコの大手飲料メーカーであるコフォラ・チェスコスロベンスコは2023年5月、傘下のコフォラ(スロバキア)とチェコ飲料大手のマットーニ1873が、ペットボトルのリサイクルを手掛けるジェネラルプラスチック(スロバキア)の株式を取得したと発表した(2023年5月29日付ビジネス短信参照)。これは再生ペットボトルの使用を目的とした取り組みで、回収したペットボトルから再生ペットボトルのプリフォーム(注3)の生産まで一貫して手掛けることを目指している。

スタートアップもリサイクル関連事業を展開

ツィルクル・ズドロヨバー・プラットフォルマ(以下、ツィルクル)は、産業廃棄物を売買するマーケットプレイスを運営する。これは、製造工程において廃棄物、副産物、二次原材料を排出する企業(売り手)と、リサイクル業者(買い手)とを結ぶプラットフォームだ。取扱品目はプラスチックが大半を占めるが、紙、木、繊維、金属や電気廃棄物、有機廃棄物など広範にわたる。利用者は粉砕、粉末、塊など形状を選択して検索することもできる。同社のマーケットプレイスは、高度な機械学習テクノロジーを用いており、産業廃棄物の販売案件が登録されると、その加工や再利用に最も適した買い手候補者を人工知能(AI)が探し出して通知することで、マッチングの精度を高めている。

ツィルクルは2018年の設立ながら、サービス利用者は欧州8カ国で約1万7,000社に及んでおり、産業廃棄物のマーケットプレイスとしてはEU最大規模に成長している。

同社はまた、自社の環境への貢献度を、二酸化炭素(CO2)削減量として公表している。これは同社のマーケットプレイスにおける取引量、ユーロスタットの廃棄物発生と処理に関する統計データ、廃棄物の原材料別温室効果ガス(GHG)排出データを基に算出したもので、過去1年間のCO2削減量は48万7,661トンに上る。

一方、ミワ・テクノロジー(以下、ミワ)は、リユース容器を利用することで、流通・販売時における商品の包装材の廃棄物を削減するシステムを確立した。同社は、提携するメーカーや店舗に対して商品保存用容器(カプセル)、カプセルから商品を自動的に補充するセルフ販売機(販売モジュラー)、および購入者用容器(ミワ・カップ)を提供する。

メーカーは、商品をカプセルに充填(じゅうてん)する際、携帯アプリを介して商品情報をカプセルに入力する。メーカーから店舗への輸送後、カプセルは店舗の販売モジュラーにはめ込まれる。買物客は、ミワ・カップを販売モジュラーにかざして商品情報を入力したのち、商品をミワ・カップに移す。商品の代金は、携帯アプリで精算される。ミワ・カップは食器洗浄機に対応しており、買い物客が自宅で洗って再利用する。カプセル、ミワ・カップともに使用できなくなった後はリサイクルされる。


大型小売店に並ぶ販売モジュラー(ミワ提供)

ミワ・カップを使用した購入の様子(ミワ提供)

同社によると、このシステムを使用することにより、商品のサプライチェーン全体における包装廃棄物の発生を90%抑制するとしている。

同社が2016年に導入したこのシステムは、現在チェコのほか、オランダ、英国、ポルトガルの大型小売店で利用されている。また、2023年11月にドイツのスーパーマーケット・チェーンと提携し、2023年末までにドイツ国内11店舗に導入されるほか、2024年には別のドイツのチェーン店との提携により、さらに10~15店舗が加わる見通しだ。

同社は今後、洗剤、シャンプー、ソースなどの液状の製品用の販売モジュールも導入予定としている。また、コーヒー店舗用の販売モジュールも開発が進んでおり、現在プラハ市内の提携店でテスト導入を行っている。


注1:
出所:チェコ環境省「チェコ環境統計年鑑 2021」。
注2:
出所:チェコ環境省「廃棄物管理データ2009~2021」。
注3:
ペットボトルの材料で、膨らませる前の段階の中間製品。
執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所
中川 圭子(なかがわ けいこ)
1995年よりジェトロ・プラハ事務所で調査、総務を担当。